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婚約者

 ソフィアの処理を部下たちに任せると、俺はマリスに報告をするためにそのままカルタス家の屋敷へと足を運ぶことにした。

 戻る前に一度連絡を入れると、何故か女の姿で戻ってこいと言っていたのが少し気になったが、とりあえず言うとおりにして、凡そ一ヶ月ぶりに屋敷に戻った。

 ……しかし


「お帰りなさい。」

「お帰り。」

「ただいま……この男は、何?」


 俺は対面に座るマリスの隣に当たり前の様にいるキザったらしい男を見て尋ねる。


「初めまして、マリスの婚約者であるビート・キャメロンだ、君の事はマリスから聞いてるよ、宜しく。」

「……宜しく」


 そう言って差し出された手を握り挨拶を交わす。


(なんでこの男がいるんだ?)

(仕方ないでしょ、契約婚とはいえ夫婦になるんですもの、ある程度は話さない訳にはいかなかったのよ。)


 と言いたげな目をしたマリスと目配せで会話をする。婚約者候補とは聞いていたが、既に同居しているとは聞いてなかったぞ?


「安心してくれ、ちゃんと事情は分かってるから。」

「そうですか……。」


 事情と言うのは、あくまでエマ達の事だけで組織の事は話してないと信じたいがな……

 それにこの男、一見友好的な態度を示しているが、その作られた笑みを見るに俺にあまり関心はなさそうだ。


「まあいいわ、それよりも早速本題に入るけど、先に連絡しておいた通り第三王子はエマを選ぶことにしたみたいよ。」

「そう……なら私たちも正式に婚約を進める事にしましょう。」

「ま、既に社交界では二人の話は出回ってるみたいだけどね。」


 アメリアが他の生徒のメイドから聞いた話では、どうやら貴族の間では二人の婚約が話題になっているらしい。

 なんでも、学生時代に思い合っていたのに、思いを伝えられないまま、卒業した二人だったが、マリスが結婚相手を探していると聞いたビートが、家の反対を押し切り伯爵家に婿入りすることに決めたと。

 貴族じゃ珍しい恋愛婚という事で、貴婦人達の話の話題になっているらしい。

 実際は打算だらけのただの契約婚なんだが……


「ああ、俺が言いふらしたからな、彼女の周りには五月蠅いハエが多いみたいだからな。」


 それに関しては男を弄んでいたマリスの自業自得と言えるだろう。


「ま、中には無視して集ってくるハエもいるみたいだが……」


 ビートが顔を横に逸らしながら不機嫌そうに呟く。

 そう言えば婚約者候補が二人いるみたいなこと言ってたな、そこらへんはどうするつもり知らないが、まあマリスに任せるとしよう。


「まあ、そちらに関しては二人に任せるわ。それよりキャメロン侯爵と言えば第二王子派だと思っていたけど、ホントにいいの?」


 情報によればキャメロン家は元公爵家であったが、ノイマンと対立したことによってその地位を伯爵まで落とされた経歴があるらしい。

 その後、時間をかけて今は何とか侯爵まで上がってきたが、その際に協力してもらったのが王妃の実家であるテイロン公爵家だったらしい。

 その事もあって公爵家には頭が上がらないと聞いていたが……


「確かにいい顔はしないだろうが、次期国王になり得る者と繋がりが持てる可能性が出てくるんだ、あの家ならあっさり第三王子に乗り換える可能性の方が高いだろう。それに家がどの派閥だろうが俺には関係ない、俺はただマリスの夫になるさ。」


