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奴隷の帝王~無能な奴隷に転生した最強ヤクザの最底辺からの成り上がり~  作者: 三太華雄
四章 学園編

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偽物と本物⑤

「……なんだ、お前は?」


 『晴天の剣』とローマットとの戦いの場に突然入ってきた男に、この場にいる全員が一斉に注目する。

 誰も予期してなかった乱入者の登場に、賊達も動きを止め、その場の空気は何とも言えない空気になっていたが、そんな事は知らんと言わんばかりに、男は楽し気な笑みを浮かべて中へと入ってくる。


 ――……この男……確か商人の――


 男が近づいてくると、ライアンは男の顔を思い出す。確かここに来るまでの道中でライアン達が助けた二人組の商人の一人だったはずだ。

 今思えばこの男においては商人らしくはなかったが、もしかして護衛の冒険者か何かだったのだろうか?

 仮にそうだとしても何故ここにいるのかは不明である。

 だが、この男がどんな人間であろうと関係ない、ローマットでは相手が悪すぎる。


「よせ……にげろ……」


 ライアンは辛うじて出た声で男に忠告するが、男は聞こえてないのかライアンの声を無視して肩に担いでいた剣をローマットへ向け挑発する。


「悪りぃが外から聞かせてもらってたぜ、てめぇ強い奴と戦いたいんだってな?だったら俺が相手してやるよ。」

「ほう、言うじゃねえか。そこまで言うならその実力とやらを見せて――っ⁉」


 ローマットは男の言葉に対しへらへらと笑い余裕を見せていたが、次の瞬間、ローマットは何かを感じたのか後ろへ大きく後退した。

 自分たちの全力の攻撃を受けても平気な顔をしていたローマットが、何もしていない男相手に何故か距離を取る。

 それを見てライアンは驚いていたが、男の方は嬉しそうに笑う。


「いいねえ、ちゃんと殺気を感じ取れるやつで良かったぜ。」

「な、なんだ、今の悪寒は……お、お前!何もんだ⁉」

「俺か?俺は『竜王会』のアルヴィンってもんだ。」


 ――りゅ、竜王会だと⁉︎


 その名前はここに来る前、ギルドマスターから聞いた名前である。

 確か今裏社会で頭角を現している組織で、戦うにはA、もしくはSランク程の戦力が必要という話だ。


 ――この地域で活動しているという話は聞いていたが、まさかこの男がそうなのか?


 となれば、もう一人いた男も恐らく商人ではないだろう。


 ――でも、一体なぜここに……いや、今はそんなことはどうでもいい。


 もし今の話が本当ならこの場にはSランク級の危険人物が二人もいるという事になる、とてもじゃないが自分たちの様な冒険者がどうにかできる状況ではない。

 幸い今二人は対立して、こちらは眼中にない様なので、ライアンは暫く状況を見ながら傍観することにする。


「じゃあ、自己紹介したところで殺り合おうぜ!」


 アルビンが素早く距離を詰め、剣を振るとローマットは咄嗟に横に大きく避ける。

 しかし、避けきれてなかったのか、ローマットの右腕から血が噴き出る。


「クッ……」


 ローマットが受けた傷口はほんの数秒で塞がり始めるが、アルビンはその回復速度を上回るスピードで斬り刻んでいく。


「ほらほらどうした?逃げてばっかりじゃ、勝てないぜ?」

「クソ、ふざけやがって!」


 アルビンが楽しそうにローマットを煽ると、その挑発に乗せられたローマットが近くにある物を手あたり次第アルビンに投げつける。アルビンは難なく避けるがそれに合わせて今度はローマットがアルビンの方に突っ込み距離を詰める。


「くたばりやがれ!」


 ローマットが大きく腕を振り上げると、アルビンに向かって振り下ろす。

 それは先ほどダイナが鎧ごと砕かれた一撃よりも更に力の乗った一撃だったが、アルビンはそれを剣で受け止める。


「ば、馬鹿な⁉︎」


 そして、弾くと同時に剣を振り、ローマットの肘から下を切り落とした。


「あああああぁぁぁぁぁ⁉お、俺の腕がああああああああああああああ⁉」


 切り落とされた腕から大量の血が溢れると、ローマットは痛みに悶えその場で膝をつく。


「成程な、元々あった『超回復』のスキルに身体強化が上乗せされて、その驚異的な回復速度があるわけか。ハハハ、いいじゃねえか。」


 悲鳴を上げるローマットに対し、アルビンはとても楽しそうに高らかに笑う。


 ――なんだ、これは……


 二人の戦いを見ていたライアンは呆然とする。

 Sランクとされている相手同士の戦いは互角になると思われていたが、蓋を開けてみれば自分たちが束になっても傷一つ付けられなかったローマットが一方的にやられている、とても信じがたい光景である。


 ――これが竜王会……


 これほどの男がいる組織が今、近くで動いているという事実にライアンは身震いする。


「じゃあ、続きといこうじゃねえか。」


 アルビンが再び剣を構える。


「ま、待て!分かった、俺の負けだ!この村からは手を引く。」


 戦いが再開しそうになるとローマットが慌てて負けを認めるが、その言葉を聞いたアルビンは露骨に不満そうな顔を見せる。


「……はあ?何訳の分からんこと言ってやがる、てめえも強い奴と戦いたかったんだろ?その強い奴と戦ってるのに、なんで逃げんだよぉ!」


 苛立ちの籠ったアルビンの剣がローマットの横に振り下ろされると、爆発と共に宿屋の壁に大きな穴が空く。

 直撃スレスレのところにいた、ローマットはその威力を見て腰を抜かしていた。


「ケッ、なんでえ、強い奴と戦いたいとか豪語してた癖に実際目の前にするとビビるなんて、とんだ腰抜けじゃねえか!」

「な⁉」

「要するにてめえは、強い奴と戦いたいんじゃなくて、自分が勝てる奴と戦いたかったただの雑魚だろ?折角同類を見つけたと思ったが、期待外れだぜ。」


 アルビンの吐き捨てた言葉にローマットが反論しようとするが、アルビンが睨むと簡単に委縮してしまう。


「わざわざジルの野郎を説得して寄り道して来たのに、本当興覚めだな。さっさと殺すか。」

「ま、待て!……俺が誰だかわかってんのか⁉俺はギルドからSランク認定されている『戯れの悪魔』の一味だぞ?俺を殺せば他の奴らが全員でお前を殺しにくる、そうなればいくらお前でも勝てないだろう。それでもいいのか?」

「ほう、そりゃいい!なら見逃してやるからそいつら連れて全員で殺しに来い」

「な……」


 脅し文句に対し、何故か乗り気な返答が返ってくると流石のローマットも言葉を詰まらせた。


「残念だけど、その男にそんなバカみたいな脅しは通じないよ。」

「え?」


 不意に傍から聞こえてきた声に、ライアンはふと横を見る。

 気がつけばそこには道中で出会ったもう一人の商人が立っていた。

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