01-09 訓練場にて
朝日が眩しい。カーテンの薄い隙間から差し込んだ光が俺をまどろみから引き揚げる。顔だけを動かして壁に掛けられた時計を見ると、時刻は7時を少し過ぎたところだった。
いつも通りの朝。...ではない。あの世界のことを覚えている。
あれは夢...?いや違う、夢にしてははっきりと覚えている。あれは現実だ。あるいはもう一つの現実だ。
腕を使って体を起こす。見慣れた体。あの力強い体とは比ぶべくもない。足は当然のように動かない。
「ちくしょう...」
あまりの落差に泣いてしまいそうだ。あれだけ思い通りに動いていた足が今はピクリとも動かない。
嘆いていても仕方ない。幸か不幸か、足が動かないという絶望には慣れている。
車椅子に移り、リビングへ向かう。
「おはよう、どうしたの顔色悪いけど?」
「別に、変な夢を見ただけ。」
こちらに寄ってこようとする母を手で制する。
本当に体調は大丈夫だ。寝不足でもない。ただ、幸せな夢を見ていただけだ。
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学校は相変わらず退屈だった。愛想よく振舞うのはしんどい。
勉強は嫌いではないが、決して好きではない。車椅子の俺がまともな職に就くには良い大学に入るか、有用な技能を身に着けるしかないだろう。どちらにせよ勉強は必要だ。両親を不安にさせないためにも勉強をしなければという義務感を感じる。
両親のためにも、という思いは以前も持っていたが、それでも自分のための比重の方が大きかった。それが今では自分のためになんてほとんど思わない。こういう傾向は俺のように重い後遺症を背負った人に良く見られるらしい。一過性のもので、時間がたてばまた自分のために頑張れるとカウンセラーの先生は言っていたので、辛抱していればいずれ過ぎ去ってくれるのだろうか。
今は放課後、今日もまた図書室にいる。
ミグで役立つ知識を身に着けようと山の歩き方、サバイバル術、格闘技の本を選んだ。
今日は珍しいタイプの本を選んだね、と図書委員に言われた。確かに今までの俺には必要なかったものだ。だが、今の俺には必要なのだ。
ミグのことを考えていたら元気が出てきた。ああ、早くあの体に戻りたい。早く自分の足で駆け回りたい。
山歩きに適した服装、迷った時の方角の確認の方法、飲み水の確保の方法、動物の解体の方法、スタンスの重要性、無駄のないな腕の振り方...
流し読みだが、役に立ちそうなことを頭に入れていく。
ふと、アキラのことが頭をよぎった。彼女もこの日本のどこかにいて、今の俺のように本を読んでいたりするのだろうか。会ってみたい気もするが俺はこんな体だ。...やっぱり会いたくないかも。
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目を覚ます。見慣れない天井をした小さな部屋だ。だがそれがとても愛しかった。俺がまたこの世界にやってきたという証だからだ。
「よっしゃー!」
ベッドから跳ね起き、2本の足で床を踏みしめる。思わず小躍りしてしまうくらい気分がいい。体育でダンスの授業があったのはこういう時のためだったのか。
「そういえば、部屋の拡張ができるんだったか。」
満足するまでひとしきり踊ったところ、黒板にメッセージが来ていたのを思い出した。
黒板は伝言板代わりに使われるものらしい。
・プライベートルームの拡張が利用可能になりました
レベルに応じて拡張されるとソラスが言っていたが、もう拡張できるらしい。さすがにこの広さの部屋ではモノが置けなさすぎたから助かる。
テキストの横に押せそうなボタンが描いてある。これを押せってことかな。
