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01-06 最初の街ミスタリア

 光に白く塗られた視界が戻る。

 ドラゴンは煙をあげて倒れていた。今度こそ確実に死んでいる。尻尾の先から光となって消えていくのが見えた。


 安心感からか、足がグラつき膝をついてしまう。いや、これは魔力切れか?あるいは血を流しすぎただけかも。体がボロボロで笑えてくる。もう立ち上がるのもしんどいので開き直って座り込む。


「一人で倒しちゃったね...。すごいや」


 いつの間にか隣まで歩いてきたアキラが俺の隣に腰を下ろす。顔色はまだ悪い。


「何言ってるんだ。最後俺が一人でも戦えたのはアキラの魔法で弱ってたからだぞ。それに最後の槍にも助けられた。あれがなかったら相打ちだった。だから一番の功労者はアキラだ」

「私は魔法を撃っただけだよ。魔法を当てれたのもジンがいたから。ジンがいなかったらきっと負けてた...。」

「いや、そもそも俺は魔法を撃てないけどアキラは撃てるから――ってやめようこの話。2人は最強。これが唯一の真実ネ」


 語尾を半音上げて話を切り上げる。苦労してようやくドラゴンを倒したのになぜこんな話をせにゃならんのだ。最初に俺が否定したのが悪いのか...?


「...そうだね、ごめん。今度こそレベル見てみよっと」

「おっ、そうだな。何レベルになってるんだろうな」


 ステータス画面を開く。レベルの欄に目をやると、34レベルと表示されていた。さっきまで7レベルだったことを考えると破格の上昇だ。ちなみにレッサードラゴンは45レベルだった。


「34レベルだって。アキラは?」

「私は36レベル。あーあ、ジンは今日が初日なのにもう追いつかれちゃった。」

「20なんレベルも上がるなら、それまでの積み重ねが誤差になるのも仕方なくないか。そういや――」


 目の前にふわりと現れたソラスに言葉が止まる。


「無事ドラゴンを倒しましたね。倒せず逃走することになる可能性が高いと思っていましたが、倒しきってしまうとは将来有望ですね。」

「諦めかけることもあったがなんとかな。」

「傷だらけになりながらも戦う姿、...ああ、とても心に響きました。そんな有望なお二人に私からのサービスです。あまり過剰な贔屓は出来ませんので大したものではありませんがご勘弁を。」


 そう言ってソラスは俺たちにそれぞれポーションを差し出してくる。そう言えば背中の傷のことを忘れていた。改めて意識してもあまり痛みは感じないが、ありがたく使わしてもらう。


「これって魔力ポーション?」


 アキラはソラスからポーションを受け取りながら尋ねる。

 名前からして魔力を回復するものだろうか。確かに俺が今使ったものとは少し色が違う。


「はい、アキラ様は体力よりも魔力の方が不足していましたので。それとこれはドラゴンのドロップアイテムです。」

「お、わざわざありがとう。」


 地面に落ちていたものを拾ってくれたらしい。何から何まで至れり尽くせりだな。ソラスに礼を言いカードを受け取る。20枚弱くらいはあるだろうか?鎧狼と比べても随分と多い。

