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01-03 初めての戦い

「ジン様、あのモンスターです。戦えそうですか?」


 ソラスに先導されて森を歩くこと3分、最初に相対するモンスターとしてソラスが指定したのは、やけに鋭い牙を2本備えた体長80cmほどの猪だった。名をボルボア、特に特徴のないモンスターらしい。


「ああ、大丈夫そうだ。気を付けるべきは突進と、あの牙に引っ掛けられないことだろ?...いけそうだ。」

「では、奇襲、正面からの戦闘、お好きにどうぞ。ジン様ならきっと大丈夫です。」


 20mほど離れた木の陰に隠れている俺たちにボルボアは気づいていない。ソラス曰く、最初だけは俺の足音を消してくれているらしい。風下から近づいているから匂いもばれないそうだ。いずれ覚えなければならない技術と言われたが、一朝一夕では身につかないのだろう。

 奇襲か、正面戦闘か。ソラスはお好きにどうぞといったが、奇襲は成功しないだろう。俺は足音を殺せないからソラスの補助がなくなったとたんばれるはずだ。奇襲が失敗したらきっと動揺して戦闘の主導権がとられてしまうのでそれは避けたい。


 足は震えていない、心臓の音は少し早い。意を決して木の陰から立ち上がり、ボルボアへ向かってゆっくり歩く。ボルボアは俺の足音にすぐさま気づきこっちに体を向けた。


『ボルボア と戦闘状態に入りました』


 脳に言葉が響く。これは戦闘になると聞こえるのもなのだろうか。まあ、いい。

 威嚇するように足を鳴らすボルボアから視線をそらさず、腰に下げた鞘から剣を抜く。ボルボアの緊張が高まるのを感じる。全身の筋肉が強張り、こちらに向かって砲弾のように駆け出す。15m程あった距離は一瞬で縮まった。


「ンおらぁ!」


 大げさに跳び避け、前転して受け身をとる。ボルボアを見ると、こちらに向きなおるところだった。あれだけの大きさの動物がこちらへ突進してくるなんて初めての経験だったので、大げさによけすぎてしまったが速さは思ったほどではない。次は剣を振る余裕があるだろう。

 ボルボアは再び突進してきた。目前まで引き付ける。もう少し、もう少し、...今ッ!

 牙が当たらないギリギリで横にステップを踏み、避けながら剣を横なぎに振るう。


「プギャァアア!」


 ボルボアは転げながら悲鳴をあげる。

 鎧狼の爪はボルボアの横腹を大きく切り裂いていた。ボルボアが立ち上がらないうちに距離を詰め、全力で踏みつける。この体勢では心臓は狙えない。剣を逆手に持ち替え、喉目掛けて剣を突き刺す。


 ボルボアは少し暴れたが、自らの血に溺れながら息絶えた。随分あっさりとした戦闘だった。生き物を殺したという感慨はない。人間には殺人への忌避がないキラーエリートなる人種がいるそうだが、俺もそうだったのだろうか。いやあれは、人限定の話か?虫なんかとは比べ物にならない大きさの生き物を殺したのに何も感じないのは人としてどうなのだろうか。考え込んでいるうちに、ボルボアの死体が光となって消え去った。跡には数枚のカードが残されている。


「お疲れ様です、ジン様。お怪我や、心労などは感じておられませんか?」

「特には感じていない...。」


 いつの間にかソラスがそばに来ていた。カードを拾い上げながら返事をする。

 カードはボルボアの牙、ボルボアの肉、ボルボアの皮、ボルボアの腱、ボルボアの骨だった。脳とかが欲しい場合はどうなるのだろうか。レアドロップとかになるのか?ピンポイントに膵臓が欲しいとかってなったら周回しないといけないのかもしれない。


「何か考えておられるようでしたが、気になることでも?」

「いや、本当に...。やっぱり、聞いておこうかな。...ボルボアを殺してもなにも感じなかったんだが、これって普通か?この体の脳をいじったりしてないか?」


 思いついてしまった疑惑をぶつける。直接聞いたところで正直に答えてくれるかどうかわからないし、また権限がないという返事が返ってくるかもしれないが、ダメ元だ。


「ジン様は争いから縁遠い人生を送ってこられたのですね。ジン様の体に細工は為されていませんよ。皆様の体については私の権限でも全て閲覧することができますので私が保証します。」

