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第八章 戦いに意味はあるのか−1−

移転暦二二年一○月


 フレンス皇国との戦争は秋津島統合防衛軍にとって情報のないままに始まったと言っても過言ではない。偵察衛星による情報収集は衛星の故障によって不可能であり、オーロラリアとの戦争に比べて情報不足で始まっていた。また、予定を立てる時間がなく、成り行きで始まったとも言えるのである。しかし、宣戦布告などの一連の手順は踏んでいた(敵国のフレンス皇国からは何の音沙汰もなかったが)のだった。


 だからこそ、RF−2戦術偵察機やMRJ70JE電子作戦機など配備されたばかりの航空機を使用し、情報収集に当たらせていたのである。むろん、潜水艦による情報収集は続けられていた。現在までにわかっている情報では、フレンス皇国の技術レベルは当初、インペル国と同等と見られていたが、やや上方に修正されていた。テレビやラジオ電波の受信も行われていた。ではあるが、広大な国土の北西方面は開発されておらず、南東方面に人口が集中していることがわかっていた。


 フレンス皇国は、移転前のアメリカ大陸を小さくしたような形で、ほぼ中央部にパナマと同じようにくびれ、南東のやや小ぶりな地域が主要地域であり、それより大きめの北西地域は森林地帯であった。捕虜の情報からは国勢はあまりよくないことはわかっていた。いわゆる軍政がひかれているようで、国民の生活レベルは低いということもわかっていたのである。


 その情報がもたらされたのは暦が変わって一○月になってからである。ひとつめの発信元はフレンス皇国南東海域にいた伊号89(SS589あさしお)であり、その内容は次のようなものであった。

「戦艦と思しき敵大型艦四、巡洋艦四、駆逐艦一二、二五ノットの速度にて西南に向かう。我、追尾不能なり」というものであり、もう一通の発信元は海兵隊特殊部隊第一小隊である。この部隊についてはいずれ述べることもあるだろう。その内容は次のようになっていた。

「オーロラリア侵略部隊にフレンス皇国第二皇女あり」

というものであった。


 この報告を聞いた司令部、といってもシンドニーにいるのは司令官山本五十六大将、副司令官今村均中将、主席参謀大井保中佐、参謀土田巌少佐だけであったが、誰もが首をかしげたのである。

「既にオーロラリア侵略部隊とフレンス本国との往来は無きに等しいものです。先日の海戦で我らの能力は判っているはずですが、未だ侵略作戦の続行なのでしょうか」と土田少佐が首をかしげながらいう。

「いまの状況では侵略部隊に対する補給もままならないはず、その証拠に侵略軍4個師団はヘバート周辺を動いていない。フレンス皇国の目的がなんなのか判らない」と今村中将もいう。


 山本は何も言わず、ただ大井を見つめていた。つられて今村も土田も大井を見る。山本にとって既に大井は自身の片腕とも言えたのである。この地に跳ばされた際に大井の発案により、行き違いがなかったことを知っていたからである。当初、秋津島統合防衛軍司令部人事に対して不信感を持っていた山本であったが、その後のオーロラリア帝国との戦い、エンリア帝国との衝突、インペル国との接触において大井が立てた作戦能力を見るにつけ、その能力を高く評価していたのである。


 今村にとってもそれは同様であった。これまで実施した作戦においてそれは証明されていた。今村はこの地で軍人としてやっていけるか正直不安であったが、今は不安はない。秋津島統合防衛軍海軍内部、特に昭和から来た軍人たちが彼の事を現代の諸葛孔明だといっていたが、今では陸軍内部ですらそういわれている事を知っていた。それは本人の耳にも入っているだろうに、変わらない彼の人間性に信頼を置いていたのである。


 皆の視線に気づいていないのか当の大井は地図見ながら考えていたが、やがて顔を上げて言った。

「この侵略に不信な点が多いと思います。情報が少ないため、はっきりとしたことは判りませんが、私はフレンス皇国の国としての意思での侵略とは思えません。かの国の一部の人間による何らかの行動ではないか、そう考えております。例えば、二派による権力闘争が起こり、敗れたほうが国を追いやられた、あるいは、軍政に従わぬ者たちの排他を目的としたもの、そう考えています。そう考える理由の一つに、ヘバートの敵侵略部隊四個師団のうち、一個師団が他の三個師団よりも上位に位置されているという情報です。あくまでも個人的な考えですが」

「このままでは戦争がいつまで続くか判りません。戦争終結に向けて思い切った作戦が必要だと思われます。まず、きちんとした情報の入手、そのために二つの作戦を実行すべきと思われるのです。その後は防衛戦ではなく、逆侵攻という手段になっても戦争終結に向けた作戦が必要かと思われます」

「ひとつは出てきた艦隊を殲滅するのではなく、拿捕あるいは上級指揮官の捕獲です。私は『大和』を出すことを考えています。艦隊決戦などではなく、お前たちに負けないぞ、というこちらの意思表示が必要だと思えるからです。それは困難な作戦になると思います。もうひとつは陸戦隊特殊部隊による第二皇女の保護です」

「よかろう。『大和』『伊勢』『日向』を率いて私が出よう。大井君、君は今回シンドニーに居残りだ」と山本がいう。それに対して大井が反論するが、山本の次の言葉で引き下がらざるを得なかった。

「心配は要らない。対戦艦相手なら君らより私のほうがはるかに経験を積んでいるし、山口君も連れて行くから最悪でも殲滅はできるだろう」


このサイト感想に対する返信機能があったんですね。昨日初めて知りました。で、遅ればせながら返信させていただいたわけですが。筆者は勉強不足を痛感しております。しかし、修正や変更も手遅れというか、それこそ最初から書き直す羽目になりそうなのでこのまま連載させていただきます。架空戦記のカテゴリーながら戦争シーンは少ないです。

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