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01-11 即席パーティー

 狭いベッドで目を覚ます。

 今日の俺は機敏だ。目が覚めた瞬間に跳ね起きて服を着替える。何を隠そう今日はライルさんに頼んでいた武器防具が完成する日なのだ。


 昨晩から水桶に貯めておいた水で顔を洗い歯を磨く。何かしらの生き物の毛で作られた歯ブラシだ。これは露店で買ったものだ。少し作りが甘いのか、歯を磨くたび口の中に毛が何本か残されるが十分磨けるので良しとしよう。


 髪は生えてないので寝癖を直す必要はない。鏡で身だしなみを確認する。

 よし、おっけい。

 ドアを開け、ライルさんの店へ向かう。



「ライルさん!武器できてる?」


 ドアを開けると同時にライルさんに声をかける。店内を見渡す限りライルさんはいない。店内には二人組のシェバズのお客さんがいて、店に入ってきた途端に大声を出した俺を驚いたような目で見ていた。


「ど、どうも...」

「どうも...」


 お客さんに曖昧な挨拶をすれば、向こうも曖昧に返してくれた。

 盾を背負い腰に片手剣を下げた女の子と、弓と矢筒を背負った男の子の二人組だ。

 お騒がせしてすいません...。


「その声はジンさんか!ちょっと待ってろ」


 店の奥からライルさんの声が響く。

 助かった!ほら、俺は不審者ではなくちゃんとした客なんですよと心の中でアピールしながらカウンターへ向かう。


 すぐにライルさんはやってきた。両腕には鞘に納められた双剣と防具を抱えている。


「おお!それが!」

「そうだ、ちょっと待て。」


 ライルさんがカウンターに武器と防具を並べる。

 大ぶりな双剣、籠手、ブーツ、革鎧。どれも新品特有のハリを持っている。これが俺の物だと思うとワクワクが止まらない。


「さあ、ジンさんのものだぞ。」


 ライルさんの言葉に促されるように双剣を手に取る。

 重い。先日の訓練場で持ったものとは大違いだ。柔らかい革が巻かれた柄はまだ手には馴染まない。左手の剣はいったんカウンターに戻し右手の剣を鞘から抜く。


 店内の明かりに照らされた刀身は白く輝いていた。命を奪うはず物のはずなのに美しい。


「【ドラゴンの尖爪】の芯に【バンスルルマンの甲殻】を限界まで圧縮したものを叩き込んだもんだ。いくらでも重くして良かったみたいだから、頑丈さはピカ一の素材を使わせてもらった。めったに使わない素材だから腕が鳴ったぜ。」

「へえ、初めて聞く素材だがなんだか凄そうだ。」

「ちぇっ、剣に夢中で素材になんて興味無いってか。ほら、次は防具だ。」


 ライルさんに急かされて剣を置く。

 違う、剣に夢中になっていたのは確かだが素材に興味がないわけではない。というか普通に素材の話も聞きたいよ。


「次は籠手だ。頑丈なドラゴンの革がメインだが、手のひら側には柔らかい革を使っているから付け心地は良いはずだ。手の甲の側にはドラゴンの鱗を貼り付けたから防具としての性能も高い。」


 ライルさんの解説を聞きながら籠手の着け心地を試す。まだ革が硬いのか手の開閉に引っ掛かりを感じるが、使っていくうちに馴染んでくるだろう。革製品の魅力の一つだ。大事に育てていかねば。

 両手にはめて手の甲同士をぶつけると硬質な音が響く。

 ドラゴンの鱗の硬さは実際に戦った俺が一番よく分かっている。あれを身に着けていると思うと心強い。俺も≪竜の鱗鎧≫を習得したが、鎧の重ね着だと思って楽しもう。鎧の重ね着なんて現実じゃ不可能だからな。


「次はブーツ。これもドラゴンの革が中心だな。籠手に使ったのと同じ柔らかい革を中敷きに使ったから足への負担も少ないはずだ。そんでこいつの特徴は甲に着けた骨鎧だ。強度的に言えばドラゴンの鱗といい勝負なんだが、革の暗い色に白が映えてかっこいいだろ。」


 確かに見た目は大事だ。着ているだけでテンションが上がるのは戦闘にも良い影響を及ぼすに違いない。

 実際に履いて、軽く足踏みをしてみる。革の厚さのせいか少し重い気もするが登山靴程度だ。今の俺には魔力強化があるので大丈夫だろう。逆に、重さから感じる安心感が心強い。


「そして最後が胸鎧だ。ご要望通りあんまり大きくしてない。心臓を覆うだけにしてある。」


 胸鎧は弓道の胸当てに似ている。あれよりもだいぶ小さいが、ドラゴンの鱗が張り付けられているので防御力も十分なはず。

 着方は簡単だ。穴に左手を通して、右の脇の下で紐を結ぶだけ。一人でも身につけられる。

 肩を回しても干渉したりしない。表面を叩くと籠手と同じ硬さが返ってくる。これが生死を分けるときが来るかもしれない。裏に懐中時計でも入れとこうかな?


