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奴隷の帝王~無能な奴隷に転生した最強ヤクザの最底辺からの成り上がり~  作者: 三太華雄
一章 商人編

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世界の常識

 島を脱走してからおよそ、三ヵ月の月日が経った。

 俺はこの三ヵ月の間、レクター一家と共に行商人として旅をしながら外の世界について知っていった。


 この世界における常識、非常識は勿論の事、有名な人物や物の名前、そして商人としては物の価値や値段の相場なども学んでいた。

 基本考え方などは前の世界と一緒ではあるが、世界観があまりに違いすぎるのでそこら辺を理解していくのがなかなか難しい。


 例えば、前の世界では架空のものだとされていた、モンスターや魔法という言葉がこの世界では当たり前のように出てくるし、関わることも毎日のようにある。

 そしてそれらが存在することによってギルドや、魔術協会と言った初めて聞く存在も多々あった。


 逆に前の世界では当たり前の存在だったものが架空の存在や非常識と考えられたりしたこともある。

 特に魔法に文明が特化した分、技術方面の文明が弱いのが少し難点だったが、十五で成人扱いされるので堂々と酒が飲めるのなどメリットもあった。


 慣れるまでは色々と不便なこともあったが、慣れてしまえばどうってこともない、俺は新しい環境にもなじみつつあった。


 ……ただ、一つだけ決して慣れることのない常識もあるがな……


――


「これが頼まれたものだな。」


 滞在中の街にある施設、薬師ギルドの受付に一つの小さな花が入った袋を渡すと、中身を確認した受付嬢は目に少しの涙を浮かべる。


「これは……確かにエリクの花……レクターさん、ありがとうございます。これがあれば、あの子を助けられそうです。」

「それは良かった。」


 持ってきた俺に向かって深く頭を下げる。

 俺は運んできただけで、別に俺がとってきたわけでもないので、感謝されてもねぇ……


 薬師ギルドは以前行った冒険者ギルドとは違う種類のギルドの一つで、名前の通り薬師達によって作られたギルドだ。

 村人や商人、そして時には冒険者ギルドに依頼して薬に必要な素材を買い取り、薬を調合しその薬を販売して成り立っている。

 

 ただ、薬師には個人で営む者も多くいるので冒険者ギルドの様に各街にあるのではなく、地方の街に支部がいくつか存在するほどしかない。


 実は今、このギルドによく薬草を売りに来る近くの村に住む少女が、数万人に一人かかると言われている難病に倒れてしまい、命の危機にさらされているらしく、その病気を治すにはこのエリクの花の花びらを素材として作るエリクシールと言うものが必要らしい。


 このエリクの花は特定の場所にしか咲かないため、今いる街では入手が非常に困難だったようで、少女の両親や村の者達も半ば諦めていたらしく、覚悟を決め始めていたところ、たまたまジェームスが旅道中に見つけて所持していたので、それを譲るという形で俺が配達しに来て現在に足ると言うところだ。


「ああ、神に感謝を……」


 受付嬢がその場で神に祈りを捧げる。

 彼女は受付という事もあり、その少女と話す機会も多かったので特に親しかったそうだ。


「それじゃあ、金額だが二千ギルで、とのことだ。」

「え?に、二千ギル⁉その金額でいいんですか?」


 受付が少し驚いた声で聞き返す。

 まあ、驚くだろうな。本来なら何倍の値段もする代物だ、しかしジェームスが指定してきたこの花の値段は定価の半額以下のものだった。


「ああ、その代わりその少女の家の人達にはできるだけ安く売ってあげてほしいとのことだ。」

 

 町のものならともかく、相手が村人では金銭面は厳しいかもしれないというエルザからの提案だ。

 せっかく見つかっても買える金がなきゃ、元も子もないからな。


 元は自分で採ってきたやつだから原価もタダだし 実際事情を聴いた夫妻はタダで譲ってもいいという、話もあったが、そうするとそれはそれで色々な問題が発生するのである程度のお金は取っておくらしい。


「まあ、文句があるならうちの親父さんに言ってくれ」

「そんな、文句なんて……本当に、ありがとうございます。」


 受付嬢が、改めて頭を下げたところで俺は取引成立させる契約書に記入していく。

 そういえば、これも売れって言われてたな。


「済まないが、これもいいか?」


 俺は一度ペンを持つ手を止め、エリクの花の入った袋の隣にもう一つ別の花を置く。

 旅の途中、俺が見つけて採っておいた花だ。なのでこの花の金は全て俺の懐に入る。


「はい、えーと、これは花粉が痺れ薬の素材となるレンカの花ですね。一つ二百ギルになります。」


 ……安いな、まあ珍しい物でもないしそんなもんか。

 

