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第七章 新たな戦い−5−

移転暦二二年九月


 E−3A早期警戒管制機からの情報では、大型艦一○を含む合計三二隻の艦隊であると判明したのはFG−5戦闘攻撃機の発艦前であった。今回のFG−5戦闘攻撃機の兵装は一○式空対艦ミサイル二発であった。対空兵装のFG−5戦闘攻撃機の護衛が付くため、対空兵装は装備されなかったのである。対空兵装を装備しない場合、FG−5戦闘攻撃機は一○式空対艦ミサイル四発積むことができたが、攻撃隊の数が多いことから各機二発の装備にとどまっていた。


 敵艦隊攻撃に向かった攻撃隊は各機一発ずつ合計二四発の一○式ミサイルを距離四○kmで発射する。さらに敵艦隊に接近する彼らが見たのは低空飛行中の一○式ミサイルに向けて発射される槍襖のような対空機銃の射撃であった。中には対空ミサイルと思しきものもあった。これを見た攻撃隊隊長の村田重治少佐はこれ以上接近する事をやめ、直ちに残っていた一○式ミサイルの発射を命じたのである。その判断は間違ってはいなかった。迎撃ミサイルを想定して開発された一○式ミサイルではあったが、近接防御の機銃弾には弱かったのだった。もっとも、バルカンファランクスのような高性能なものでない限り不可能であると思われた。しかし、何発かの一○式ミサイルは機銃の弾幕に捉えられ、撃破されていたのである。


 直援の戦闘機は二○機上がっていたが、FG−5戦闘攻撃機によってすべてが撃墜されていた。その頃には敵艦隊の対空攻撃はほぼなくなっており、村田は僚機を引きつれ、成果確認に向かった。むろん、高性能デジタルビデオカメラを回していた。大型艦一○隻のうち、空母が五隻、戦艦五隻は大破炎上中であり、重巡洋艦六隻、軽巡洋艦六隻は撃沈確実、駆逐艦は六隻が無傷のようでそれ以外の艦艇は見当たらない。むろん艦艇のクラスは旧日本海軍艦艇に当てはめたものであり、実際のところはわからない。


 現場海域に到着した第一独立機動艦隊の降伏勧告に対し、無傷であった駆逐艦が攻撃を仕掛けようとしたようであったが、結局はおとなしく降伏した。山口司令官は捕虜を収容するとシンドニーに向かったが、その彼の元に驚愕すべき情報が入る。


 それはオーロラリア海軍の警戒網をすり抜け、二隻の大型輸送艦と思しき艦がヘバートに入った、というものであった。一○隻の護衛艦艇に守られた二隻の輸送艦が、護衛艦艇の犠牲も省みず、ヘバートの港湾に乗り上げたのである。派遣軍を統合すべき司令部が存在しないがゆえの失態であったと言える。


 後に判ったことであるが、第一独立機動艦隊がフレンス皇国第三海軍部隊との戦闘に入ったことからの突入であるとわかった。また、その輸送艦は三万トンの高速輸送艦(最大速力二八ノット)であり、多数の補給物資を積んでいたことも判った。


 そんな中、第一遊撃艦隊の艦砲射撃による補給物資の破壊を狙った秋津島統合防衛軍司令部であったが、それは中止された。なぜなら、ヘバート侵略の際に捕虜となった民間人が物資の揚陸に借り出されていたからである。そのため、艦砲や航空機による攻撃など不可能であったのだった。


 ここにいたって秋津島統合防衛軍司令官山本五十六大将は統合防衛軍旗艦『大和』、第一○水雷戦隊軽巡『長良』(105いなづま)駆逐艦『陽炎』『不知火』『野分』『早潮』『親潮』『黒潮』、第六水雷戦隊軽巡『大井』(106さみだれ)『風雲』『夕雲』『巻雲』『霰』『霞』、揚陸艦『鳳翔』を自ら率いてシンドニーに進出させ、さらに航空部隊のうち、第五一一飛行隊(FG−4戦闘機一二機)、第五三一飛行隊(P4A対潜哨戒機四機)、第五四一および五四三飛行隊(E-MRJ70AWACS四機)をブランベンに進出させた(五四一飛行隊二機は先に進出していた)。


 さらに、今村均中将もシンドニー入りし、南雲忠一中将はブランベン入りしたのである。今村均中将は進出している第49師団とオーロラリア陸軍との連合陸軍の総指揮を取るためであり、南雲忠一中将は進出した航空集団および各国より派遣されている独立飛行隊の指揮を執るためであった。


 山本がまず手をつけたのは、第一遊撃艦隊の再編であった。第一戦隊戦艦『日向』『伊勢』に第一○水雷戦隊軽巡『長良』(105いなづま)駆逐艦『陽炎』『不知火』『野分』『早潮』『親潮』『黒潮』を付けて東南海域の哨戒に当てた。つまり、敵の補給を絶つためである。第一二水雷戦隊には秋津島とシンドニーを往来するはずの輸送艦および補給艦の護衛任務に充てた。むろん、これには大井保中佐も関与していた。


 南雲は隷下の航空集団をメインに据え、開いた穴を独立飛行隊によって埋めることとした。むろん、南雲には航空機運用の実績はなく、旧第一機動艦隊司令長官であったときも参謀たちは苦労していたが、今も本国空軍より派遣された今城健一少佐が参謀に付いていたのである。この今城少佐、実は大井保の同期であり、親友ともいえる間柄であった。今のところ配備数が少ないため秋津島統合防衛軍司令部参謀とはいかないが、配備総数が増えれば司令部参謀入りの予定であった。


 今村は隷下の第49師団とオーロラリア陸軍四個師団(第16師団、第14師団、第10師団、第9師団)の指揮を執ることが決まると、現場で防備を固め、南進は禁じた。未だ機械化されておらず、歩兵が主力のオーロラリア陸軍では大軍の移動は難しいからであった。動いているのは情報収集および避難民救出のための小部隊五個小隊のみであった。参謀として土田巌少佐もシンドニー入りしていた。


 このシンドニーで最も優れた指揮通信機能を備えているのは統合防衛軍海軍旗艦『大和』であったが、今村は敢えて陸に上がっていた。というのも、この二月に今村の要望で開発が終わった試製二二式指揮通信車両が入っていたからである。試製といわれるように正式採用されていなかったが、この二二式指揮通信車両、大型観光バスをベースに開発され、強力な無線通信機能があり、衛星通信機器も装備されていたのである。今村はそれで指揮を執っていた。


 先の第一独立機動艦隊とフレンス皇国海軍第三軍との艦隊決戦以来、両軍の海上での接触はなく、小康状態が続いていた。ではあったが、二通の電文がそれを変えてしまったのだ。


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