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奴隷の帝王~無能な奴隷に転生した最強ヤクザの最底辺からの成り上がり~  作者: 三太華雄
一章 商人編

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ティアマット

 踵落としが頭に綺麗に決まり、カルロがその場に倒れ込むと、周囲は驚きによってか一瞬の静寂に包まれるが、すぐに息を吹き返したように歓声へと変わっていく。


 「マジかよ……無能がカルロに勝ちやがった。」

 「しかも、武器も防具もなしでだぜ?どうなってやがんだ?」


 歓声の中には動揺の声も混じっている、恐らくそれだけの出来事だったのだろう。

 まあ、この世界での無能の立場を考えれば無理もないか。


 だが実際はそこまで驚くようなものでもないんだがな、確かにこいつのスキルは脅威ではあったが、それ以外が酷すぎた。

 攻撃も単調で読みやすく、剣捌き以外の動きはたいした事はない。

 恐らくこれまでスキルに頼り続けてきた結果だろうな。


 冒険者というのは基本チームで動くと聞いている、恐らくこいつの劣った部分は仲間が魔法やらなんやらでカバーしていたのだろう。

 そして相手は知性のないモンスターがメインとなる、だからこそ冒険者としては若手のホープとして活躍できていたのだろう、

 だが、一個人の剣士としては恐らく大したことはない。

 まあ要するに、才能に胡坐をかいていた怠け者という事だ。

 

「マットさん!」


 喧騒から聞き覚えのある声が聞こえたかと思うと、ギャラリーの中からノーマが出て来て、こちらへと駆け寄ってくる。


「大丈夫ですか、今怪我の治療をしますね。」


 そう言うとノーマが斬撃によってできた頬の傷に触れる。


 治療っていったい何をするつもりだ?

 傷に触れられたことから昔ながらのまじないでもかけるのかと冗談で思ったが、どうやらあながち間違いではなかったらしい。

 ノーマがゆっくり目を瞑ると、触れている手が淡く光り始める。


「ヒール」


 ノーマが何か呟くと、頬に傷が温もりのようなものが伝わる。

 手が離れると俺は自分の手で傷のあった部分に触れる。

 すると、先程あったはずの傷が無くなっていた。


「……治った?」

「ええ、初級治癒魔法のヒールです。」


 流石にこれは驚きを隠せない。

 傷が一瞬で治るのは勿論の事、これが初級というのだから上級とはいったいどれほどのものなのだと考えてしまう。

 前世の世界のような技術的の力はないがその代わり別の力が存在する世界か……

 便利なのか不便なのかわからんな。


「では次はお腹の傷を治しますので服を……」


 そう言われ服を捲ろうと裾に手をかけたところで、なにやら前方から騒ぎ声が聞こえると、その手を一度止める。


「ふざけるな!こんな戦いは反則だ!」

「そうよ、卑怯よ!」


 どうやら騒いでいるのは、カルロの連れの様で俺の勝利に不服を申し立てているようだ。


 やれやれ……


 俺は一度立ち上がると、そのままカルロの治療を行いながら騒ぐ二人の方へと歩いていく。


「何やら俺の戦いに不満があるようだな。」


 俺が尋ねると二人は少し怯みながらも言い返してくる。


「あ、当たり前だ!相手の顔に目掛けて石を投げたり股間を狙ったり、戦い方が汚いんだよ!」

「そうよ、この卑怯者!」


 二人がやたら騒ぎ立てるので先ほどまで俺の勝利を称えてたギャラリーたちにも、徐々に考えを改めるやつらがでてきはじめ、周囲では俺の戦いについて賛否が分かれ始めている。

 

 ……めんどうな奴らだ。


「……ならお前らに聞くが素手の相手に武器を持って戦うってのは卑怯じゃないのか?」

「そ、それはカルロが予めに忠告をしておいた筈だ同意の上で戦ってるんだから問題ないだろ。」

「ならそれと一緒だ、俺は石という()()を使ったにすぎない。それに、顔や股間を狙うのが卑怯ならお前らは魔物と戦うときは弱点や急所を狙わず正々堂々と真っ向から戦うのか?」

