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『お花』

「それで、学園の方はどうだった?」


 エマとのデートも何事もなく終わり、部屋に戻ると、俺は三人のメイドからそれぞれ今日得た学園内の情報についての報告を聞く。


「え?あ、はい、そうですね……まず女子寮内ですが、特に大きな問題は起きていませんでしたね。ただ、相変わらずお嬢様の悪評が広まっています。」


 アメリが少し戸惑いを見せながら報告する。俺への悪評は例の騒動以降ずっと寮内で途絶えることなく広まっている。まあこれに関しては、特に気にはしていない。


「あ、そういえば、グスマンの令嬢が何やら動いてるみたいですね。」


 アメリの報告を聞いて、リネットが思い出したように話しだす。


「グスマンといえば、初めに絡んできた相手ね。」

「ええ、と言っても前回騒いでた姉のアーシェ・グスマンではなく、妹のリーシェ・グスマンの方ですが。でも悪評の主犯も今は彼女のようですし、近々何らかの動きがあるんじゃないでしょうか?」

「へえ、それはなかなか面白そうね。」


 高貴な女性達の嫌がらせというのは陰湿ながら割と計画的で、面白みがあるから、どんな事をしてくるか少し楽しみではある。


「「……」」

「それで、レイルの方は動きはあったの?」


 立ちながらウトウトしているレイルに尋ねると、レイルは目を擦りながら飄々した声で答える。


「んん-、ああそういえば。その関係者か分からないけど、部屋に何人か他のメイドが入ってきてたよ。」

「え⁈」


 その言葉に俺ではなくアメリが反応する。


「そんな、いつの間に……どうして捕えなかったのですか?」

「それは勿論面倒……ではなく、今の私はあくまでか弱いメイドだから。」


 取ってつけたような言い訳にアメリが呆れた顔を見せる、

 まあレイルが見逃したということは恐らく、素人の犯行だろう、となるとそのメイド達は先ほど言っていたグスマンの奴らか。


「捕まえた方が良かった?なら、今から行くけど?」

「いえ、問題ないわ。とりあえず、学園内での出来事はこんなところかしら?」

「はい……ですが。」

「あら、どうかした?」


 俺が尋ねると、何故かアメリとリネットは余計に顔をしかめる。


「いえ、別に……ただ、その口調になんだか慣れなくて……」


 その口調……と言うことは今の俺の()()()調()のことか。


「おかしいかしら?一応周囲の女子生徒の話し方を意識しながら話しているのだけど。」

「いえ、声も見みた目も全く違和感ないです……中身さえ知らなければ。」

「今まであんなに男として抵抗していた人が急に変わると少しね……。」


 面倒くせえ奴らだな、普通に話せばもっと女らしくと文句を言い、女性らしい言葉遣いで話せばそれはそれで文句を言う。


「私の中でマティアス・カルタスの存在価値が上がっただけよ。表ではマティアス、裏ではティア・マットを使い分けるためにも、この口調を馴染ませたいの、慣れたらあなたたちの前では素で話すようにするからとりあえず、暫くは我慢しなさい。」


 今はまだ口調の切り替えがうまくできないので、女性口調を徹底している。

 一度開き直れば、案外早く馴染んできた。ただ、怖いのは『ティア・マット』の時にこの口調が出てしまわないかだが。


「ま、その話は置いといて、それじゃあ次……()の方はどうだった?」


 女性の低い声色でそう尋ねると、それが合図のようにアメリを除いた二人のメイドが先程までとは打って変わって、真面目な顔つきになる。

 そして次はレイルが初めに口を開く。


「はい、まず今日の件ですが『友人』の話によると、今日『お花』を見ていたのは『二人』、一人は花のことをよく知っている方で、そしてもう一人は『お花』を狙っている方だという事です。」

