入学準備
マリスからの依頼を受けることを決めると、俺は早速入学の準備に取り掛かった。
まずは学園の教員や関係者の情報を頭に叩き込み、次に学園寮に同行させるメイドを選定する。
メイドの数は、入学時に納める寄付金の額で決まるらしく、俺は少し多めに払うことで三人のメイドを同行させることにした。
一人目に選んだのは、組織内で諜報員兼盗賊として活動しているリネット・ブルームだ。
いつも取り巻きがうるさいので候補から外すつもりだったが、本人の強い志願もあって承諾することにした。
二人目は、組織の女暗殺者レイル・マーフィー。
元ブラッティラビットの一員で、水色の髪と眠たげな瞳が特徴的な、一見するととても殺し屋には見えない女だ。
性格は怠惰で、前の抗争では「楽ができそう」という理由だけでベルゼーヌ側についたらしい。
竜王会に移籍したのも、ビゼル率いるブラッティラビットの活気についていけなかったからという事だ。
やる気はないが、その実力は指折りで、俺とさほど年が離れていないにもかかわらず、抗争の際には副団長だったビゼルの相手をしていたほどだ。
護衛として選んだときもあまり乗り気じゃなかったが、「学園に行ってる間は好きにしていい」という条件を出したら、即決で承諾した。
そして三人目はアメリ・コンバーター。
元はただの農民の娘で、黒き狼に捕らわれていたところを俺が解放したのが縁で、それ以降はもう一人の女性、フィリーズと共に、組織の家政婦的な役割を担っている。
他の二人にメイドとしての働きを期待するのは難しいので、一人くらいはまともなメイドが必要だろうと思って選ぶことにした。
それにアメリは社交的な性格でもあるから、他の貴族のメイドたちと交流して、情報や噂を集めてもらう用途もある。
入学の手続きや制服の手配などは全てマリスがやるので、俺自身が学園に対してする準備はこれくらいか。
あとはマリスが最低限の女性の振る舞いだとか、淑女としての言葉遣いがどうこう言っていたが、まあそこは気にしなくていいだろう。
その後は、俺が不在の間、組織を任せるギニスに引き継ぎを済ませ、入寮の日までは特にすることもなく、適当に日々を過ごしていた。
そして入寮の日。
「へえ、よく似合ってるじゃない。」
学園へ向かう前、俺はマリスの屋敷で学園指定の制服に袖を通し、鏡の前に立って自分の姿を確認した。
制服は清潔感あふれる白いブレザーで、なかなか華やかである。一応、男は黒、女は白と色分けされているらしいが、どちらの性別が着ても似合うように仕立てられているようだ。
この世界ではまだ十七とは言え、もう一度学生服を着ることに少し躊躇いがあったが、俺の学生時代の学生服といえば、学ランやブルセラが主流だったので、それを着るよりかはまだブレザーの方がマシに思える。
だから着ること自体には、さほど時間はかからなかったが、スカートだけはやはり慣れず、未だに履くことに躊躇いがある。
ただそれより、気になるのは左胸に付いている校章だ。
俺の胸についている校章は銀色で、話によれば爵位によって校章の色は変わり、王族、公爵以上が金、侯爵、伯爵以上が銀、それ以外は銅と分けられているらしい。
校則上、学園内では身分の差を持ち込まないと書かれているが、こんなものを付けている時点で学園内がどういう状況かは大体察しがつく。
髪はいつも通り青く染め上げ、少しでも女に見えるようにと、軽く整えた後、赤いカチューシャを身に着ける。
顔には薄くだが、化粧を施しており、入寮後はそのあたりの手入れをアメリにやってもらう事になる。
体つきはペンダントの効果で、鍛え上げた筋肉がすっかり鳴りを潜め、もともと小柄だった俺の体は、ずいぶんと女々しくなってしまった。
ただ、体の動きに違和感はなく、どうやら筋力そのものが衰えたわけではないらしい。
声ももともと低くはなかったが、喉仏が縮んだせいで、今は幼い頃の声に戻っている。
「これで俺も十分、女学生に見えるだろう?」
「ええ……というより、本当に悔しいくらい似合ってるわね。もともと女性だったんじゃないかしら?」
そう言ってマリスは、女の格好をした俺に皮肉を言う。先日の件と言い、最近いろんな男を手玉に取っているせいか、少し調子に乗っているようにも見える。
「フッ、俺の体が男であることは、お前ならよく知ってるだろ?」
「な⁉お嬢様⁉」
「そ、それは……コホン!と、とにかく、多少の不貞は許すけど、一応今のあなたにはカルタスの名がついていることを忘れないでね。」
「ああ、わかった。」
俺は頷くと、ポケットから葉巻を取り出して咥えた――が、火をつける前にマリスに取り上げられた。
「そう言いながら葉巻を吸わない!臭いがついちゃうでしょ!」
「チッ……」
学生なら葉巻を吸うやつくらい普通にいるだろうに。
仕方がない、とりあえず学園に着いたらまず葉巻の確保だな。
「じゃあそろそろ行くとするか。」
「エマの事、お願いね。」
「ああ、お前も旦那探しとけよ。」
「え?」
「養子を取るなら夫婦じゃないと取れないだろ?」
仮に離婚するにしても、最低一年は過ごさなきゃならんしな。
「あ、ああ、そうね……また探しておくわ。」
「それより、お嬢様!さっきの話を詳しく――」
「ああ、もう、うるさい!」
後ろでマリスと執事が騒いでいる間に、俺は馬車へ乗り込み、
ベルランド学園へ向かうため王都へと出発した。