チョークで描かれた風のボタンを押すとテキストが書き換えられた。ちなみにテキストが消えるときは、黒板消しで消した風の演出がなされる。
・部屋を大きくする
・部屋を増やす
新しく現れたテキストは2つ。おそらく選択肢だ。俺は一気に30レベルオーバーまで上がったわけだが選べるのは一つだけなのだろうか?もし10レベル刻みで、選択権を貯めれないとかだったら嫌だな。
まあ、この選択肢なら特に迷うことはないな。部屋数を増やそう。どれくらいの大きさの部屋が追加されるのか知らないが、増えた部屋は荷物置き場にするつもりだ。
部屋を増やす、を選択すると、テキストがまた更新された。
・どの部屋に連結させますか
そのテキストの下に部屋の見取り図のようなものが描かれている。なるほど、ここから選択するわけだな。
ドアのある壁以外の3方向が選択できるみたいなので、ドアから入って右側を選択する。物置にする予定の部屋なので、ドアの正面に増やすのはやめておいた。寝室などはそっちの方に伸ばしていく予定だからね。
部屋の追加位置を選択し終えるとテキストが更新される。
・部屋の追加はプライベートルームを出てから行われます
ふむなるほど、そうだろうね。
このテキストにもボタンが付いているので押してみると、またテキストが更新される。
・次の部屋の拡張は40レベルです
どうやら部屋の拡張は20レベル刻みらしい。てことは大神様とやらも指が10本...?もしかして未来の地球人だったりするのだろうか。SFでありがちなやつね。今度のテキストにボタンは設定されていなかった。今回はこれで終わりか。
もうこの部屋でやることはなくなったので、ライルさんの店で買った服に着替えて外へ出る。大した特徴もないシンプルな服だが頑丈で動きやすい。今回は剣帯の付け方ももうばっちりだ。
「さて、まずはどうしようか...。」
ドアは昨日と同じ場所、ルカの店の前の路地に出現した。ルカのお店を覗いて見るが営業はしていなさそうだ。ドアにプレートが掛かっているがCLOSEとか書かれているのだろう。
「まずは露店で腹ごしらえだな。」
ルカの店を見るだけでもお腹がすいてきた。腹が減っては戦は出来ぬとも言うしな。
ここで待っていればアキラもドアを出現させて出てくるのではないかとの思いついたが、頭を振ってそんな考えを追い出す。なんだか女々しいし、それに一歩間違えればストーカーだ。
ここからは時計が見えないので正確な時刻は分からないが、おそらく朝の10時くらいだ。昨日は日が暮れる前に寝たはずだから12時間以上何も食べていないことになる。そりゃ腹も減る。
「大通りはどっちだ。」
あたりをキョロキョロ見渡すが視界には背の高い建物の壁しか目に映らない。まあ、適当に歩いていけば時計塔が視界に映るだろ。それを目印にすればいい。
▼
歩きながらサンドイッチにかぶりつく。
うん、おいしい。今食べているのはBLTサンドのようなものだが、腕に抱えた紙袋にまた別のサンドイッチがあと2つ入っている。ミグ人は体が小さいけどよく食べるのでサンドイッチも決して小さくはなかったのだが、おいしそうだったのでつい4つ買ってしまったのだ。
大通りは昨日よりも人通りが少ない気がする。
この時間はみんなもうそれぞれの職場で働いているのだろうか、すれ違う人もシェバズの割合が高い。
それにしてもみんなかっこいい装備をしているな。槍を携えた者、槌を背負った者、剣を下げた者。十人十色の装備をしていて見ていて楽しい。傾向としては軽装の者が多い。全身鎧の者は一人もいなくて、胴体に革鎧を着ているだけの者も結構いる。
