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第九章 亜細亜の曙−1−

移転暦二三年二月


 フレンス皇国内戦はほぼ終結に向かっていたといえるだろう。ローゼンヌから南進している第50師団および第51師団は首都パーリまで二○○kmに迫り、西進していた皇国皇王派陸軍は首都まで六○km、北進していた皇王派陸軍は一五○kmまで迫っていたからである。軍政派陸軍は六個師団までに目減りし、継戦能力は消失したと見られていたからだった。


 既に投降する軍政派陸軍兵士は後を絶たない。皇王マリー・ミシェールによる、降伏する兵の生命の保証と軍人としての地位は保証する、という声明によるところが大きいといえる。しかし、それでもドコール元帥の抵抗は続き、マリーはある決断をすることとなる。首都パーリ西のはずれにある陸軍参謀本部と、リオンにある陸軍兵器研究所への空爆である。


 当初、いずれも秋津島統合防衛軍の巡航ミサイルによる攻撃を予定していたのであるが、海軍からリオンは我らがやる、という意見にマリーが折れたため、海軍航空隊(FG−4)八機による攻撃に変更されたのだった。四発の巡航ミサイルによる攻撃はピンポイントで命中し、主要施設は破壊されたが、パーリ市内のその他の施設はほとんど影響を受けていなかった。ではあったが、リオンへの攻撃では異変が生じた。


 戦後の調査で軍政派陸軍は「神の鉄槌」と称する新型爆弾を開発しており、それの原料が誘爆したため、リオンは消滅したのだと判断されたのである。すなわち、初期の原子爆弾であり、その威力は一○キロトン級だと判明したのだった。攻撃に向かった八機のうちの四機は誘爆に巻き込まれて消滅、残る四機のパイロットはそのときの後遺症で対地攻撃任務に就けなくなったとも言われている。


 そして二月二○日、三ヶ月にも及んだフレンス皇国内戦は終了したのであった。その後の改革で、フレンス皇国は立憲君主制議会制民主国家として再出発することとなった。皇王の権力は大幅に削減され、国政への介入は不可能となったのである。これは現皇王マリーが強く望んだためであるといわれている。軍事面においても、海軍戦闘艦艇は一万トン以下のものに限られ、合計三○万トンとされ、陸軍においては一五個師団以下に制限され、新設される空軍においても二五飛行隊三○○機以内に制限された。それはむこう一○年間有効であり、その後は国際状況を見て改善されるとされたのである。


 国政面では、本年一二月をもって新しい議会(軍政派が政権をとる以前には制限されていた議会が存在していた)が召集されることが決まり、その準備に追われることとなった。その議会で最初に討議されるのが国名についてであろうといわれている。とはいえ、議会制政治が行われるまでは時間を要することが件念されていたから、これまでどおり皇王による統治を望む声も少なからず存在していた。


 産業面ではエネルギー問題は安全性の低い原子力機関を用いた発電が行われていたため、より安全性を高めるために日本からの技術供与を受けることとなった。資源的には燃料を除けば自活できるだけの資源が存在していたため、それらの輸出による財政面の建て直しが図られることになる。民需においてはこれまでの敗戦国がそうであったように、現地生産会社を受け入れることとなる。


 オーロラリア国はフレンス皇国からの賠償金により、逼迫していた財政状況が改善され、これまで遅れていた近代化を促進することとなり、軍備もバランスのよい軍備に改善された。また、フレンス皇国に倣い、これまで拒否してきた産業面での整備も促進してゆくこととなる。


 秋津島統合防衛軍の今次作戦の被害は以外にも大きかったのである。陸軍では第50師団は九八名の戦死者を出し、負傷者も一九○○名を出していた。第51師団も二七名の戦死者を出し、負傷者も九八○名を出していたのである。海軍でも前述の通りであり、「陽炎」型駆逐艦以外は何らかの損傷を受けていた。ではあったが、艦艇の新造予定はなく、修理改装後の使用が予定されていた。


 それが変更されたのはフレンス皇国海軍からの譲渡依頼であった。同国工業地帯は秋津島統合防衛軍の攻撃により壊滅、現在再建途中であるが、時間を要することは誰の目にも明らかであり、当然の要請であった。また、日本としても性能の判っている艦艇が配備されているほうが何かと好都合であったのだ。同じ要請はオーロラリア海軍からもあった。今次戦争においてオーロラリア海軍は警備艦艇を失っており、その補充として目をつけたようであった。もっとも、両国としても優れた性能を持つ日本の艦艇を入手し、それを基にした自国産艦艇の建造をもくろんでいるのは当然のことである。


 オーロラリア海軍にとって、日本が現在主流としているガスタービン機関は自国で製造するには技術格差がありすぎて難しいが、蒸気タービン機関ならば自国においても出力向上に役立つと考えていたため、これまでガスタービン機関の導入を拒否してきていたのである。フレンス皇国においては新型機関搭載のものよりも扱いなれた機関のほうが習熟も早く、新型機関に比べて早期戦力化できるほうがよいというものであった。そこで目をつけられたのが秋津島統合防衛軍が装備する駆逐艦であった。本国海軍はすべてガスタービン機関の艦艇であったからである。


 本国海軍艦艇は既に最新のものに更新され、新造艦建造は可能であった。であるが、電子装備に慣れたとはいえ、昭和の軍人たちにエレクトロニクスの塊を扱うには長期間の習熟を必要とする。それを避けたいのは秋津島統合防衛軍側であった。また、いざというときに戸惑うことはその艦の生死にも関わるからである。


 その結果として考えられたのが、「ゆきかぜ」型である。基本設計は「たかなみ」型を使いつつ、水雷用軽巡洋艦として改設計されたものである。違いは艦橋形状および機関、そして武装にあり、艦橋は現代護衛艦よりも細くスマートになり、機関は高出力ガスタービンを載せ、水雷用として対艦攻撃兵装の充実を図ったものになっていた。もちろん、秋津島統合防衛軍海軍のみの装備艦艇である。

排水量:五○○○トン

全長:一六二m

全幅:一八m

喫水:六m

主機:AKM2000ガスタービン四基二軸推進

出力:一○万馬力

最大速力:三六kt

武装:六○口径一二七mm単装速射砲一基、VLSミサイル発射管一式

   短魚雷三連装発射管二基、SSM装置四連装四基、

   高性能二○mmCIWS二基

というものであった。


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