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01-05 レッサードラゴン


 いつのまにか尻もちをついて座り込んでいた。魔法やばすぎないか?あんなの食らって生き残れるわけないだろう。


「ジン!まだだよ!」


 思わずアキラの方を向く。アキラは険しい顔をしてドラゴンを見据えていた。まるで生きていると確信しているかのようだ。


「はあ!?まだ生きてるってのか?」


 まさかとは思いドラゴンに目を向けると。...ああクソ、確かに生きていやがる。腹のど真ん中に黒く焦げ付いた跡があるが、胸が上下に動いている。なんて生命力だ。

 ...今なら俺たちに怪我はない。ヤツも手負いの状態だ。逃走するべきか?


「もう一発ならあれを撃てる。クールタイムは約5分。」


 いつの間にか傍までやって来たアキラはこちらを見てそう言った。

 アキラの言葉に一瞬呆けてしまう。その言葉の意味を理解できて、なんだか笑えてきた。アキラは全く諦めていない。それが当然のことように戦うつもりだ。

 ...そうだ、俺は怪我なんてほとんどしていないのに何で逃げ腰になっていたんだ。情けなくて泣けてくるぜ。


「10分だろうが20分だろうが、いくらでも時間稼ぎしてやる。すっころばせ放題だぜ?」


 せめて口だけでも勇敢に。アキラを見つめ返して軽口を言う。


「すっころばせ放題って...。なにそれ?」


 アキラがくすりと笑う。

 馬鹿丸出しの発言で笑いがとれた。これで俺の弱気はごまかせているといいが...。

 アキラの笑顔に元気をもらい、立ち上がって腰を伸ばす。あと5分耐えなければならない。まあ、頑張ろう。


 ドラゴンはもう立ち上がろうとしていた。

 もっと休んでてもいいのに。少なくとも5分くらいは。


「5分経つまでは私も援護するわ。」

「そいつは助かるが、あんまり消耗されると困る。正面は俺が受け持つから、チクチク援護する程度でいい。」


 アキラの魔法だけが唯一のダメージソースだから、撃てなくなればもう退散するしかない。できれば俺一人で時間を稼ぐくらいのことはしたいが、ドラゴンの相手はそんな余裕ではない。


「それは分かってるけど、本当に5分持たせられそう?」

「アキラの援護アリなら、奴が死ぬ気で抗っても5分は持たせる。それよりも問題は転ばし方なんだよな。同じ手が2度通じるかが読めなくて怖い。」

「これまで戦ったモンスターはあんまり賢くなさそうだからいけそうだけど...」

「あんまりモンスターを甘く見たくはないんだが、って来たな。」


「GAAAAAAAAA!!」


 ドラゴンはすっかり元気そうに俺たち目掛けて突進してくる。


「私が横やりを入れて隙を作るから、そこから指斬れそう?」

「とりあえず、それでいくか。無理ならその場で考えるしかない。行け、アキラ」

「アイツ、絶対に倒してやろうね」


 アキラがドラゴンの進路から外れるように移動したのを見て、俺は前に出る。狙い通りドラゴンは俺を目標にしたようだ。アキラを狙うような動きは見せていない。

 十分引き付けてから俺もドラゴンの突進から逃れるべく横へ駆け出す。ドラゴンも俺を追うように進路を変えるが、急には曲がり切れずその突進はなにも捉えることなくドラゴンは地面を削りながら止まった。


「さあ、もう1ラウンドだ」


 剣を構え、ドラゴンに近づく。ドラゴンが突進を選択しない距離を意識する。先のように距離があるなら余裕をもって避けられるが、中途半端な距離だとうっかり食らってしまう可能性がある。あれだけの質量だ。まともに食らえば一発で終わってしまう可能性がある。

 緊張で手に汗がにじむのを感じる。大丈夫、この体は優秀だ。見かけはドラゴニュートみたいなもんだし、半分くらいはドラゴンと言っても過言ではない。


 ドラゴンがぐっと一歩近づく。ドラゴンは前と同じように噛みつきを放ってきた。相変わらず避けることができないその攻撃を、一撃受けるたびに数歩後退させられながら防ぐ。前の焼き直しのような展開で、決して余裕があるわけではない。防ぎ損ねればそのまま終わりかねないし、腕にもやがて限界が訪れる。


 一撃を防ぐたびに腕がきしむような攻撃を数度しのぐ。反撃のタイミングをうかがっているが、さっきのようには出来ない。攻撃が以前のように単調でなくなっている。

 なるほど。モンスターも学習するようだ。俺の動きを学習されたらたまったもんじゃねえぞ。


 アキラも援護に苦戦しているようだ。時折≪一閃≫の淡い光が視界の端に映るが、鱗に阻まれる音が鳴り響いている。ドラゴンは攻撃と攻撃の間にアキラを押しつぶすように、もしくはアキラから逃げるように立ち位置を変えるせいで狙いがつけにくいのだろう。ドラゴン賢いね...!


