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奴隷の帝王~無能な奴隷に転生した最強ヤクザの最底辺からの成り上がり~  作者: 三太華雄
四章 学園編

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偽物と本物④

 ライアンの持つスキル『憤怒(ラース)


 それは我を忘れる代わりに、自分の怒りに乗じて能力を強化するスキルで、怒りが限界を超えると自動的にスキルが発動するようになっている。

 今のローマットの行動や、今までの事で怒りが限界を超えたライアンは、スキルが発動すると完全に我を忘れ、モンスターの咆哮の様な雄たけびをあげる。


 普段であれば、これほどの怒りを見せれば無差別的な攻撃を広げるので仲間たちが止めに入るのだが、今回に関しては誰一人止めようとせず、ただ村人たちに被害が出ないようにサポートに回っている。


 相手がSランクの盗賊という事もあり、倒すには怒り狂ったライアンの力が必要になるという事もあるのだが、それ以上にパーティー全員がライアンと同じくらいの怒りを感じているという事も理由の一つである。


 ライアンから漏れ出る怒りのオーラは徐々に色や形を変え、やがて炎へと変わっていく。

 そして憤怒の炎を纏ったライアンは、床を強く蹴るとへらへらと笑って余裕を見せているローマットの懐へと瞬時に移動した。


「ん⁉」


 油断していたこともあって反応に遅れたローマットを、ライアンは炎が燃え移った剣で斬りつける。

 ローマットは胸元から下腹部まで一直線に斬りつけられると、傷口から勢いよく炎が燃え上がる。

 そして更にライアンは連続で斬りつける。


 まるで鬱憤を晴らすがの如く、ライアンは雄たけびを上げながら体力が尽きるまで連続で剣を振り続けた。

 その時間は僅か数分だが、その間に斬りつけた回数は数え切れず、ライアンは最後の一振りを振り下ろした後、トドメと言わんばかりにローマットを蹴り飛ばした。

 腹部を思いっきり蹴られたローマットは後方へと飛んでいきそのまま壁に叩きつけられた。


「ハァ……ハァ……」

「……倒したの?」

「というより、倒してないとおかしいでしょ……」

「……」


 疲労によりスキルが解けると、ライアンが膝を付き我に返る。

 ローマットが吹っ飛んだ場所を見ながらリナとミルが少し笑みを見せる中、ダイナだけが険しい顔を続けていた。


「……へえ、面白れぇスキル持ってるじゃねえか、()()()()痛かったぜ、へへへ。」

「な!馬鹿な⁉」


 起き上がってきたローマットに、ライアン達は動揺を隠せない。

 先ほどライアンが斬りつけた傷口は既に塞がっており、本人も何もなかったかのようにヘラヘラと笑っていた。


「嘘……憤怒のライアンの攻撃が効いていない⁉」

「でもさっき確かに傷が……」

「向こうも何かのスキルを持ってるって事⁉」

「……超回復か。」


 ダイナが冷静に分析する。

 スキル『超回復』は名前の通り回復速度が通常よりも早いのだが、この速度は異常である。

 恐らく傷に見合う程のダメージを与えられていなかったのだろう。それだけ向こうとこちらの実力に差があるという事だ。

 そう判断したダイナは三人を守るように前に出た。


「ライアン!悔しいが撤退だ!俺たち相手でどうにかできる奴じゃない!」

「しかし……」


 ライアンが賊たちに拘束されている村人たちを見る、その眼は見捨てないでと言わんばかりに潤ませてじっとこちらを見ていた。


 ライアンが撤退をためらっている間にダイナに再び拳が振り下ろされる。

 しかしライアン達に気を取られていたダイナは上手く反応できず、ダイナは防具ごと頭を砕かれ意識を失った。


「ダイナぁ⁉」

「嘘っ、たった一撃で……」

「クッ……ライアン!ダイナを思いを無駄にしないためにも早く撤退を――」

「おいおい、いいのか?村の奴らを見捨ててよお?お前らが戻って来る頃には村人を全員殺してここをでてるかもしれねえぜ?」


 ローマットがそう言うと、賊たちが村人の喉に刃物を突き付ける。


「くっ、この、外道が⁉」

「俺が外道だぁ?俺なんて優しい方だぜ、なんたってこうやって一人で相手してやるっつってんだからよ。『戯れの悪魔』ってのは俺みたいな気狂いの集まりだ、そして他の奴らは群れになって今この近くで暴れ回ってるぜ?」

「な……」


 ローマットの言葉にライアンは絶句する。

 この男一人ですら、自分達では相手にならないのに、この男と同じ、もしくはそれ以上の奴らが集団で動いているというのだ。考えただけでも絶望する。


「で、どうする?逃げるか?戦うか?そう言えばお前は怒るほど強くなるみたいだな?」


 そう考えた、ローマットは意識のないダイナの顔を何度も踏みつける。


「やめろ!」

「ほらほらどうした、もっと怒れよ?」


 ライアンは考える、というよりほかに選択肢はなかった。

 今ここでこの男を倒しておかなければ、今後もっと厄介なことになる。

 それはギルドだけではない、国全体も巻き込むほどの事件に……


「ライアン、迷っている暇はないわ、やるわよ!」

「そうよ!私達なら勝てるわ。」


 リナとミルが鼓舞をするように叫ぶが、現実的に考えて勝機はない。


 あるとすれば、自分の持つ憤怒のスキルの力が限界を超える事。

 二人もそれを考えて死ぬつもりなのかもしれない、自分に怒りの限界を超えさせるために。


 ――……そんな事させない!


 ライアンは最悪の結末を想像して怒りを膨らます。

 無惨に殺され、犯される、仲間や友人、家族、そしてそれを守れない自分への不甲斐なさを想像すると、先ほど以上の怒りが溢れ出始めた。

 ライアンが再び怒りのオーラを発して剣を持つが、自我は保ったままだった。


「リナ、ミル、やろう!」

「ライアン……うん!」


 三人は覚悟を決め、武器を構えると果敢にローマットへ挑んだ。


 ……だが、やはり()()()()では実力の差は埋められず、三人は成すすべもなく、地面にひれ伏した。


「畜……生……」

「あーあ、所詮はこの程度か、期待外れだったな。それとも何か?まだ怒りが足りないのか?よし、お前ら、そこの女二人をを犯せ。」

「な⁉」

「良いんですか?前の女売った時、使いすぎて売りもんにならなくなったから、次は手を出さずに売るって言ってたのに?」

「いいんだよ、これでこいつが少しでも強くなってくれるならな。」

「へへ、なら遠慮なく……。」

「や、やめろ!」


 ライアンが叫ぶが当然賊の耳には届かない。

 賊たちがリナとミルの周りを囲むと、姿が見えず彼女たちの悲鳴だけが聞こえる。


 ――畜生……まだ、まだ怒りが足りないというのか……


 ローマットがゲラゲラと笑いながらライアンを挑発するが、ライアンは鬼の形相を見せながらも、その感情とは裏腹に体は動かない。

 ライアンの怒りはとっくに限界を超えていた。……それでも立つことはできていないのだ。


「さあ、怒れ!そして立ち上がって俺を楽しませろ!」

「クッ……」

「そんなに強い奴と戦いたいのなら俺が相手してやるよ!」

「……あん?」


 しかしその言葉に応えたのは入口の方から聞こえた声だった。

 ローマットがそちらに目を向けると、そこには剣を肩に担いだ頰に傷のある男が一人立っていた。




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