身の丈を超える長さの杖を持った人とすれ違う。あれは絶対に魔法使いだろう。
新しいサンドイッチを紙袋から取り出す。今度は卵サンドだ。...なんの卵だろうか。普通の鶏はいるのだろうか。
まあいいかとサンドイッチにかぶりつく。これもおいしい。
それにしてもこちらの世界はご飯がおいしい。まだ2回しか食事をしていないがそう思う。雰囲気補正もあるのだろうが、実際おいしいのでないだろうか。この体が何でもおいしく感じる可能性もあるが。
サンドイッチを食べ終わった頃、気づけば街はずれの訓練場に着いていた。
アキラと街に入るときに遠目に見えていた運動場のようなものはミスタリア軍の訓練場だったらしい。ここでは日々ミグ人の軍人たちが素振りや走り込み、模擬戦で汗を流しており、シェバズならその訓練に参加できるそうだ。全て親切な軍人さんが教えてくれた。
武器ができるのは2日後だし、今日はここで体を動かしていこうか。双剣の習熟度を上げていこう。
シェバズとミグ人が混ざりあって声をあげながら自らを鍛え上げている。運動場はいくつかの区画に分かれているようで、入り口に近い辺りでは皆が素振りをしていて、その奥では模擬戦が行われている。そのさらに奥では弓の訓練をしているのが見える。そのまたさらに奥でも何かしらの訓練が行われているようだがここからではよく分からない。随分と大きな訓練場だ。
訓練場の隅で準備体操をしているシェバズがいたのでご一緒させてもらう。陸上部の頃と同じ内容でも多分大丈夫だろう。
股割りをやろうとしたが思ったよりも開かない。この体はまだお風呂上がりの柔軟が足りないようだ。たっぷり15分かけて体をほぐし、柔軟体操は終了。模擬戦をやりたい気持ちでいっぱいだが、最初はウォーミングアップがてら素振りから始めるか。
武器は貸し出されているものを借りた。シェバズは自前の武器を持っているが、軍人さんは持っていないので用意されているそうだ。
選んだのは双剣。できるだけライルさんに注文したものに近いものを探したが、あそこまで重いものは見つからなかった。仕方ないので長さだけは同じものを使う。
同じように双剣を振っている人たちが集まった一角で俺も剣を振るう。
まずは単純に振り下ろし。左右交互にあまり速度を上げすぎず振り下ろす。剣先が揺れないように意識する。左右合わせて20回を3セット。
次に、水平切り。こちらも振り下ろしと同じように速度を上げすぎない。剣は重くはないが決して軽いわけではない。腕に重みを感じてきた。これも左右合わせて20回を3セット。
最後に、切り上げ。時計でいう7時と8時の方向の切り上げを交互に行う。これも左右合わせて20回を3セット。
大きく息を吐く。激しい運動ではないが呼吸が荒くなる程度の負荷はかかる。これで腕は温まった。
「やあ、兄さん。俺と打ち込み稽古しないか?」
後ろから声を掛けられる。振り返ると、身長180cmほどの黒髪の男がこちらを見つめていた。浅黒い肌をした細身の男だ。
兄さんっていうのは、「Hey, brother」ということか。映画で見るやつだ。打ち込み稽古ってのが何か分からないが、テンションが上がってきた。
「いいぜ、初めてだからやり方を教えてくれると助かる。」
「お、初めてか。なあに、簡単だからすぐ覚えられる。俺はアルタイル、よろしくな。」
「俺はジン。よろしく、兄弟。」
アルタイルとがっちり握手をする。力強い手だ、剣ダコの感触がする。
人とぶつかってしまわないよう人が少ない場所へ移動し、2人で向かいあう。
「打ち込み稽古ってのは簡単だ。片方が型通りに打ち込んでもう片方はそれを受ける。それを交互にやるんだ。さ、俺から打ち込むから受けて覚えてくれ。」
