ノイマンの子供達
「と言う事で、新しく組織に加入する事になったアンデス・ノイマンだ。」
「アンデスです、宜しくお願いします。」
俺はアンデスを連れて組織の本部に戻ると、本部にいるメンバー達にアンデスを紹介する。
アンデスが公爵の令嬢らしく上品に挨拶をすると、つるはしに旅団やギニスを筆頭に皆、口を開けて呆けている。
そして、数秒の沈黙が続いた後、打合せしていたかのように一斉に騒ぎ出した。
「はぁぁぁぁぁぁ⁉ノ、ノノノノ、ノイマン⁉︎ノイマンってあの⁉」
「お、おい、どうなってやがんだ?アンデス・ノイマンっていや、今回の標的対象だったはずだろ?どういう経緯で仲間になったんだよ⁉」
「奴隷になったんで買った。」
「なんでノイマンが奴隷になってんだよ⁉」
「俺が嵌めた。」
「はぁぁぁぁぁ⁉︎」
俺が経緯を簡単に説明すると、ギニスは雄叫びのような驚きの声をあげる。
「安心してください、双方同意の元ですから。」
「何がどうなったら同意で奴隷になるんだ……」
ギニスが額に手を当て項垂れる。
周囲がアンデスの事で騒いでる中、当の本人はまるで他人ごとの様に、興味深々に本部の中を見学している。
「へえ……外はともかく、中の雰囲気は悪くないわね……それにしても、よくもこんなところにアジトを構えようと思ったわね。」
窓から外を覗きながらアンデスがクスクスと笑う。
俺達が本部として使っているのは、南部地方のとある森の奥に建っていた寂れた屋敷だった。
その森は別名『迷いの森』とも言われている場所で、森全体に魔力を吸い取る霧が覆っており、一度迷い込めば二度と出られないと言われている。
話によれば元は普通の森だったが、そこにとある魔術師が研究のため、屋敷を建てたらしい。
しかし、事故か何かで魔術師が死に、更に研究していたものが外に漏れ出しその日を境に森の中に視界を覆う程の濃い霧が漂い始めたという話だ。
その後された調査によれば、どうやら霧を生み出しているのはミストトレントという木の形をした特殊なモンスターで、恐らく外に漏れていた研究していたものの影響を受けて進化したモンスターという話だ。
ミストトレントは森に入った生物を霧で迷わせ遭難させた後、弱ったところを養分として取り込んでいた。
そしてミストトレントはどんどん増殖していきいつしか森全体を霧覆うと、当時の領主は手に負えないと判断し、その森を立ち入り禁止区域とした。
そしてそんな情報を手にした俺は、どの種族とも意思疎通ができるキングと木の精霊であるドリアードの姉弟を通してトレントと話し、ある条件を約束して組織関係者の周りだけ霧を晴らすように交渉した。
こうして手に入れたのがこの本部だ。
「あら、そこにいるのは誘拐事件の時にいたツルハシの旅団ね?あなた達も組織と繋がってたのね。」
「あ?なんでその事を……」
「スキルじゃないっすか?このお嬢さん、『イービルアイ』っていう変なスキルを持ってるみたいッスから。」
「へえ……それが分かるということは、あなたは鑑定スキルを持っているのね?そんな細い眼の割にいい眼をを持ってるじゃない」
「ほ、細目は余計ッスよ!」
気が付けばアンデスがつるはしの旅団達を見つけると五人に絡み始めていた。
ここに全員いるわけではないが、今のところアンデスに対し困惑する奴らはいるが、否定的な反応をしてるやつはいない。引きこもってた割に社交性は高そうだし、どうやらアンデスもここに馴染めそうだな。
アンデスが一通り仲間たちと絡み終えたのかと上機嫌にこちらに戻ってくる。
「皆さんなかなか面白そうな人ばかりね。」
「仲良くできそうなら何よりだ。」
「それで、私は組織で何をすればいいのかしら?」
「ああ、そうだな……お前にはその能力でおいおい働いてもらうとして、まず先に一つ、ノイマンのことを教えてもらいたい。」
「ノイマン?私の事?」
「正確に言えばお前たち兄弟の事だ。」
そう、これもアンデス買った理由の一つだ。
今、標的としているバルデスの子供たちの情報は詳細なものはなく、どれもあやふやななものばかりだ。
だから身内であるアンデスから少しでも情報を得ておきたい。
そう考えていたのだが、俺の言葉にアンデスは少し顔を顰める。
「申し訳ないけど、それについては少し難しいわ。」
「難しい?」
「ええ、知って通り私には三人の兄と姉が一人いるけど、全員がそれぞれ違う母親で生まれ、違う育てられ方をしてきたのよ。」
ああ、そういえば以前バルデスが育ちも出生も様々と言っていたか?