 アキラにも見えるようにカードを一枚ずつめくっていく。


【ドラゴンの尖爪】が2枚。

「定番だが有用だ。」

「武器に加工するのが一番ね。ジンの武器壊れてたからちょうどいいじゃん。」


【ドラゴンの皮】が2枚。

「これまた定番で万能だな。防具を作ろうぜ。」

「全身分はさすがに足りないかな。まあ、重くなりそうだからいいけど。」


【ドラゴンの鱗】が3枚。

「これカード1枚で何枚の鱗がはいってるんだろ?」

「カード自体には1枚しか描かれてないけど1枚ってことはないでしょ。3枚くらい?」


【ドラゴンの腱】が1枚。

「腱って何に使えるんだ?」

「さあ...?弓の弦とか?」


【ドラゴンのバラ肉】が1枚。

「えっ、めっちゃうまそう。自分で焼けるかな?」

「えー、お店に持ち込みとかの方がおいしくできそう。なんならお店でドラゴンステーキとか普通に売ってるんじゃない?」


【ドラゴンの胃袋】が1枚。

「これも食べれるのかな?」

「本気?牛とかなら食べれそうだけどドラゴンは...。革袋とかにするのが普通じゃないの」


【ドラゴンの睾丸】が1枚。

「...精力剤にでもするのかな?」

「...」

「2つ出てくると思うんだけど、どう思う?」

「黙って」

「ウス」


【ドラゴンの魔輝石】

「レアっぽい!」

「レアっぽい!」

「何に使えるんだろう?魔法関連か?」

「いや、装飾品関連だと思うね。まあ魔力関連なのは確か。」


 カードはこれで全部だ。最後の"魔輝石"にはつい2人してテンションが上がってしまった。しかし、1つだけ。


「じゃんけんする...?」


 アキラが問いかけてくる。"なぜ"とは聞かない。そんなの分かり切っている。

 【ドラゴンの魔輝石】のカードを俺たちの間に置く。


「最初はぐー!!じゃんけん――」


「ポン!」

「ポン!」


 俺はパー。アキラはチョキを出した。


「っやったーー!」


 崩れ落ちる俺に、ガッツポーズをとるアキラ。ちくしょう...ちくしょう...。絶対レアなやつじゃん。周回しないといけないやつじゃん。

 大げさに悔しがる俺に、アキラがおずおずと話しかけてくる。


「ね、ねえジン。ほんとにもらっていいの...?」

「お前...、この期に及んで遠慮とかすんのか」


 さては、まだドラゴンを倒したのは俺だとか思ってやがるな。


「だって、やっぱり悪いし...」

「ドラゴンを倒せたのは俺たち二人が頑張ったからだ。アキラにはそれを受け取る正式な権利がある。」

「...ありがとう。ドラゴン倒せてよかったね。」


 アキラがようやく笑う。戦っている最中とはだいぶ様子が違って困惑するが、誰しもネガティブな一面は持っているものだ。


「よし、じゃあ睾丸は俺がもらうからな!これで平等だろ!」

「ええ...。ジンがそれでいいならいいけど。」

「なんで引き気味なんだ。絶対高く売れると思うんだがな」


 とにかく異論はないようなので睾丸のカードを自分の傍に置く。

 そのほかの分配は特にもめることもなく終わった。複数枚出たものは等分して、腱はアキラのものに、肉と胃袋は俺のものになった。


 無事戦利品の配分も済んだので少し気になったことを尋ねる。


「...ていうか、アキラって地球人?」

「あ、無意識にじゃんけんしてた。そうだよ、日本人。それ言うならジン日本人でしょ。」

「その通り、シミュレーション上とはいえ別の惑星に来たのに初遭遇が日本人とは...」


 もっと典型的なエイリアンに遭遇するかと思ってた。

 こちらを見つめるアキラの顔を見遣る。...まあ、可愛いしいいか。


「あはは、ごめんね。でもここら辺は普通の人型しかいないよ。似たような種族でまとめられているらしいから、あんまり異世界っぽくはないね。なんならジンが浮くくらいには普通の人間が多い。」

「普通の人間...。それって地球人ではないのか?」

「うん、違うね。違うけどほぼ地球人と同じ。不思議な話だよね、あらすじしか知らないけど星を継ぐものみたい。」


 アキラがSF小説の名作の名前をあげる。あれはどういう話だったか、昔読んだことがあるような気がするが思い出せない。


「俺たちの他に日本人はいるのか?」

「今のところ会ったことないかな。まあ、私もまだ一週間くらいしか経ってないから会ったことある人少ないけどね。」


「随分と打ち解けられたようで何よりです、それでは街まで戻りましょうか。アキラ様も一緒に戻られますか?」


 会話が途切れると、俺たちにソラスが声をかける。

 そう言えば俺はまだチュートリアルを終えていないんだった。まだチュートリアルを受けてるやつが戦う相手ではなかっただろ、あのドラゴン。まあ戦うって決めたのは自分なわけだが。