「ざっとこんなもんだな。何か聞きたいことはあるか?」

「いや、無い!それよりも早く冒険に出たい気持ちでいっぱいだ。支払いはいくらだ?」

「材料費、加工費合わせて50万だ!」


 50万!もちろん払えない額ではないが人生で一番高価な買い物だ。

 財布から硬貨を取り出しカウンターに並べる。細かい額は分からないので手帳の表と見比べながらだ。

 アルタイルと模擬戦をしたのが一昨日。昨日は軽く体を動かした後、街を隅々まで歩き回りいろいろと買い物をしたのだ。この手帳もその時買ったものだ。革の装丁が大人っぽくて非常に良い。


「今日はこれからどうするんだ?」

「もちろんモンスターを狩りに行くに決まっているだろ。役場で適当に仲間でも募ってみるよ。」

「良い心がけだ。やっぱ御使い様はこうじゃねえとな。」


 背を叩き激励してくれるライルさんに礼を良い店を出る。

 財布もだいぶ軽くなってしまったし、お金も稼がないとな。さあ、モンスター狩りだ。





  役場に入り中二階へ階段を上る。ミグへやってきて初日に住民票を取得したカウンターは一階にあたる感じだ。。ここにやってきたのは誰か一緒に冒険する人を見つけるためだ。まだまだ経験不足な俺が一人で森に分け入るのは少し危ない。


 そこは酒場とレストランの中間のような見た目をしていた。4人掛けのテーブルが10台ちょっと並び、端にはある大きなカウンターではバーのマスターのようなミグ人がグラスを磨いている。スーツのような服装をしているがスーツではない。ミグでの礼服のようなものだろうか。

 席はシェバズ達でまばらに埋まっている。1人で座っている者もいれば数人で談笑している者もいる。さて、誰に話しかけようか。


 階段近くのテーブルに座っていた2人組のシェバズが、上がってきた俺に気づく。金髪碧眼整った顔立ちの純一種の若い男と、白と灰が混じった髪をした美女だ。女の方は混じり系、犬のような耳が頭の上でぴんと立っている。


「初めて見る顔だね。いつからこっちに来てるの?」


 まあまあ座りなよ、と椅子を引きながら男の方が話しかけてくる。社交性のあるイケメンだ。耳にかかる程度に切り揃えられた金髪が揺れる。


「三日前からだ。そっちはいつから?」


 女性が嫌がるそぶりを見せていないことを確認して席に着く。

 彼女の白い虹彩がこちらを観察している。見た目も態度もハスキー犬に似ている。


「僕は...半年くらい経ってるんじゃないかな?僕から聞いといてなんだけど、ここで大事なのはこっちで何日過ごしたとかじゃなくて何レベルか、だからね。あんまり把握してないや。」

「私はヨルミ、71レベルだ。君の名前とレベルを教えてくれ。」


 彼女はヨルミというらしい。ヨルミは若いイケメンさんの話を遮るように簡潔にこちらに問いかける。

 どうやら彼女はシンプルなのが好みらしい。


「唐突だな。俺はジン、34レベルだ。そっちは?」

「ははは、ごめんねジン。彼女はこういう感じなんだ。僕はシリンジ、67レベルだよ。」


 2人とも俺よりもレベルが高い、約2倍だ。


「レベル34というのは本当か?疑うようで悪いが、三日前に来たばかりでそのレベルはおかしい。」

「まあ、そう思うだろうが...。でも本当だぞ、これが証拠だ」


 2人にステータス画面を見せる。2人が画面を覗き込み、驚いたようにかすかに目を見開いた。


「本当だ...。君のような風貌なら一度見かけたら忘れない。ほんとに数日で34レベルに...。」

「疑ってすまなかった。君は大したやつだ。」

「いや、別に気にしてないから大丈夫だけど。」


 2人は俺を評価してくれている。約2倍のレベル差があるが、一緒に冒険したいと言ったら受けてくれるだろうか?この2人と一緒なら俺一人では出会うことできない強敵とも戦えそうだ。いや、これは寄生ではない。ちゃんと俺は自分で戦う。


「なあ、良かったら――」

「すまない、御使い様。」


 今日一緒に冒険しないか?

