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ギルドの情報②

 ゼビウスが合図を出すと暗躍部隊の隊員達は一斉に動き出し、十人でリアム・ノーマと彼女が守るエマ・エブラート及び仲間たちを取り囲む。


 暗躍部隊は諜報や暗殺がメインではあるが、正面からの戦いが不得意と言う訳ではない。

 この部隊は孤児や奴隷などで集めてきた有望な子供たちをゼビウスが自ら鍛え上げ編成した部隊であり、一人一人がソロでもA級冒険者並みの実力を持っている。

 更に幼い頃から行ってきた洗脳教育によって死をも恐れない部隊となっている。


 今戦闘に出ている十人は剣術、魔法、そして弓術を得意とした隊員達で背後にはまだ、別分野を得意とする五人の隊員がいる。

 皆、顔を隠し言葉も発することなく、更に同じ格好、同じ動きをしているので、戦闘中に人数が一人や二人増減したところで気づくのは難しい。

 つまり、隊員が隊員に紛れることで、真正面からのぶつかり合いでも忍ぶ事も、暗殺する事もできると言う事になる。


 まさに自らが育て上げた最強の暗躍部隊でその実力は、国の騎士団やS級冒険者にも匹敵するとゼビウスは自負していた。

 ただ、だからと言って油断するつもりはない、今交戦中のリアム・ノーマはそれだけの剣士である。


 ゼビウスがリアムと出会ったのは四年前、主人であるマンティス侯爵が自分の派閥である男爵と違法薬物の取引をしていた時で、リアムはその取引現場に今の様にに仲間と共に襲撃してきた。


 当時の彼女は『フリーリミット』と言うS級冒険者の一人で、そのパーティーはリーダーである第一王子のリチャードを初めとする、メンバー全員が特殊な経歴で構成されたパーティーだった。


 ドラゴンスレイヤーとして知られるノーマの血を引くリアムもその一人で、彼女はその戦いで男爵が飼っていた、ワイバーン数体をたった一人で倒していた。


 ゼビウス達は、マンティスをその場から連れだすため戦闘には参加していないが、その戦いだけは見ており、それ以降そのパーティー全員を危険人物と認識して彼らが解散するまでの間、調査と監視を続けていた。

 その後、パーティーは解散し、リアムも冒険者を引退したのでもう関わる機会はないと思われたが、今こうして対峙してその時の情報が生かされる事となった。


 五人の隊員が四方八方から斬りかかり、残りの五人が遠くからリアムやその仲間に向かって魔法や弓を放つ。しかし、リアムは下段に構えた剣でそれを目にも見えぬ速さで捌き、弾き、そして防ぎ、後ろの仲間とエマ・エブラートを守りながら戦っている。

 その動きは最早曲芸と呼べよう。


 常に受け身状態なので、反撃は少なくこちらへの被害は殆どないが、自分の育てたこの自慢の精鋭部隊を相手に守りながら戦うリアムにゼビウスは渋い顔を見せる。


 ――十人では難しいか、なら……


 ゼビウスが再び合図を出すと、どこからか現れた二人の隊員がそ絶妙なタイミングで戦闘に乱入する。

 その二人は部隊で最も速い二人で、普段は主に伝令や囮の役目として使われており、この場では撹乱の役割として投入する。


「……二人、増えましたか」


 流石と言うべきか、リアムは混じった隊員の存在にすぐに気づく。

 だが、二人混じった事で捌ききれなくなり、少しではあるが向こうにも傷が付き始める。


「スリープ!」


 部下の三人が睡眠魔法を唱えると、リアムは防御魔法で防ぐが完全に防ぐことはできず、後ろのエマ達は全員眠ってしまう。


「流石に今のままじゃ分が悪いわね……」


 そう呟くとリアムは、手は止めずに小さく唸りをあげ始めると、体を包んでいたドラレインのマナが大きくなる。

 すると、そのマナがグニャリと変型を始め、やがて二頭のドラゴンの頭の形に変わっていく。


 ――これがドラレインの力か。


 ノーマの一族が持つ特殊なマナ『ドラレイン』

 昔調べた情報によれば、これにはドラゴンへの攻撃が通ずる以外にもう一つ特質な能力がある、それは死んだドラゴンのマナを吸収し、そのドラゴンの力を使える事ようになる事だ。