「ジンがいいならそうさせてもらおうかな?」

「全然構わん。ちゃっちゃと街へ行こうぜ。」


 ソラスに先導され森を歩く。街まで一直線のルートを通るようソラスに言ったおかげで、道中何度かモンスターに遭遇したが全て蹴り一発で倒せてしまった。レベル差の暴力ってやつだ。ソラス曰く、ここらには精々15レベルのモンスターしか現れないらしい。


「明らかにあのドラゴンだけ強すぎるだろ。どこで見つけたんだあんなモンスター」

「私もチュートリアルであの崖を見つけてね、あの崖の上は絶対隠しエリアだって思ったの。それで今日ようやく、レアなアイテムでもあるかなーって探索してたらあいつに遭遇したってわけ。初見殺しもいいところだったわ」


 これぞゲーム脳ってやつだな。だが、この世界はシミュレータらしいし、そういった考え方があながち間違いじゃない可能性があるのも怖いところだ。


「レベルはかなり上がったし、結果オーライなのか...?」

「もちろん結果オーライです。チュートリアルも終わらないうちにレベル30を超えた人なんて今まで聞いたこともありませんよ」

「まあ代行者ちゃんはそう言うよね。って、しまった。あのエリアの探索全然済んでない!」


 アキラは名残惜しそうに後ろを振り返っている。まさか戻るとか言い出さないよな...。


「ドラゴンもしばらくリポップしないだろうし明日以降でよくないか?あのドラゴンが(つがい)の可能性だってあるし」

「うう、いくらレベルが上がったからってあれを一人では厳しいなあ...」


 諦めたのかアキラは正面に向き直る。賢明な判断だ。レベルがさらに倍にでもならない限り一人では戦いたくない。


 3人で話しながら森を歩く。もう30分は歩いただろうか、代わり映えのない景色が続くが会話は途切れないので退屈ではない。


「お二人とも、もうすぐ出口です。」


 ずっと続くかと思われた【始まりの森】も終わりが近づいてきたらしい。木々の向こう側が眩しい。

 森を抜けると、そこには一面黄金色の畑が広がっていた。その奥には街が見える。随分と大きい街だ。その奥には海が広がっている。ここは港町なのか。


「きれいだな...」


 思わず声が出る。風に揺れる黄金色の絨毯が柔らかく太陽の光を反射している。


「皆さんそうおっしゃいますね。私もAIですが美しいと感じます。」

「私も最初見たときは感動したなー。緑の季節が楽しみ」


 森を抜けたところでソラスは立ち止まった。


「さあ、ジン様。これでチュートリアルは終了です。最後に何か質問等はございますか?今回のアキラ様のようにチュートリアル中の方に遭遇しない限り、ジン様と会う機会はほとんどないでしょう。」


 ソラスがこちらを見ている。

 最後の質問か、特に聞きたいことはないがそうだな...。


「俺は強くなれそうか?」


 願掛けみたいなものだ。ソラスならきっと肯定が返ってくる。


「ええ、きっと。ジン様は誰よりも強くなれますよ。」


 返事は思ったよりも力強いものだった。

 ソラスには確信があるのだろうか。俺の目をソラスの白銀の瞳が貫く。まるで俺の魂を見通されているような気分だ。なぜか、"誰よりも"という言葉が妙に耳に残った。





 黄金色の畑を一直線に貫く農道をアキラと並んで歩く。ソラスは俺とアキラに別れを告げるとあっさりと消えてしまった。


「あっ、人だ。」


 向こうから人影がこちらに歩いてくるのが見える。どうやら荷車を引いているようだが、農家の人だろうか。

 距離が近づくにつれてだんだん姿がはっきり見えてくる。


「あれは、猫の獣人?」


 近づいてくる人影は猫と人の合いの子のような姿をしていた。顔はほとんど猫だがしっかりと二足歩行している。袖から延びる腕は柔らかそうな毛に包まれていて、服で見えないがあの感じだとお腹も毛が生えているだろう。つまり、結構なケモ度というわけだ。あれならライトな獣人にありがちな、人間の位置の耳はどうなっているの問題を気にしなくてよい。