「そうなのか。じゃあ、俺がそういう性格ってことなのか...」

「いえ、違います。モンスターを殺すことに忌避を感じないのは皆に共通なのです。モンスターは魔力に汚染された生き物なので、もはや同じ生き物として脳が認識しないのです。」

「魔力に汚染?魔力って良いものではないのか?」

「魔力は無垢ですよ。良いも悪いもありません。表現が難しいのですが、モンスターは魔力への適応の仕方が他の生き物たちとは異なるのですよ。その結果、同じ生き物として認識できなくなってしまったわけです。汚染という言い方は中立ではありませんでしたね、失礼しました。」


 なにやら難しい話になりそうだが、とにかく俺が異常と言うわけではなかったらしい。少し安心した。ボルボアはただの猪にしか見えなかったが、あれも俺たちとは違う生き物らしい。


「モンスターは死んだらカードを残して消えてしまいます。ボルボアはほとんど普通の生き物と同じですが、これがモンスターである証拠です。実際、戦ってみてどうでした?見ていた限り余裕がありそうでしたが。」

「余裕はあったな。ボルボアなら百回やっても百回勝てるだろう。」


 初めての戦闘だったが、想定外のことは起きなかった。ひとえにこの体が優秀なおかげだが。


「頼もしいお言葉です。ステータス画面には戦闘ログの機能も付いております。ステータス画面を開いて最初のページの下部に記載されていますので、ご確認ください。」


 ソラスに言われるままにステータス画面を開くと、確かに戦闘ログらしきものが確認できる。といっても、非常に簡素だが。


 ボルボア Lv5 を討伐しました。

 レベルが3に上昇しました。


 必要最低限って感じだ。戦闘自体が一瞬で終わってしまったからだろうか。

 レベルが3に上昇したがあんまり変化は感じない。


「戦闘中にスキルを覚えたり、スキルのレベルが上昇した場合も戦闘ログに記載されますので、こまめな確認をお勧めします。では次は複数体との戦闘を体験してもらいましょうか。こちらです。」





「ジン様、あれを倒せばチュートリアルは終了です。大丈夫ですか?」


 あれから、ニホンザルみたいな猿3匹を瞬殺した俺はイズスヴァンムなるモンスターと戦うことになった。別名鎧狼。今使っている剣の材料だ。こいつを倒せばチュートリアルは終わりだが、強敵らしい。道中、鎧狼の特徴は聞いている。鎧狼は狼男のような姿をしているようだ。大きく発達した上半身を持ち、顔面から胸部、前腕を覆う骨のような装甲にこちらの剣は歯が立たず、一方で相手はこちらを切り裂く鋭い爪を備えている。


 ニホンザルのようなモンスターとの戦いを経たが、まだクラスには就けていない。ソラスが言うには、苦戦をしなかったのが理由だそうだ。鎧狼もクラスに就いてなくても倒せるとも言っていたが、これまでのような楽な戦いにはならないだろう。


 鎧狼は崖の下にできた洞窟と言うには浅い、窪みのような穴の中で何か4足の動物の死体を貪っていた。それを俺たちは崖に一番近い木の陰から窺っている。距離は15mくらいは離れているが、ここから鎧狼まで遮蔽物は一切無い。


 鎧狼は壁を背にしているような状況だが、別に俺にとって有利になったりしない。これが狩りのような戦いだったら鎧狼の退路を断てたと喜べるのだが。

 鎧狼が背にしている断崖絶壁は10mほどの高さはある。もし鎧狼にばれず登ることができれば上から奇襲をくらわすことができるかもしれない、とも考えたがざっと見た限り登れそうな場所はなかった。真正面から戦うしかないってわけだ。


 剣を抜き鎧狼の眼前に姿をさらす。黒い毛に薄汚れた灰色の鎧を身に着けた鎧狼は熊よりも一回り大きい体格をしていて、情報通り上半身がやけに発達している。距離が離れていても威圧感を感じる。鎧狼は俺の姿を認めると歯をむき出しにし唸り声をあげた。これまでの2戦では感じることのなかった緊張で、冷汗が背中を伝う。...いや、おそらく俺の背中には汗腺ははないから気のせいだ。緊張しているくせにそんなことを考えている自分が少しおかしくて、つい片頬をあげて笑ってしまう。


