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闘技場の覇者②

「まさか、こうも上手くいとはな。」


 ウッドルフは倒れた恵比寿を見下ろしてポツリと呟く。

 いつものように薬で体を強化しつつ、今回は闘技場とは違って殺害が目的ということもあって、以前使っていた棍棒で後頭部を殴ると、恵比寿はそのままドサリと倒れて動かなくなった。


 ウッドルフは恵比寿が動かなくなったのを確認した後、持っていたアイテムバックを漁る。

 中にはあらかじめ用意させておいた、大量の薬が出てきた。


「へへへ、これだけあれば十分だな、後は……」


 ウッドルフは、恵比寿の遺体を用意しておいた袋に入れると、町の周辺にある森へと捨てに行った。

 そして、その後は騒ぎを起こさないように大人しく部屋で時間を過ごし、百戦目の試合の日がやってきた。

 記念すべき百戦目の相手は飛び入り参加ということで、ウッドルフは強い相手が来ると警戒していたが、現れたのはこの闘技場には似つかわしくない、鍬を持ったやせ細った農民だった。


「お前が今回の相手だと?」

「あ、あんたを倒したら、妻や子供たちに腹いっぱい飯を食わしてやれって聞いたさ!だ、だから悪いがあんたを倒すんだ!」


 訛り言葉でそう話す男は、震えながら桑を構える。


 ――ケッ、馬鹿なやつだ。


 大方、何処かの誰かに唆されたんだろう。

 確かに、自分に勝てばかなりの賞金がもらえるはずだが、まさか闘技場の覇者だったとは思ってもみなかったのだろう。


 そもそもなぜこのような男との対戦が決まったのかさえ理解に苦しむ、観客達も記念すべき百戦目が出来レースと思ったのか、運営に対し罵声の声が上げている。


 ただ、だからと言ってウッドルフはここで油断したり、同情で手を抜くような事をする性格の男ではない。相手が弱いなら寧ろ好都合と考えている。

 ウッドルフは、試合開始の合図の銅鑼が鳴ると、いつもの様に突撃する。


「う、うわわああ!」


 突っ込んできたウッドルフに怯えた農民は、ただがむしゃらに鍬を前に振り回す。

 そんな農民の姿を鼻で嗤い、ウッドルフは鍬ごと破壊するつもりで殴りかかった。

 しかし……


「いってえぇぇぇぇ⁉」


 ウッドルフは鍬の先に拳をぶつけると、痛みにその場に倒れてのたうち回った。


「ハハハ、おい、何やってんだ」

「いくら余裕だからってそんな演技いらねーぞ」


 そんな、ウッドルフを見て観客達はふざけてると思い笑うが、本人はその痛みに汗が滲み出ている。


 ――い、一体どうなってやがる?


 ウッドルフは混乱していた。

 本来なら鍬ごと農民の頭が潰れていてもおかしくはないはず。しかし鍬を殴った拳を見てみれば、指の部分が酷く腫れ上がっていた、間違いなく骨折しているだろう。


 ――薬を飲み忘れた?いや、そんなはずはない。


 仮に飲み忘れたとしても肉体強化の魔法はしっかり使っていたはず、鍬ごときで骨が折れるような事はない。


 ――なら魔法が発動していない?いや、そんなことは――


 しかし、そこでウッドルフは自分の体の異変に気付く。


 ――魔法が……使えてない⁉


 もう一度魔法を使おうとするが、いつものように自分の中にマナが集まる気配が全くない。


 ――ま、まさか、薬の効果がもう切れているだと⁉


 あり得ないと思いつつ、現状それ以外思い浮かばない。

 ウッドルフは長期戦も備えて、いつも試合開始ギリギリで飲んでいる、今日も一緒で飲んでからまだ十分も経っていないはずだ。しかし今の状態は間違いなく薬が切れた時と同じだった。


 ――ま、まずい、このままじゃ殺される!


 理由は分からないが今のウッドルフは完全に無能である。

 しかも先天性の無能とは違い、ステータスも高くない。

 この状態なら例え相手が貧弱な農民であろうと、殺される可能性が十分あるだろう。


「ク、クソ!お、おい待て!少し俺と話を――」


 ウッドルフがどうにか交渉しようと農民の男に声をかけるが、恐怖に飲まれ、我を忘れている男にその声は届かず、男はただがむしゃらにウッドルフに向かって鍬を振り下ろし続ける。

 そして、その攻撃はウッドルフが完全に動かなくなるまで続いた……


 ――


「と言う訳で、これが今回の取り分ですわ。」

「ふむ……。」


 俺は竜王会傘下の組織『闇越後』の商人である恵比寿から賭け金を受け取ると、近くにいた部下に数えさせる。


「いやあ、まさか、闘技場の覇者があんな農民に負けるとは思ってなかったみたいで、賭けはワシらの完全に一人勝ち、笑いが止まりませんわ、ハハハハハ。」


 そう言って、恵比寿は言葉の通り高笑いをする。


「そりゃあよかった。それで、薬の効果の方は?」

「ええ、ちゃんとここに記録しておきましたよ。」


 俺は恵比寿に渡された資料を見る。

 そこには今回使った、ランファに作らせたマナ強化剤の詳細が載っていた。

 この薬の効果はいわば強制的にマナを体に集める薬で、飲めば少しの間スキルや魔法の力が跳ね上がると言うものだ。

 しかし効果が切れると、暫く無能状態になるという副作用があった。

 俺はこの薬を検証のために闘技場で、適当な男に使わせてみたのだが、なかなか面白いデータが取れたようだ。


 初めの数回は特に問題なく使えたらしいが、慣れて効果が薄くなると同時に、マナが身体に集まらなくなり、徐々にスキルや魔法が弱まっていったらしい。

 このウッドルフとか言う奴は何日も前から無能になりつつあったらしいが、薬を飲んで残りカスを増幅させて辛うじて魔法が使えていた状態だったようだ。

 対戦相手も最後の方は恵比寿が根回ししていたようで、殆ど八百長的なみたいなものだったようだ。

 そして、最後は完全な無能になってただの農民に殺されたらしい。


「……しかし、これはなかなか使えるな。」


 一時的な強化に、無能にもなることができる、やり方次第ではビジネスにもなるし戦闘にも役立つだろう。


「それで、これは量産するんでっか?それならば是非ワシらに卸していただきたいんですが」

「……いや、今はするつもりはない。その代わり『人樹の秘薬』の方を増産するつもりだ。」

「おお!それはありがたいです。あれはまさに『金の生る木』ですからな。ほな、すぐに元締めに連絡しますわ!」


 そう言うと、室内の中であるにも関わらず風が吹く。

 そして、その風が吹き抜けると、俺の目の前にいた恵比寿は、音も立てずに姿を消していた。


「……七福神の恵比寿みたいな格好してる癖に忍者みたいな動きしやがって……」


 実際動きだけでなく、分身や身代わりもできるらしい。それで実験台にしていた男も気づかず、人形を死体と思い込んで森に埋めたらしいからな。


「みたいじゃなくて完全に忍者だな。」


 少し東洋の国と言うものに興味が沸いてきた。もしかしたら、その国なら前世で馴染みのある物も、あるかもしれない。


 とりあえず薬の流通に関してはこれでまとまったな。

 あとは()()のストックがどれくらいあるか、ランファに確認しておかないとな。




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