「あれはミグ人だよ。」

「え、あれがミグ人なのか。てっきり俺みたいなシェバズかと思ったが」

「ミグ人はみんなああいう姿なんだ。シェバズで猫の特徴を持った人はまだ見たことないね...」


 ミグ人は身長140cmくらいでかなりの小柄だ、子供なのだろうか。それとも種族全体が小さいのか。


「御使い様、こんにちは~」

「こんにちは!」

「こんにちは」


 すれ違いざまに、猫獣人ことミグ人と挨拶交わす。語尾に"にゃ"はつかないらしい。


「御使い様ってのは?」

「ミグ人たちは私たちシェバズのことをそう呼ぶんだ。彼らの信仰でね、この世界を作った存在を大神(おおかみ)様、代行者ちゃんたちを天使様、私たちは彼らが遣わした御使い(みつかい)様ってわけ。」

「なるほどね...。神様の実在が確定している宗教か。」


 信じがいのありそうな宗教だ。


「なぜ生きるのか、なんのために生きるのか。人が生きる上での永遠の命題だよね。それがミグ人達にはもう分かっている。それが幸せなことかどうかは...」

「ミグ人達に聞いてみるか?教会にでも行って司祭様に聞いた方がいいかな?」


 迂闊に触れるとうっかり地雷を踏んでしまいそうだ。耐性のあるであろう宗教関係の職に就いている人に最初は聞くべきか?

 遠くに目を遣りながら物思いにふけっていると、だんだん街が近づいてきた。街の中心辺りに塔のような一際高い建物が建っていたり、街の端には運動場のようなものも見える。


 数人のミグ人達とすれ違いながら農道を歩く。確かにみんな猫獣人で、皆が皆俺たちに挨拶をしてくれる。御使い様と呼ばれるだけのことはある。


 ミグ人達に手を振り返しながら歩いていればいつの間にか街にの入り口に着いていた。

 畑と街の境目はかなり曖昧だ。畑がなくなりただの地面になったと思ったら、徐々に建物が増えてきた。


 あれよあれよという間に視界が人と建物いっぱいになる。

 シェバズよりもミグ人の方が圧倒的に多い。シェバズは20人に1人いるかどうかくらいだろうか、そのシェバズは地球の人と同じ見た目の人ばかりだ。俺のような容姿の人は非常に少ない。

 シェバズ達は軒並み皆背が低いので、俺は頭4つ分くらいはみ出ていた。女子として平均的な大きさのアキラでも頭1つ抜き出ているのだ。俺は周囲のミグ人達からじろじろ見られていた。


「すごい活気だな。」

「でしょ、私も初めて来たときは驚いたなあ。人口5万人くらいいるらしいよ。」

「そんなに!?」


 森の入り口から街を見たときは大きい街だとは思ったが、さすがにそこまでの人口が詰まっているとは思わなかった。


 木と石で組まれた頑丈そうな建物が隙間なく建っている。大体が3階建てだ。今俺たちがいる道はかなり道幅が広いが、脇道はあまり広くない。こんなにも建物が密集していればこれだけの人口も収まるのか。


「えーと、これからどうするんだ?観光?」

「観光もいいけど、素材の換金と武器防具製作の依頼と住民票の取得しなきゃいけないから、先にそっちやらない?」

「前二つは分かるけど...住民票?随分近代的なシステムだが...機能してるのか?」


 あれってどの時代から使われだしたんだろうか。手作業で農業を行う技術力でもきちんと運用できるのだろうか。いや、そういえば魔法があるんだったな。良い感じの魔法があったりするのかも。


「機能はしてるんじゃないかな?公共サービスを利用するときは個人カードってのを見せないといけなくて、その個人カードの更新と一緒に住民票を更新するから普通は機能しているはず。」