 はした金だったのは少し残念だが、無いよりはマシだろうとそちらも売る方向でペンを進めていく、すると後ろから何とも嫌悪感を感じさせる笑い声が聞こえてきた。


「ヂュフフフ、それが例の花かね?」


 振り返ると後ろには、護衛とみられる屈強な兵士を二人従えた身なりのいい男が立っていた。


「オ、オズマ伯爵⁉」


 伯爵……という事は、このあたりを治める貴族か。

 受付嬢の様子をみる限り決していい人間とは言えなさそうだな。


「あ、あの……いったいどういうご用件でしょう?」


 受付嬢の顔色が明らかに悪くなっている。


「なに、先程噂で聞いたのだが、いまこちらに万能薬になると言う花が持ち込まれたという話を聞いてね。そちらの机に置いてある花がそれかね?」

「……そうですが。」


 噂を聞いている以上、隠してもバレるだろうし彼女には悪いが正直に答える。


「うむ、やはりか。ではその花を我々に譲ってはくれ」

「そ、そんな⁉」


 その言葉に受付嬢が思わず立ち上がる。


「……あんたの身内にも難病患者が?」

「いや、別に、ただ私もいつ病気になるかわからないからな。ならば素材だけでも事前に入手しておこうと思ってね。」


 オズマという貴族が横に跳ねた髭を触りながらそう告げる。

 

「あ、あの、申し訳ありません伯爵様、もし、その……お急ぎでないなら今回はこちらに譲っていただけませんか?もう今にもこの花を必要としている少女がいるのです」

「ああ、聞いてるよ、だが、それがどうした?そんな名もない村のガキにこんな貴重なもの与えるくらいならこのワシに貢献したほうが遥かにいいに決まっておろう。」

「で、ですが――」

「ああもう、うるさい!これ以上歯向かうなら無礼を働いたとしてひっ捕らえ、奴隷にするぞ!」


 そう脅されると受付嬢じゃ言葉をつぐむ。

 まあ相手が貴族じゃ無理もない、この世界の貴族はそれだけの力を持っている。

 以前に大商会としての立場を利用して仕事ができなくするという圧力をかけて来たフォージャーがいたが、貴族達はそんな奴とは訳が違う。


 貴族と平民との間にはあまりにも格差があり、貴族の鶴の一声で罪なき人間が罰せられたりすることも良くある事だ。

 こいつの脅しだって決してハッタリなんかでもない。

 実際に罪なき人間を捕まえて犯罪者奴隷に仕立て上げる貴族もいると、奴隷時代にマーカスから聞いている。

 そう考えれば懇願しただけでもこの受付嬢は肝が据わっている。

 

 平民が貴族に逆らってはいけない、これこそがいつまで経っても慣れないこの世界の常識だ。


「ということだ。お前もいいな?」

「……こちらはしがない商人なのでお金さえもらえればどちらでも構いやせんよ。」


 そう答えると、彼女も観念したように無言になる。


「……では、この花でよろしいのですか?」

「……え?」


 俺が机にあった花を手に取り尋ねる


「ん?ああ、それだろう。」

「わかりやした、ではお納めください。」


 俺は手に取った花を渡し金を受け取ると、貴族の男は満足そうに兵士を連れて出て行った。


 出て行ったのを確認して前を振り返ると、目の前には青ざめた顔で俺を見る受付嬢の姿があった。


「レ、レクターさん。あなたは何という事を……そちらの花はエリクの花ではありませんよ。」


 そう、俺が渡したのは俺がとってきたレンカの花だった。


「ん、そうなのか?それは気づかなかった。」


 などと白を切るが、わざとらしかったのか嘘だとすぐにばれる。


「あなた、自分が何をしたのかわかっているんですか⁉もし、こんなことがバレたらあなたの身が……」

「大丈夫だ、あっちは健康体だったからな、使う機会もないからすぐにばれるという事はないだろう。それまでの間に俺達はこの町を出て行くから問題ない。」

「ですが、もし見つかったら。」

「その時は、ちゃんと指定された花を渡したと言えばいい話だ。」


 ちゃんと確認はとっておいたから嘘はついていない。


「そんな言い分通るとは思いませんが……」

「だろうな、だからもしバレて奴らが俺の事を聞きに来たら、俺の名前はティア・マットと告げてくれ。」

「ティア・マットって、そんな名前の嘘、すぐにばれると思いますよ、()()()()さん。」


 まあ、普通はそう思うだろうな。

 何せ調べたところによると、どうやら俺の名前は偶然にも神話に出てくる龍の王と同じ名前らしい。

 以前ギルドで笑われていたのもこの龍と同じ名前だったのが原因だ。


 だが、その事を今は逆に利用できる。


「もし疑われたなら、ギルドに調査依頼を出すように進言しておいてくれ。そうすれば、すぐに調べがつくはずだ。」


 ティア・マットという名前の無能が暴れた一件は、ギルドの中でもそれなりに騒がれていたからな、調べればすぐにその事が判明するだろう。

 だが、俺はその際にレクター一家の事は口にしていない。


 そして今の俺はレクター一家の一員といて行動して、ティア・マットではなく、ティアラ・レクターと名乗っているのでその情報から俺にたどり着く事もまずないだろう。


 それにもし万が一バレそうになった時は、この家族の元を離れ、ティア・マットを名乗れば追われるのは俺だけになる。


「わ、わかりました。レクターさん……本当にありがとうございました。」


 俺は頭を下げる彼女に背を向け出て行くと、そのまま一家の泊まる宿へと戻っていった。


 それにしても貴族か……厄介な存在だ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 話の流れは良いです!! [気になる点] 伯爵なの??男爵なの??どっちなのかなぁ~~??!
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