 さらに、3度の攻撃を防ぐ。

 まずい、腕にかすかだが痺れを感じる。そろそろ、状況を打開しなければ。さっき足元に入った時はタイミングを掴めていても鱗が擦れ合うほど余裕を削らなければならなかった。ならば、無理矢理足元に入るなら身を削るのか?果たして身を削ればいけるのか?


 ――違う。

 さらに一撃を防ぎながら、偏りそうになる思考を正す。脳にかすかな引っ掛かりがあった。

 身を削るなんてのは最終手段だ。まだ手は残っている。≪一閃≫だ。≪一閃≫の詳細は、"斬撃に補正を与える"だ。"斬撃"。あいまいな言葉だ。もしかしたら、まるで盾のように攻撃を防いでいる剣だろうと、それを迎撃していると解釈すれば補正をかけれるのではないか?振らなければいけないというのは思い込みだ。


 所詮は思い付き。しかし試す価値はある。

 もう何度目かの噛みつきを防いで、俺の足で数歩分の、ドラゴンの足で1歩分の距離が開く。次の一撃に≪一閃≫を載せるべく集中高める。


 しかし、ドラゴンは噛みつきをしてこなかった。ドラゴンは後ろ足で立ち上がった。


「――はっ?」


 つまり、俺はドラゴンよりも一歩遅れていたということだ。ドラゴンは賢い。そのことを過小評価していた。魔法をぶち込めたことで助長していたのだろうか。


 ドラゴンの前足が振り下ろされる。咄嗟に一歩下がったことで踏みつぶされこそしなかったが、ドラゴンの前足は地を砕き、俺は転ばないようにするので精一杯でもう動けない。


 ドラゴンは俺をにらみつける。蛇に睨まれたカエルの気分だった。死の予感が脳裏をよぎる。

 ドラゴンはぐっと姿勢を低くすると、俺目掛けて突進してきた。一歩の助走だろうとあれをまともに食らえば死ぬのだろう。


 剣を握る手に力を籠める。噛みつきを防ぐ時と同じ構え。死地にあって冴えわたる脳は、俺の生き延びる道が≪一閃≫にしかないことをよく分かっていた。


 瞬きの間にドラゴンの頭と剣がカチあう。右手で柄を握り、刃の中ほどを左手で抑える。剣は振るわれていない。だがこれは斬撃なのだと、心で言い張る。


「≪一閃≫!!」


 喉がつぶれんばかりに叫ぶ。


 果たして≪一閃≫は発動した。剣に淡い光が灯り、砕けた足元で踏ん張りがきかない中で確かに突進の勢いが減じる。

 しかし、全ての勢いを殺すことは到底できなかった。当然だ。質量が違いすぎる。【鎧狼の爪剣】が砕け、ドラゴンの頭が胸を打つ。


「ぐおおおおおぉぉぉォォ!」


 痛み。慣性。痛み。吐血。

 高速で吹っ飛ばされた俺は地面を転がり、木にぶつかってようやく止まった。

 めまいがする。視界が暗い。

 飛びそうになる意識を必死でつなぎとめる。ここで意識を失うことは死ぬことと同義だ。

 霞む視界でドラゴンのいた方を捉える。ドラゴンは俺にとどめを刺しに向かってきていなかった。アキラと戦っている。


「クソ...」


 時間を稼ぐと言っておきながらこのざまだ。後悔が山ほど浮かんでくるが、何よりもまず戦いに戻れるようにならなくては。

 脳はまだ冴えていて、すぐにポーションを思い出した。幸いにも割れたりしていないようだったそれを見よう見まねで胸に刺して使う。


「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」


 体が熱を持つ。痛みはひかないが、体が再生していくのを感じる。これで大して効いてなかったら承知しねえぞマジで。

 痛みに耐えながら体の状態を確認する。手足は鱗が数か所剥がれているが折れていない。鱗がなければ抜き出しの腕は擦り傷だらけになっていただろう。


 問題は武器だ。【鎧狼の爪剣】が折れてしまった。さんざん酷使してしまったから折れてしまうのも仕方ないのかもしれないが、こんなタイミングで折れてしまうとは。そこらに落ちてる木の棒で戦うのか?アキラが予備の武器を持っているといいが。