「偽造対策とかは?悪いシェバズとか悪いミグ人とかもいるだろう」

「いるのかもしれないけど、どうにかなってるんじゃない?」

「随分適当だな...」


 まあ、細かい話なのでそうなる気持ちもわかるが。そのあたりはまた別の人にでも聞けばいいだろう。

 そうこうしているうちに辺りの建物よりも一際大きい建物の前までやってきていた。4階建てで横幅もほかの建物の3倍はある。看板が掲げてあるがその文字は読めない。


「ここで住民票の発行と更新ができるんだ。別の街に行ったらまずはこの街役場に行くべきだね。」

「随分大きな建物だと思ったら、公営ってことか。」


 大きな木製のドアを開く。

 ドアを入ると吹き抜けになった開放感のある空間が広がっていた。内装は現実世界の役所と似たようなものだ。順番待ちのための椅子が何列も並んでいて、奥にはカウンターがあり役人らしきミグ人が対応している。頭上に読めない文字が書かれたプレートが釣り下がっていて、文字の他にもイラストが描かれている。書類、お金、動物...なんとなく分かるぞ。住民票は書類のところのどれかだな。 


「まずは住民票をもらおっか。あそこの右から2番目のカウンターだよ。」


 そう言うとアキラは並んでいる椅子の方に歩いて行った。

 ああ、一人でやるのね。まだ未成年だから役所での手続きなんてしたことないが、ついてきてなんて女の子相手に言うわけにはいかない。それにまあ、何とかなるでしょ。


 歩くたびに木の床が小さくギシギシ軋む。風情があるな、なんて思っていたが俺の体が重すぎるせいか。

 歩いてくる俺に気づいたのか、カウンターで何やら書類の整理をしていたらしいミグ人が顔を上げる。灰色の毛をしたミグ人だ。瞳は緑。美人さんのような気がする。いや、ミグ人の顔の違いはあまりわからないが。


「いらっしゃいませ。ご用件はなんでしょう」

「今日この世界にやってきたんだが、住民票をもらえますか?」

「それはおめでとうございます。是非この世界を楽しんでください!それで、住民票ですね。ステータス画面を見せてくださいますか?」


 言われたようにステータス画面をミグ人に見せる。設定で他人にも見せれるように変更できるらしい。俺のステータス画面を見るとぎょっとした顔になる。


「ええ、レベル34ですか!?なにしたら一日でこんな高くなるんですか!?」

「チュートリアル中にドラゴンの相手をしているほかのシェバズと出会っちゃっいまして。倒したらこんなレベルに...」

「だからそんなにボロボロなんですか...。そんな無茶は今回だけにしとかないと、命がいくつあっても足りませんよ。」


 書類を埋めながら忠告をくれる。こちらとしても死にたいわけではないので、勿論ですと返す。あれはリターンは大きかったがリスクも大きすぎた。


「ありがとうございました、もう大丈夫です。続いて写真撮りますのでまっすぐ立って下さい。」


 記入はもう終わったらしいく、ミグ人の役人さんはカウンター下から一抱えもあるカメラのようなものを取り出した。

 証明写真を撮る気分だ。直立不動で待つ。


「はい、撮りま~す。」


 ガチャンという音が鳴る。こちらのカメラはこんな音が鳴るのか、随分物々しい音だ。

 カメラから写真が吐き出され、それを見た役人さんの顔が曇る。


「え、どうかしました?」

「いや、人相が...。あはは、角度が悪いですね」


 写真を手渡される。

 ...うわ、モンスターじゃん。冷たく見下ろすような角度が原因だ。確かにね。身長差60cmくらいはありそうだもんね。


「撮り直しましょうか。」


 役人さんがカメラを構え直したので、俺はひざまずいた。身長差を解決するにはこうするしかない。

 再度ガチャンという音が鳴り、写真が吐き出される。それを見た役人さんは満足そうに頷いた。どうやら今度は上手く撮れたみたいだ。

 

「ありがとうざいました。5分ほどで個人カードが完成しますので、正面ホールでお待ちください。」



 ミグ人の役人さんにお礼を返してカウンターを離れる。

 正面ホールとはこの部屋のことだろう。左右に通路があり、そこを通ればまた別の部屋につながっている。俺たちのいる客側は吹き抜けになっているが、カウンターから奥はそうなっておらず中二階のような見た目になっている。大きい建物だったから部屋の数もそれ相応に多いだろう。


