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奴隷の帝王~無能な奴隷に転生した最強ヤクザの最底辺からの成り上がり~  作者: 三太華雄
一章 商人編

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交渉

「はぁ〜」


 目的のフォージャー商会の店までのいく途中、ジェームスが七度目のため息を吐く。

 

「いい加減腹を括ったらどうですかい?」

「いえ、わかってはいるんですけどね〜」


 と言いながらさらにため息が追加される。


 ……本当にわかっているのだろうか?


 歩き出してからまだものの数分程度でこの数だから往復したら三十くらいは行くか?

 などと、下らないことを考えながら隣を歩く。


 まあ、気持ちはわからなくもない、苦手な相手のところに行くのが嫌なのは表も裏の社会でも同じだ。


 フォージャー商会ねえ……

 俺は向かう前にエルザにから聞いたフォージャー商会の事について今一度おさらいする。


 フォージャー商会はこの町に拠点を持つ、この地域ではそれなりの規模の商会で、衣服や宝石と言った主に装飾品を取り扱っているらしい。

 この地域一帯にある街のあちこちに系列店をもち、商売関係者の中でもその顔は広く、この商会の主であるバン・フォージャーに嫌われたとかで圧力をかけられ、他の店と取引ができなくなり、潰れる店やこの地域で商売ができなくなる行商人も少なくはないとのこと。

 おかげで、このあたりで商売する奴らはこのバン・フォージャーという男に頭が上がらないという話だ。


 まあ、そんな話は前世の世界でも良くあった事だ、珍しい事ではない。

 俺も会長時代にシノギのやり方が気に食わないという個人的な感情で潰した下位団体もいくつかあったしな。


 そして、そのフォージャーはどういう男かというと、高慢、強欲、女好きという3拍子が揃ったなかなか()()性格をしているらしい。


 まあ、ここだけ聞けばあまり人間ができた男とは言えないが、大きな商会のトップだけあって仕事に関しては悪い噂は聞かないようだ。

 商談の際に自分の立場を大いに利用し横暴なこと言ってくるようだが、あくまで交渉内で収まるレベル、密輸や賄賂、人を使った威力妨害などと言った悪性な事は一切行わないようだ。

 まあ、そこらへんに関しては実際あってみないとわからないがな。


 自分達が店を開いていた場所から町の奥へと歩いていき、そしてジェームスが十三回目のため息が零れる頃、目的の場所に到着する。


「つ、着いた。」


 自分から足を運んでいるのに何故か見つかってしまったような困り果てた表情を見せる。


 ジェームスが俺の方を一度チラッと見る。

 まるで助けでも求められているように感じたが、俺は気づかない振りをする。

 すると、ジェームスは何も言うこともなく再び前を向くと、覚悟を決めて足取り重そうに店の中へと入って行く。

 

