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フラグ①

 小屋の外から聞こえて来た鳥の囀りに目を覚ますと、俺は眼を開けゆっくり体を起こす。

 外が見えないこの小屋の中では時間帯は分からないが、扉の隙間から薄っすらと光が漏れているのを見るにどうやら日は昇りきっているようだ。


 俺の隣ではエマが今も眠っている。ただ眠りが浅かったのか俺が少し動いたのに反応して目を覚ました。


「あ、お姉さま、おはようございます。」

「おはよう……」


 初めこそ、眠たそうな顔をしながらぼんやりと挨拶してきたエマだったが、徐々に現状を思い出して来たのか、目を見開いていく。


「……夢じゃなかったのですね。」

「残念ながらね……」


 そう返事を返すと、エマが顔を顰めながら項垂れる。

 だがエマは何かを振り払うように首を横に振った後、勢いよく顔を上げると、先ほどとは打って変わった凛々しい顔つきで、真っ直ぐこちらを見つめてきた。


「……お姉さま、こんな時に言うのもなんですが、私帰ったらマルクト様に自分の想いを伝えようと思います。」

「そう、決心がついたのね。」

「……はい、昨日あれからずっと考えていました。マルクト様とどうあるべきかを、そして考えているうちに気づいたんです。こんな現状になってもまだ諦めきれない自分がいる事に。だからここから帰れたら、もう一度殿下と会ってちゃんと話したいと思います。」

「フッ、まるで死亡フラグね。」

「死亡……フラグ?」

「いえ、なんでもないわ」


 死亡フラグは俺が前世で読んでいた本にでてきた言葉で、その言葉を口にする登場人物はその先死ぬ展開が待ち受けていると言うものだ。

 もう前世に渡っての話だから内容こそ覚えていないが、確かその小説も異世界への転生が物語の始まりだったはずだ。

 あの時は俺が若者に流行っているという『らいとのべる』とやらに興味を示したのが嬉しかったのか、組の奴らが俺に色んなその系統の小説を勧めてきていた、お陰でこの世界に転生した時も簡単に受け入れられた。


 まあ、だが所詮は小説だ。死亡フラグが立とうが、エマはちゃんと王子の下に送り届けてやるつもりだ。


 それから暫くした後、遅れて目を覚ました賊たちが扉を開けて俺達を再び馬車に乗せた。

 走り始めた馬車の中では、男達により相変わらず下品な会話が繰り広げられている。

 そしてその話から察するに、どうやら俺たちはこいつらの隣町にある奴隷売買に使われているアジトに運ばれていると言う事だった。


 だが昨日と違って、決意を固めたエマは話が聞こえていても臆することなく、逃げ出す機会を伺っているのか真剣な目つきで周囲を警戒していた。そのちょっとした成長に俺も少し笑みがこぼれる。


 しかし残念ながら、馬車は小屋から休むことなく走り続け、そんな機会は訪れることなく目的地に到着したようだ。

 陽は完全に沈み切っており街の入り口の門は閉ざされているが、馬車は正規の門ではなく、街を囲う壁の裏に隠されていた穴から入って行った。


 エマも初めこそ頑張って耐えていたが、流石に二日も飲まず食わずでいたせいか、街に到着した頃にはかなり疲弊してぐったりしていた。


 穴は町のスラムへと続いており、俺達は馬車から降ろされると、二人してスラム街の一番大きな建物の中に連れていかれる。

 中には既に王都で出会った男たちの他、見知らぬ男たちも集まっていた。


「やっと来たか、待ちくたびれたぜ。」


 中に入ると開口一番にスキンヘッドの大男がそう言って笑う。

 こいつがバラスクだな、確かに言われてみれば見覚えのある顔だった。と言ってもこの世界じゃ珍しくない容姿で逆にリネットに言われなかったら気づかなかったレベルだ。


「おい、手は出してねえだろうな?ディンゴ。」

「だ、大丈夫だからそんな凄むなよバラスク。」


 バラスクの荒い問いかけに俺達を連れてきた奴の一人が返事をする、あまりに貫録がなかったから下っ端かと思っていたが、どうやらこいつが『ディンゴファミリー』のディンゴだったらしい。


「ほほう、なかなか別嬪じゃねえか。貴族の令嬢なんて中々抱けたもんじゃねえからな、じゃあ早速楽しむとするか。」


 下劣な笑い声を上げながら、バラスクが俺たちに一歩近づく。

 すると、そこで後ろに控えていたジェットが呼び止めた。


「おい待て。」

「……なんだあ?」


 その声にバラスクが振り返りジェットを睨む。


「依頼人の話では、確認するまで二人には手は出さない約束だったはずだぞ?」

「相変わらず頭のかてぇ野郎だなジェットは、別に殺すわけじゃねえんだからいいじゃねえか、それに向こうだって俺たちが大人しく待ってるなんて思っちゃいねえさ!」


 そう言ってジェットの言葉を無視して、バラスクは俺たち二人に近づいくと舐め回すように顔を覗く。


「流石貴族、どちらも綺麗な顔立ちしてやがる。二人一緒に相手をするのもいいが、さてどうするかな?」


 バラクスの顔が至近距離まで近づくと、流石にエマも恐怖を隠せないようだったので、俺がエマを庇うように二人の間に割り込む。


「なら私が相手をするわ。」

「お、お姉様⁉」

「エマは移動で疲れ切ってるみたいだし、きっと今やっても、あなた達を満足させられないわよ?」

「ふむ、確かにな。けど、お前一人で相手にできんのかよ?俺の他にも飢えてる奴らはいるんだぜ?」


 バラスクが親指で後ろを指すと、後ろには男達がニヤニヤと笑ってこっちを見ている。数はざっと二十人と言ったところか。


「フッ、問題ないわ。あなた達みたいなのが何人いたところで相手にならないわよ」

「へえ、言うじゃねえか。いいだろう、威勢のいい女は嫌いじゃねえからな、その減らず口がどこまでまだ待つか楽しみだぜ。おい、お前らもやりたい奴はついてこいよ。」


 バラスクの呼びかけにディンゴを含めた何人かが反応する、これじゃあ誰がリーダーかわかったもんじゃないな。

 俺はバラクスが率いる男達に連れられると、不安そうな顔を見せるエマを横目に奥の部屋へと消えていった。

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