 アキラは堅実に戦っているように見えるが、明らかに力負けしている。あの状況もいつ崩れるか分からない。

 木に寄りかかりながら、今だ熱を持つ体で立ち上がる。早く戻らなければ。...ふと足元に散らばったカードが目に入る。転がるうちにこぼしてしまったらしい。【鎧狼の爪】が二枚。なんだ、立派な武器があるじゃないか。


「展開」


 展開した二つの爪を握る。長さは60cm程で、根本は鋭くなっていないので意外と握りやすい。この長さに、端の丸み。この爪は骨が変質したものなのだろう。


「俺はまだ生きてるぞォ!」


 アキラを追い回すドラゴンに吠える。お前の相手は俺だと言っているだろうが。

 ドラゴンがこちらを向く。憎しみのこもった眼だ。


「ジン!大丈夫なの!?」


 こちらを向いたドラゴンを引き付けるようにアキラが≪一閃≫を放つ。ドラゴンはまたアキラの方を向く。


「ポーションで治した!」


 もう痛みはだいぶ引いた。ドラゴンへ歩き出す。

 そういえば≪一閃≫の試みも上手くいったのだった。武器が爪の変則2刀流になろうがまだまだ戦える。もう不覚はとらない。やつは狩りを行うだけの知恵がある、それを肝に銘じる。

 ドラゴンへ駆けだす。アキラが正面に立つのはリスクが大きすぎるのだ。俺が早く行かないと。

 近づく俺を見てドラゴンは吠える。アキラよりも俺を優先している様子だ。随分とヘイトを買ってしまっているらしい。こちらとしては好都合だが、なぜなのだろうか。


「すまん!任せちまった!」


 ドラゴンの正面に立つ。ついさっき半殺しにされた相手だが、恐怖心はない。あるのは心の内で燃え上がる闘争心だけだ。


「気を付けてね、あと1分くらいで魔法が打てるはず」


 アキラがドラゴンの視界から外れるように移動する。アキラに目立った怪我はないが、体力や魔力の消費は見ただけでは分からない。


「あと1分...余裕だな」


 口角が釣りあがる。ポーションで回復したとは言え、完治には程遠い。立っているだけで息が乱れるし、息をすれば肺が痛い。だが、余裕だ。口に出したことが真実なのだ。


「GUAAAAAA!」

「オラアアァァッ!」


 ドラゴンの噛みつきを、爪剣を揃えて受け流そうとするが力が足りない。噛みつかれることは避けられたが、腕を押し切られ鱗が肌を擦る。やすりをかけられたような痛みが走り、鱗が数枚はじけ飛ぶ。


「効かねえぞォ!」


 痛みに負けぬよう声を張る。

 今度は前足が振るわれる。踏みつけとはまた違う初見の攻撃だが、未知の攻撃ではない。咄嗟に右手の爪剣を合わせ爪の直撃は避けたが、またドラゴンの硬質な鱗が肌を傷つける。

 力も何もかもが負けている。だが、心だけは折れない。


 繰り返し襲い掛かる噛みつきと前足を捌く。

 ドラゴンの攻撃は噛みつきと前足の薙ぎ払いが主だ。地を砕く踏みつけや、突進は基本的には使わないのだろう。

 生傷を負いながらも攻撃を捌いていくうちに爪剣の変則2刀流にも慣れてきた。噛みつきは無理だが、前足は傷を負わず捌けるようになった。なんなら、長剣一本よりもこっちの方が戦いやすいまである。

 コツは左右の役割分担だ。攻撃のベクトルを変える方と力で押し切る方。そのバランスが大事だ。


『≪双剣の術理≫を習得しました。』


 脳内に声が響く。この世界も認めてくれたぞ。

 迫る噛みつきに爪剣を当てると、明らかに感覚が違う。確信とともに腕を振りぬく。


「反撃開始だオラァ!」


 ドラゴンの巨大な頭部が体の横を通過する。傷は負っていない。力ではなく技術で受け流した感覚だ。これで防戦一方の状況から抜け出せる。


「魔法いける!」


 アキラが叫ぶ。これで準備万端だ。

 しかし、ドラゴンが攻撃を止める。攻撃の手ごたえが変わったことに気がついたのだろう。


 今度は俺から攻めるべきか。だが、今の武器でドラゴンの指を斬り落とすのは無理だ。足の裏を突き刺せばドラゴンは倒れるだろうか。あるいは...。


 考えている間にドラゴンが一歩踏み込み、前足を高々と持ち上げる。忘れもしない。それはもう見たぞ、二度は食らわない。立ち上がるそぶりを見せた瞬間からできる限り後退する。一歩、二歩、三歩が限界だ。