 弱音は吐かなかったか。


 最悪の場合は、俺一人で行ってやろうとも考えたが、まあ、それはいらぬ心配の様だ。

 とりあえず今は側にいて、いざとなればできる限り助け舟くらいは出してやるつもりだ。


 ジェームスの後について中に入ると、ジェームスは店の者に店主との取次ぎを頼んでいた。


 俺は待っている間にこの店の中を見て回る。

 話通り中では服や宝石と言ったものが並んでおり、高級なものが中心となった品ぞろえで価格は高いがその質は素人目の俺から見ても目を見張るものがある。


 商品の並びも見やすく、ピックアップされた品に関しては商品の横にわかりやすい特徴の書かれた解説文も記されてある。

 そして店を回っていくなかでふとあることに気づく。


「なあ。ちょっといいか?」

「はい、なんでしょう?、」


 俺は暇を持て余している一人の店員を呼び寄せる。


「この店の商品の仕入れは誰がしているんだ?」

「それはもちろん店主のバン様です、バン様はこの店の服の素材や宝石の仕入れから品の並びまで全てご自分でなさっているのです。」

「そうか、ならあんたから見て店主はどんな人間だ?」

「そうですね……正直申し上げにくい事ですが、あまりできた人ではありませんね。ただ、商売に関してはプライドを持っていらっしゃるので凄くこだわりの強い方ですね。」


……なるほどな。


 そうこうしている間に取り次ぎが終わったようで、俺とジェームスは店の奥の部屋へと案内される。


 ジェームスがノックをして部屋のドアを開けると、中には客の応接に使用していると思われるソファーの上になんとも人相の悪い小太りの男が偉そうに座っていた。


「お、お久しぶりです。フォージャーさん。」

「レクターか、久しいな、今日は奥方が見えないようだが?」

「は、はい。妻は別様で忙しく今日は代わりとしてこの子を連れてまいりました。」


 ジェームスに、紹介されると俺は頭を下げるが、フォージャーは明らかに興味なさそうに不機嫌そうな態度をとると話を進めた。


「あ、そ……じゃあ、さっさと持ってきた物を見せてもらおうか」

「は、はい、では早速こちらの方を……」


 ジェームスは緊張で体を小刻みに震わせながら、アイテムボックスから銀色の綺麗な毛皮を一つ取り出す。

 それをファージャーは手に取りながら値踏みをしていく。


「……これはシルバーファングの毛皮か、確かにこの地方では見ない魔物で珍しくはあるが生憎そこまで価値は――」


と言いかけたところで、フォージャーは何か気になった事があったのか毛皮の毛に念入りに触れる。


「いや、これはただのシルバーファングではないな?」

「はい、実はそれシルバーファングではありません。」

「なに?」

「それは北の地方に生息するモンスターの中でも珍しいプラチナファングという魔物の毛皮です。」

「ほう、プラチナファングとな?」


 その名前に食いつくと、フォージャーは更に念入りに質を確かめる。


「……確かに普通のシルバーファングよりも毛並みも綺麗で触り心地も良いな」

「はい、それは向こうでも手に入れるのが難しく私目は運よくそれを冒険者から十個ほど買い取ることができました。主な特徴としては――」


 興味を示したフォージャーの反応にジェームスも緊張が解れたのか、硬さが取れ始め丁寧に解説していく。

 こうなればジェームスはプロの商人となり、素人の俺が出る幕もない。

 おれはただ静かに二人の商談を見守っていた。


「成程な……流石はプラチナファングと言う名前だけあって、素晴らしい質ではあるな。これがあればいい服が作れそうだ。」

「ありがとうございます。」

「よし、ではこの毛皮を一つ一万ギルで買い取ろう。」

「……え?」


 和やかなムードで終わろうとしていた商談であったが、フォージャーの出した提示額を聞くと、ジェームスはの顔から一瞬笑顔がなくなる。


「どうした?」

「さ、さすがにその値段はちょっと……」


 ジェームスが言いにくそうに言葉を濁しながら異議を申し立てる。

 まあ、それはそうだろう。エルザの話では、その毛皮は冒険者から一万ギルで買ったものだ。

 それを一万ギルで売ったところで利益など出るはずもない、レクター夫妻の見立てでは市場で売れば最低でも一万八千ギルはくだらないとのこと。

 それをわざわざ遠くの地まで運んできて買値と同じ値段で売るなど、バカにもほどがある。


「なに?不服と申すのか?」

「ひ、ひぃ!」


 フォージャーが睨みつけると、ジェームスはいつもの様子に戻り、圧倒されている。


「レクターよ、お主は最近までおらんかったから知らんかもしれんがな、ここ最近この辺りでは商売競争が激化していてな、今のうちにワシに恩を売っておくのも悪くはないと思うぞ?」

「し、し、しかし、それでも、や、やはりその値段で売るのは流石に難しいです。」


 フォージャーが揺さぶりをかけるが、ジェームスは怯えつつもしっかりと自分の意見を言えている。

 やはり、エルザに言われた言葉が聞いていたのか店の前での事といい、ジェームスも少し成長したように見える。


「ふむ、そうか、ではこうしよう。その代わりにお前の奥方を一晩貸してくれ、そうすれば買値の倍の金額で買い取ってやろう」

「えぇ⁉」


 その要望にジェームスは悲鳴のような驚きの声をあげる。

 女性を一晩貸すというのは、恐らく()()()()()事だろう。


 さすがのジェームスもその意味を分かっているらしく、容易には頷けないでいる。


「そういえば、話によればお前さんには年頃の娘もいたと聞く、もし親子で貸してくれれば買値の三倍の金額で買ってやってもいいぞ?」


 そう言ってフォージャーは下品な笑い声をあげる。

 

 どの条件でもフォージャーは得をし、ジェームスは何かを失う。

 ジェームスも分かっているようで一体どうすればわからずただ青ざめて固まっていた。

 こうなっては、もう駄目だろうな。俺は二人の間に割って入る。


「あの、すいやせんが、ちょっとよろしいですかい?」

「ん、なんだ貴様?」

「私はこのレクターさんのところで商人になるための修行を受けているティアという者です。」


 さっき自己紹介したんだけどな。


「あっそ、で?なんだ?」

「はい、実は先ほど勉強がてらフォージャーさんのお店の中を拝見させていただきやした、どの商品の品質も素晴らしく、流石はフォージャー商会だと思いました。そして聞けばなんでも物の仕入れは全て主であるフォージャー様が選んでいると聞いて私は更に感服いたしました。」

「ほう、貴様なかなか見どころがあるではないか。」


 俺のお立てにフォージャーは満更でもない顔でニンマリと笑う。


「それで一つお聞きしたいのですが……このプラチナファングの毛皮、本当にその程度の値段の代物と思いますかい?」


 その問いにその言葉で機嫌よくしていたフォージャーの顔色は一気に険しくなる。


「俺からしてみればそれは倍くらいの値段でもおかしくないと思いますが?」


 そう質問すると、フォージャーは今にも怒鳴りそうな表情を見せるが、先ほどおだてたのが良かったのか、フォージャーは一度咳を挟んで、怒りを抑えると、偉ぶった口調で説明する。


