表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/15

8 二対一

 ――返して、の意味がわからずリエネは呻いた。

 普段から笑わない自覚はある。が、今はことさら難しい顔しかできない気がした。


「姫様。わたしは……セフィルの従者だったってこと?」


「違うわ」

「違うっ」


「「…………」」


 国を違える二人の王族は、リエネを挟んでジト目で睨み合った。


「あぁ……くそっ! なんで恋敵が女なんだよ」


「女? 聞き捨てならないな。わたしは……もう、いいや言っちゃおう。妖精にも言われたけど。男だよ?」


「えっ……妖精……天樹の??」

「元は女なんだよ! つうか、好きなのはお前だよ! どこの妖精(どいつ)だよ、こいつを男にしちまった奴は――って……えっ?」



 にじり寄る両者。腰の引けるリエネ。


「あ。あの……?」



「すぐに! 言いなさいよ!」「頼むから言えよ!」

「「そーーいうことはーーっ!!!」」



「……はい。すみません……」


 よくわからない迫力にリエネは負けた。責められる謂れはないがどうしようもない。全面降伏だ。


 とりあえず、三名はそれぞれの情報を整理することにした。――鍵は、天樹の妖精が握っている。


 曇天の空は重い。

 今にも、何かが降りそうだった。




   *   *   *




 カタン、と中庭のテラスに設置された椅子を引き、メイレニアを座らせる。


 セフィルが何事か呟くと、灰色の空を映すクリスタルの軒先から枝面(しめん)まで、空気の遮幕が降りたのが視えた。

 メイレニアも目を閉じ、口の中で短い文言を唱える。すると、暖かな風が円卓の周囲に生じた。


 上着はすでに返してもらっている。

 ぬくぬくと。

 まるで作戦会議のようだな――と、他人事のように感じる自分に、いつものように苦笑する。


「どうしたの?」


「いえ。別に」


 めざとく見とがめた主の少女に、リエネはわずかに瞳をすがめた。



 ――要約すると。

 わたしは、元は女で姫の乳姉妹。侍女だったらしい。生涯独身を貫くことになるメイレニア姫を守れるよう、剣の腕もみずから磨くような。


「忠義者の(かがみ)じゃないか……」


 何が不満だったの? と言外に(うつむ)く姫を責めると、上目遣いで睨まれた。


「だって。リエネはいつも遠くを見てて……寂しかったもの。あと、格好よかったから」


「は?」


 聞き違いかと素で返す。なぜか赤面された。メイレニアの独白が止まらない。


「あ、憧れてたの……! リエネが男の子で、従者なら! その、側にいてもらえたら、一生巫女でいるのも頑張れるかなって」


「『かなって』……軽いよ姫。それ、本当ならひとの人生を何だと」



 ――ぴたり。

 その先を言い募ろうとしてリエネは固まった。驚いた。続けられない。


 (……待てよ? わたしは、姫に生涯仕えるのは結構やぶさかじゃなかったはず。いつから? いつから、わたしは人生なんてものに固執してた?)


 所詮、夢とも(うつつ)ともつかぬかりそめの時間。この世界で生まれ、物心ついたときからそう感じていたはずだ。

 だからこそ、与えられた役どころに逆らわずに生きてきた。定められた範囲で備わった能力を伸ばせばいいと。応えればいいと。


 一も二もなく姫が最優先。自分の人間関係に何かを求めたりはしない。

 そう、刻んでいたはずなのに。



「――あれ、おかしい。そもそもなぜ、セフィルから望まれるような……そんなことになったの?」


 くしゃり、と藍色の髪をかき上げる。肘をつき、うろんな視線で左隣のセフィルを捉えた。


「俺の一目惚れ」


「うそ」


「嘘じゃない。……くっそ、そっくり同じ反応しやがって……」


「???」


 わけがわからず、混乱しかけるリエネを救い上げたのは皮肉にも事の発端、メイレニアだった。


「ごめん。私のせいなの」


 セフィルの碧い瞳。リエネの瑠璃色のまなざし。刺さるほどの視線を浴びつつ、少女は小柄な体をいっそう縮こませた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