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新しい人生

  異世界転生……そんなジャンルの小説が若者の間で流行っていたらしい。


 交通事故に遭い、目覚めるとそこは今までいた世界とは別世界で、主人公はそこで貴族や村人などに生まれ変わり、様々な理由でチートと呼ばれる力を手に入れ活躍する。


 話を聞いた時は、所詮架空の物語だと鼻で笑っていたが、どうやらあながち間違いでもなかったらしい。

 現に俺は今、その異世界とやらに来ている。


どういう経緯で意識を失ったのか覚えていないが、気がつくと俺は、自分が生きていた場所とは無縁の場所に幼い姿で目覚めていた。


 ……だが、その小説の話とは少しだけ違うところがあった。


 俺は貴族でもなければ村人でもない、そして物語に出てくるようなちーと?とか言う力も持っていない。


 俺の身体中にはあちこちに痣があり、腹の虫は常に空腹で鳴いている。

 だからと言って食べる物があるわけでもなく、取りに行ける状態でもない。

 今いる場所は土で囲まれていて、目の前には現実世界でも何度かお目にした鉄格子がある。

 簡単に言えば、洞穴で出来た牢獄だ。


 そして、何もできないまま時間だけが過ぎると、外から鉄格子の鍵が開けられ、地面にたたきつける鞭の音ともに、映画に出てくる兵士のような奇妙な格好をした男たちがぞろぞろとやってきた。


「さあ、奴隷ども!仕事の時間だ!今日も我等が主様のために死ぬまでキリキリ働けぇ!」


 ……さあ、俺の異世界生活の始まりだ。


――


「オラ!モタモタするな!さっさと運べ!」


 この世界で目覚めてから一週間、今日も鞭の音と共にあちこちで断末魔が響く。

 俺がいるのはこの世界にあるどこかの鉱山らしく、そこでは毎日何十人もの人間が鉱石を掘らされたり岩を運ばされたりしている。


 幼い俺は運搬担当で、この小さな体で自分の体重と大差のない岩を採掘所から離れた場所にある石捨て場まで運んでいる。

 岩の大きさは人それぞれで、一応運ぶ人間に合わせて考慮はしているらしく、俺が運んでいるのはまだ()()()方で、近くにいる蜥蜴(とかげ)の様な珍妙な姿の奴は、大きさも自分の身体の倍はありそうなものを背負わされている。


 元のいた世界なら台車にでも乗せて一気に運べただろうが、少なくともこの場にはそんなものはなく、ひたすら手で一つずつ運んでいく。


 就労時間は日が昇ると共に日没まで休みなしのぶっ通しで、食事は就労前後に用意されている干し肉が一切れ。

 倒れればその場で鞭が入り、倒れなくても動きが鈍いと鞭が入る。


 そしてその痛みに耐えきれず失神する奴や、そのまま目が覚めない奴らも多数出てくる。


 何とも効率が悪いやり方だ。鞭を奮う回数を減らし、適度の休息を入れてやれば今以上に働くだろうに。


「おっと」


 まるで他人事の様に思っていると、疲労と手に出来た血豆の痛みにふらつき、つい運んでいた石を離す。

 そしてそれを兵士達は見逃すわけもなかった。


「おい貴様!何落としている!」


 周りの奴らと同様に、俺もこの場を仕切る兵士たちの一人から容赦なく背中に鞭を受ける。


「くっ!」


 間髪入れずに次々と襲い来る痛みに、思わず出そうになる声を必死に堪える。

 出来ることならこいつら全員を殺してやりたいくらいだが、生憎(あいにく)今の俺にそんな力はない。

 今の俺は唯の小さな子供、悲鳴を堪えて精一杯睨むことでしか抵抗のできない貧弱なガキだ。

 痛みに耐えて無言で再び石を持ち運び始める、しかしその態度が兵士からしたら気にいらなかったらしい。


「なんだ?何ガキの分際で一丁前に堪えてんだよ、ガキならガキらしく、もっと泣いて喚いて叫べよ!」


 理不尽な理由で更に鞭が入る、俺の背中に激しい音と痛みが何度も走る。

 

「お前はなぁ、親に売られた、『無能』なんだよ!」


 ただひたすら耐え続けた、それが現状で出来る精一杯の抵抗だ。

 すると、ちょうど就業終了の合図となる銅鑼の音が鳴り響く。


「……チッ、運のいい奴め。」


 つまらなそうにそう吐き捨てると、兵士は戻っていく。

 それを確認するとともに、俺は牢の中へ戻り倒れ込んだ。


 こうして、奴隷としての一日が終了した。

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