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第七章 新たな戦い−4−

移転暦二二年九月


 第五戦隊のイージス艦『妙高』のレーダーが南南東から接近する高速飛翔体群を捉えたのは、国籍不明潜水艦の接触を受けてから二○分後、空も明るくなろうかという時間であった。その数一四、速度はM二であった。早朝のため、E−3A早期警戒管制機は上げていなかった。そのときの『妙高』は二隻の空母の前方にいて回頭中であったのだ。『羽黒』は二隻の空母の後方にいて距離が離れていたのである。が、『妙高』『羽黒』はすぐに反応、遅れて第二○駆逐隊『吹雪』『白雪』『初雪』『叢雲』『磯波』『浦波』も反応する。

 まず、『妙高』『羽黒』のVLSから各六発の一九式艦対空ミサイルが発射され、もっとも『妙高』に近い位置にいた『吹雪』のVLSからも二発の一九式艦対空ミサイルが発射された。「くまの」型イージス艦のイージスシステムは百二八目標同時追尾、三二目標同時攻撃が可能であった。「たかなみ」型護衛艦でも三二目標同時追尾、六目標同時攻撃が可能であったのだ。ミサイルは全基撃破された。本来であれば『妙高』一隻による対処でも可能であったが、そうしないのは乗組員が艦の性能についていけていないからである。


 第一独立機動艦隊司令官の山口多門少将は緊急発進したE−3A早期警戒管制機に二機のFG−4戦闘機を護衛を付け、敵艦隊の警戒索敵に当たらせ、FG−5戦闘攻撃機の発艦準備を命じた。さらにFG−4戦闘機を両艦合わせて一二機の発艦を命じ、CAPに当たらせる。山口多門少将は見敵必勝の提督らしく、艦隊を南南東に向けて進軍させる。


 二○分後、E−3A早期警戒管制機は敵艦隊発見の報を伝える。一六隻からなる艦隊のようであった。『扶桑』『山城』から合わせて一二機のFG−5戦闘攻撃機が発艦、上空にいたCAP中の戦闘機の内、『山城』の所属部隊に護衛を命じた。


 三○分後、FG−5戦闘攻撃機はレーダー上の標的に向けて二○式空対艦ミサイルを発射する。二○式空対艦ミサイルはかっての八八式空対艦ミサイルの流れを汲む最新鋭ミサイルであった。最大射程一〇〇km、目標までは慣性飛翔、二○km手前からはアクティブレーダーホーミング、終末処理はレーダーとレーダー画像による。目標から五km手前でポップアップし、ジャミングやフレアなど欺瞞をかいくぐって命中するもので、命中率はほぼ一〇〇パーセントであった。


 発射された一二発の二○式空対艦ミサイルは全基命中、FG−5戦闘攻撃機はさらに接近し、もう一発の一○式空対艦ミサイルによる攻撃を加えんとしていた。二○式は重量があり、FG−5戦闘攻撃機では一発しか積めないのであった。一○式は命中までの過程は二○式と同じであったが、射程は六○kmしかなかったからである。だが第二派攻撃は中止された。E−3A早期警戒管制機が、北東より接近する一〇〇機近い航空機をその高性能レーダーに捕らえたからである。だが、敵編隊はこちらに向かってくることなく、味方艦隊上空で旋回するだけであった。対艦攻撃の戦果はE−3A早期警戒管制機により確認されていた。レーダーおよび目視により、八隻の撃沈および四隻の大破、である。攻撃隊は帰還命令を守り、母艦に向かって転進する。


 その頃、第一独立機動艦隊は敵潜水艦の接触を受けていた。例によって高速では騒がしいが、低速ではかなり静かであった(といっても改そうりゅう型やおやしお型にはおよばない)ため、また、艦隊が二八ノットで進軍していたこともあって発見が遅れたのである。対潜哨戒任務で上がっていたSH−62多目的ヘリが発見、二隻を撃沈したが、一隻は取り逃がしていた。一番近い潜水艦で艦隊まで六km、一番遠い潜水艦で一八km離れていたのである。戦果を聞いた山口多門司令官は敵を警戒しながら艦隊をシンドニーへ帰還させるため、反転を命じた。元々帰還のための回頭中の遭遇であったため、燃料の残り少ない艦がほとんどであったのだ。


 陸上ではどうなっていたかというと、第49師団がシンドニー入りし、既に任務についていた。シンドニー港周辺は海軍陸戦隊が固め、その南方を第49師団が守るように配備されていた。幸いにしてメルボーン〜シンドニーラインはまだ敵と接触しておらず、ヘバート方面からの避難民衆のみがそのラインを通過していたのである。


