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有言実行①

「ふんふふんふーふん♪」


 移動教室からの帰り道、リーシェは友人であるリースとエレラの二人と、上機嫌に廊下を歩いていた。

 自分の考えた作戦が見事にハマり、マティアス・カルタスが謹慎になったことからリーシェは下位貴族ながらマンティス家の派閥の中で一目置かれる存在になっていた。


 今回の一件でも十分評価を得たが、リーシェはまだこんなもので終わらせるつもりはない。

 リーシェは相手を貶め、自分の策略が上手くいくと、ここまで気持ちいいものなのかと言う、新しい快感に目覚め始めていた。


 今考えている次の標的は、エマ・エブラートで第三王子であるマルクトと親身にしている令嬢である。

 だが彼女は男爵令嬢という低い身分なだけあって、何をするにしてもマティアスよりも遥かに簡単だ。


 ――さて、次はどうしてやろうかしら?


 以前ビオラ・メフィスがやっていた様に、いびり倒すのもありだが、自分の友人達はお人好しばかりで、そのやり方はあまり印象が良くない。

 どうせならまた、マティアスの時みたいに貶めてやりたい。


 ――そういえばアイデンの令嬢がいい魔道具を持ってるって自慢してたわね、ならそれを盗んで彼女に罪をなすりつけようかしら?


 盗んだ道具は自分の懐に入れ、彼女が盗んだと周囲に擦り付ける、今の自分は悲劇のヒロインで信じてもらいやすい立場でもある。彼女へ疑惑を向ければそれで十分だ。

 そんなことを考えて過ごしていると、時間はあっという間に過ぎていき、放課後になる。

 そして、帰りの準備をし始めるが、ふと手を止める……。


「……あら?」

「どうかしたの?」

「私のネックレスが見当たらないの。」


 リーシェがカバンの中を探り、愛用のネックレスを探す。

 高等部への進学祝いに父親から買ってもらった自慢のネックレスで、それなりの価値がある。

 公の場で身に付けていると爵位の高い令嬢にあまりよく思われないので、普段は鞄の中に入れているのだが、いくら探しても見当たらなかった。


「それってカルタス嬢にこの前、盗まれてたってやつ?」

「……そう……ね。」

()()盗まれたんじゃないの?」

「まさかあ、あんな事件が起きた直後におんなじ物のを盗む人なんていないでしょう?」

「それもそうよねー」


 友人二人がそんなこと言いながら笑っているのを聞いて、リーシェも同意する。

 しかし何故か今の言葉に引っ掛かりを覚えていた。


 そして次の日……

 登校してきたリーシェが教室に入ると、なぜか自分の席付近に人だかりができていた。

 すぐに駆け付けると、リーシェの席には見慣れない文字や絵などが謎の赤い液体で落書きされていた。


「何これ……」

「酷いわね……血ではないみたいだけど、嫌がらせかしら?」

「何か妬みを買ったのかったとか?」


 今回の一件で同情する一方、嫉妬する者も少なからずいる。爵位が低い自分にこのような陰湿な嫌がらせをしてくる者がいてもおかしくはない。


「誰か犯行を見たものは?」


 周囲の人間に聞いても誰も知らないと首を振る。


 ――まあ、いいわ。どうせならこの際これも利用させてもらおう。


「そんな、せっかくマティアス先輩がいなくなったと思ったのに、また……どうして私ばかり!」


 などと泣き真似をすれば優しい友人二人が慰めてくれる、本当に馬鹿でお人好しの自慢の友人達だ。

 そしてその光景を見て、周囲もリーシェに同情する。


 しかし、さらに次の日……


「キャー!」

「リーシェ⁉︎」


 リーシェは悲鳴を上げながら中庭にある池へと飛び込んだ。

 幸い足がつく浅い池なので濡れるだけで済んだが、勢いよく顔から入ったこともあって全身がずぶ濡れになっている。


「リーシェ、大丈夫?」


 エレラの手を借り起き上がると、リーシェの悲鳴を聞いて少し離れていたリースも駆け寄ってくる。


「リーシェ、どうしたの⁉」

「わからないけど、池の近くを通ったら誰かに背中を押されて……」


 そう言って、周囲を見渡すが傍にはエレラしかいない。


 ――まさか、彼女がやったの?


