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01-12 森調査一日目

 結局、彼女は俺たちに同行してくれることになった。俺とユリシーズだけなら間違いなく断られていただろうが、アキラが誘えばあっさりと頷いてくれた。まあ同性だしね、安心感が違うのだろう。


 彼女はフーリンという名前らしい。レベルは59、クラスは純魔導士。最初の自己紹介のときに教えてもらった情報だ。意外とレベルが高くて驚いてしまった。控えめな性格をしているようだが戦いは問題なくこなせるのだろう。


 そんなこんなで結成された俺たち一行はもう森に入って1時間は歩いている。森は平坦で藪などもほとんど生えてないので歩きやすいが、木に遮られるせいで視線は意外と通らない。

 今回の調査は結構深いところまで潜るので片道2日の予定らしい。それからするとまだまだ始まったばかりだ。

 俺とユリシーズが前、アキラとフーリンが後ろになって2列での行軍だ。ユリシーズが時々振り返りながら俺と後ろの2人に森の歩き方を教えてくれている。


「これを見てみろ、これはジジ・テルクスのマーキング跡だ。マーキングの高さから見てまだ若い個体だな。」


 俺が抱き着いても抱えきれないほどの大木の傍でユリシーズは立ち止まり、表皮が剥がれた個所を指差す。

 そのジジ・テルクスがどんなモンスターかは分からないがあまり大きくはなさそうだ。マーキングの跡は高さ150cmほどにある。


「ジジ・テルクスってどんなモンスターなの?」

「体毛の長さが特徴の四足歩行のモンスターだ。成体になれば俺の倍くらいの体高に達するが、そこまで凶暴じゃない。まあ、そこまでしつこく追ってこないってだけで、出遭えばもちろん襲ってくるがな。」

「ふうん、チューバッカみたいなやつか。」

「あれは二足歩行じゃん。あれでしょ、セレブが連れてる犬みたいな感じ。たしかアフガン・ハウンド。」


 犬種までは知らなかったが、アキラの例えは理解できてしまった。あそこまで可愛くはないんだろうが。

 倒したら【ジジ・テルクスの毛】とかがドロップするに違いない。セーターでも編もうかな。


「フーリンはジジ・テルクスと戦ったことあるの?」

「え、私ですか?ありますよ、一度だけ。若い個体でしたが長い毛のせいで攻撃が通りづらくて大変でした。魔法も剣もなかなか効きづらかったんですよね...。」

「そういう場合は鈍器が有効だな。鈍器持ちがいない場合は体毛の薄い顔面を狙う必要があるから大分きつくなる。フーリン殿はどうやって倒したんだ?」

「ええと、魔法でこう、滅多打ちにして倒しましたね。」


 フーリンはふらふらと杖を揺らす。

 滅多打ちって...またアクティブな表現が出てきたな。フーリンは意外と武闘派だったりするのだろうか。

 フーリンはあまり顔を上げないので身長差のある俺とはまったく目が合わない。この様子からは想像しにくいが...。


「ふむ、折角だからそろそろモンスターと戦っておこうか。私たちの連携も確認しておきたいしな。」

「おっ、いいねえ。いいとこ見せちゃうよ。」


 ユリシーズの言葉にアキラが嬉しそうに反応する。

 ユリシーズの提案には俺も賛成だ。互いの戦い方を一切知らないまま強敵と戦うのは不安要素が多いからな。フーリンも反対する様子はない。


 ジジ・テルクスのマーキング跡を確認し終えまた歩き出す。狩るモンスターはさっきの木にマーキング跡をつけたジジ・テルクス。折角なのでモンスターの追跡の仕方も学んでしまおうという腹積もりだ。


 ユリシーズは追跡の方法を教えるだけ、実践するのは俺たちだ。

 ジジ・テルクスは縄張りを示すためのマーキング間の距離が短いため、追跡が容易な種らしい。縄張りは円状で、マーキングもそれに広げたように円状だ。マーキングの配置から縄張りを推測し中心に向かえばジジ・テルクスに出会えるのだとか。


 俺がマーキングを探す係、アキラとフーリンはマーキング場所をマッピングして縄張りを割り出す係だ。

 マーキングがあるということはもう縄張りが近い、あるいは縄張りの中ということだ。不意にジジ・テルクスに遭遇しないように周囲の警戒は忘れないようにする。


 マーキングを探しながら森を歩くこと30分。縄張りの大まかな範囲が掴めてきた。俺たちは縄張りの外縁、東側にいるらしい。これからは中心に向かって歩いていく。これまで以上に警戒をしないと。