 その言葉が出る前に誰かに後ろから声を掛けられた。

 絶好のタイミングを逃してしばし固まる俺とおそらく声の主を、ヨルミとシリンジの2人が見比べている。


「返事をしなくていいのか?」


 ヨルミに不思議そうな顔で訊かれて、仕方なく振り向く。

 初対面のレベル差のある人を誘うのはなかなか勇気がいるんだぞ...。迷惑をかけることは確実なのだから申し訳なさがどうしても頭をよぎるんだ。そんな中で頑張って言い出そうとした俺の勇気を...。


 延々と湧き出しそうな恨み言に蓋を振り向いてみれば、そこにいたのは巨漢のミグ人だった。

 ライルさんも巨漢だが、あれは筋肉で横に大きくなっていた感じだった。この人は縦にも横にも大きい。身長180cm以上はあるだろう、平均身長が140cmくらいのミグ人の中では破格の大きさだ。


「でかいっ!」


 毛は焦茶色。要所を覆う鎧に包まれた体に小さな頭。右目を縦断するように傷跡が走っている。

 見たことのないサイズのミグ人に目を見張ってしまう。ミグ人と接するときはいつも首が痛くなるほどに頭を下げないといけないが、このミグ人とならそんなこともない。


「やあ、お初にお目に掛かります。私はユリシーズ、このミスタリアの街の軍で将軍を務めている者だ。」

「初めまして...。随分おっきいんだな...。」


 ユリシーズが軍人らしいきびきびした動きで握手を求めてきたので、彼の分厚い手を握り返す。


「ミスタリアの街では俺以上に大きいミグ人はいないと自負している。さすがにジン殿には負けるがな。」

「そりゃあんた以上なんていないだろうよ...って、あれ?名前知ってるのか?」

「ああ、それは――」

「私が教えたからさ!」


 可愛らしい声と共に、ユリシーズの後ろからアキラがひょっこりと顔を出した。

 2日ぶりのアキラだ。赤黒い髪が今日も背中で揺れているが、この間とは違い三つ編みの形で一本にまとめられている。


「アキラ、久しぶりだな。元気にしてたか?」

「なにその帰省した孫に会ったおばあちゃんみたいな第一声は。ゼロ点。」

「いきなり辛辣なのはやめろ。まあ、元気そうだな。」


 前回さよならしたときと変わったところは髪型くらいか?服装も変わっているが、ブーツなどは変わっていない。やっぱり女の子だから服装とかに気を遣っているのだろうか。


「ジンは昨日一昨日何してたの?武器無かったから外にも出てないでしょ?」

「俺は訓練場で訓練してたかな。魔力強化って技術を覚えたぞ。あと釣り。」

「うわ、当たり前だけど魔力強化知らなかったんだ。てか釣り?なんか釣れたの?」

「結構大きいの釣れたぞ。ルカさんにお刺身にしてもらった。」


 昨日は買い物が終わってからは暇だったので釣りもしたのだ。やはり釣りたての魚はおいしかった。昔、家族旅行で立ち寄った漁港で食べた味を思い出して感傷に浸ってしまったくらいだ。

 あと、ミグには醤油があった。唐揚げがあって、醤油があって、さらに生姜焼きまであった。もう日本だよここは。


「へえ~、異世界楽しんでるね。ってそうだ、今日用事があるんだ。そちらのお二人はお友達?」

「いや、僕たちはさっき出会ったばかりだよ。僕はシリンジ。よろしくね、アキラ、ユリシーズさん。」

「私はヨルミだ、よろしく。」

「2人ともよろしく~。」

「うむ、御使い様。こちらこそよろしく。さっき会ったばかりなのに邪魔してしまったか?」


 ユリシーズが俺と2人を気遣わしげに見てくる。

 さすがミグ人、ユリシーズのような顔に傷が走った任侠風の容貌でも、すこし哀しそうな顔をすれば途端に可愛さが出てくる。こんなものを見せられてしまったらなんでも許してしまう。


「別に大した話はしてなかったよ。なにか用があったのか?」

「ああ、そうだ。今日は君たち2人に用があったのだ。低レベルなのにレッサードラゴンを倒した将来有望な御使い様がいると小耳にはさんでね。」

「ユリシーズとは昨日ここで会ったんだ。私たちを探してるミグ人がいるらしいってマスターに教えてもらって出会ったの。」


 アキラは"マスター"と言ったときに奥のカウンターでグラスを磨いていた老齢のミグ人を指さし、それに気づいたマスターがこちらに会釈をする。俺たちがいるのは入り口の近くだから結構距離があるのに...。あらゆるところに気を配っているのだろう。


「君たちには【始まりの森】の深部の調査を手伝ってもらいたいのだ。軍から報奨金を少し出せるし、調査時に倒したモンスターの素材は君たちのものだ。あと、森の歩き方やモンスターの見つけ方などを教えられる。君たちはまだこちらに来て日が浅いから良い経験になると思うが、どうだろう?」

「ね、良い話じゃない?」

「ああ、特に最後が気に入った。森の歩き方なんて本で読んでもあんまり分かんねえんだ。」

「盛り上がっているところ悪いが、彼は本当に将軍なのか?」


 ヨルミの発言を聞いて思わずアキラと顔を見合わせてしまった。

 確かに、ユリシーズが本当に将軍かどうかは分からない。見た目や立ち振る舞いから信じ込んでしまった。もしかして騙されるところだった...?