「なら、『摘み』にきてたの?」

「いえ、話によれば動きからするに花を『摘む』と言うよりは『観察』が分野のようですね。恐らく、外に出たので見にきたのかと思われます。」

「なるほど……」


 レイルが隠語を使い、今日の俺達の後ろの動きについて報告する。

 要約すれば俺達をつけていたのは二つのグループで一つは知り合い、恐らく王子達で、もう一つは俺達を狙っている、いわゆるマンティス家の奴らという事だ。

 だが今日来ていたのは暗殺や戦闘を得意とする刺客と言うよりは、諜報がメインの奴らのようで恐らく外に出たことで監視目的でついてきたのだろう。


「ちなみに今回で、恐らくこちらの存在も気づかれたと思われます、いかがしますか?」

「そう、ならどこの者かもわかるように警告を入れておきなさい。」

「いいのですか?」

「ええ、ただし『花』とはあくまで無縁の関係の第三者としてね……。」


 最近話題となっている『竜王会』がマティアス・カルタスを監視していることで、向こうは別の勢力の存在を疑う事になり、ちょっとしたかく乱にもなるはずだ。


「では次に、私からですが……こちらが報告書になります。」


 そういうと、リネットは口頭での報告をせずに資料を渡してきて、俺はそれに目を通す。

 どうやら衛兵たちの調査書のようで、内容はここ数日前から王都で起こっている誘拐事件についてだった。

 資料によると。ここ最近王都で何人もの少女が行方不明になっているらしい。

 現在の被害者は主に路上で暮らす少女や貧困街の少女で、特徴として皆、金髪の小柄な女性や、青い髪や赤い眼をしている。

 その特徴はまさに俺とエマに一致している。


 犯人はまだわかっていないらしく、まだ調査している段階だが、被害者が被害者だけにあまり調査に力は入れてないらしい。

しかし、この調査書、行方不明となっているのに何故誘拐事件なのか、路上で暮らす少女の存在を国が認知しているかなど、ところどころで気になる点がいくつかある。


「ちなみにこの犯人について何か知ってるの?」

「はい、それはこちらの資料に……」


 リネットがもう一つ別の資料を渡す、こちらはうちで調査した資料のようだ。

 どうやら犯人は『ディンゴファミリー』と言う人攫い集団らしい。

 元は小さな町で身寄りのない子供を狙うような小物のようだが、二週間ほど前に急に王都で活動し始めたらしい。

 いくら力を入れてないといはいえ、この程度の奴ら、王都なら簡単に捕まえることができるはずなのに、先ほどの資料では捕まえるどころか誘拐犯すらわかってないという事だった。

 という事はやはりマンティスが絡んでいる可能性が高い。


 恐らく俺とエマを消し、この事件に乗じてそれをこいつらに擦り付けるつもりなんだろう。

 初めは、貧民、平民と、騒ぎにならない者を攫い、そして最後に貴族を攫った事で騎士団が本格的な調査に乗り出し捕まえる。

 全ては自分達に疑いを掛けられないために。

 今大人しいのはその準備期間と言ったところか。


「成程ね……」


 資料を読み終えレイルに渡すと、レイルがその資料をシュレッターに入れたかのように細かく斬り刻む。

 斬り刻んだ紙クズはアメリが箒でかき集めると他のゴミと一緒にまとめて焼却炉に捨てに行った。


「それで、どうしますか?先に潰しておきます?」

「いえ、もう少し様子見がしたい、とりあえず縄張り(しま)を荒らしたとして、こちらの方から挨拶に行っておいて、阿呆なら簡単に後ろの名前を出してくれるでしょう。それと、行方不明者の捜索をギルドに依頼してツルハシの旅団を動かしておいて。」

「了解しました。」


 マーカスに調査のフリをして奴らの根城にいる人間を鑑定させておけば、今後役に立つ情報と出てくるだろう。


 一通りの報告を聞き、二人に指示を出すとその日の話は終わった。

 そして、編入して三週間目となる次の日の昼休み。


「マティアス・カルタス!私達は、あなたがリーシェ・グスマン嬢に行ってきた非道の数々を今ここで告発します!」


 学園で新たな騒動が始まろうとしていた。


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