「ちょっと緊張してきたね。」


 先頭で一人歩く俺に後ろからアキラが小声で話しかけてくる。ジジ・テルクスを追跡するにあたって隊列は変更してある。ユリシーズは一番後ろに移動して後方を警戒してもらっているので、どちらへ進むのかは俺が決めなければいけない。責任重大な役目だ。


「確かにな。これまでみたいに不意の遭遇を警戒するのも緊張するけど、追う側になるのも結構緊張するな。」


 追う側になってしまえば緊張しないかと思ったがそんなことはなかった。別に俺たちが圧倒的に有利になったわけではないからな。

 フーリンに目を遣ると、彼女はあまり緊張はしていない様子だった。どうやらフーリンは人づきあいが苦手なだけで怖がりなどではないらしい。俺につられてアキラもフーリンが様子に気づいた。


「フーリンは平気なんだね。」

「え、そうでしょうか...。経験の差ですかね?私の方がこっちに来て長いから...。」

「そうか、フーリンの方が先輩なんだな。先輩って呼んだ方がいいのか?」

「ええっ!?やめてくださいよ、私なんてほんとにこっちに来てからの時間が長いだけなんですから...。」


 フーリンは本当に嫌そうだ。表情にはあまり出てないが声色で分かる。

 そういえば、フーリンは何歳なのだろう。見たところかなり若そうだが、俺よりも年上か年下かまでは分からない。いや、異星人なんだったら1000歳なんてこともあり得るのか...迂闊には聞けないな。


 どこにジジ・テルクスがいるか分からないので、あまり物音は立てられない。会話は早々に切り上げジジ・テルクスの痕跡探しに集中する。


 中心に向かって300mほど進んだだろうか。距離としては全然進んでないが、周囲を警戒して慎重に進んでいたので時間は結構かかってしまっている。

 しかし、ついに見つけた。足跡だ。指を差して後ろの2人に足跡の存在を知らせると、2人の警戒が少し高まる。足跡の湿り気からいってジジ・テルクスはかなり近いはずだ。


 足跡を頼りにジジ・テルクスを追跡する。足音を殺しながらの牛歩の歩みだ。

 そこからさらに200mほど移動しただろうか。褐色の長い毛が全身を覆うモンスターが、一際太い大木の足元に丸くなり休んでいた。俺たちはついにジジ・テルクスを見つけたのだ。


 長い毛が邪魔をしてジジ・テルクスの全容は良く分からない。おそらく頭はこちらからは見えない位置にあるはずだ。小さい像のような威圧感がある。


「...いた。まだこちらには気付いてないぞ。」

「うむ、推測通りまだ成体ではないな。私たちなら十分倒せるはずだ。」

「それじゃあ、手筈通りにだね。フーリンちゃん、最初の一発よろしく。」


 俺たちはあらかじめ決めていた配置に付く。

 今回の配置は単純だ。魔法使いはフーリンだけだから、彼女は後衛。残り3人全員が前衛ってのはバランスも悪いし前衛を抜けられたときにフーリンが危ないから、アキラは中衛で俺とユリシーズが前衛だ。戦闘が万事問題なく進めばアキラの出番は無い。これにはアキラが反対したが、誰が中衛を務めるかはじゃんけんで決まったことだ。


 俺とユリシーズはジジ・テルクスを挟み込むような位置につき、フーリンへ頷く。

 フーリンは俺たちの合図を見て魔法の準備を開始した。ジジ・テルクスはまだこちらに気付いていない。もし気付かれた場合は俺とユリシーズで時間を稼ぐつもりだったがその必要はなさそうかな。


 フードに隠れて口元しか見えないが、フーリンの口が弧を描いて釣りあがるのが見えた。

 フーリンから突如魔力がほとばしり魔法が発動する。一切の予兆を感じなかったのは巧妙に隠蔽されていたからだろう。


「≪魔力超過≫――≪収束≫――≪魔弾:破砕ノ一撃≫」


 発動した魔法は無色透明の砲弾のような一撃だった。

 光の屈折で魔法が()()ことは認識できるが、速度も速く認識は困難を極める。


 魔法は発動と同時にジジ・テルクスに着弾し、鈍い破裂音と共にジジ・テルクスの巨体を吹き飛ばした。

 あの巨体を吹き飛ばすとは...。これが純魔導士の放つ魔法か。

 純魔導士は純粋な魔力を扱うことに長けており、彼らの魔法は俺とアキラが習得した≪雷光一条≫のように魔力を別のエネルギーに変換するような魔法とは異なったものになると聞いていたが、こういうことか。


