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続編希望

「……こうして、王子様は無事、男爵令嬢と結ばれましたとさ……」


 部屋で一人筆を進めていたアンデス・ノイマンが最後の一文字を書き終え筆を止めると、改めて自分で書いた物語に目を通す。


「……プッ、アハハハハハ!なんなのこれ?」


 そして、部屋の外まで聞こえるほどの大声で笑い始めた。


「アハハハハハ!あれだけ荒狂ってたのになんで、どうして最後は物語の様な終わり方になるの?おっかしー!」


 アンデスは子供の様に足をばたつかせながら腹を抱えて笑い、そのまま床を転げ回る。


 アンデスが書いた物語をまとめればこうだ。

 身分の壁に阻まれた王子と男爵令嬢の恋物語で、互いに惹かれ合い距離を縮めて来た二人だったけど、その身分差ゆえに王子は最後の一歩を踏み出せずにいた。

 一方男爵令嬢は立場をわきまえ、身を引くつもりでいたが王子との関係を他の者達から妬まれ、酷い嫌がらせを受けていた。

 しかしそんな令嬢を救ったのは、突如編入してきた令嬢の従姉妹で彼女は男爵令嬢を嫌がらせから救い、更には二人の仲を取り持つため、王子の婚約者候補である格上の侯爵令嬢にすら果敢に立ち向かっていた。


 一方、愚かな王子はそんな彼女とは裏腹に自分の立場に悩み続けた結果、彼女の身の危険も考え男爵令嬢との恋を諦めると、侯爵令嬢との婚約を決意する。

 しかし、侯爵令嬢は楯突いてきた令嬢二人を許すつもりはなく、王子の知らぬところで賊に襲わせていた。

 その知らせを聞いた王子は、迷いつつも周囲に背中を押され助けに行くが、既に冒険者達が救出しており王子が付く頃にはとっくに解決していた。

 そして、無事王子と令嬢は再会すると、先に思いを告げたのはまさかの攫われた令嬢の方で、王子も後手に回る形で告白し、そのままハッピーエンドを迎えた。


 最後の最後で少しヒーローの様な振る舞いを見せたが、実際のところ王子は何も出来ないまま周りに助けられる形でラストだけを持っていく展開となった。

 立ち位置で言えば主人公である王子は結局何一つ主人公らしい振る舞いをせずに終わったが、アンデスの求めているのは『小説の様な小説ではない物語』と考えると、これも現実的でありと言えるだろう。


「ホント、馬鹿みたいな話ね……でも、これで終わりかあ。」


 アンデスは暫く笑い転げた後、糸の切れた傀儡の様にように床にうつ伏せになる。


 彼女は今、物語が終わってしまった喪失感に浸っていた。

 長年に渡って進めてきた物語が終わったのだ、時間をかけた分、心に空いた穴は大きい。

 だがそれ以上に、この物語に心残りがあった。


 その原因は思っていた以上にマティアス・カルタスが物語に大きく関与してしまった事にある。

 元々王子を主役に始まった物語だったが、途中から予定外の存在であったマティアスが中心になっていた。ただ、それに関しては問題ない。寧ろ話を面白くしてくれたのでありがたいくらいだ。

 問題なのは主役を食ったマティアスの視点をアンデスは持っていなかったことだ。


 アンデスの能力は接触した相手の魔力とリンクし視覚を共有する能力で、アンデスはマティアスと接触したことがない。

 理由は、自分が近づく事で物語に横槍を入れてしまうことになる事を恐れがあったからだ。

 ノイマンと言う名はこの国ではもっとも有名で恐れられる名である、そんな家の名を持つ自分がマティアスに近づくことで、周囲が自分とマティアスと関係を疑えば、折角の物語に傷がつく可能性があった。

 だから、アンデスはマティアスとは会うこともなく、学校関係者の視点でマティアスを見ているだけだった。


 学園の生活に関してはそれでも問題はなかった。しかし、賊に攫われてからの行動はエマの視点以外では見ることができなかった。

 しかも、エマはアジトに着いたところでマティアスと別れ、更に救出しにきた冒険者に眠らされたので、どうやってあの賊たちを冒険者が退けたかがわからずじまいであった。


 ソフィア・マンティスの元には町の小悪党の他に裏で名を連ねた者もいて、更にはマンティス家が誇る暗躍部隊すら動かしていた。腕利きの冒険者とて簡単に勝てる相手ではない。

 エマが眠らされてからはマルクトに視点を変えたが、到着する頃にはすべて終わっており、どちみち二人からの視点では、事の顛末を見ることができなかった。

 一体どうやって暗躍部隊を倒したか、そしてマティアスはどうやって乗り切ったのか、全てわからないまま終わってしまったのだ。


「こんな事なら、こんなことなら多少のリスクを負ってでもマティアス・カルタスと接触するべきだったかしら?」


 そう考え始めるとアンデスは満足していたこの結末に徐々に物足りなさを感じ始める。


「続きが欲しい……」


 アンデスは静寂が漂う部屋で横になりながらポツリとつぶやく。


「何年もかけて作った計画なんですもの、これで終わらせるのは惜しいわ、新しい令嬢でも嗾けてみようかしら?それとも令息?でもあの侯爵令嬢に勝る様な相手はもう他には――」


 と、考えたところで、アンデスの呟きがピタリと止まる。


「……そうだ、一人いるじゃない!」


 アンデスはなにかを思いつくと、勢い起き上がり手を合わせて軽く音を鳴らす。

 そしてそのまま立ち上がり、出入り口に向かって歩き出す。


「クラスト、出かけるからすぐ馬車の準備をして。」

「どこへですか?」

「お父様の所へよ。」


 それだけ告げると、アンデスは扉の前に控えていた護衛騎士のクラストを追い抜き足取りを早くして寮の外へと歩いていく。


「さあ、次が本当の最終章よ、()()()()()でこの物語の最高の終幕(フィナーレ)を飾りましょう」

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