01-04 アキラ
鎧狼が光となって消えていく。
ドロップしたカードは【鎧狼の骨鎧】が2枚、【鎧狼の尖爪】が2枚、【鎧狼の皮】が1枚、その他内臓が5枚ほどだった。
これで剣がもう2本作れるな。三刀流ができてしまう。
「お疲れ様です、ジン様。肩のお怪我は大丈夫でしょうか。」
ソラスが笑顔で近づいてくる。
ソラスに言われるまで肩の傷を忘れていた。傷に目をやると血がもう流れていない。
「傷がふさがってる?」
「ジン様はリザードマンでしたからね。リザードマンは治癒能力が高いことで知られている種族なのです」
「治癒能力が高いって、こんなすぐに傷口がふさがるレベルなのか」
医者いらずってレベルじゃねーぞ。
「怪我をされた方のために治療ポーションを用意しておいたのですが...。とりあえず渡しておきましょう。使い方は簡単、体のどこかに刺して後端を押すだけです。」
ソラスは細長いペンのようなものを手渡してきた。ポーション言うと経口摂取の水薬を想像したが注射に近い。文明は進んでいないという話だったが、これは何で作られているのだろうか。
また今度怪我した時に使ってみるか。とりあえず、すぐ取り出せるように剣帯の隙間に差し込んでおこう。
「そう、途中でクラスに就いたんだ。戦士っていう簡素な名前だったのに戦闘がすごく楽になったよ。」
「ああ、≪戦士≫に就かれたんですか。汎用性が高くてあらゆる場面で役に立つクラスです。それとアクティブスキル≪一閃≫も習得していましたね。ステータス画面のスキルのページにも追加されているはずですよ。」
言われたのでスキルのページを開く。スキル一覧に【一閃】が追加されていた。
【一閃】Lv1
斬撃に補正をかける。レベルが高くなるほど補正上昇。
「思ったんだが、説明が簡素すぎないか?」
「自動生成ですのでなんとも...。それに、全てを書き出そうとすると書ききれないくらいの補正が乗りますので...」
ソラスは困った顔をしている。なるほど、自動生成なのか。確かに世界全てを作るのはAIに任せる仕事ではない子も知れない。
ついでに戦闘ログも確認しておく。
クラス【戦士】に就きました。
スキル【一閃】を習得しました。
イズスヴァンム Lv10 を討伐しました。
レベルが7に上昇しました。
「まあいいか。これでチュートリアルは終わりか?戦闘はだいぶ勝手が分かったよ。」
「はい、これでチュートリアルは終了です。お疲れさまでした。それでは、森を抜けたところまで案内しますね。森を抜ければ街が見えますので迷うことはないでしょう。」
そう言ってソラスが歩き出したとき、がさがさと頭上から音が聞こえた。
2人揃って見上げると、崖の上から大きな影が飛び出してきた。
「なんだあれ!?」
大きな四つ足の生き物が鳴声をあげながら足をばたつかせる。謎の生き物は俺たちの頭上を越えて、木々をなぎ倒しながら地面に墜落した。かなりの重量があるのだろう、こっちにまで衝撃が届いた。土煙のせいで様子が分からないが、剣を抜き何が起こっても対応できるようにしておく。
「今あれの上に人が乗っているのが見えた。ソラスも見えたか。」
「ええ、見えました。私の権限でもあそこにシェバズが一人いるのが確認できます。おそらく戦闘中なのでしょう。」
「随分と無茶をするやつもいるもんだ。手助けしたほうがいいのか?」
「彼女が手助けを欲しているかどうか次第ですね。アイテムカードのドロップは人数が増えても変わりませんので、報酬でもめる可能性もあります。」
手を出すなら、声をかけて確認からにしたほうがよさそうだ。というかそもそも、位置関係的に俺たち逃げられなくないか?後ろは崖、正面にでかいモンスター。上手く横をすり抜けられるだろうか。
「GOAAAAAAAAA!」
耳をつんざくような鳴声が聞こえたと思ったら、煙の中から人が飛び出してきた。自分で飛んだような飛び方じゃない。
受け止めるべきか?――――いや、必要ない。ちゃんと自分の姿勢を把握している。
槍を持った、髪の長い少女だ。慌てている様子はない。
少女は片手両足をついて着地し、足で地面を削りながら勢いのまま俺たちの前まで滑ってきた。膝を払いながら立ち上がった少女は、後ろにいる俺たちに気づいたのかこちらへ振り向いた。
「えっ、リザードマン!?」
少女はこちらを見るなり大声をあげる。
赤みがかった黒髪を背中の半ばまで伸ばした目の大きな少女だ。身長は160cmくらいで痩せ型だが胸は小さくない。ホットパンツに太ももの半ばまでを覆う頑丈そうなブーツ、腹には小さなポーチを巻いている。
「正解、リザードマンだ。何と戦っているんだ?」