『ジジ・テルクスと戦闘状態に入りました』


 ジジ・テルクスの巨体が吹き飛んだことに驚きながらも、打ち合わせ通りジジ・テルクスへ距離を詰める。

 ユリシーズを見遣れば、彼も吹き飛んだジジ・テルクスへ距離を詰めていた。


 ジジ・テルクスの元に着いたのは2人同時。

 まだ起き上がっていないジジ・テルクスへ剣を振るう。新調した双剣の初仕事だ。


「≪一閃≫」


 魔力強化された体で放たれた≪一閃≫は、硬質な毛を分厚い皮膚ごと斬り裂いた。

 はは、なんだこれレッサードラゴン戦と勝手が違いすぎる。攻撃がまともに通ることのなんと爽快なことか。


「GOAAAAAAAAA!」


 ジジ・テルクスが悲鳴をあげる。

 ユリシーズの一撃も深く入ったようだ。振り抜かれたユリシーズのハルバードが血を振り撒いている。


 攻撃はこれで終わらない、アルタイルとの模擬戦で鍛え上げた連撃を披露するときがやってきた。続く攻撃にも≪一閃≫を載せる。


 ジジ・テルクスも反撃をするが俺にもユリシーズにもかすりもしない。交互に剣が振り抜かれその度に血が飛ぶ。きっとフーリンの初撃が直撃した時点で流れは決まってしまったのだろう。


「魔法行くよー!私も混ぜろー!」


 後ろからアキラの声が聞こえる。

 自分の出番がないまま戦闘が終わろうとしているのを見て我慢できなかったのだろう。

 射線を開けるように横に避けたが、魔法は上から降ってきた。鋭い破裂音が響き、ジジ・テルクスは地面に叩きつけられる。

 もうジジ・テルクスは立ちあがれない。その前にとどめを刺せる。


 ユリシーズと目が合う。

 互いの言いたいことが伝わった。とどめはユリシーズに譲る。俺はまだ≪一閃≫くらいしか武器スキルがないからな。


 とどめを引き受けたユリシーズがハルバードを上段に持ち上げる。罪人の首を落とす前の処刑人のような恰好だ。


「≪唐竹割≫」


 瞬間、ハルバードが目にもとまらぬ速さで振り下ろされ、ジジ・テルクスの首が宙を舞う。

 随分と一方的な戦いだったな。俺たちの完勝だ。





 ジジ・テルクスの戦利品を分配して先に進む。ちなみにお肉は俺がもらった。おしりの肉らしいが、どう食べるのがいいのだろうか。まあ、ルカさんにお任せすればいいか。どんな料理に生まれ変わるのか今から楽しみだ。


 再び俺とユリシーズが前列に並び森を進む。

 

「2人だけ楽しそうに戦ってずるいー」


 後列を進むアキラは不満たらたらだ。どうやら魔法を一発撃っただけだったのがお気に召さなかったらしい。


「まあ、私も同じですから...」

「フーリンちゃんは純後衛だから話が違うじゃぁん。私も新しい武器試したかったー。」


 結局アキラの不満はそこらしい。アキラの武器を見ると、確かに初めて会った時とは違うものになっている。白を基調に赤色のラインが走るデザインの薙刀で、柄と刃の接合部辺りに宝石のようなものが埋まっている。あれは【ドラゴンの魔輝石】に違いないだろう。


「それって【ドラゴンの魔輝石】だよな。どういう効果があるんだ?」

「ええ~、聞きたい~?しょうがないな~。えっとね、魔力操作と魔力放出のスキルに補助が付くの。その強化値はなんと30!私が前まで使ってたやつは4とかだったから破格も破格だよ。あと、身体強化には特別にボーナスが載るらしいんだって。」


 それでね、それでねと新調した武器について楽しそうに話すアキラに相槌を打ちながら歩を進める。防具も新調したようなのでそちらについても話を振ってやると、これまた嬉しそうに機能やデザインを語りだす。

