第一章 新たなる星の上で−3−
移転暦十五年六月
移転後の混乱も十五年を経て落ち着きを取り戻し、自衛隊の早期警戒管制システムも新しい物に切り替えられ、それこそ移転前のような生活に戻ったと思われたとき、一通の無電が飛び込んできた。その無電の前に何通かの無電を受信していたが、意味がわからなかったのである。もちろん、自衛隊電波傍受班でもである。その無電が解読されたのはちょっとした気まぐれからといっても良かった。たまたま、戦史研究班の一等海尉が自身が作成した解読プログラムにより、過去に遡ってその暗号の解読を試みたところ、第二次世界大戦時の日本海軍の暗号解読プログラムにより、解読されたのである。現在では、レッド暗号、といわれるものであり、その本文は、
「発:聯合艦隊司令長官 山本五十六 宛:大日本帝国海軍大臣 米内光政」で始まっていたのである。
さらに、切り替えられたばかりの早期警戒管制システムは小笠原諸島に接近する国籍不明機とその後方にある大艦隊を捕らえていた。ぐずぐずしていると事故が起こる可能性もあった。ここに至って統合幕僚本部本部長 大田信吾海将は、国防大臣 田中長一郎に進言することとなる。小笠原諸島沖での接触、状況確認すること、十分な状況説明の必要性、それがなされなければ日本は同士討ちになるであろう、ということを。
現れたのはミッドウェー攻略に向かった部隊であり、予定海域に達したもののミッドウェーそのものが存在しておらず、引き返してきた部隊たったのである。
それからが大変な混乱であった。双方による状況確認および状況説明、将来についての方針確認等である。この混乱を沈めるために時の総理大臣安部康太郎は天皇にも説明会となった会場に出てもらうことになる。彼らの時代は未だ天皇の権限が大きいころだったからである。現代人にしてみれば、歴史上の人物が多数現れた事が話題をさらうことになり、新聞の一面は一ヶ月にわたって続いた程である。
現れたのは次のような艦隊である。
主力部隊:
第一戦隊戦艦『大和』『長門』『陸奥』
空母『鳳翔』
駆逐艦『夕風』
第三水雷戦隊軽巡『川内』、駆逐艦『吹雪』『白雪』『叢雲』『初雪』『磯波』『浦波』『敷波』『綾波』
水上機母艦『千代田』『日進』
給油艦二、
警戒部隊:
第二戦隊戦艦『日向』『伊勢』『扶桑』『山城』
第九戦隊軽巡『北上』『大井』
第二十駆逐隊駆逐艦『朝霧』『夕霧』『白雲』『天霧』
第二十四駆逐隊駆逐艦『海風』『山風』『江風』『涼風』
第二十七駆逐隊駆逐艦『有明』『夕暮』『時雨』『白露』
給油艦二、
機動部隊:
第一航空戦隊空母『赤城』『加賀』
第二航空戦隊空母『飛龍』『蒼龍』
第三戦隊第二小隊戦艦『榛名』『霧島』
第八戦隊重巡『利根』『筑摩』
第十水雷戦隊軽巡『長良』、駆逐艦『野分』『嵐』『萩風』『舞風』『風雲』『夕雲』『巻雲』『浦風』『磯風』『谷風』『浜風』『秋雲』
給油艦五
MI攻略主隊:
第三戦隊第一小隊戦艦『金剛』『比叡』
空母『瑞鳳』
駆逐艦『三日月』
第四戦隊第一小隊重巡『愛宕』『鳥海』
第五戦隊重巡『妙高』『羽黒』
第四水雷戦隊軽巡『由良』、駆逐艦『村雨』『五月雨』『春雨』『夕立』『朝雲』『峯雲』『夏雲』
工作艦『明石』
給油艦四
MI攻略支援隊:
第七戦隊重巡『熊野』『鈴谷』『三隈』『最上』
第八駆逐隊駆逐艦『朝潮』『荒潮』
給油艦一、
MI攻略隊護衛隊:
第二水雷戦隊軽巡『神通』、駆逐艦『黒潮』『親潮』『雪風』『天津風』『時津風』『初風』『不知火』『霞』『陽炎』『霰』
水上機母艦『千歳』
駆逐艦『早潮』
輸送船十五
給油艦二
掃海艇十他
潜水艦部隊:
第六艦隊軽巡『香取』
潜水艦十五
母艦二
であった。
正しく、ミッドウェー攻略部隊であった。六十数年前、太平洋戦争転換点とも言われたあの戦いに出向いた部隊であったのだ。その混乱は限りなく続くかと思われたが、時が立つにつれて収拾することとなる。