『イズスヴァンムと戦闘状態に入りました』


 鎧狼の体勢が一瞬低くなった。とびかかりの予備動作だ。全神経を集中させてあらゆる動きに対応できるように備える。


 鎧狼が地を蹴った。鎧狼の姿がぐっと近づき、視界が全て鎧狼で埋められたような錯覚を感じる。咄嗟に鎧狼の正面から横にずれるが、ミスった。早すぎた。鎧狼は方向を変える余裕がある。鎧狼は俺の動きをしっかり見ていて、俺の逃げた先を捉えている。


「クソッ!」


 ビビッて早く動きすぎた自分を罵る。もう鎧狼は俺に向かってとびかかっている。このまま押し倒されたら喉笛を食いちぎられて死ぬ。

 覚悟を決める。無傷で切り抜けるのは無理だ。ビビった代償を払うことになるが、全て自分が招いたことだ。


 剣を振りかぶる時間もない。剣は手放し腰を落とす。飛び掛かる鎧狼の爪が肩に食い込むが痛みは無視し、とびかかりの勢いを殺さないように後ろへ倒れこむ。


「オラアアァァッ!」


 巴投げの要領で鎧狼を投げ飛ばす。喉を食い破ろうと大きく開かれた口が頭上を過ぎてゆく。食い込んだ鎧狼の爪が、骨を削りながら抜けてゆく感覚がはっきりと感じられた。

 まじか、どうにか成功した。成功したことに自分で驚いてしまった。

 見様見真似の巴投げが狼に通用するかどうかは賭けだったが、賭けには勝てたようだ。落とした剣を拾い、鎧狼に向き直る。


「グルルルルル...」


 鎧狼はこちらを警戒している様子で、円を描くように一定の距離を保っている。

 肩の傷は浅くない。腕を肩から上にあげることは困難だろう。いきなりハンデを背負ってしまったわけだがまだ戦える。


 素早さでは負けている、下手に避けようとしてはさっきのように隙をさらすだけに終わる。避けるべき攻撃と剣で防ぐ攻撃を判断しなければならない。観察が大事だ。


「ガアアアァァァァ!」


 唸り声をあげ、鎧狼が立ち上がる。胸部の鎧がよく見えた。鎧というよりは鱗に近いかもしれない。こぶし大の硬質な骨が胸を覆っている。隙間はあるが、刺突で狙えるようなものではない。狙い目は腹か...?喉にも鎧はないが、的が小さい。

 立ち上がった鱗狼は2m半はあるだろう。俺の体もたいがい巨大だが、モンスターはその上を行く。


「かかってこいやア!」


 声をあげ鎧狼へ駆ける。鎧狼もこちらへ駆け、互いの距離は一瞬で縮まった。

 鎧狼は袈裟斬りのように爪を振るう。テレフォンパンチのように大きく振りかぶったそれを避けるのは簡単だった。カウンターに刺突を横っ腹に叩き込むが、硬質な筋肉に阻まれ、浅い傷しかつかない。鎧狼の反撃が来る前に、距離をとる。


 くそ、硬いゴムをついたような感触だった。かすり傷しか負わせられていない。よっぽど勢いをつけない限り、まともに刺さりはしないだろう。この剣が得意な突きでこれなのだ、切り裂くなんてことは硬い毛にも阻まれて到底無理だ。

 鎧狼が距離を詰めて爪を振るってくる、さっきよりもコンパクトな攻撃だ。まだ避けれるが、反撃を入れる暇もなく次の攻撃が襲う。3発避けたところでタイミングはもう掴んだ。4発目に剣を合わせる。正面から受け止めるのではなく、受け流す。


「くらえッ!」


 鎧狼の体勢が崩れ、たたらを踏んだところに刺突を叩き込む。受け流す方向を考えるべきだったと後悔したがもう遅い。さっきと同じ個所を攻撃したかったが狙える場所になくて、またも浅い傷をつけるに終わってしまった。


