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ギルドの情報①

 バラスクが魔剣に操られて暴れる様子を、俺は近くにあった椅子に座り足を組みながら優雅に観戦する。

 奇声のような笑い声を上げながらバラスクは、仲間の奴らを無差別にどんどん斬りつけていく。しかし、向こうにはマンティスに雇われた手練れもおり簡単にはやられず、バラスクを止めようと複数人で連携を取りながらなんとか応戦している。

 だが、魔剣に操られ自我のないバラスクは傷などはものともせずに攻撃を続け、男達は血飛沫をあげて斬り捨てられていく。


「……そう言えばエマの方は大丈夫だろうか?」


 一応予定では既にツルハシの旅団が潜んでいて、タイミングを見計らって突撃する手はずだが、今は連絡を取る手段がないため、少し心配な面もある。

 まあそこは信じるしかないだろう、今は()()()もいるしな。


「ハハハ、血ダ!血をもッとヨコセ!」

「そろそろだな。」


 散々暴れまわったバラスク、(もとい)魔剣ヴェノムはもう周囲に立っている奴がいなくなると、転がっている死体に何度も剣を突き刺して血を吸おうとしている。バラスク自身もあちこちに剣が突き刺さった状態で、もう長くは持たなさそうだ。

 魔剣を回収しようと俺も動き始めるが、次の瞬間、バラスクの首が勢いよく刎ねられて宙へと舞い上がった。


「……血の匂いを嗅ぎつけて来てみれば、これは一体どういう状況だ?」


 頭がなくなり肉塊となったバラスクの体が音を立てて倒れると、その向こう側には巨大な包丁のような形の剣を持つジェットの姿が見えた。

 ジェットはあちこちに散らばる死体を見回した後、血まみれの部屋で一人椅子座って寛いでいる俺に目を向ける。


「……裸体ではいるが、襲われたにしてはずいぶん余裕そうだな、これは貴様の仕業か?」

「さあて、何のことやら?」


 ジェットは白々しい態度ですっとぼける俺を見た後、死後も魔剣を手放さずにいるバラスクに目を移す。


「これに取り憑かれたのか、これほどの禍々しい剣、触れればただでは済まない事くらいわかるだろうに。」


 それに関しては同感だな。

 ジェットが魔剣をじっと見てると、やがて剣は霧に変わりそのまま俺の元へやってくると、やがて腕へと変化してくっつく


「なるほど、飼い主はお前だったか。」


 俺は戻った腕で、もう片方の腕についたままの拘束具も外すと、後ろへ放り投げゆっくりと腰を上げる。


「……依頼主には、自分達が確認するまで殺すなと言われていたが、そんな悠長なことも言ってられんようだ。」


 ジェットは立ち上がった俺を警戒して剣を構えると、その殺気に当てられたのか魔剣が再び剣へと変わる。


「普通の賊には見えないな、元冒険者か、殺し屋とかか?」

「元傭兵だ、以前所属していた団が壊滅したのでな、今は生き残った仲間と共にフリーで適当に仕事は受けている。」


 なるほど、傭兵か。

 傭兵は冒険者と似たようなものだが、戦争、護衛、討伐といった戦闘が主な仕事となっているいわば戦闘のプロのみたいなもんだ。

 ただ冒険者のようなパーティーやギルドと言った物はないので組織の仕組みとしては、うちと似た様なところがある。


「そうか、なら俺に雇われる気はないか?」

「悪いが一つの仕事が終わるまで他の仕事は受けない主義でな。今は令嬢二人を攫って殺すまでが任務だ。」

「それは殊勝な心がけだ。」


 任務中の仕事を優先し、依頼主の名前も出そうとしない、俺を運んできた連中とは違い優秀だな。

 ……一筋縄ではいかなさそうだ。


 俺は血を吸って高揚している魔剣を鎮める様に軽く振ると、そのまま剣先をジェットに向ける。


「悪いが、お嬢様ごっこはもう終わりだ。」

「それは良かった、やはり仕事と言えど無抵抗の女子供を殺すのは気が滅入るのでな、心置きなく殺せそうだ。」


 向こうの笑みに釣られる形で俺も笑うと、そのまま地面を蹴りジェットの方へと突っ込んでいく。

 ジェットは俺の初めの一振りを難なく躱すと、そのまま剣を振り下ろし反撃してくる。

 俺はそれを魔剣で迎え撃つと、剣と剣がぶつかり合う音が血まみれの部屋に響き渡った。


 ――


 バラスクたちがマティアス・カルタスを連れて奥へと消えていった後、この部屋には一人残され不安そうに奥へ続く扉を見つめるエマ・エブラートの他、バラスクについて行かなかった賊たちが残っていた。

 依頼を忠実にこなしエマを監視する傭兵に、少し変わった性癖で女に興味が持てなかった男、そして空気を読んでついていけなかった哀れな賊たち。

 そしてそんな者達をゼビウス率いるマンティス家の暗躍部隊は文字通り影となって監視していた。


「向こうの動きはどうだ?」

「今のところ特にありません。」

「ふむ……」


 ゼビウスが、今の状況を振り返り考え込む。

 竜王会と関係があると睨んでいたマティアス・カルタスはバラスクに奥の部屋へと連れて行かれたが、未だ竜王会は姿を見せる様子はない。


 ――やはりただの監視だったのか?


 ここまで来るとそう判断せざる負えない。


「それより例の冒険者は、どうしますか?」

「放っておけ、どうせ出てきたところで何もできはしないだろう。」


 現在この場所には、自分達の他、マティアスが雇ったとされるDランクの冒険者が潜り込み物陰から様子を窺っている。

 向こうはただの人攫いだと思っているようだが、ここにいるのはディンゴファミリーの他に自分たちが雇った傭兵や賞金首、そして元高ランクの冒険者もいる。

 だだ、消えても構わないようにと質の悪いのを選んだ事もあって、殆どはバラスクについて行ったようだが、それでもたかがDランク冒険者相手なら残った者達でも十分に対処できるだろう。

 それにむしろ争ってくれた方が、今後の()()もし易くなると言うものだ。


 ゼビウスたちが暫く様子を見ていると、冒険者達が動き出す。

 リーダーとみられる若い剣士がまず初めに飛び出すと、他のメンバーもそれに続いて飛び出す。


 メンバーはあらかじめギルドで得ていた情報通りの構成で、若い剣士を筆頭に狐目の男と大柄な男、そして全身鎧で身を包んだ者に、白いローブで顔を隠した魔術師らしき人物の五人パーティーだった。


 物陰から飛び出した五人はリーダーの男の号令により武器を取り出すと、賊たちに向かって突撃していき、この部屋でも戦いが始まった。



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