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フラグ②

 俺はバラスクを先頭にした集団に囲まれながらこの建物の中を歩いていく。

 この場所は元々人身売買などに使われていたのか、通り道にはいくつもの牢獄が用意されていた。

 ただ、中を見るに最近まで使われてた形跡はない。


 恐らくだが、元々使っていた奴等が捕まったか討伐されたかで使用されなくなった場所をこいつらが再利用しているのだろう。

 その中の牢獄の一つにこの一件で攫われたと思われる女性たちが、霰もない姿で閉じ込められているのが見えた。女性達は俺達の方を見ると、男達を恨めしそうに見たり、俺に憐れみの視線を向けたりしていた。

 そんな視線を通って俺は更に奥へと連行されていく。


 そして連れてこられたのは、いくつかの椅子とテーブルが散らばるように置かれた殺風景な部屋で、その部屋に着くと俺は部屋の奥へ突き飛ばされ、出入り口から遠ざけられる。

 後ろを振り向けば男たちがバラスクを中心に横に並んで、完全に退路を断っていた。


「へへへ、じゃあ早速始めるとするか。よぉし、まずは服を脱がせろ」


 バラスクが置かれた椅子の一つに座り指示すると、ディンゴが俺の元へと近づいてくる。


「わざわざ脱がさなくても、そんなに見たければいくらでも見せてあげるわ。」


 いくら男とは言え、赤の他人に体を触れられるのは気持ちが悪い。

 俺は片腕を魔剣に戻して拘束具を外し、拘束具がついたままのもう片方の手で自ら着ていた制服を脱ぎ捨てる。

 するとその場からはちょっとした歓声が上がる。


「ヒュー、なかなか豪快じゃねえか。」

「胸は少し控えめだが、体つきは悪くねえ」

「ところどころ傷跡のような物も見えるが、スラム出身なら仕方ねえか。」

「顔に傷がねえのが幸いだな。」


 裸見ただけでガキみたいに騒ぎやがって……

 首飾りで変化した俺の偽りの裸体を見て、それぞれが感想を口にしているのが少し滑稽だが、ここまでしてバレないのは首飾り様様と言ったところか。


「俺はもう少し恥じらいとか怯える姿が見たいんだがな、ここまで堂々とされるとつまらねえぜ。」

「ガハハハ、何言ってやがる、そう言うのはこれからだろ?」

「……ん?おい待て。なんでこいつ拘束具が、それにいつの間に腰に剣が……」


 男達が騒ぎ立てる中、冷静な男が一人そこに気づくと、俺はすかさず魔剣で目の前のディンゴを斬りつけた。


「ギャァ!」

「な⁉︎テメエ」


 そこでようやく状況を理解したバラスクが立ち上がり、男達も慌てて武器を手にとる。


「……そ、その剣にその腕、見覚えがある。まさか⁉て、てめぇ!ティア・マットか⁉︎」

「へえ、やっぱ覚えてたんだな。お前は確か影無き蛇の副団長だっけ?」


 こうなった以上隠す必要もないと口調も元に戻し俺が名前を肯定すると、さっきまで歓声をあげてた男達の声が一気にどよめきに変わっていく。


「まさかてめえ、女だったとは……」

「……」

「ぐぇ!」


 八つ当たりも兼ねて蹲っていたディンゴを集団に向けて蹴り飛ばすと、俺は次にバラスクの方に魔剣を向ける。

 ここ暫く平和な学園生活で、こいつに餌をやってなかったからな、この狂剣は心なしかいつも以上に禍々しいオーラを放っており、安易に触れればただでは済まないのが見て取るようにわかる


「あの抗争の時は見かけなかったが、いち早く逃げだしたんだったか?」

「そ、それは……」

「おい、バラスク!どう言う事だよ!」

「ティ、ティアマットっていったらあの『竜王会』のトップじゃねえか!」

「おいおい、どうすんだよ!そんなやべぇやつがいるとか聞いてねえぞ?」

「う、うるせえ!狼狽えんじゃねえ!」


 動揺する男たちを怒鳴り声で一蹴すると、静まったところでバラスクがニヤリと笑みをみせる。


「なるほど、女の格好だと舐められるから男の格好をしていたのか。確かに俺はあの戦いの時逃げ出した。だがそれは、あの場にいたブラッディラビット達であってお前相手じゃねえ。それにおめえら、こいつは無能なんだぜ?」


 その言葉に再びどよめきが起こる。


「あ、あのティアマットが無能だと?」

「しかし、コイツはあのアルビン・ヴィクスンを飼い慣らしてる奴だぜ?」

「それにてめえんとこのリーダーもこいつに殺されたんじゃなかったかよ?」

「ハッ、そんなの、奴の持っているその魔剣の力に決まってる!」


 そう言ってバラスクが禍々しいオーラを放っている魔剣を指さす。

 まあ間違ってはいないな。こいつを手にしてからは随分と、楽をさせてもらってる。


「だったらどうする?」

「こうするのさ、スティール!」

「⁉」


 バラスクが何か呪文のようなものを唱えたかと思うと、俺の手から魔剣が消え、そしていつの間にかバラスクの手に渡っていた。


「へへへ、油断したな。俺だって伊達にあの影なき蛇で副団長をやっていた男じゃねえんだぜ?」


 こいつ……

 バラスクがしてやったりと言わんばかりの笑みを浮かべ、俺から盗み取った魔剣を軽く振り回して手応えを確かめる。


「おお、こいつはすげぇ……手に取った瞬間力がみなぎってきやがる。これならあの聖騎士団にも勝てそうだぜ。」

「……おい待て」

「こんな代物を無能なんかが持っているなんて勿体ねえ!これは俺が大事に扱って――」


 ……遅かったか。

 俺は慌てて止めようとバラスクに呼び掛けたが、どうやら()()()のようだった。


「ハハハ、やるじゃねええかバラスク。じゃあここからはお楽しみタイムの続きと行こうぜ。」

「……」

「バラスク?」

「……コセ……」

「へ?」

「血ヲ……ヨコセエ!」

「ギャァァァァァァ⁉」


 ……影なき蛇には阿呆しかいないのか?



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