 反撃を受けないように距離をとったところに、鎧狼が姿勢を下げ、タックルのように突っ込んでくる。硬い鎧に覆われた肩が迫る。

 脳が冷える。まずい、これが直撃すればもう立ち上がることは出来ないだろう。

 どうする、避けるのもさっきのような巴投げも無理だ。どうにか防御するしかない。


 剣に手を添え盾のように構え、迫りくる鎧狼の肩に合わせる。


「ゼヤァッ!」


 剣と骨がぶつかる硬質な感触。

 衝撃を殺しつつ、鎧狼のタックルの勢いに乗って後ろへ飛ぶ。強烈な反動が体にのしかかる。


「うおおおおおおぉぉぉ!」


 硬い鎧を体に打ち付けられることは避けられたが、勢いは殺しきれなかった。後ろに吹っ飛ばされる。視界が二転三転する。体がバラバラになるような衝撃だ。

 回転する視界の中で、鎧狼がこちらへ駆けてくるのが見えた。まずいまずい...!鎧狼は万全の体勢で追撃を仕掛けてくるだろう。


 上下も分からないような状態だが、地面の硬さは感じられる。吹っ飛ばされた勢いも利用して、背中が地面に着いた瞬間を狙い腹筋に力を込めて宙へ跳ね上がる。宙に浮いた状態で視線を動かすと、正面に鎧狼が迫っているのが見えた。

 着地を決めて、迎撃しなければならない。かなりシビアだが、やるしかない。やらなければ死ぬだけだ!


 足が地面に着く。勢いが強く、地面に二筋の跡をを付けながらも姿勢だけは崩さない。迫りくる鎧狼が腕を振りかぶるのを見ながら、死ぬ気で体勢を整える。


「オラアアァァッ!」


 鎧狼の大ぶりな一撃に真正面から剣を合わせる。

 避ける余裕も、受け流す余裕もない。筋力に物を言わせて対抗する。勢いがついていた分鎧狼の方が有利だったが根性で耐えきった。

 鎧狼の右爪とこちらの剣が離れる。たたらを踏むこちらに対して、鎧狼は姿勢が崩れていない。


 鎧狼が振るう爪を剣で迎え撃つ。出だしが不利だった分、受け流す余裕が持てない。体力がどんどん目減りしていくのを感じる。二撃、三撃。腕がしびれてくるのを感じる。


「負けるかああぁぁ!!」


 限界を根性で越える。こちとら部活で根性論には慣れてるんだよ!


『クラス≪戦士≫に就きました。』


 脳に声が響く。ソラスの声ではない。戦闘開始時に聞こえる声だ。明らかに、戦闘が楽になった。鎧狼の爪を押し返せる。

 これがクラスというやつか。さっきまで防戦一方だったが、これなら反撃につなげられる。溜まった鬱憤を晴らさせてもらおうじゃねえか!


「反撃開始だオラアァ!」


 鎧狼の腕をカチ上げ、がら空きになった顔面に剣を振るう。頭が跳ね上がり、ガチンとした硬い手ごたえが手に返ってくる。

 やっぱり、刃は通らないか。歯が数本飛んで行っただけだが、気持ちはすっきりした。


 鎧狼が爪を振るうが、もう当たる気がしない。クラスに就いてから力だけでなく、剣の扱い、攻撃の回避の仕方、戦闘に関する様々なことが向上した気がする。それぞれは小さな変化だが、もう俺が鎧狼に負けることはないだろう。


 攻撃を避け、剣で逸らし、少しずつ反撃を重ねていく。

 3分もすれば、鎧狼は逃げ腰になっていた。小さな傷が重なり結構な量の血が流れ、体力もかなり消費したはずだ。


 鎧狼を冷静に観察する。攻撃が消極的になり、逃げる隙を伺っているのが分かる。今更逃げようったってそうはいかない。ここで死んでもらう。


「ガアアアァァァァッッ!」


 鎧狼は唸り声をあげて右腕を振りかぶる。全力の一撃で隙を作って逃げ出そうというわけか。

 振り降ろされる爪を余裕をもって回避する。狙いは首だ。これまでは狙えなかったが、この一撃を避ければ大きな隙ができる。


『≪一閃(スラッシュ)≫を習得しました。』


 頭に声が響く。クラスに就いた時と同じ現象だ。冷静になった今回は気づけたが、視界の隅に文字が表示されている。どういう仕組みなんだ。


 スキルの発動の仕方、スキルの効果が頭に入ってくる。これは強力な斬撃を放つことができるだけのスキルだが、十分だ。


「≪一閃≫」


 剣を振るうと同時に、声に出してスキルを発動させる。

 スキルが上乗せされた鎧狼の爪剣は、淡い光を纏いながら首へと吸い込まれていく。俺が振るう斬撃とは段違いの速さだ。


 ザクリと首の半ばまで剣が食い込み、剣を伝って血が零れる。鎧狼はもうろくに動けない。痙攣するように俺へ延ばされた腕から剣を抜いて逃れる。


「俺の勝ちだ」


 鎧狼へ宣言する。首から噴き出した血が顔に数滴かかるが気にならなかった。

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