鎧の剣士
「な、なんだこいつらは⁉一体どこから――」
「へ、誰でもかまわねえ、やっちまうぞ!」
「ヒヒ、いい男もいるじゃねえか、あの男もらっていいか?」
「なんでもいい、とにかくぶっ殺せ!」
物陰から突如現れた冒険者たちの襲撃に、雇った悪党達が戦闘態勢に入ると、そのまま戦闘が始まる。
ゼビウス率いるマンティス家の暗躍部隊は、その戦いに加わることなく、ただ息を潜めて冒険者達の動きを観察していた。
見た限りつるはしの旅団と言う冒険者は、全体的に言えば大した事はない。
メンバーは五人だが、大柄な男と鎧に身を包んだ剣士が前線に立ち、他三人はアイテムやスキルで後方支援に徹しているので、実質二人で戦っているようなものだった。そして大柄な男もそこまで強いわけではない。
しかし……
――……強いな。
ただその中で、鎧の剣士は特段に強かった。全身を鎧で包んでいることで、向こうの攻撃を物ともせず、自分の背丈と同等の長さの大剣を振り回し、一振りで何人もの相手を薙ぎ払う。
そして鑑定スキルを持っていると思われる狐目の男が、実力のある相手にその鎧の剣士をぶつけるように指示を出している。
その甲斐もあって、冒険者たちは数も実力も勝っている悪党たちを次々と倒していく。
確かに、この強さならあの令嬢が依頼するだけのことはあったということだ。
だが、それと同時にD級である理由もわかった。
鎧を着た剣士は、武器も防具も体に合っていないのか、動きに無駄が多く雑なところがある。
その動きを見るに恐らく鎧の中の人間は小柄なのだろう。
何故鎧を着ているのかわからないが、体の小さい者が見栄を張って大きい武具を使う事は、決して珍しい事ではない。
更にこのパーティーは鎧の剣士以外が大したことのないので、D級の評価は妥当と言える。
もし、自分に見合った武具を使い、強いパーティー、もしくはソロでいればA級以上にはなれただろう。
……と言っても、それはあくまで冒険者としての話。
全員で挑めばS級モンスターであるベヒーモスすらたやすく葬れる、ゼビウス達からすればどっちにしろ取るに足らない相手である。
「ルース、今のうちのお嬢さんを助けるっス!」
「ああ、わかった。」
――少々不味いか。
ジェットやバラスクといった主力と言える者達が向こうに行ってしまった事もあって、悪党達は苦戦している。
このままでは救出されてしまうのも時間の問題だ。
――作戦変更だ、速やかに排除しろ
ゼビウスが声を発さずに呟くと、口の動きを読んだ部下たちが迅速に動き出す。
「さあ、お嬢さんこちらへ。」
「え、えーとあなた方は?」
「俺達はつるはしの旅団と言って、ティ……じゃなかった、えーと……そう!マティアスに依頼された冒険者だ。」
「マティアスお姉さまに?」
「ブッ!お、お姉様って。」
「マーカス、笑ってる場合じゃない、早く連れて行くぞ。」
若い男がエマ・エブラートの手を引き外へ連れ出そうとすると、二人に向かって部下の一人がまるで影の様に音を立てずに近づき始める。
「そ、それなら先にお姉さまを助けてください!奥の部屋へと連れていかれたんです!」
「ああ、勿論助けるよ、だがまずは君の安全を……」
そして二人に気づかれぬまま背後に回ると、一気に距離を詰めエマ・エブラートの背中に向かって剣を抜き、斬りかかる。
……だがその刃は届くことなく、間に入ってきた剣によって受け止められる。
「な⁉」
「え?」
剣がぶつかり合った音で、初めて背後の部下の存在に気づいた二人が戸惑う中、剣を受け止めた者は持っている剣を大きく横に振り、部下を二人から遠ざけた。
そこにいたのは、一人の女性だった。
「な⁉こいつ、いつの間に……」
「というか女だったのか。」
声の方に目を向けると、そこには先ほどまで戦っていた剣士の鎧が脱ぎ捨てられていた。
「……成程、だから鎧を着ていたのか。」
ゼビウスは鎧を着ていた人間の素顔を見て納得した後、近くにいた賊の一人の心臓に短剣を投げ放つ。
「ゴハァッ⁉︎……な、なんで……?」
「貴様らは元々消えてもらう予定だったのだ、出なければ貴様らの様な下劣な輩を高貴なマンティス家が雇う訳ないだろう。」
短剣を刺された男がそのままバタリと倒れると、何が起こっているかわからないという状態で呆然としている他の悪党達を、ゼビウス及び暗躍部隊は瞬く間に処理していった。
「さて……」
そして、全員の処理が終わると今度はツルハシの旅団の方を見る。
「悪いが君達は、そちらのお嬢さん共々こ奴らとの戦闘で死んだことにさせてもらう。」
「……皆さんは下がっていてください。エッジさんも」
「お、おう。」
鎧から出てきた女が仲間たちを後ろに下がらせると、女は先ほどとの大剣とは違い、ごく普通の片手剣を下段に構える。
「その構え、やはり貴様はリアム・ノーマだな。」
「やはり覚えていたのですね。」
リアム・ノーマは四年程前に一度任務で小競り合いをしたことがあった。
あの時は、『フリーリミット』とか言うS級パーティーだったが、何故D級パーティーに入っているのかは謎である。
「お前ら知り合いなのか?」
「……数年前に一度、対峙したことがある程度です。」
「カザールの町で受付嬢をしていたが一年ほど前に行方を眩ませたと聞いていたが、姿を隠して無名の冒険者パーティーに入っているという事はのは何かの任務か?」
「答える義理はありませんね」
「フッまあいい、どうせ死ぬのだ。」
ゼビウスがそう言うと、部下達が一斉に動き出し、あっという間に冒険者たちを取り囲む。
「十人……結構な数だが大丈夫か?」
「……ええ、この程度の数なら問題ありません。」
そう言うとリアム・ノーマは小さく深呼吸をすると気合を入れるように「フッ」と声を発し、体を淡い紫の色のマナで包み込む。
「ほう、それがノーマの持つ『ドラレイン』か。面白い……」
ゼビウスが手を挙げると、それを合図に部下たちがリアム・ノーマを排除するために一斉に動き出した。