 だがリーシェは即座にそれを否定する、エレラの家は中立派閥であり、中等部時代からの親友でもある。

 マティアスを嵌める時も真っ先に自分を信用してくれた、落とされる理由はない。

 それにエレラはリーシェが池に入った際、自分も池に入りながら手を差し伸べてくれた。

 わざわざ落とした張本人がそんな面倒なことをするとは思えない。


「わ、私は……お、押してないよ。」

「ええ、勿論私もそう思ってるわ」

「……」

「でもそれなら一体誰が……またこんなことを?」

「それは……」


 と言いかけたところで、今の言葉にリーシェは引っかかる。


「……また?」

「え?だってこれで二度目なんでしょ?前回はマティアス先輩に突き飛ばされたって。」

「⁉」


 ――……そうよ、リースの言うとおりだわ。今回だけじゃない、アクセサリーも落書きも池に落とされたって話も私がマティアスを断罪した時に話した内容と同じじゃない。

 全部適当に作った話だったから、忘れていたわ。


 となれば、やはりマティアスの関係者の仕業である可能性が高い。


 ――でも、誰が?


 何人か友人がいたらしいが、それが誰かなどは爵位が低く情報網が少ないリーシェは知らない。


 ――ならば、本人直接聞きに行ったほうがいいわね。


 そう考えると、リーシェは二人を置いて急いでマティアスの元へと向かった。


 ――


 女子寮に戻ると、リーシェはそのまま真っすぐマティアスの部屋へと向かい、そしてノックもせずに扉を開ける。

 そこには当然ながら謹慎しているマティアスの姿があり、暇そうにお茶を飲んでいた。


「あら、珍しい客ね。」

「マティアス先輩、あなたの仕業ですね?私のネックレスを盗んだり、机に落書きしたのは?」

「ええ、私よ。」


 リーシェが尋ねると意外にもマティアスはあっさりと罪を認めた。


「それが何か?」

「何がってあなた……」

「別にその事についてなら先に謝ったでしょ?ほら、先日皆んなの前で。」

「え?だってそれは……」

「それは、何?」


 マティアスに尋ねられると、リーシェはその言葉の先が出てこない。

 なぜならあの断罪はリーシェがでっち上げたものだったからだ。

 つまり、彼女の中では今回が初めてだという事だ。


「先日、私は今回の事について先に謝った、そしてあなたはそれを受け入れた。それだけの事よ……」


 ――狂ってる……


話を聞いたリーシェは唖然としている、無実の罪を着せられたら、普通は疑いを晴らそうとしたりするものだろう、だがこの女は逆でその罪を実行して事実にしようとしている。


 ――つ、つまり、この人は私が言った事を全て実行するというの?


 リーシェは同情の買うために、色んな悪評をばら撒いた、

 落書きや盗みなんて可愛いものだ、中には足を引っ掛けられた、花瓶を頭から落とされたなど、実害があったと言ったりもした。

 そして中でも酷いのと言えば……


『特に酷かったのは階段から突き落とされたことです、何とか運よくこの程度で済みましたが、一歩間違えれば死んでいたかもしれません。』


――……死んでいたかもしれません。


 先日言った言葉が甦るとリーシェの表情はみるみる青ざめる。


「こ、この前のことは謝まりますわ、だからこれ以上は――」

「今更謝られても、私は既に皆の前で頭下げたし、こうやって謹慎の罰も受けているから手遅れよ。」


 そう言うとマティアスは立ち上がり、硬直しているリーシェへ一歩一歩近づいてくる。


「……吐いた唾は飲ませねえよ。」


 ――ゾクリ


 囁くように言われたその言葉に、リーシェの背中に恐怖と悪寒が走り、リーシェは一目散に部屋から出ていった。

 

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