「えっ、ああ。あいつはレッサードラゴンっていうらしいよ。絶対レアアイテムとかあるでしょ、って思って崖の上を探索したらうっかり遭遇したんだ。ところで、代行者ちゃんといるってことはまだチュートリアル中でしょ、リザードマンさんは逃げた方がいいよ。たっぷりヘイト買ってるから私しか見えてないから大丈夫。」
少女はソラスを一瞥すると顔を正面に戻した。
完全に一人で戦うつもりらしい。どうしたものかと思いふと少女の足に目をやると、地面にシミを作るほどの血が流れていることに気づいた。革鎧が暗い色をしているせいで気づかなかったが、結構な出血量だ。
「おい、足を怪我してるじゃないか。一人で戦う気か?」
「ええ、もちろん。あいつはここらでは破格のレアモンスよ。逃す手はないわ。」
少女は歯を見せて笑う。レアモンスって...。あきれたゲーム脳だ。だが、レアモンスという響きに惹かれてしまう自分もいる。
「レアモンス狩りか、気に入った。俺も一枚かませてもらっていいか?」
独り占めなんてずるいじゃないか。
少女の隣に並ぶ。少女は怪訝そうに俺を見上げる、歓迎されてはいないみたいだ。
「足手まといはいらないよ?」
「足手まといにはならない。なると判断したら見捨ててくれていい。いや、潔く逃げ出すなり自決するなりしてやろう。」
「自決って...。それ本心から誓えるの?口だけの人間は嫌い。」
少女は睨むように俺の目を見つめる。
あまり迫力はない。だが、強い意志を感じた。
「誓う。自分の始末は自分でつける。ドラゴンだろうが何だろうが、絶対に勝てる。」
少女の目を見つめ返す。大きな瞳に俺の顔が映るのがよく見えた。
少女は確かめるように俺の目を見ていたが、納得したのかまた前を向いた。
「...そう、なら作戦会議。あいつの鱗、あほみたいに硬いの。私の全力の魔法でも通らない。だけど鱗に覆われていないお腹ならきっと通るはず。私も手伝うからお腹に魔法を当てる隙を作って欲しいの。あいつの動きは早くないんだけど...。できそう?」
「ああ、できる。任せろ。」
ドラゴンの姿さえまだ見ていないが、できると言い切る。根性論万歳だ。
あ、ソラスのこと忘れてた。森の入り口まで送ってくれるっていう話だったのに、それを無視して勝手に新たなモンスターと戦うことになったが怒ってないだろうか?
「ソラス、てなわけでドラゴンと戦うんだが、いいかな?」
振り返ってソラスに確認をとると、意外にもソラスは笑顔だった。
「ええ、構いませんよ。苦戦は魂を磨き上げます。ですが、くれぐれも命だけはお大事に。お二人とも頑張って下さい。」
ソラスは笑顔で姿を消した。怒っているかと思ったがニッコリ笑顔だった。
...まあ、怒っていないならいいか。俺たちを呼んだ目的に沿った行動だから許してくれたってことかな?あ、そうだ。ソラスで思い出した。
「さっきこれもらったんだ。これ使ってくれ。」
少女にポーションを差し出す。足を怪我している状態ではまともな戦闘は無理だろう。
「これ?ああ、ポーション。使わなかったってことは、ちょっとは信用できるってことだね。けど大丈夫、自分のがあるから。」
少女はポーチからポーションを取り出すと、首に刺して後端を押した。プチリという小さな音が聞こえたような気がしたが、それだけだ。少女は空の注射器をポーチにしまうと、こちらにニヤリと笑いかけた。
「さあ、行こう。あいつを倒してやろう」
「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」
少女がそう言った瞬間。ドラゴンの咆哮が響き渡る。
咆哮で煙が晴れる。そこには太い4足で地に立つ、体長7mほどのドラゴンがいた。ドラゴンと言っても翼はなく、全身が黒い鱗に覆われている。
「そうだ、私アキラっていうの。あなたは?」
ドラゴンを観察しているとアキラが話しかけてきた。そういえば自己紹介もろくにしていなかったな。
「俺はジンだ。よろしく、アキラ。」
「こちらこそよろしく、ジン!前足重点狙いでいくよ!」
そう言うとアキラはドラゴンへ駆けだした。
俺が隙を作るって話なのに随分とアグレッシブな少女だ。俺に任せっきりにするつもりは毛頭ないらしい。
遅れるまいと俺もドラゴンへ駆けだす。
アキラがドラゴンの右側に向かったのを見て左へ向かう。出だしこそ遅れたが同着だ。2人同時にドラゴンへ攻撃を繰り出す。
「≪一閃≫」
「≪一閃≫」
繰り出す攻撃は2人同じだ。俺は長剣、アキラは槍でそれぞれ≪一閃≫を放つ。
俺の≪一閃≫は鱗に覆われた部分に直撃し、手が痺れるような反動が返ってくる。俺の≪一閃≫は鱗の端を欠けさせたくらいで、何の痛痒も与えていない。アキラの言葉を疑ったわけではないが、まさかここまでとは思わなかった。これは攻撃が通らないわけだ。
「ちゃんと鱗のないところ狙ってよ!」
