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二度目の襲撃

時刻が深夜を回る頃、闇世に包まれた森の中を一台の馬車が進んでいく。

 馬車の荷車の中には魔石が入っており、それは今月に入って早くも二度目となるビビアンへ納める魔石である。

 二度目の失敗は許されない状況という事もあって、今回は馬車の周囲を二十名もの護衛の兵士が守っている。

 近接兵だけでなく、魔術師や偵察に長けた兵も混じっており実力も数も、普通の貴族の護衛に負けないくらいの兵士だ。

 近場の距離という事を考えれば普通の貴族の護衛よりも更に厳重ともいえるだろう。

 それだけにビビアンがこの魔石に対する本気度が伺える。


 兵士たちは馬車の周囲を十人が守り、残りの十人で周囲の警戒に当たっている。

 日が沈んだ森の中は、月の光が木に遮られ暗く、視界は松明の光が照らすところだけとなっており、警戒に当たっている兵士たちは気配や音を頼りに警戒している。


「待て、周囲になにかいる。」


 すると森の中を進んで半刻ほどたったところで、前方を警戒していた兵士が馬車を止める。


「例の賊か?」

「……いや、この気配は恐らくウルフだ。」

「ウルフ……やはりいたのだな。」


 ここ最近は姿を見かけてなかったがウルフはこの森にならいてもおかしくないモンスターだ。


「数は?」

「二十から三十くらいだ、こちらの兵士達と同数なら問題なく対処できるだろう。」


 集団で襲い掛かってくるのが厄介なモンスターだが、個々としては大したことはなく、同等の数の兵士たちがいるので脅威とはならないであろう。


「だが、向こうは闇夜でも見えている分有利だ、油断せず音を拾って警戒に当たれ。」


 兵士長の言葉に兵士たちが返事をすると兵士たちは周囲の音に耳をすませる。

 暗闇の中では音が頼りになる、風さざめき、草を踏み沁みる音、呼吸の音一つ聞き逃さない様に耳を澄ませる……


 すると、警戒していた一人がバタリと音を立てて倒れる。


「おい!どうした!しっかりしろ!」


 確認するとどうやら眠っているだけのようだが、続いて他の警戒していた兵士も次々と倒れていく。


「い、一体何が……」


 兵士たちに緊張が走る、兵士たちがあたりをキョロキョロと窺うが、何かがいる気配もない。

 すると、ふと遠くから何かが聞こえてくる。


「楽器の音……いや、これは歌か?」


 言葉というよりは楽器の音色の様な声が、耳にスゥッと入っていく、そしてそれに聞き入っていると

 少しずつ瞼が重く……


「いかん!総員、耳を塞げ!」


 兵士長の張り上げた声に他の兵士たちも我に返ると、すぐに耳を塞ぐ。

 続けて急に突風が吹いたかと思うと、その風により松明の火が消える。


「しまった⁉」


 辺りから光が完全に消え、視界と聴覚を塞がれると、それを待っていたかと言わんばかりにウルフの群れが一斉に兵士たちを襲いかかってきた。


「敵襲だ!」

「落ち着け!相手はただのウルフだ!こちらは数も装備もしっかり整っている、少し攻撃を受けたくらいではやられはしない。魔術師はすぐに光魔術で周囲を照らせ!他の隊員は魔術師の護衛をしろ!総員、落ち着いて対処せよ!」


 歌声をかき消すような大声で指示する兵士長の言葉に兵士たちはすぐに冷静を取り戻すと、魔術師は詠唱を始め他の兵士はその周囲の守りを固める。


 しかし、ウルフたちはその指示を理解しているかのように、守っている兵士たちを跳躍で飛び越えると詠唱する魔術師たちに襲い掛かる。


「うわぁ⁉な、何故俺たちに――」

「馬鹿な、何故魔術師たちだけを!」

「考えている暇はないぞ、すぐに魔術師たちを守れ!」


 兵士たちがすぐに魔術師たちに襲い掛かるウルフを対処しようと動くが、一歩前に踏み出した途端躓き転倒する。


「なんだこれ!蔦が」


 暗くてよく見えなかったが地面には何故か蔦が張り付いて、兵士たちはそれに次々と足を引っかけている。

 そして更にそこにウルフたちの追い打ちが来る。


「クソ、どういうことだ?」


 いくら知能があるモンスターと言えどここまで完ぺきに連携をとることなどありえない、それに先ほどの歌声の主は、恐らくハーピィーだ。

 ()()()()に巣を作るモンスターでその歌を聞けば眠りに襲われる厄介なモンスターである。

 そんなモンスターと手を組むことなどあり得ないのだ。


「司令塔……司令塔だ!どこかにこのモンスター達を操っている奴がいるはずだ。そいつを探せ!」


 兵士長が叫ぶ。他の知能ある者が指示していると考えれば合点がいく、きっとそれは前回魔石を襲った者と同一人物だろう、そいつさえ何とかすれば勝機はある。

 と言っても視界は遮られ、耳も済ませることはできない。

 それに兵士たちは混乱に陥っており、とてもそれどころではない。


 ――俺が見つけるしかないか


 兵士長はウルフに噛みつかれながらも冷静に気配を探る、すると奥にウルフともハーピィーとも違う大きな気配を一つ見つける。


 ――こいつか!


 兵士長がボロボロになり、蔦に足を取られよろめきながらも気配の方へ走り出す。


「貴様さえ倒せばぁ!」


 ウルフ達を振り切り気配の方へたどり着くが、その気配の正体を見ると兵士長はその場で立ち尽くす。


「バ、バカな……ミノ、タウロス、だと……?」


 ダンジョンにしか生息しない、A級モンスター。こんなところにいることはあり得ない。

 そしてこれほどのモンスターを一人でどうにかできる相手ではない、


 ――もしこのミノタウロスが指示を出しているとなると……


 兵士長の表情がみるみる青ざめていく。


 ミノタウロスと目が合う。兵士長は死を覚悟するが、ミノタウロスは自分に興味がないのかの存在に気づいているが何もしてこない。

 そして確認するようにウルフたちが襲っている魔石の場所に目を向けている。


 ――クソ、魔石などと言っている場合などではない、一人でも生き残ってこの事を伝えねば。だが、どうする?他の部下を見捨てて逃げると言うのか?


 そう思って振り返ると、後ろからは兵士たちの悲鳴や断末魔が聞こえてくる。

 恐らく戻ったところで、何もできないだろう。


 そしてウルフたちの包囲網を抜け、ミノタウロスが興味を示していない自分が一番街へたどり着ける可能性がある。

 そう自分に言い聞かせると、兵士長はそのままミノタウロスの横を走り抜け、振り返ることなく街の方へと駆け抜けていった。




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