 踏みつけが大地を砕くが、もう影響範囲は脱している。ドラゴンが姿勢を下げ、突進の予備動作を見せる。

 砕けた地面に足をとられていた前回は不意打ちのように食らってしまったが、今度は心構えができているぞ。カウンターを決めてやる。


「≪一閃≫!」


 ドラゴンの出足を潰すように前に出て、初速に乗れていないドラゴンの鼻先に≪一閃≫を二撃当てる。鱗に阻まれ血の一滴さえ出ないが、不意打ちを当てたことでドラゴンから完全に主導権を奪い去ることができた。


「アキラ!魔法の準備だ!」


 アキラに合図を出し、俺を払いのけるように振るわれた前足を紙一重で避ける。鱗が擦れ血が出るが無視だ。1ミリの距離さえ惜しい。


 空振りした前足を踏みつけ跳び上がる。目の前に跳び上がってきた俺の狙いに気づいたのか、ドラゴンは硬く目を閉じるが、構わずドラゴンの目へ右手に握った爪を突き立てる。【鎧狼の爪剣】は突きが得意な武器だった。なら元になった【鎧狼の爪】も突きが得意なはずだ!


「貫けえええェ!」


 渾身の力を込めて右手に握った爪を突き立てる。確かな抵抗を感じたが、【鎧狼の爪】はドラゴンの目に突き立った。


「GAAAAAAAAAAAAAA!」


 ドラゴンが悲鳴をあげ、めちゃくちゃに暴れまわるが、右手は決して離さない。ドラゴンの鋭い爪が背を切り裂くが知ったことか。まだだ、これではドラゴンは倒れない。

 左手も鱗を掴み、痛みに耐えタイミングを計る。――ここだ!暴れまわる不規則な動きに合わせ全身を振り、ドラゴンの目に刺さった爪を支えに逆立ちをするように体を上げる。爪で目をかき回される形になったドラゴンはさらに悲鳴をあげるが、重い一撃はこれから来るんだぞ?

 そのままドラゴンの頭を飛び越えるように頭の反対側へぐるりと回る。ドラゴンは目に刺さった爪に引っ張られるように首が回るが、可動域には限界がある。90度を少し超えたあたりが限界で、それ以上は自然と体ごと回ることになる。


「対ドラゴン合気道【一ノ型】ァ!」


 華麗に着地を決めた俺に対し、ドラゴンは土煙をあげて倒れこむ。アキラに意識を向けると、アキラのいる方向から魔力を感じる。さっきよりも強力そうなのは気のせいか?いや、ともかく離れろ!


「いっけえええ!」

「≪雷光一条≫ォ!」


 ドラゴンから十分離れたところでアキラの魔法が放たれる。背後から轟音と閃光が押し寄せる。ドラゴンの悲鳴が聞こえたような気がしたが、あの轟音の中だし気のせいかもしれない。あるいは魂の断末魔だからこそ届いたという可能性も...。だめだ、気が緩んで思考が変な方へ流れる。


「やったなアキラ、――おい大丈夫か」


 アキラが苦しそうに膝をついている。駆け寄ると気怠そうにこちらを見上げてきた。


「うん、大丈夫。魔力切れだね。ここまでしんどいとは思ってなかったけど」

「そんなにしんどいものなのか?」

「結構ね。ぎりぎり歩けるかなって程度。しばらく休ませてもらってもいい?」


 そう言うとアキラはおしりを着いて座り込んだ。

 魔力切れってのは随分としんどいものらしい。俺には魔力を消費する手段すらないので分かりたくても分かれない感覚だ。


「時間はたっぷりある。好きなだけ休んでけ」

「ありがと。あ、そうだ。レベルはどれだけ上がったかな?」


 そう言ってアキラはステータス画面を操作するようなそぶりを見せる。顔色は悪いのに随分と楽しそうな手つきだ。

 アキラは今ステータス画面を開いているはずだが俺には見えない。どうやら、他人のステータス画面は見えないらしい。


「えっ...」


 アキラが声を上げる。俺もレベルを確認しようとステータス画面を開こうとした手が止まる。


「どうした?」

「...レベルが上がってない。」


 それはまさか...。

 倒れ伏すドラゴンに目を向ける。あいつがレベル5でしたなんて訳はない。ならば――


 土煙の中、ドラゴンが身じろぎをするのが見えた。


「生きてる...!」


 アキラは青白い顔で呆然と呟く。

 まだ終わっていない。思考を切り替えて現状を確認する。アキラはもう戦闘は無理だ。歩くのもままならない状態では逃げることさえも。ならば俺が戦うしかない。腕には裂傷が多数。背中の傷は浅くない。だが、まだ走れるし腕も振れる。武器を落としてしまったがことだけが問題だが、それだって隙を見て拾えばいい。