アキラの姿を探すと、アキラは椅子に座っておらず壁の掲示板を眺めていた。


「カードできるまで5分くらいだってさ。張り紙読めるのか?」

「ううん、全く。描いてある絵を見て雰囲気だけ味わってる。」

「なんじゃそりゃ。」


 俺もアキラのように張り紙を眺めてみるがやはり文字は読めない。分からねーと思いながら掲示板を端から見ていると、やけに絵の面積の多い張り紙の一角があった。


「これって鎧狼ことイズスヴァンム君じゃないか?」

「なんで君付け...。そこの辺りはモンスター警戒情報だから多分そうだね。」

「ああ、この辺りはそうなのか。ドラゴンの情報は無いみたいだな」


 ざっと見た感じあのドラゴンの張り紙はないようだった。熊みたいなやつ、蛇みたいなやつ、羽の生えたやつ。いろんなモンスターがいるようだった。


「っていうか、イズスヴァンムと戦ったの?チュートリアルで?」

「そうだぞ。かなりの強敵だったな、あのドラゴン程じゃなかったけど」

「そりゃそうでしょ。けどイズスヴァンムもチュートリアルで戦うような相手じゃないはずだよ。あの代行者ちゃんも随分スパルタだね。それだけのポテンシャルを感じたからかな?」

「それはあるかも。イズスヴァンムの前の2回は余裕だったからな。」


 チュートリアルの3戦を思い出すが、そのあとにドラゴンと戦ったせいで今日のこととは思えない。戦ったのはあれが初めてだったのにあれだけ戦えたのはやはりこの体が優秀だからだろう。俺もミグ人が崇めているという大神さまという存在を崇めてみようかな?

 そんなことを考えていると他とは毛色が違う張り紙が目についた。フォーマットは他のモンスターの警戒情報と同じだが、これだけ紙が赤い。


「これってなんだ?これだけ紙が赤いが、強敵?」

「これは魔王だよ。ここから4つくらい離れた町で魔王が発生して行方が分からなくなっているんだって。」

「魔王が発生って、魔王ってクラスの一つじゃなかったのか?それとは別にモンスターにも魔王がいるのか?」

「魔王のクラスに就いたシェバズのことだよ。魔王のクラスになると狂ってしまうらしくてね、それで他のシェバズを襲うようになってしまうから討伐対象になってしまうんだって。」


 魔王のクラスに就くと強制的に人類の敵になってしまうということか...。かっこいい名前のクラスだがとんだトラップが隠されているらしい。ゲーム的に考えると、魔王に就いても狂わずに済む手段がありそうなものだがどうなのだろうか。


「討伐対象って殺すってことだよな?シェバズが殺すのか?」

「うん、そうだよ。この魔王のレベルは推定400オーバー。ミグ人をいくら集めてもどうしようもないからね。」

「400オーバーって...。」


 インフレしすぎだ。俺がそこまで追いつくのにどれだけかかるというのか。ていうか、その魔王とやらに出会ったらどうすんだ。


「ジンさ~ん、終わりましたよ~」


 背後から聞こえてきた声に振り向くと、カウンターで役人さんがこちらへ手を振っていた。個人カードが発行できたのだろう。


「いってらっしゃい」

「おう、すぐ戻る」


 カウンターへ戻り個人カードを受け取る。

 個人カードには顔写真と名前、レベル、クラス、居住地が書いてある。手触りはガラスに近いが力を加えても割れたりはしなさそうだ。顔写真は良く撮れている。悪人面ではない。


「これで初期登録は完了です。ミスタリアの街ようこそ!」

「こちらこそよろしく!」


 最後に役人さんとぐっと握手を交わして、アキラと建物を出る。なぜ握手をしたのかは分からない。だって求められたから...。ちなみに手のひらに肉球はなかった。心なしか柔らかかったような気はしたが。


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