そう言うとアルタイルはゆっくりと剣を振るってくる。
「右、左、右、斬り上げ~、水平、右、右 ――」
声を出しながらリズムよく振るわれる剣に、俺も剣を合わせる。
なるほどね、より実戦的な素振りといった雰囲気のものなのか。
「――左、左、右、最後に両手っ!」
挟み込まれるように振るわれる二刀をはね返す。合計で十数手くらいか。完全には無理だが、ある程度は覚えられた。
「こんな感じだ。覚えたか?」
「おお、大体。」
「よし、なら今度はジンの番だ。さっきみたいに声出してやるからそれに合わせればいい。」
さぁいつでも来い、とアルタイルが構える。
確か最初は右手から。
「右、左、右、斬り上げ~」
アルタイルの声に合わせて見よう見まねでで剣を振るう。
素振りと、実際に人に向けて剣を振るうのでは感覚が大違いだ。剣を受けてくれる人がいるだけで剣が振りやすくて、スムーズに次の手が出る。
「――左、左、右、最後に両手え」
最後をしっかりと決め、俺の番は終わりだ。アルタイルが剣を持ったまま器用に拍手をする。
「いい感じだぜ兄弟。結構楽しいだろ?」
「ああ、楽しい。今までは剣の振り方なんて意識していなかったから新鮮だ。」
さっきの感覚を思い出すように剣を振る。
...やはり素振りでは感覚違うな。
「おいおい、スキルに頼り切りか?それじゃあ、強くなれねえぜ。」
「スキル?≪双剣の術理≫か?」
「それだけではないが、まあそうだ。≪双剣の術理≫は常に発動しているタイプのスキルだから意識しにくいが、あらゆるスキルはただ漫然と使っててもダメなんだ。それだとスキルレベルが全然上がらねえ。とっとと先の街に行くには自分で考えて工夫しねえと。」
アルタイルは教師のような口ぶりで言う。
失礼ながら、あまり頭を使わないタイプだと思っていたが完全な思い違いだ。一流のアスリートのようにしっかりと考えて訓練をしている。
「≪一閃≫なんかは分かるが、≪双剣の術理≫はどうやって意識するんだ?」
「そこは...ほら、感覚だよ。剣を振っているとピンとくるときがあるだろ、そこを逃さず捉えるんだ。」
「あー、完全に理解したわ。」
アルタイルが感覚派ということをな。
アルタイルは手や指をせわしなく動かしながら話していた。まるでIT業界の人間みたいだ。抽象的なものを説明しようとするとそうなってしまうよな。
「まあいいんだよ。もっかいやるぞ。だんだん速くするから着いてくるように。スキルの意識も忘れずにな。」
「はいはい、了解」
徐々にスピードを上げて打ち込み稽古を行う。
アドバイスをもらいながら4度も繰り返せば、俺も型を覚えきった。アルタイルの番が終わり、俺が肩を回しているとアルタイルが声を掛けてきた。
「良い感じだ。足も意識出来ているし、惰性で剣を振っていない。ただ、全力ではないな?安心しろ兄弟、俺なら大丈夫だから全力で剣を振れ。」
「いいのか?レベル差はあるだろうが、なんか怖いぞ。」
剣を合わせていれば、俺たちの間にかなりの身体能力差があるのは感じた。だが、アルタイルは細身なのでどうしても脳が躊躇してしまう。
「ばか言え、俺は122レベルだぞ。こんな刃引きされた剣じゃ傷1つつかねえよ。」
「122!?たっけえ!」
「そうだろそうだろ、だから全力で来い。」
アルタイルは剣を構える。
...122レベルか、俺の約4倍だ。ここは偉大な先達に胸を借りよう。
右、左、右、斬り上げ――
頭の中でリズムをとりながら全力で剣を振る。せめて少し驚かせてやろうと本気も本気の120%の力だ。
アルタイルはそれを柔らかく受けるのに、剣が一切揺れない。逆に力を籠めすぎて俺の剣がブレブレになる始末だ。
――左、左、右、最後に両手!