 更にこの力は相伝の力でもあり、ドラゴンの力を吸収した者の子孫にもその力が受け継がれる事になる。

 それこそノーマ一族が強い理由でもある。

 無論、中にはマナが少なかったり才能に驕り能力を発揮できなかった者たちもいるようだが……


 ただ、このリアム・ノーマはその中でも最もドラゴンを殺してきた本家の血筋を持つ人間であり、更に彼女自身神童と呼ばれていた剣士である。

 その強さは現ノーマ侯爵家当主アグニス・ノーマにも匹敵するだろう。

 二頭のドラゴンの首がリアムの背中から伸びてきて、まるで意思を持っているように部下たちに襲い掛かる。


 これによってゼビウスたちは先ほどよりも戦況が悪くなってしまった。

 だが、それと同時に勝機も出てくる、調査した時の情報によれば、この力はマナの消費が激しく更に集中力を切らせばその力に飲まれるというリスクもある。

 つまり、少しでも隙を作れば一気に崩れるという事だ。


 ――全員で打って出るか。


 ゼビウスが合図をして最後の三人も動き出す、最後はこの部隊の中でも暗殺を得意とする者たちだ。

 現状リアムは十二人を相手にするのが手一杯で、こちらにまで目が行き届いていない。

 なのでこちらの存在に気づく前に殺す。


 だが狙いはリアムではなく、その後ろにいるエマ・エブラートと仲間たちだ。

 そして仲間を殺した時に出来るであろう動揺と一瞬の隙をついて、ゼビウス自らがこの猛毒の塗られた短剣でリアムの首を狙う。


 十二人が作戦の意図を理解し、リアムへの注意を惹きつける。そのせいで何人かが斬られたがその代り、リアムは天井を移動して仲間に近づく三人の存在に気づいていない。

 そして三人がエマ・エブラートの真上に着くと、持っていた剣の刃を下に向け一気に急降下する。

 音もたてずに落下した三人はそのまま仲間たちの頭を目掛けて刃を降ろした。

 ……だが、その刃が届く直前で、三人は破裂した。


 ――……破裂?


「あら、これだけの人数では流石に手が回らなかったようね?」


 何が起こったのかわからずゼビウスが呆然としてる中、ローブを着ていた冒険者がフードを外して姿を現す。

 フードの中から出てきたのは綺麗な緑色の髪をした美しい女性だった。


「ハァ、ハァ……え⁉あ、す、すみません、お姉さま。」

「構わないわ、これで全員みたいだしね。」


 緑色の髪をした女は指を差しながらこちらの人数を再度確認する、どうやら向こうはこちらの情報を持っていたようだが、こんな無名の冒険者達に腕の立つ情報屋の伝があるのだろうか?


 だがそれと同時にある疑問も浮かんだ。

 確かギルドの情報では『つるはしの旅団』と言う冒険者は男四人、女一人だったはず。

 これは聞いたのではなく、ギルドからこのパーティーの資料を盗み得た情報だ、本人達がギルドに偽っていない限り間違いないだろう。

 だが、今見えてるのは男三人と、リアム・ノーマで女性が一人。


 ――……では?そこにいる女は何者なんだ?


 先ほどリアムが姉と呼んだが以前調べた情報では、リアムに姉はいなかったはず。

 そう考えていると女と眼が合い、女はゼビウスを見て色っぽく微笑む。

 しかしそれを見た瞬間、感じたことのない悪寒が全身を襲った。


「ふふ、さて、では狩りを始めましょう。」


 そう言いながら、女はローブを脱ぎ捨てると、その中からは蜥蜴の様な尾と、黒い鱗で覆われた素肌が露になった。

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