 そう言うとビートがマリス髪に顔が触れるほどまで近づけるが、マリスは体をこちらに向けたまま横にずらし距離を取ると、俺に助けを求めるような視線を向ける。

 そしてそんな態度のマリスを見てビートはフッと悪戯っぽい笑みを浮かべる。


「まあそう言う事だから。あ、でもこれはあくまで()()()だからね!」

「だが偽りの愛が本当になることもよくあることだ。」

「絶対ないから!」


 マリスが俺に対し、何故かやたらと契約婚であることを強調してくる。

 別に俺からすれば仕事の邪魔さえしなければどっちでもいいんだがな……


「とにかく、これであなたの役目は終わりだから、卒業と共に戻ってくるといいわ。」

「わかった。あ、そうそう、ところで幾つかお願いがあるのだけど――」


 それから俺は、組織の連絡などでカルタス領でほど二日過ごした後、再び学園へと戻る。

 そして学園に着く頃には俺の謹慎も解けていた。


「お帰りなさい、マティアスさん。」

「そして、謹慎明けおめでとう!」


 寮に着くと、帰ってきた俺をルナとアルテが出迎える。


「ありがとう、二人にも随分世話になったわね。」


 礼を述べると、二人は少し照れくさそうに微笑む。

 二人には俺がいない間、エマとできる限りそばにいてもらったし、独断で容疑を晴らそうと動いてくれた恩もある。


「これからは、また学校に通えるね。」

「あ、そうそう、その事なんだけど――」


 俺は二人にこの学園に来た目的と、目的を果たしたことで三年の卒業と共に学園を去ることを告げる。


「そう言う事だったんですね……。」

「ええ、だから私は三年の卒業と同時に学園を辞めるわ。」

「残念、せっかく仲良くなれたのに。」

「そうですね……」

「そこでなんだけど、二人とも卒業後にうちで働いてみない?」


 そんな提案をすると、俯き加減だった二人が同時に顔をあげる。


「え、それはカルタス家でですか?」

「ええ、ここ数年で伯爵家の領地経営も上手くいって、最近は事業にも手を付けて人手が足りなくなっているの、マリスも結婚して忙しくなりそうだから、色々と人手がいるのよ。ああ、勿論受けてくれたらここでの費用は全てカルタス家が持つわ。」


 その言葉を聞いて二人は顔を見合わせる。


「それは是非もない事ですが、私達で宜しいのですか?」

「ルナはともかく私なんて、成績も良い方じゃないよ?」

「それを言うなら、私も大したスキルもありませんし。」

「別に勉強やスキルと言った能力だけが全てじゃないわ、経験や社交性……そして何より私が求めているのは友人のピンチに自ら動いてくれるような信頼できる人よ。」

「マティアス……」

「……わかりました、このまま見知らぬ貴族に嫁がされるくらいなら、見知った二人と一緒に働きたいです。」

「私も同じく。」

「二人とも、ありがとう……。」


 きっと、その頃にはマティアス(おれ)はいないと思うが、これで少しは恩に報えたか?

 さて、じゃあ次はエマの様子でも見にいくとするか。

 俺は二人と別れた後、エマの部屋へと向かった。


「お姉さま、お帰りなさい。」

「ただいま、そちらの方は問題ない?」

「はい!今日マルクト様が報告しに城に行っているみたいです。」

「そう、順調そうで何よりだわ。」


 まあ城の方では揉めるだろうが、そこはマルクトの腕の見せ所だな。


「ただ、マンティス様がどう動くか心配です。今は学園も休んでいるみたいですから次に何を仕掛けてくるのか……」

「ああ、そっちに関しては問題ないと思うわ。」


 もう処理したかからな、案の定マンティス家はソフィアの状態を隠しているようだが、今の状態では到底婚約の話など進められないだろう。


「え?それは一体どういうこと――」


 その時だった、部屋の外から騒つきが聞こえ始める。

 気になり部屋の外へ出てみると、そこには見慣れない女子生徒が廊下をゆっくり歩いていた。

 この世界では比較的珍しい、黒い縁の眼鏡に黒髪お下げと言った地味な格好は。この華やかな女性ばかりがいる女子寮では非常に目立っていた。

 しかし、その女子はその地味な格好とは真逆に周囲の目など気にせず狭い廊下の真ん中を堂々と歩く。

 すると、銀色の校章をつけた下級生と思われる三人組がその女子の前を遮る。


「ちょっと、貴方見ない顔だけど編入生?」

「何?その貧乏くさい髪型、しかも校章も付けないで歩くなんて、さては地方の貧乏男爵貴族かしら?」

「あなたみたいな子が堂々と真ん中を歩いてるんじゃないわよ!」


 そう言って下級生の一人がお下げの女子の肩を強く押す、しかし彼女は何故か嬉しそうな笑みを浮かべ、真ん中に立つ下級生に一歩距離を詰めると、顔をグッと近づける。


「な、なによ……」

「フフッあなた達いいわね、素晴らしいわ。まさに典型的なかませ犬、あなたの様な人がいるからこそ物語は引き立つのよ。」


 お下げ髪の女子はそう言うと、マジックボックスと思われるものから宝石が詰まった袋を取り出すと、絡んできた生徒に渡す。


「え?え?」


 いきなり宝石を渡され慌てふためく女子を無視して、お下げ髪の女子は俺達の元へ歩いてくると、目の前で足を止める。


 この女子がどういった人物かは知らない。だが騒つく周囲の様子や、顔面蒼白になっているエマ、そして何より()()()に似たこの学生とは思えない異様な雰囲気で大体察しがついていた。


「あなたが、マティアス・カルタスさんね?」

「……ええ、あなたは?」

「初めまして、私はアンデス・ノイマン。ベンゼルダ王国第三王子、マルクト殿下の()()()です、以後、よろしく……」


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