俺の渾身の一撃も柔らかく受け止められてしまう。俺の腕にも衝撃が返ってこないくらいだ。
「アルタイル...お前達人か?」
思わず感嘆の声が出る。鉄塊のように重いのに、柳のように柔らかいという矛盾をいとも容易く両立せしめるとは。
「おいおい、褒めすぎだぜ兄弟。まあ、確かに俺は剣術の天才だが、まだまだ発展途上だ。上には上がごろごろいるぜえ?」
「まだ上が...!?それ以上ってなんだ!?海でも割るのか!?」
「ありえないとは言い切れねえな。さすがに上澄みも上澄みだろうが、いるかもしれん。」
アルタイルは真面目な顔で頷く。
まじ?冗談のつもりだったんだが。人外魔境じゃん...。
「俺たちもそこを目指して頑張ろうぜ。さあ、構えなジン。」
それからさらに3週打ち込み稽古を回した。
稽古とはいえアルタイルの強さの底は全く見えず、俺だけがへとへとだ。
肩で息をする俺に、剣を収めたアルタイルが声を掛ける。
「ジン、模擬戦やってみるか?」
「模擬戦!やってみたい!」
アルタイルの誘いを二つ返事で受ける。
実力差は明白、月とスッポンなんて言葉じゃ効かないほどの差があるがきっと良い経験になるだろう。
そうこなくっちゃ。
そう楽しそうに呟いたアルタイルに先導され、訓練場の中央に向かう。
訓練場の中央の辺りは模擬戦のためのスペースとなっているようだ。白線で20m四方に区切られた枠が6つ並び、その中でミグ人とシェバズ達が刃を交えていた。
どこも3,4組は並んでいる。列の先頭には大きな砂時計とゴングのようなものが置かれている。一組の使用時間に制限があって、それをゴングで知らせるのだろう。アルタイルは一番手前の枠に並んだ。
「模擬戦のルールは、噛みつき、目潰し、金的は無しだ。それ以外は大丈夫。」
「そのままじゃアルタイルの訓練にならなさそうだがどうするんだ?」
「そうだな...、それじゃあ俺は動かないようにしよう。あと、スキルも無しで。」
ハンデとしては重いのだろうか。動かずスキルも使ってこないアルタイルとの模擬戦をシミュレートする。...ふむふむなるほど、最大の利点は攻めるタイミングと退くタイミングを自由にできることか。さっきの打ち込み稽古の感触からして、これでもまだ勝てる見込みはほとんどないが、まあ訓練だ。できるだけ得るものが多くなるよう頑張ろう。
「もっとハンデを重くしても良いが、なかなか難しいな。武器にどうにか制限を付けるか?あるいは目隠し?」
「いや、目隠しはさすがに...。え、戦えないよな?」
「あっ、スキルなしじゃ無理だわ。すまんすまん。」
アルタイルはガハハと笑う。
いや、スキル有りならできるんかい。
「...まあ、あまりに差がありすぎたら何か考えればいいか。」
「そうそう、あんまりにもあんまりだと俺が目隠しの上徒手空拳で相手するからな」
「人には見られたくないな...」
ここまでしないと埋められないほどの実力差がありますよ、と喧伝しているようなもんだ。
「ところでジンはどんな世界に住んでいるんだ?」
「どんなって、...普通の世界?」
模擬戦の話が終わり、アルタイルが別の話を振ってきた。
そして俺のナンセンスな返し。いや、こんな会話初めてなんだから仕方ないだろ。アルタイルが日本人っぽくないとは感じていたが、そうか異星人なのか。見た目が地球人と全く同じだから虚を突かれてしまった。
「おいおい、めんどくさがるなよ。そうだな、じゃあ国はいくつある?」
「国はたしか、190ちょいから210以内だったはずだ。アルタイルの世界は?」
「俺の世界は4つだ。ジンの世界はあれか、まだ発展途上な感じか。起源惑星から外へ出てないくちだな」
4つとはまた少ない。俺の世界のことを発展途上と言ったのは、アルタイルの世界は国が数多くある状態から4つにまで数を減らしたということか。
「起源惑星なんて言い方初めてだ。その口ぶりだとそっちの世界は星の外に行ったんだよな?」
「ああ、星々を征しに征したらしい。何万という国がそれぞれ複数の星を抱えていたんだが、あるとき戦争が起こってそれが全宇宙に広がっちまってな。俺が生まれたときには超大国が5つ残るばかりだったよ。」
「なかなか壮絶な世界だな...。」
