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終幕

「へえ……面白いわね。」


 マルクトとマティアスのやり取りを覗いていたアンデスが、二人の会話を聞いてクスクスと笑う。

 マティアスは自分が覗いていることを知りながらマルクトに自分への殺意の確認をしていた。

 具体的に何をするのかは語らなかったが、何かしら自分に害なすことをしようとしているのは明白だ。

 ただ、アンデスは特に気にしていなかった。


 それでこの物語が面白くなるなら例え自分が殺されてもアンデスは構わないと思っている。だからと言って黙って何かをされるつもりはない。

 なぜなら敵役が無抵抗では物語に面白みが欠けるからだ。

 アンデスは自分の能力を使いマティアスの策略を全力で阻止する、その結果どちらが勝っても最高の物語となるのだ。


「さて、どう動いてくるでしょう?」


 アンデスは次のマティアスの動きを楽しみに待つことにした。


 ……しかし翌日、マティアスは学園から姿を消すこととなった。

 どうやらマティアスは無能が発覚したことを理由に、無能であることを隠した罰として、学長のエラードから無期限の停学処分を受けたらしい。

 停学は謹慎よりも重い罰で、寮から出ることを禁止される謹慎と違って、停学は学園に来ること自体が禁止される。

 なので、今マティアスは寮にすらいない事になっている。


 ――これは作戦かしら?それとも偶然?


 停学理由としてはかなり理不尽ではあるが、あの学長ならやりかねない。

 無能というのは、平民からも差別されるような立場であり妾の子などよりも扱いは遥かに悪いので、実際に停学にされてもおかしくはない。ただ、これもマティアスの計画の可能性もある。


 アンデスはエラードにリンクして様子を覗いて見る。

 すると、ちょうどロミオ・ベーシスが学長室に乗り込んでマティアスの謹慎に対する抗議を行なっているところだった。

 ロミオは必死でマティアスへの停学の不当性を訴えているおり、エラードはそんなロミオの話を渋い顔を見せながら黙って聞いていた。

 ロミオは宰相を務めるベーシス侯爵の息子である、身分主義のエラードとしては決して彼の言葉を無視できない。

 しかしそれでも停学を解くことを拒むのを見るに、エラード自身も自分の意思ではなく誰かの命令によって仕方なく停学を決めた可能性が高い。


 そしてそれは恐らくマティアス自身だろう。

 という事は彼女がこの謹慎期間の間に何かの準備に動いていると考えた方がいい。


「ふむ……」


 マナのないマティアスだけは覗くことができない事もあって、マティアス自身の動向を探るのは難しくなった。だが逆に言えばこれでマティアスが学園の人物に接触してくることはなくなったともいえる。


 通信という手段もあるが、アンデスの能力は目にリンクする事で相手に憑依する能力、目を通じて『見る』能力でありながら『聞く』事もできる、例え姿が見えない通信手段でも会話の内容は聞くことは可能なのだ。

 そして何をするにしても、この一件の中心人物はマルクトで、彼と接触しなければいけないはず。


 ――つまり、王子を監視しておけば必ず何かあるはずだわ。


 そう考えると、アンデスはマルクトを中心にエマやロミオと言った、マティアスと懇意にしていた人物を様子を観察して始めた。

 マルクトは基本学園での生活は以前と変わったところはない。

 授業中は基本ロミオと行動し、休み時間にはいつもの場所でエマと逢瀬を重ねている。

 会話も他愛のない話ばかりで、打開策もないまま「どうにかして見せる!」っといった自分の決意を伝えるだけの相も変わらない無責任な内容だった。


 そして、たまにロミオやエマの様子も見てみるが、こちらも大した動きはない。

 ロミオはなんとかマティアスと連絡を取ろうと動いているようだが、上手くいかず。エマは決意を口にするマルクトの手を取りひたすら励ましていた。


 ――そう言えば、マティアスさんはマリス先輩の身内だったわよね?


 その事を思い出し、アンデスは学生時代に接触のあったマリス・カルタスの方を覗いてみる。

 すると、そこには先日マリスが婚約を発表したビート・キャメロンと、何故か学園の同級生だったエレライン・ルメールが言い争いをしていた。

 話を聞いてみると、どうやらエレラインがこの婚約に反対しているようでマリスに婚約の破棄を訴えかけ、ビート・キャメロンは勝ち誇った様子で、エレラインを挑発していた。

 そして、当のマリスは額に触れながら頭を悩ませていた。


 ――ふうん、こちらも中々面白そうなことになっているのね。


 ただ、今はどうでもいい事だった。


 ――……彼女が帰っている様子はなさそうね。という事はやはり独断で動いているという事かしら?


 ますますマティアスの動きが気になり始めるが、どこにいるかもわからない以上探ることはできない。

 それは本番までのお楽しみと言い聞かせ、アンデスはマルクトの監視を続けていた。


 しかし、大きな発展はないまま時間は刻々と過ぎていき、等々学園の卒業式の日を迎えた。


 ――結局今日まで何もなかったわね……


 あの一件から今日までで三ヶ月、マティアスが学園に戻ってくることはなく、マルクトとも接触することはなかった。

 マルクト達も、目立った動きを見せることはなく、普通の日常を過ごしていた。


 ――計画がとん挫したのかしら?それとも諦めた?


 そんな不安を抱えたままアンデス達は卒業式を終え、そして卒業パーティーへと足を運んだ。

 パーティ―にはマルクトの両親である国王と王妃の他、多くの有力貴族や学校関係者が集まっており、今日正式にアンデスとマルクトの婚約が正式に発表されることになっている。

 アンデスは祝福の言葉をかけてくる貴族達を適当に流し、ただマルクトの動きだけを目で追っていた。

 もし何かがあるならここしかないからだ。


 そして、パーティーが始まってから時間が経ち、場も落ち着きを見せ始めた頃、婚約発表のために国王陣営が動き始めた。

 すると、それに合わせてマルクトが声をあげた。


「皆の者!今日は聞いてほしい事がある」


 その一声で皆が注目すると、マルクトがアンデスの方へと近づいてくる。

 恐らく自らの口から婚約の発表をするのだろうと思っている国王と王妃も笑みを浮かべているが、マルクトはその相手であるアンデスを睨みつけていた。

そして一度間を置くとアンデスに向かって勢いよく指を指した。


「アンデス・ノイマン!僕は今日、この場で君の犯した罪を皆に告発する!」


 その言葉を合図に最後の攻防が始まった。




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