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偽装結婚①

 時は少し遡る。

 学園の騒動で抗議に来た生徒の親を追い返したマリスは、窓際にある仕事机の席に着くと、上に置かれた大量に置かれた資料を一つ手に取る。

 そこにはモンベルが厳選した、マリスへ縁談を申し込んできた貴族たちの資料が置いてあった。


「マリス様は非常に人気で、当主に就任してから縁談の申し込みが後を絶たず、整理するのが大変でした。」

「そう……」


 モンベルが得意げに言うが、マリス自身は特に嬉しいとは思っていない。

 殆どの相手が伯爵家の家柄が目的で、まだ若い女当主と言う事もあってあわよくば、自分が伯爵家の実権を握ろうと考えているだろう。


 ーーまあそれでも構わないけどね。


 口には出せない思惑があるのはこちらも同じ、マリスは淡々と候補の資料を読み漁る。

 縁談を持ち掛けてきているのは、やはり格下の成金貴族か、伯爵や侯爵家の次男以下が殆どだが、中には学生時代の友人達もいたりする。


「……見知った顔ぶれも多いわね。卒業してまだそんなに経ったわけじゃないのに昔の事のように感じるわ。」


 マリスが学園に通ってたのはおよそ一年前だが、卒業して家に戻った直後にあの悲劇が始まった。

 充実していた学園生活が霞むほどの内容が濃いこの一年のせいで、卒業したのがもう何十年も前に感じている。


「あら?エレラインもいるのね。」


 マリスが見覚えのある名前に少し笑みを浮かべる。エレライン・ルメールは伯爵貴族で、親同士の仲が良く、幼いころから親交があった。

 学生時代もよくつるんでいて生徒会長をしていた自分の補佐もしてくれていた青年だ。


「元々昔から婚約の話はあったようですが、コレア様はお嬢様に自由恋愛を楽しんでほしいという事で断っていたようです。」

「……本当、バカな人ね。」


 家の事を考えれば婚約するべきだったのにと優しかった父を思い出す。


「確かに、エレラインならよく知った人だし、家柄も申し分ないわね。」

「でしたら……」

「でも駄目よ。」

「何故です?エレライン様ならきっといい旦那様になると思いますが……」

「だってあの人、ルメール家の跡取りじゃない。」

「あ……」


 エレラインは、伯爵家の長男で次期当主である、自分が結婚相手に求めているのは婿入りであり、彼は該当しない。


「それに私が求めてるのはあくまで契約婚よ、だから一年後に離婚しやすい相手がいいわ……そう考えるとあの人は適さない。」


 マリスの知るエレラインは誠実で優しく、そして自分に好意を寄せていた。だからこそ、契約婚など持ち掛けたところで向こうは同意しないだろう。


 マリスはティアと手を組んだこの一年間で得た経験により、女性と言う性別を武器へと変えた。

 時には男を魅了し、時には男を油断させ、その首に噛みついてきた。

 そしてそれはこれから貴族界でのし上がるのにまだまだ必要な武器であり、結婚なんてものは足枷になる。

 いい旦那とかはどうでもいい、寧ろ関心を持たない旦那の方が動きやすくていいかもしれない。


 ――と言うより、私と結婚して家はどうするつもりなのかしら?


 疑問に思いつつもマリスは再び資料を読み進める。


「あら?この人……ビート・キャメロンじゃない。」


 そして再び見知った名前を見ると今度は険しい表情を浮かべた。


「キャメロン……あのキャメロン()()家の方ですか。」

「ええ、あのキャメロン()()よ。」


 キャメロン侯爵家は、かつてベンゼルダ王国の三大貴族の一つと呼ばれた公爵家であったが、数十年前にノイマンとの争いに敗れ、地位と名誉をどん底まで落としていた。

 何十年の時間をかけ、少しずつ力をつけ、今は何とか持ち直してきているが、もうノイマンに目をつけられないように昔ほど過激なことはしていない。

 ビート・キャメロンはそんな侯爵家の三男である。


「お知り合いでしたか?」

「学生時代の友達……というよりはいわばライバルね。成績の順位や会長選挙などで何度も争っていたわ。顔は良いけど何かといけ好かないくて食えない人だったわ。」


 ――しかし、意外ね、学生時代は成績や生徒会長の座を争ってずっといがみ合っていたのに、この男が縁談を持ち掛けてくるなんて……いや、意外でもないわね、目的のためなら何でもする男だもん、私の家を利用してのし上がろうと考えていてもおかしくないわ。


 当時はそんなキャメロンを嫌っていたが、いろんな経験をしてきた今はその考えが理解でき、昔ほど嫌悪感はない。


「でも、彼なら都合がいいかもね。お互いいがみ合ってた仲だから、離婚もしやすい。そう考えると悪くない相手ではあるわ。よし、じゃあキャメロンで話を進めて」

「了解しました、ではそのキャメロン家に返事を出しましょう。」


マリスはそう決めると、早速返事を書いてモンベルに渡す。


「さて、じゃあ次は向こうが納得できる契約を考えないとね。」


 マリスが向こうが納得しそうな内容を考えながら契約書を作り始める。

 そして手紙を出してから三日後、カルタス家の前に黒い馬車が止まり中からに礼服に身を包んだビート・キャメロンが降りてきた。




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