「例えば私なんかは、ノイマンの屋敷で不自由ない暮らしをさせてもらえてだけど、その代わり家の者は必要最低限以外の接触は控えられていたの。お陰で私は誰にも構ってもらえず、家では一人部屋に引きこもり、能力で外を覗いたり本ばっかり読むようになってたわ。だから兄弟と言っても余り知らないのよね。それでもいいなら教えるけど?」
「ああ、それで構わない。」
今はどんな些細な情報も欲しいところだ、そこからノイマンの思惑も見えて来るだろうからな。
そう言うとアンデスが兄弟し始める。
「そう、わかったわ。なら下から順番に説明していくわね。まず一人目は私の二つ上の兄である三男のアボット。彼は三男だけど正妻の子供で、幼い頃からかなり甘やかされて育てられていたわね、家でも外でもやりたい放題してたけど誰も逆らう事は出来ず、両親達も一切咎めなかったわ。お陰で随分と性格が曲がってしまって、大人になった今でも金や権力を使って色々迷惑をかけているみたいね。」
成程な、つまりアボットというのはいわゆる典型的な貴族と考えればいいか。
「そしてその次が二人目の兄だけど……実はこの人に関しては顔も名前も知らないの。」
「名前もか?」
「ええ、何せ彼は生まれると同時に名前も付けられずに養子に出されたらしいからね。私は勿論、家の者も知らないわ。もしかしたら本人ですら自分がノイマンの血を引くことを知らないでいるんじゃないかしら?」
養子に出されて顔も名前も分からない……その子供を探すのは中々骨が折れそうだ。
「で、その上が長男のレミエス。長男という事もあって小さい頃から跡取りとしての教育を受けていたのか沢山の家庭教師がついていたらしいわ。その事もあってか今は西部地方にある街を一つを任されているの。非常に真面目で優しく、正義感が強くて民からも愛されている凄く評判のいい人ね……」
そう言うとアンデスはため息を吐く。
レミエスという男は聞いている限り、悪い奴じゃなさそうだが何故かアンデスは自分の説明に呆れた表情をしていた。
まあ確かに優れているとは一言も言っていないようだから、何か問題があるのかもしれない。
「そして最後の一番の上の長女ヴァーミリア。彼女に関して知っていることは養子という事くらいかしら?私が物心ついたころには家にはいなかったみたいだし、会ったこともないの。ただ、聞いた話だと彼女は唯一お父様に直接育てられ一番長く時間を過ごしていたと聞くわ。私の知ってることはこのくらいかしら?」
「成程な……」
アンデスが説明を終えると、俺は少し考えこむ。
今の話を聞いた限り、バルデスは恐らく血筋の検証をしているのではないだろうか?
誰も関与させずに育ったアンデスに教育も受けず甘やかされて育ったアボット、他人に育てられた次男に、そして自分の手で育てた血繋がらないヴァーミリア。
様々な環境で育った自分の子供がどういうふうに成長したかを調べるために後継者争いをさせていると言ったところか。
血筋を重要視している貴族という身分に疑問を感じているバルデスなら考えそうなことではあるな。
「ところで、私からも一つ聞きたい事があるんだけどいいかしら?」
質問に答え終えたアンデスが今度はこちらに質問してくる。
「なんだ?」
「この組織は、一体何をする組織なのかしら?」
「そうだな、主に国の法律をすり抜けた商売や――」
「そうじゃないわ。私が知りたいのはその先、あなたはこの組織でどういう物語を描いているのか?という事よ。」
……ああ、そういう事か。要するにこの組織で何をしようとしているのか、最終目的としているのかを知りたいという事か。
そう言えば、初期メンバーの奴らには一度話したことがあったが、他は幹部以外には話したことがなかったか。
折角だから教えておくか、この組織が何を目指しているのかを……