 アキラと2人背筋を凍り付かせていると、シリンジの笑い声が響いた。


「アハハ!ごめんね、ヨルミが変なこと言って。大丈夫、彼は将軍さんだよ。訓練場で軍人さんたちの指揮を執っているのを見たことがある。」

「確かに言葉だけでは不足だったな。ミグ人の感覚を基準に話してしまった。これが正式な身分証だ。一階に行けば役場の者が保証もしてくれるだろう。」


 ユリシーズが名刺ほどの大きさの硬質な板を見せてきた。何やら文字や紋章が描いてあるが俺たちには分からない。確証を得るためにはユリシーズが言うように一階に行くべきだろう。


「ユリシーズが言うならそうなのだろう。疑ってすまないな、ユリシーズ。」

「いや、ヨルミ殿の言うことは正しい。私の役職ならばこういった御使い様たちとの文化風習の違いは常に心にとめておかなければいけないのに...。」

「いやあ~、良い勉強になったよ。一瞬ヒヤっとした。」


 アキラは楽しそうに笑っているが、俺はまだ笑えないよ...。もうすべてが怪しく見えそう。


「まあ、とにかくジンとアキラはユリシーズさんと一緒に森の調査に行くんでしょ。良かったじゃないか、やっぱり僕たちとは経験が違うからすごく勉強になると思うよ。...ところで、3人だけで行くの?2人は森に慣れてないから、もう1人か2人くらいシェバズを増やした方がいいんじゃない?レベルの高い軍人さんでもいいと思うけど。」

「あと1人御使い様を誘うつもりだったんだが、お2人はどうかな?ここで合ったのも何かの縁だし、5人で森を探索するのは。」


 ユリシーズがシリンジとヨルミの2人を誘う。

 こちらとしても歓迎だ。そもそも俺も誘おうとしていたわけだしな。


「いやあ、すまないけど僕らには先約があるんだ。」

「今は待ち合わせ中でな。それに私たちでは近接ばかりでバランスが悪い。」


 期待していたが2人にはあっさりと断られてしまった。

 2人も誰かと一緒に冒険するのだろうか。


「先約があるなら仕方ないか。他の人にあたろう。」

「うん、仕方ないね。それじゃあまた機会があればよろしくね、シリンジさん。ヨルミさん。」

「この街にいればまた出会うこともあるだろう。その時はよろしく頼む。」


 また今度、と2人に挨拶をして別れようとしたところでヨルミさんから声を掛けられる。


「もし次があれば今度はジンが誘ってくれ。」


 ヨルミはニヤリと笑いながらこちらに流し目を向ける。

 どうやらユリシーズに遮られて俺が何を言えなかったのか気づいていたのか。ユリシーズとアキラは何のことか分かっていないのが幸いだが、くそっ、恥ずかしいぞ。しかも笑ってた、俺の振り絞った勇気が無駄になったことも気づいてやがるな。


「何今の含みのある感じ?」


 アキラがこちらを覗き込みながら聞いてくる。

 やめろ、探るな。

 アキラの視線から逃れるように酒場を見渡し誘いやすそうな人を探す。


 おっ、あいつなんか良さそうじゃないか?

 店の端の方に座る小柄な女の子が目に留まった。顔を伏せながらも周囲をちらちらと伺っている。間違いない、声を掛けられたがっているが自分から声を掛けることは出来ない様子だ。


 よしあの子にしよう。そうと決まれば善は急げ、あの子の元へ足早に向かう。

 全体的に色の薄い少女だ。白い肌に冬の空のような色の髪、瞳は濃い青だ。ぶかぶかの黒のローブを身に着け杖を携えている。おそらく魔法使いだ。彼女なら組み合わせもばっちり。


「なあ君、良ければ一緒に冒険しないか?」

「え?あの...はい...」

「よし!おーい、アキラ!魔法使いが参加してくれるぞ!」

「えっ、あの、まだ...」

「無理強いするなバカー!」


 駆け寄ってきたアキラに頭をはたかれた。身長差の関係で少し飛び上がってまではたいてきた。 

 少女は俺たち3人を見てオロオロしている。

 俺もユリシーズもごついからね。怖がらせてしまったかもしれん。

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