 これには独立飛行隊が大きく関与していた。哨戒を主任務に各地に散らばった陸軍に対する補給、連絡、対地攻撃など大いに活躍していたのである。対空兵装による被害も出ていたが、今では敵の大部隊を狙うわけではなく、規模の小さい大隊や中隊などを相手にしていたからそれ程被害は出ていなかった。ましてや敵は補給が続かないためか、活発な活動はしていなかった。オーロラリア海軍はメルボーンを根拠地にしてタフマン海など東南部海域を哨戒しており、小規模な衝突が二度あった。明るい間は独立飛行隊の偵察機が飛び回り、おいそれとヘバートに近づけないようになっていたのである。


 秋津島統合防衛軍司令部では敵の空母が何処にいるのかを気にしていた。この方面を担当する偵察衛星(観測衛星)がまだ打ち上げられていないことから、これまでのように偵察衛星に頼ることができず、もっぱら二機に増やされたRF−2偵察機に頼っていたのである。


 それから数日後のことであった。シンドニー沖北東六○○kmの海域を南に向けて航行中だった第一独立機動艦隊は、敵潜水艦の接触を受けたのである。さらに二五の高速飛翔体、一〇〇機の航空機と思われる飛行体が各艦のレーダーによって探知された。E−3A早期警戒管制機を上げようかという早朝の時間帯であった。


 まず反応したのは輪形陣一番外の東側にいた駆逐隊群の三隻『叢雲』『磯波』『浦波』であった。各艦六発の一九式艦対空ミサイルを発射する。僅かに遅れて「くまの」型イージス艦『羽黒』が七発の一九式艦対空ミサイルを発射する。


 この間に『扶桑』『山城』の飛行甲板上に待機していた合わせて二機のE−3A早期警戒管制機が発進する。さらに両艦合わせて一二機のFG−4戦闘機が発艦準備に入る。一九式ミサイルが敵のミサイルをすべて撃破したとき、上空には一二機のFG−4戦闘機が上がっており、敵機に向かって飛び去っていた。今回のFG−4戦闘機の兵装は一○式空対空ミサイル四発と短射程のサイドワインダー二発の計六発装備である。


 ようやく最適高度に達したE−3A早期警戒管制機から二○○km東を東南東に向かう敵機動艦隊と思しき艦影探知の報が入ると、山口司令官はFG−5戦闘攻撃機の発艦準備をも命ずる。各艦一二機のFG−5戦闘攻撃機が発進し終えたときには第一波迎撃隊が四八機の敵機を撃墜した後であった。その後、「くまの」型イージス艦『妙高』『羽黒』から二四発、「たかなみ」型護衛艦六隻から三六発、合わせて五二発の一九式艦対空ミサイルが発射されていた。それ程第一独立機動艦隊に敵機は接近していたのである。むろん第一波迎撃隊は戦闘空域を離脱、敵機はすべてが撃墜された。


 両艦合わせて三二機のFG−5戦闘攻撃機(うち八機は対空兵装装備)が発艦したとき、敵艦隊との距離は一八○kmまでになっていた。山口は二四機の対艦攻撃装備のFG−5戦闘攻撃機に八機の対空兵装装備FG−5戦闘攻撃機を護衛に付けて敵艦隊に向かわせていた。それに合わせて第二水雷戦隊軽巡『神通』(109ありあけ)駆逐艦『嵐』『雪風』『天津風』『時津風』『秋雲』『磯風』の七隻が輪形陣を外れるようにして艦隊輪形陣東側に集合を始め、司令座上の『神通』は最後尾に着く。それは何故かというと、艦の速度が違いすぎるからである。『陽炎』型駆逐艦は機関の改造により三八ノットの高速が出せるが、現代日本の護衛艦である『神通』はどんなにがんばっても三二ノットしか出ないのである。ために、もし水雷部隊による作戦が発動された場合、水雷部隊司令の座上する艦は突撃する駆逐艦を後方より守ることとされていた。もっとも、艦対艦ミサイル戦になるため、未だ稼動したことがなかったのである。


 艦対艦ミサイルといえば、フレンス皇国の対艦ミサイルは射程三五○kmになる大型対艦ミサイルであることが後に判明している。もっとも、精密誘導能力はなく、大まかな方向に発射し、発射後はアクティブレーダーホーミングで敵艦に命中するというものであった。味方のレーダーが照射されていればその標的に一〇〇パーセントの命中率があるとされていた。ただし、敵艦からの迎撃は考慮されておらず、日本軍では油断していなければ全弾防ぐことが可能であった。


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