第八章 戦いに意味はあるのか−3−
移転暦二二年一一月
フレンス皇国開放作戦の実施は一一月二○日と定められた。既に偵察衛星は上空にあり、フレンス皇国主要施設その他の解析が終わるまでに一○五日を要したからである。
ミシェール皇女はあの後、秋津島へと渡り、日本の優れた軍事力を目の当たりにし、日本本国に渡って優れた技術力を体感して自ら愛してやまない祖国の進むべき途を見出していた。また天皇陛下との会談をもって日本の政治形態を理解していた。だが、なんといっても彼女を驚かせたのはその開放性であったようだ。秋津島にいたときでも日本にいてさえも、戦場の様子が伝えられていたことに驚きを隠せないでいたのである。もちろん、戦場だけではなく、亜細亜連盟加盟国の情報が国民に知らされていることに驚愕していたのである。
あの、毎日臣下のごとく謁見に来ていたタモツ・オオイ中佐の語っていたのは嘘でなかった、とはじめて実感したのである。彼の語っているように祖国は開放されるだろう。しかし、その後に進む道を間違えてしまえばかの国のようになれないだろう、と思うのである。もし進む道を間違えてしまえば、祖国はこの星から消滅してしまうだろう、とも思われた。
ミシェール皇女はシンドニーのあの建物にいて祖国の解放を待っていた。ほぼ毎日といっていいほどにマルセイユ将軍が顔を見せる。彼は皇国きっての皇王派だった。この老提督は前皇王のためにその身を粉にして尽くしてくれていた。最も信頼できる軍人であった。その彼が言うのはいつも同じだった。気がかりなのは第一皇女マリーの身である、と。ミシェールにとっても母を早くになくした彼女にとって年の離れたマリーは母親でもあったのだ。
オーロラリア侵略部隊においてはマルセイユ将軍の友人であるぺタール将軍によって軍政派の軍人たちを既に隔離し、四個師団(定数に満たない師団もあった)の意思は統一されていた。その胸にあるのは祖国解放、であった。ミシェール皇女も幾度か足を運び、祖国解放を訴えていたのである。
だが、その彼らにしてもいかにして祖国を開放するのか、知らされていなかったのであった。知らされているのは唯一つ、祖国の首都パーリに皇王旗を揚げる、それだけであった。彼らの見えるのは、彼らが乗ってきた船が港において修理されている、それだけであった。もう一度あれに乗り、祖国に向かうのだ、ということは誰でも理解できることであった。
作戦計画は次のようになっていた。
1.秋津島統合防衛軍陸軍部隊によるフレンス皇国西岸部の確保。
2.第一および第二航空戦隊によるフレンス皇国港湾部の攻撃。
3.戦艦部隊による港湾部への艦砲射撃。
4.フレンス皇国陸軍4個師団による軍政派の討伐。
5.海軍陸戦隊特殊部隊による第一皇女マリー・ミシェールの保護。
であり、作戦期間は2ヶ月を見込まれていた。
作戦についてフレンス開放軍に知らされたのは以下の通りである。
1.秋津島統合防衛軍陸軍部隊によるフレンス皇国への侵攻。
2.航空部隊によるフレンス皇国制空権の確保および港湾部への攻撃。
3.戦艦部隊による港湾部への艦砲射撃。
4.フレンス皇国陸軍4個師団によるフレンス上陸作戦。
5.作戦発動は一一月二五日とする。
である。
むろん、解放軍とはいえ敵国である。すべてを教えるわけにはいかず、欺瞞情報を渡したのは仕方がないところであり、対スパイ対策であるともいえた。この作戦通達では、統合防衛軍司令部はフレンス側に事実を詳細に伝えていないことがわかる。何処に軍政派のスパイがいるかわからないからである。だからこそ、MRJ70JE電子作戦機がヘバート方面に進出し、哨戒作戦を実施していたし、『大和』通信室では二四時間体制で電波監視を行っていたのである。
そんな中、既に発動されていた作戦もあった。第二潜水戦隊による陸戦隊特殊部隊の上陸作戦である。今次の作戦には一個小隊すべてが投入されていた。侵攻作戦が始まれば、揚陸艦『鳳翔』が彼らの支援任務につくこととなっていたのである。『鳳翔』には三機のヘリのほかやはり二機の一九式対地攻撃機が積まれていた。この機体は一九式攻撃機を改造したもので、対地用四○mm機関砲が装備され、ステルス塗料により、初歩的なステルス性を持っていたのである。
二二日早朝をもってフレンス皇国戦艦部隊、陸軍兵四個師団を乗せた輸送艦がヘバートから出航した。戦艦部隊は先にシンドニーからヘバートへ移動していたのであるが、二五日の予定を戦艦部隊のヘバート到着後の翌日に早められたのだった。しかし、第一独立機動艦隊および第三独立機動艦隊は二○日の深夜、シンドニーを出航していた。それぞれの部隊は改編され、陣容を一新していた。
第一独立機動艦隊
第一航空戦隊空母『扶桑』『山城』
第五戦隊重巡『妙高』『羽黒』
第二水雷戦隊軽巡『神通』(109ありあけ)駆逐艦『嵐』『雪風』『天津風』『時津風』『秋雲』『磯風』
第二○駆逐隊駆逐艦『吹雪』『白雪』『初雪』『叢雲』『磯波』『浦波』
補給艦二
第三独立機動艦隊
第二航空戦隊空母『長門』『陸奥』
第四戦隊重巡『愛宕』『鳥海』
第六水雷戦隊軽巡『大井』(106さみだれ)『風雲』『夕雲』『巻雲』『霰』『霞』
第二八駆逐隊駆逐艦『白露』『村雨』『五月雨』『春雨』『夕立』『夕暮』
補給艦二
独立遊撃艦隊
統合防衛軍旗艦『大和』
第一戦隊戦艦『伊勢』『日向』
第七戦隊重巡『熊野』『鈴谷』
第一○水雷戦隊軽巡『長良』(105いなづま)駆逐艦『陽炎』『不知火』『野分』『早潮』『親潮』『黒潮』
支援部隊
、揚陸艦『鳳翔』
第六水雷戦隊軽巡『大井』(106さみだれ)『風雲』『夕雲』『巻雲』『霰』『霞』
輸送艦八
であった。