「ふむ、確かに実際は貴様の言う通りもっと高値がついたであろう。しかし、この商売の世界は金だけが全てはない、時にはお互いの今後もより良い関係を築くために、相手の要望に答えて誠意を見せることも必要なのだよ。」

「誠意ですか……本来このプラチナファングの毛皮は希少で買い手も多く、市場で売れば引く手あまたでかなり言い値で売れたでしょう。しかし親父さんはそんな代物を真っ先にあんたに売り込んだ、それだけでも十分誠意を見せていることくらいあんたほどの人ならお気づきでしょう?」

「そ、それは……」

「しかし、あんたはそんな誠意の上から、更に無茶苦茶な要求を突きつけた。より良い関係というのは互いの利益を生み出すための関係だ、あんたにこの無茶な誠意に見合った分の利益を出せますかい?」


 そう問いただすと、フォージャーはムッとした表情のまま言葉を失う、そして今度は逆ギレをするように机を叩いて開き直る。


「だ、だったらなんだというのだ?嫌なら断ればいいだけの話ではないか!」

「ええ、俺もそうすればいいと思いますが、どうやら親父さんはあんたとのパイプが切れることにより今後の商売に影響が出るのを恐れてそれができないらしい。」

「フン、賢明な判断だな、実際私との関係が拗れればこの辺との取引まで影響が出るだろう。」

「ええ、しかしそれで困るのはお互い様じゃないですかね?」

「な……」

「あんた、上から物を言ってるが、親父さんに相当世話になっているでしょう?」


 向こうの言葉に怯まずひたすら攻め続ける

 今まで強気な姿勢を見せていたフォージャーの、顔に焦りが見え始めた。

もう一歩というところか……


「な、何をバカなことを。貴様らの代わりの商人などごまんといるわ!」

「そうですか……わかりやした、では親父さんには決められないようなので代わりに私が決めましょう、この話なかったことに。」

「え?テ、ティア君?」

「ま、待て!いいのか?そんな態度をとって、ワシが一声上げれば貴様らはもうこの地域で商売は出来なくなるのだぞ?」

「そんなもん、旅する行商人には大した脅しにはなりやせんよ。行きましょう。」


 そう言って、強引に話を切り上げると、戸惑うジェームスを連れて立ち上がり部屋の扉へと向かう。そしてドアノブに手をかけようとしたところで、後ろから声がかかる。


「ま、待て……わかった。ワシの負けだ。この毛皮は市場価格で買い取ろう。」

「え?ほ、本当ですか?」

「いえ、金額はそっちの提示額で結構ですよ。」

「えぇ⁉」

「ただ、この毛皮にどれくらいの価値が、あるかを、もう一度見直してほしいですね。お互いの()()()()()も踏まえて、ね……」


――


「はぁ……」


 これで27回目か。

 商談の終わった帰り道、ジェームスのため息がいよいよ大台に乗りかかるとこまでくる。


「商談も無事終えたのに一体いつまで、ため息ついてるんですか?」

「だ、だってまだ信じられないんですよ。まさかあの毛皮を一つ三万ギルで買い取ってもらえるなんて。も、もしこれで関係がこじれでもしたらと思うと気が気じゃなくなりそうで」


 まあ実際、店ではああいったがここらで取引ができなくなったら相当な打撃になるだろうな。

だがそれは相手も同じことだ。


 俺が店の中の品を見て回った時に気づいたのは、あの店の最大の特徴は種類の多さだった。

 ピックアップされた服の解説文に書いてあったのを読んだところ、主力となっているのは主に遠い地方から手に入れた素材で作ったものが多く、それは恐らく行商人から買い取っているものだろう。


 特にレクター一家はかなり遠くまで足を伸ばしているようなので向こうにとっても貴重な人材のはずだ。


 向こうはジェームスの性格を利用して良いように使っていたみたいだったが、実際強気に出られればこんなもんだ。

 と言っても、これもジェームスの気の弱すぎる性格が招いた結果だ。

 これに懲りてもう少し強気になってもらいたいもんだ。


「親父さん。これを機にもう少し自分に自信を持ってみたらどうですかい?今回の事もあんたがもう少し自信を持っていたら付け込まれる事もなかったはずですぜ?」

「はい、私もわかっているんです。しかし、もし私の行動で家族にもしものことがあったらと思うと、どうしても強くいえなくて……」


 全ては家族を思って……か……

 そう言われるとなんとも言えないな、貴族や奴隷なんてものがいる世界だ、自分の発言で相手を怒らせて家族が危険な間に合う事なんて珍しくないのかもしれない。


「そうですか……ならばせめて俺がいる間だけは安心してください。俺がいる間はあんた達家族にはどんな相手でも指一本触れさせません。」

「ティア君……ああ、ありがとう。」


 俺がこの家族といつまでも一緒にいるかはわからないが、せめてそれまでの間にこの人に強気になってもらわないとな。




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