第七章 新たな戦い−3−
移転暦二二年八月
新たに第三航空戦隊空母『赤城』『加賀』、第八戦隊重巡『利根』『筑摩』、第四水雷戦隊軽巡『由良』(107いかづち)駆逐艦『朝雲』『峯雲』『夏雲』『朝潮』『荒潮』、第二六駆逐隊駆逐艦『海風』『山風』『江風』『涼風』『時雨』『有明』による第二独立機動艦隊が編成され、ナミリア海軍基地に移動することとされたのはこの月に入ってすぐのことであった。これは秋津島統合防衛軍主席参謀、大井保中佐によるものであり、第一独立機動艦隊には五万トン級タンカー二隻が到着次第、オーロラリア国東部第一の都市シンドニーへの移動を命じることとなる。
このシンドニー、東部では最大の工業都市であり、オーロラリア内部紛争の際には貴族たちの集結場所となった都市であった。現在では治安が安定し、西部の主要工業都市に追いつけとばかり発展している。天然の良港であり、日本からもいくつかの企業が進出している地域であった。そのシンドニーに第一独立機動艦隊が入ったのは八月も終わりに近い二九日であった。
第一独立機動艦隊がシンドニーに入った翌日、既に戦端は開かれていたのである。発端は三○日○八二○時、オーロラリア海軍大型輸送艦『アデラード』(一万五○○○トン)が国籍不明潜水艦からの魚雷攻撃を受けたことであった。国籍不明潜水艦は『アデラード』の護衛任務についていた護衛艦の駆逐艦二隻による爆雷攻撃により撃沈されたのである。この駆逐艦は日本から売却された「はつゆき」型護衛艦(艦載ヘリは搭載なし)であった。
これにはパリエルから派遣されていた二一式対潜哨戒機によるところが大きかった。『アデラード』被雷の報により、上空に飛来した二一式対潜哨戒機が駆逐艦を国籍不明潜水艦に誘導し、爆雷攻撃によって撃沈に至らしめたのであった。『アデラード』には魚雷二発が命中、沈みこそしなかったが、大破したためにヨロヨロとブランベンに入港した。この時、八○km北方にいたMRJ70JE電子作戦機は『アデラード』被雷海域からの発信を傍受していた。
第一独立機動艦隊のシンドニー入港は遅かったのである。というのは、東南部のヘバートに敵軍が上陸していたのであった。 第一独立機動艦隊のシンドニー進出に合わせ、海軍陸戦隊一個大隊およびオーロラリア陸軍一個師団(第16師団、兵力一万人)がシンドニー周辺に配備されていたが、それより南にはまとまった軍が配備されていなかったためである。
RF−2戦術偵察機による偵察で報告されたのは陸兵二個師団程度、装甲車二○両程度、戦車はないようだ、というものであった。対空火器は存在し、事実、ミサイル攻撃を受けたため、同空域を離脱していた。オーロラリア陸軍参謀本部はシンドニー周辺配備の第16師団にメルボーン進出を命じ、ブランベン周辺配備の二個師団(第14師団および第10師団)のうち第10師団をシンドニーへの移動を下命、第14師団にはシンドニー〜メルボーンに展開する事を命じた。さらにタウンズベル周辺に配備の一個師団(第13師団)にはブランベンへの移動を命じていた。これらの移動には派遣軍の二一式輸送機が使用されることとなる。
一方、秋津島統合防衛軍からは第49師団がシンドニーに派遣されることとなり、兵員は民間航空機でブランベンまで移動し、そこからは鉄道を利用しての移動とされ、武器弾薬等の兵器はC−3輸送機でシンドニーまで運ばれることとなった。シンドニーの第一独立機動艦隊およびブランベンの第一遊撃部隊は主力が動けないため、第二水雷戦隊および第一二水雷戦隊の『夕風』(156せとぎり)『三日月』(155はまぎり)による港湾沖哨戒のみに徹していた。
海では先の潜水艦以外の敵の動きはと言えば、新たな潜水艦の活動が確認されていたが被害はなく、既に三隻を撃沈していた。しかし、水上艦艇の動きはなかった。しかし、翌日早朝、港を出て沖合いを遊弋していた第一独立機動艦隊のE−3A早期警戒管制機のレーダーが東南東四五○kmより接近する一〇〇機以上の航空機を探知、『扶桑』『山城』の二艦合わせて二四機のCAP(戦闘空中哨戒)中の戦闘機が迎撃に向かった。航空機の速度は九五○km、レシプロ機では出せない速度であった。
先に攻撃を仕掛けたのはFG−4戦闘機のほうであった。二○式対空ミサイル、それは六○kmもの射程を誇る長距離対空ミサイルであった。移転暦一五年から開発された艦対空ミサイルから派生した空対空ミサイルであり、アクティブレーダーホーミングとレーダー画像一致による終末処理により、ほぼ百パーセントの命中率を誇る。ただ重量があるため、FG−4戦闘機では一発しか積めない。
二四発の二○式対空ミサイルは二四機の敵を落とした。次いで一○式対空ミサイルが各機二発発射される。これは中射程のアクティブレーダーホーミング対空ミサイルである。今回は二○式を積んだため、このミサイルで対空兵装はなく、後は機銃のみになる。普段は一○式対空ミサイル四発と短射程のサイドワインダー二発の計六発装備である。合計四八発の一○式は四八機の敵を屠ったが、その前に相手からも一五二発のミサイルが発射されていた。そのミサイルはE−3A早期警戒管制機の広域ジャミングでたちまち無効とされた。この対空ミサイルはレーダーホーミングミサイルであったようだ。
『扶桑』『山城』から緊急発進した合わせて四機のFG−4戦闘機が遅れて戦闘空域に到着し、各機四発の一○式対空ミサイル発射する。これがFG−4戦闘機の最大の特徴であった。同時八目標追尾、同時四目標攻撃できる火器管制装置を持っていたのである。その結果、さらに一六機を撃墜していた。ここで残った敵機は反転、戦闘空域を離脱していった。