反対側にいるアキラに怒られる。アキラの方を見てみると、ちゃんと前足の内側、鱗のない部分を切りつけていた。しかし、血はほとんど流れていない。皮まで硬いのかよ。
「すまん!次は上手くやる!」
アキラに叫び返しながら距離をとる。まだ様子見だ。
アキラを正面に捉えようとドラゴンが旋回する、と思った瞬間にはもう目の前に太い尻尾が迫っていた。
「!?、うおおぉ!」
とっさに剣で頭上に逸らすことができたが、こいつ、想像以上に動きが速い。こんな巨体をしているのに鎧狼よりも素早い動きをしているかもしれない。
そんなドラゴンに狙われたアキラだが、上手く逃げれている。攻撃をほとんど避けれているし、槍での受け流しも上手い。そういえばアキラは何レベルなのだろうか。戦い慣れしているようだが...。
って、違うだろ。俺がヘイトを集めなきゃいけないんだ。
「こっち向けやァ!」
タイミングを計り、無防備にふらふら揺れている尻尾へ≪一閃≫を放つ。尻尾は鱗に覆われている面積が比較的小さい。俺の一撃はドラゴンの鱗に覆われていない箇所を斬りつけた。鮮血が飛ぶと同時に、ドラゴンが吠える。お前の相手は俺だ、さっさとこっちを向きやがれ。
「ナイス、ジン!」
ドラゴンは今度はこちらを向いた。ドラゴンの狙いから逃れたアキラからお褒めの言葉が飛ぶ。
アキラの魔法を腹に当てるにはヤツをひっくり返すのが一番だが、一体どうやって...。
「GYUAAAAAAAA!」
俺を正面に捉えたドラゴンが首を伸ばして噛みついてくる。大ぶりな攻撃なのに回避は難しい。反撃する隙なんて無い。ドラゴンの頭がデカイから回避に必要な動きが大きいのだ。
どうにか剣で受け流そうとするが、力が足りない。一撃を防ぐだけで数歩後退させられてしまう。
二回、三回。噛みつきを防ぎながら魔法を当てる隙をどう作るか考える。
足を斬り落とせば問答無用で転ばせられるが、丸太よりもよっぽど太い鱗に覆われた足を斬り落とすなんて剣の達人でもない限りは無理だろう。
「ならば、指だ。」
悪くないひらめきだ。足は無理でも、比較的細い指なら斬り落とせるだろう。狙い目は着地の瞬間だ。普通に立っている状態では例え指を斬り落としても転ばないかもしれない、片足を上げるよう誘導してから指を斬り落としてやろう。
「アキラ!こいつの指を斬り落として隙を作る!準備を!」
アキラへ狙いを伝える。了解との返事が聞こえると同時に、後方から空気がピリつくような感覚が押し寄せる。咄嗟に後ろを振り返りそうになるのをこらえる。さすがに、真正面のこいつから目をそらすことは出来ない。
それにしても、これが魔法というやつか。これは期待できそうだ。いつかは俺も使えるといいんだが。
もう何度目かの噛みつきを紙一重で避ける。ようやくタイミングが掴めた。前へ出る余裕を作るために鱗が擦れ合うほどの距離ですれ違う。ドラゴンのとがった鱗が腕に擦り傷を作るが無視だ。無防備にされされている首に攻撃したいが、どうせ通らないので我慢する。ほぼ犠牲を払わずに足元に潜り込めたぞ。
俺が足元にいるせいでドラゴンは噛みつくという選択肢をとれない。ならばお前は――
「そうくるよなァ!」
狙い通りドラゴンは右足を大きく振り上げた。
極限まで意識を集中させる。失敗すれば踏みつぶされてしまうかもしれない、という恐怖心をねじ伏せる。ゆっくりと流れる時間の中でドラゴンの前足がよく見えた。縦長で指は4本生えている。大きな鋭い爪が生えた指が前に3本、大きく曲がった爪の生えた指がかかとから1本。3本の中では外側の指が一番細い。骨ごと斬れるだろうか?
「――ぉぉぉおおおおオ!!」
腹から声を出して上段に剣を振るう。剣は淡い光を放つ。≪一閃≫により加速した剣は、振り下ろされるドラゴンの指と指の隙間に吸い込まれてゆく。刃が肉を割く感触、刃が骨に当たる感触。骨までは断ち切れず、刃が止まる。...くそが、止めてたまるか。
「オオオアアア゛ア゛ア゛!」
全身に力を籠め、喉が焼けるほどの大声で無理やりに剣を振りぬく。
硬いものが砕ける感触とともに、剣が突然軽くなった。つんのめる体の上をドラゴンの足が猛烈な勢いで通り過ぎる。鮮血が宙を舞うのが視界に入った。
轟音、振動。振り返ると、ドラゴンは横倒しに倒れていた。その姿はどこか横倒しになったバスを連想させる。
「離れて!」
アキラが叫ぶ。声の方へ眼を向けると、アキラがやり投げのような恰好で光を構えていた。光に込められたエネルギーかここからでも感じられる。どう考えてもドラゴンの傍はまずい。
言われるがままに、倒れたドラゴンから全力で距離をとる。
「≪迅雷疾走≫」
アキラが光の槍を投げる。――瞬間、轟音と目を焼くような眩い光がドラゴンのいたところから発せられた。