「俺がとどめを刺す。負けるつもりはないが、万が一がある。アキラは出来るだけ距離をとってくれ。」


 そうアキラに告げ、ふらつく足で立ち上がるドラゴンへ向かう。

 冗談みたいな威力の魔法を2発も食らってまだ立ち上がれるとはなんて体力だ。実は残り体力1ドットで、つついたら死にましたなんてことならいいが、期待するだけ無駄だろう。手負いの獣が一番恐ろしいという言葉がある。今のドラゴンはその状態なのかもしれないが、それは俺だって似たようなものじゃないか。


「GOOOOAAAAAAA!!」


 目の前に立つ俺へ向けドラゴンが咆哮を上げる。あまりの音量に肌がビりつくが同時に闘争心が沸き立つ。ドラゴンはこちらへ歩いてこなかった。もう歩けないのか、あるいは回復に専念しているのか。


「威嚇で俺がビビると思うなァ!」


 俺も咆哮を返す。ドラゴンのそれとは比較にもならないが、ドラゴンの逆鱗に触れたらしい。さらに大きな咆哮が返ってきた。


 体にまで振動が伝わる咆哮にも恐怖心は湧かない。ドラゴンまで俺の足で4歩の距離まで近づいた。

 初手は噛みつき。速度は当初と比べれば速くない、ダメージは積もっているのは確実だ。しかし俺も血を流しすぎた。避けられず、腕を盾に受け流す。またも鱗が傷をつける。


「効くかァこんなもン!」


 声で心を奮い立たせて、連続して放たれる噛みつきを防ぐ。腕が血だらけになるが声を出して耐える。


『≪竜の鱗鎧≫を習得しました。』


 脳に声と共に、スキルの概要が流れてくる。鱗が頑丈になるスキル。その効果はすぐに実感できた。

 もう何度目かの噛みつきを左腕で防ぐが、今度は腕が傷つかない。互いの鱗が欠け、破片が飛ぶ。


「これで対等だァ!」


 左に流れたドラゴンの顔を渾身の力で殴りつける。

 拳を覆う鱗にひびが入るが、それはドラゴンの頬の鱗も同じだ。こっちがどれだけ我慢したと思ってやがる!


 互いに棒立ちで攻撃し合う。鱗が欠け、血が飛び、荒い呼吸が交差する。脳内麻薬で痛みを感じない。今は互角に打ち合えているが、このままでは体力の差で俺が先に力尽きる。だが状況を打開する方法が脳の片隅にもう引っかかっている。


 半ば反射的にドラゴンの腕を殴りながら体内に意識を向ける。俺は魔力に関係するスキルを持っていないが、アキラの魔法に肌の下がザワつくあの感覚を覚えていた。それを取っ掛かりに魔力の存在を捉える。アキラのあの魔法が使えるとは思わないが、何かに手が届く確信があった。


 どこだ。


 鱗が飛ぶ。


 どこだ。


 血が飛ぶ。


 ――そこか。


 魔力の扱い方が本能的に分かった。これは人の精神に反応するエネルギーだ。強い意志で制御するものだ。深淵を除いているような気分だ。脳の深くで何かと繋がる。――来た。


『≪雷光一条≫を獲得しました。』


 大当たりだ。思わず笑ってしまう。


 ドラゴンの横っ面を殴りつけて距離をとる。ドラゴンは距離を詰めてこない。互いに一息入れましょうの合図だと思ったか?魔力を捕まえる前に俺の体力が尽きる可能性もあったが、もう俺の勝ちだ。


 魔力を励起させる。自分の意志でエネルギーを自由に動かせる高揚感が心を満たす。

 魔力の高まりを感じたドラゴンが慌てて距離を詰めてくる。ドラゴンを殺しても死体に押しつぶされるかもしれないが、構うものか。


「≪投槍一擲≫」


 そのときドラゴンが足を滑らした。いや違う。――アキラだ。スキルで槍を投げたのだろう。足に槍が刺さっている。

 ドラゴンの勢いが減じる。これならば俺が潰されることもないだろう。


「≪雷光一条≫」


 投げ槍を構えるように雷の性質を帯びた魔力を構える。狙いは顔面。鱗のひび割れた部分。


「くらえええええェ゛ェ゛!」


 渾身の力で雷光を投げつける。

 轟音、閃光。投げた瞬間に着弾する雷は狙いに違わずドラゴンを貫いた。

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