話からして恒星間を飛べるような宇宙船も作れる技術レベルだ。そんな世界で何十年、あるいは何百年と戦争が続いたのだ、想像を絶する管理社会になっているのがSFでお決まりのパターンだ。
「ところが、意外とそうでもないんだな。直接戦うのは無人機だから軍人の人的消耗はかなり少ない。どの国もいくつも資源惑星を持ってるし核融合炉もある。どのリソースにも余裕があったから、軍人でもない限り戦争を意識することはほとんど無いんだ。ジンが想像するような戦争とは全く違うと思うぜ。」
「確かに全く違う...。そこまで技術が進めば戦争も変わるんだな。そう言えば聞きたいんだが、恒星間の移動ってどうやるんだ?」
ハイパースペースドライブとかスリップスペースドライブなど、SFには光速以上で移動する手段が登場するものだ。現実ではそれがどうやって行われるのか是非とも聞きたい。
「あれ、もしかしてこっち来てからあんまり日経ってないのか?そういうのは伝わらないようにできてるんだ。」
「どういう風に?口が開かなくなるのか?」
「いや、違う。試しにやって見せてやるよ。俺たちの世界では超光速移動には2種類あって、1つ目は■■■■■■■■■って名前の■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■を利用した奴と、...伝わってるか?」
アルタイルの話がまったく認識できない。音は伝わっているのにそれを脳が認識してくれない感じだ。これも大神様の技術か。恐るべし...。
「全然伝わらない。頭がおかしくなりそうだ。」
「なかなか慣れないよな。まあ、というわけで異世界の技術を手に入れて現実で無双するぞ~ってのは無理なんだ。」
「ダメなのか。特許取って一生遊んで暮らしたかったんだが。」
「馬鹿なこと言ってねえで真面目に働けってこった。よし、俺たちの番だな。」
アルタイルがゴングを鳴らす。いつの間にか俺たちに順番が回ってきていたいたようだ。砂時計をひっくり返して枠の中へ向かう。
互いに4mほどの距離をとって中央で向かい合う。アルタイルは自然体だ。しかしそんな状態からでも俺からの攻撃にはあっさり対応してみせるのだろう。
「最初は自由に打ち込んで良い。さあ、どこからでもかかってこい。」
「言われなくても...」
この状況からアルタイルの意表を突くのは無理なので、歩いて距離を詰める。
初撃は右の振り下ろし。当然のように剣で逸らされるが、そんなのは元から分かっている。
どうにか隙を見つけようと攻撃を重ねるが一向に揺るがない。剣を振り続け息が上がり、いったん距離をとる。
「ふふふ、なかなかいい気迫だ。そろそろ俺も反撃しちゃうぞ。」
アルタイルは剣を弄ぶように手の中で回す。
びびってても仕方ないので再び距離を詰める。青あざで済みますように...!
右手を振るように見せて左の切り上げを振るう。
だめだ、こんなフェイント全く通じない。アルタイルは薄く笑いながら俺の切り上げを正面から弾き飛ばす。
アルタイルは手加減をしている。本気だったら俺の手の内に剣が残っているはずがない。
左足を引きアルタイルの側面に回り込み、右手で袈裟斬り。これも弾き返される。少しでも隙を作ろうとさらに回り込みながら攻撃を重ねるが アルタイルの眼は俺を捉えて離さない。何度目かの斬り降ろしが受け流される。今までずっと弾き返されていたものだから咄嗟に対応できない。
「まず...」
アルタイルの反撃の切り上げが振るわれる。
対応できない速さではなく、右手の剣を挟み込んで弾き返す。一撃で勝負を決めない優しさだが、それは甘さではない。さらに体勢を崩された俺は距離をとることができず首に剣を突き付けられた。
「ほい、終わりだ。」
完膚なきまでの敗北だ。攻め入るスキが全く見えなかった。
剣を収めたアルタイルが手を差し出してきたので、その手を取り立ち上がる。
「手も足も出なかったんだが。」
「いやいや、悪くなかったぜ。残り時間は...ちと微妙だな。交代しちまうか。」
アルタイルにつられて砂時計に目をやると、もう3割くらいしか残されていない。
あまりの完敗ぶりに、意気消沈しながら列の最後尾に戻る。