「そ、それは……」

「俺はただ、今できる最善を尽くして戦ったまでだ。それでも文句があると言うのなら、あらかじめルールでも作っておくんだな、どんな制限があっても戦ってやるよ。」


 そう言ってみせると二人はあっさりと反論の言葉を無くし黙り込む、そして今の話の間に意識を取り戻した、カルロが少しふらつきながらもゆっくり起き上がる。


「やめろ……そいつの言う通りだ。今度は不意打ちでも何でもねえ、正々堂々と戦って負けたんだ。もう言い訳はできねぇ。完全に実力の差だ。」


 意外だな……

 こいつも一緒になって文句を言うかと思いきや、しっかりと自分の敗北を受け入れ分析もできている。

 俺の中でのこいつに対する評価が少し上がった。


「カルロ!でも――」

「でももへったくれもねぇ!だからこそムカつくんだ!この俺が!こんな無能如きに、二度までも………クソ、クソクソクソ!」


 カルロが悔しさをぶつける様に地面を拳で何度も叩く、そんな姿に連れの二人は勿論、ギャラリーたちも言葉を失っていた。


 そして、怒りを一通り地面にぶつけた後カルロはゆっくりと立ち上がる。


「……もう一度、鍛え直す。これ以上恥をかくのは真っ平ごめんだ。」


 カルロが立ち去ろうとする。

 ……が、数歩歩いたところでまた立ち止まる。


「おい、無能。今回は負けたが、俺がしっかりと鍛えればお前如きすぐに抜けると言うことを忘れるな。」


 そう言い残すとカルロ達はその場から立ち去っていく。


 ……思っていた以上にいい根性しているな、

 あいつはなかなか伸びそうだな、次は覚悟しないと。

 俺はその三人が見えなくなるまでその背中を眺めていた。


「……そういえば、治療の最中だったな。」


 一段落したところでそのことをふと思い出すと、俺は再び裾に手にかける。


「……全部脱いだ方がいいか?」

「そうですね、一応。」


 と言われたので上の服を脱ぐ。


「あ⁉……」


 しかし服を少しまくったところでノーマはすぐに服を掴んだ俺の手を掴み阻止する。


「あ、あの!やっぱりこんな一目で着くところで何だしところではなんなのでギルドの部屋へ行きましょう。」

「あ?上半身くらい構わないだろ?」


 冒険者の中には上半身が露出の多い奴らも沢山いるし。それにどちらかといえば女性であるそっちの視線の方が気になる。


「と、とにかく、」


 そう言ってノーマが俺の手を引いてそのままギルドの中へと入っていく。

 そしてカウンターの奥にある部屋の一室で俺は改めて服を脱ぐと、ノーマは俺の裸体を憐れむような目で見る。


 なるほど、そういうことか。

 どうやらノーマは俺のこの骨と皮だけの体を他の者達に見せたくなかったらしい。

 服の上からではあまり気にならなかったが、脱ぐとなかなか目立つようだ。


「マットさん……あなた、もしかして……」

「言っておくが、『元』だからな。」


 この体を見て気づいたノーマがその言葉を口にする前に釘を刺しておく。

 俺たちの脱走の話は噂になっているようだし気づいてもおかしくはない。

 ノーマも察してくれたようで、それ以上何も言わなかった。

 そして今度は背中を見たノーマが俺が女神からもらった背中の転生特典に興味を示した。


「マットさん、これは?」

「ああ、これは俺が無能になった代わりに女神からさずかった俺の魂みたいなもんだ、」


 人に見せる機会なんてないから食いつかれると柄にもなくつい語り口調になってしまう。


「……」

「どうした?」

「え⁉いや、なんでもありません。では、引き続き治療を行いますね。」


 その後、ノーマは無言で治療を続けた。

 そして治療が終わると、ノーマはそそくさと部屋から退出していき持ち場へと戻っていた。


 俺も再び素材を受け取ると、そのまま宿へと戻り、そして何事もなかったかのようにお人好しの家族との時間を過ごした。


そして次の日、俺達は色々あったこのカザールの町を後にして次の町へと旅立った……



――


「……以上で報告を終わります。」


 ノーマから今回の無能と一冒険者による一連の騒動の報告を受けると、この町のギルドマスターを務める男は顔を顰めて険しい表情を見せる。

 この荒くれ者が集うギルドでの喧嘩など日常茶飯事ではあるが、今回に関しては少し状況が違っていた。


「そうか、無能が冒険者を……しかも二度までも。」


 そう、今回の騒動の相手は無能であり、そして冒険者に勝ってしまっていたのだ。それは前代未聞の出来事であり、この小さな地方のギルドで処理するのは難しい案件であった。


「はい、一度目は向こうの油断と不意打ちがあってこそだったのですが、今回は正々堂々正面から挑んでの戦いです。」

「ふむ……それで、彼の実力は元Sランク冒険者の君から見て彼はどうだった?」


 ギルドマスターがノーマに尋ねる。

 するとノーマは受付嬢の時に見せていた温かい雰囲気は影を潜め百戦錬磨の冒険者としての顔に変わる。


「正直、甘く見ていました。スキルはありませんが、それを補うほどのステータスと経験を積んでいたと思われます。非常に戦い慣れていて相手に対して一切の容赦がなく、ステータスに関しては動きだけならAランク相当に匹敵する実力者だと思われます。言うなれば知識のついた魔物ってところでしょうか……」

「なるほど、いい例えだな。一度ステータスを見てみたいが、マナが扱えないのでは調べるのは難しいか。」


 この世界でステータスを図るにはその人間が取り込むマナを調べる必要があるのでマナを扱えないティアにはそれは無理な話だった。


「あと、少し気になることが……」


 と、言いかけたところでノーマはその口を閉じた。


「まあ、もう町から出て行ってしまった以上我々の管轄ではないか、それに冒険者にもなれなかったのだからこれ以上関わることもないだろう。この話はなかったことにしよう。」


 そう結論付ける、ギルドマスターはそれで今回の報告を以上として終わらせると、話を終えたノーマも部屋から退出する。


 そして誰もいない廊下で歩きながらぶつぶつと独り言を呟く。


「あの背中にあった()()()……、今まで見たことがないほど立派だった、まるでこの世界のものとは思えないほどに……そして、極め付けにはあの名前……」


ティア・マット……それはこの世界の伝承に出てくるドラゴンの王と同じ名前だった。


――伝説の龍王と同じ名前……あれは偶然なの?


「もし、彼が龍王の生まれ変わりだとするなら私は……」



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