 しっかし、ほんとに楽しそうに話すな。聞いてるこっちもつい楽しくなってくるようだ。


「私のハルバードも結構こだわってるんだ。刃の素材にはギングルタンチの尾殻が使われていてな」


 アキラが話し終えたと思ったら、我慢しきれなかった様子で今度はユリシーズが話し出した。お前もアキラのを聞いていたら自分も話したくなっちゃったクチだな。

 なんだか俺も語りたくなってきちゃったぞ。





 太陽は地平線に沈み、森は暗闇に覆われている。

 あれから3回の戦闘を挟みつつ、日が傾きだすまで森を歩き通した。会話は互いの装備の自慢に終始したが、これがなかなか楽しかったし勉強にもなった。長年モンスターとの闘いを生業にしているユリシーズの装備は随所に独自の工夫が施されており、どれもが小さいながらも快適性を向上させてくること間違いなしだ。そしてフーリンも装備ではなく、魔法の話になると饒舌だった。やけに早口になっていて、魔法オタクといった様子だった。


 日が傾きだした頃に野営の準備を始めた俺たちは、現在は樹の上で火を囲んでいる。ユリシーズ指示のもとロープと細い枝でツリーハウス(床だけ)を作成したのだ。

 野営を樹上で行うことはシェバズの間ではよく行われていることらしい。フーリンは床の作成の補助となるような折り畳みの枠や、安全に火を扱えるようにするために底上げがなされた鉄板のようなものを自身のプライベートルームから取り出して見せた。


「随分と快適だな。まるでキャンプみたいだ。」

「これは御使い様達の特権だな。プライベートルームで補強材などを運べないとここまでの強度は確保できないから、ミグ人だけの野営はもう少し簡素になってしまう。」

「ありがとね、フーリンさま~。こういうのってお店で売ってるものなの?」


 鍋をかき混ぜながら器用にフーリンに拝むアキラ。

 鍋の食材はモンスターからドロップした肉と道中に拾った食べれる野草やキノコだ。ユリシーズが食べれると太鼓判を押したものなので毒草や毒キノコではないはず。調味料はフーリンが用意していたものを使わせてもらった。こういった冒険に必要な物の準備は、フーリンの方がこちらに来てから長い分詳しい。フーリンからおすすめのお店を教えてもらい、自分も同じものを揃えるべく手帳にメモしておく。


「うん、まあまあかな。」


 鍋を一口味見したアキラが満足気に呟く。

 今日の調理当番はアキラだ。料理をできるのがユリシーズとアキラだけだったので調理当番は2人が交代で行う。

 ここまで見ると俺が野営に貢献していないようだが、俺も貢献している。樹の下からユリシーズが投げ上げてくる丸太を受け取って並べたのは俺だ。フーリンに並べ方を教えてもらいながらだが、仕事はしていた。


 アキラに鍋を取り分けてもらい、いただきますをして食べ始める。

 ユリシーズは大神様に祈りを捧げ、フーリンは特に祈るでもなく食べ始めていた。


「うん、おいしい。」

「ほんと、おいしいです...!」


 アキラが作ったのはシチューだ。それとガーリックトーストのようなもの。

 即席で作ったとは思えない深みのある味がする。アキラは結構料理が上手いのだろう。


「アキラ殿は料理が得意なようだな。」


 ユリシーズは口周りの毛にシチューを付けながら食べている。よっぽど丁寧に食べない限りはミグ人がそうなるのは避けられないだろう。


「そうかな?ほとんど独学だからあんまり自信ないんだけど。実際なんか足りないし。」

「なんかって?」

「なんかはなんかだよー。分からないからなんかって言ってるの!辛みか酸味が足りないとは思うんだけど、不用意に足したらバランスが崩れちゃいそうで...。」


 アキラはシチューを一口食べると何かを探るように宙に視線を向けた。

 調理した人としては何かが足りないようだが、俺にはさっぱり分からない。分かるか?と問うようにフーリンを見るが、彼女も小首を傾げている。


 一日歩き通してくたくたになった俺たちはご飯をあっという間に食べ終え、寝る準備を始めた。

 火の魔法と水の魔法をある程度使えればお風呂を用意することもできるらしいが、俺たちの中に使える人はいなかったので澄んだ池で水浴びだ。アキラとフーリンは桶に水を貯めてプライベートルームで体をふいたらしい。


 プライベートルームで寝てしまうと現実世界に戻ってしまうので、ツリーハウスで寝袋に包まれて眠る。プライベートルーム内に入れて持ち運べば容積も重さも気にならないのでほとんど布団みたいな寝袋だ。


 樹上ならほとんど大丈夫らしいが、一応寝ずの番を立てる。最初はユリシーズで一人ずつ交代で行う。


「それじゃあおやすみ。」

「うん、おやすみ~」

「おやすみなさい...」


 まぶたの裏に火の明るさを感じながら目をつぶる。寝ずの番は俺の前の人が起こしてくれるから寝坊の心配はない。慣れない環境だが、寝るのは得意だ。おやすみ。

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