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第六章 再生のための苦難−2−

移転暦二一年二月


 一月一六日、オーロラリア帝国で南北に分かれた大規模な紛争が発生、同国に駐留していた第一戦隊戦艦『長門』『陸奥』が同じくバーズン港に停泊していた、オーロラリア帝国最大の戦艦『アデラー』『ウイングラー』(共に三万トン)を狙った攻撃に巻き込まれ、ミサイル一○発のうち、『長門』に三発、『陸奥』に四発が命中した。『長門』は一発を第二砲塔、一発は煙突基部、一発は艦尾に、『陸奥』は第一砲塔に二発、煙突基部に一発、艦尾に一発被弾したのである。


 両艦とも半舷上陸中であったため人的被害はそう多くなかったが、そのためにダメージコントロールが遅れ、特に『陸奥』は命中箇所が悪く、誘爆一歩手前であり、弾薬庫への注水が後少し遅れていたら危ないところであった。ちなみに本来第一戦隊に所属する『大和』は機関に異常があったため前日に秋津島へと戻っており、被災は免れた。また、第二戦隊の『日向』『伊勢』は南部バーデア港の不穏分子鎮圧支援を終え、バーズンに帰港中であったため、同様に被災は免れた。


 後の調査で判明するのであるが、両艦とも『アデラー』『ウイングラー』に隣接する形で停泊していたための事故であったと言われる。狙われた『アデラー』『ウイングラー』はそれぞれ二発と一発を被弾、沈没着底した。これが轟沈のような沈没であれば、『長門』『陸奥』も巻き込まれて損害は大きくなっていたとも言われている。両艦とも『長門』『陸奥』に挟まれていたため、ほとんどの攻撃を『長門』『陸奥』が受けたようである。ちなみに攻撃は二方向から行われていたこともわかっていた。


 また、この内紛は日本の政治形態を知った同国改革派が、王政から議会制政治への移行を求めて起こされたものであったことも判明する。ともあれ、日本はオーロラリア帝国に対する抗議および賠償を求めることとなる。エリプトおよび日本との戦争による賠償金の支払いのため、窮乏していた国庫がさらに圧迫を受け、治安が悪化したため、日本はある提案をすることとなる。王政ならびに貴族制の廃止による議会制民主国家への移行である。何のことはない、かって太平洋戦争後、日本が経験してきたことそのままである。


 これには当然として貴族たちが反対するが、時の若き国王の判断により、議会制民主国家への移行が決まる。実はこれには日本の皇室が関与していたとも言われている。後にこの話を聞いた昭和の軍人たちはやはり天皇家は天皇家であると改めてその威光を知ることとなる。ちなみに、かって王政から議会制民主国家に移行したゴリアスやマレーリアなどのときも同様であるとも言われている。


 ともあれ、これで『長門』『陸奥』の売却および『日向』『伊勢』の空母改装化の話は白紙となる。ちなみに『長門』『陸奥』の売却を求めていた国は北方のロザリアおよびロリアルであった。その対価は驚くべきものであり、秋津島統合防衛軍の一年分の予算になるといわれていたのである。


 統合防衛軍司令部は急遽、第三戦隊『金剛』『比叡』『榛名』『霧島』を派遣、第一戦隊『長門』『陸奥』、第二戦隊『日向』『伊勢』の秋津島への帰還を決める。既に統合防衛軍および本国の合同調査班が現地入りし、『長門』『陸奥』の曳航による帰還は問題なし、との判断を下していたからである。死者一八五名、負傷者は一七九○名に及んでいたが、負傷者には重篤な後遺症の残るものはいなかったのが救いであった。


 その後、統合防衛軍総司令官山本五十六大将はある決断をしていた。それはほぼ一年半にわたって四隻の戦力を失う決断であり、統合幕僚本部および政府が受け入れるかどうか判らないものであった。『長門』『陸奥』の空母改装、戦艦『日向』『伊勢』の改装である。『長門』『陸奥』の空母改装は多分認められるあろうと思われた。であるが、戦艦『日向』『伊勢』改装は認められないかもしれない、そう告げた大井中佐と本国海軍技官南井重治中佐の示した案に山本は即断する。


 『長門』『陸奥』の原子力空母化、当然廃棄される予定の両艦の機関の『日向』『伊勢』への追加搭載工事、概算ではあるが、『日向』『伊勢』は三○kt超の高速戦艦となる。それに対する本国の回答は一部のみ認めた突拍子もないものであった。『長門』『陸奥』の原子力空母化は了承するが、『日向』『伊勢』の護衛戦艦改装化というものであった。簡単に言えば、艦尾にVLS発射管を装備し、対艦、対空、対地に備えた万能艦というべきものであった。ではあったが、山本の提示した条件により、最終的には高速戦艦改装で落ち着くこととなる。


 それは最新鋭護衛艦の配備ではなく、現在本国において就役している護衛艦艇の配備であった。これにより、本国海軍の配備艦艇はすべて一新、それによって戦力の向上が見込め、その後の数年間は新規建造を控えることができるからであった。本国海軍装備の護衛艦がすべて(地方隊所属艦は除く)が秋津島に配属(「くまの」型は五隻新造)で、本国海軍はすべてが最新鋭新造艦に装備変更されることによる妥協であった。重巡洋艦の一○隻の売却による「くまの」型イージス護衛艦一○隻、駆逐艦の売却による「たかなみ」型護衛艦二四隻が秋津島の統合防衛軍に導入されるのであった。もっとも、山本は新鋭艦の配備による習熟までの長期化を恐れた、というのが実情であったかもしれない。


 ともあれ、『長門』『陸奥』の原子力空母化、『日向』『伊勢』の高速戦艦化工事は始まった。幸いなことに今回の改装はすべて秋津島で行われ、一年半後には終了する予定になっていた。その理由は本国ではインペルへの艦艇売却による護衛艦建造ラッシュで、軍艦を造船できる造船所が使えない、というのが実情だったのである。この艦艇売却による新鋭艦への更新はその後もしばらく続くこととなる。インペルへの軍艦売却を知った他の友好国も艦艇の売却を求めてきたからである(これには地方隊配備艦が充当され、本国海軍艦艇はすべて刷新される事となる)。


 秋津島ではインペル海軍将兵による購入艦一/三の習熟訓練が行われており、本国では秋津島統合防衛軍将兵が配備艦への転換訓練を行っていた。残念ながら一度にすべて、というわけにはいかないため、売却艦の引渡しは九ヵ月後の終了、配属艦の転換訓練は一年後の終了をめどに行われていた。


 このころ、本国海軍は五個護衛隊群(シムリアル海峡租借地への護衛隊群配備(元秋津島護衛隊群)のため、一個護衛隊群が増えていた)からなり、飛行隊群も二個飛行隊、潜水艦も一個潜水隊が増えていた。むろん海軍だけではなく、空軍では三個飛行隊、陸軍では二個師団増軍されていたのである。空軍は一個飛行隊をシムリアルに、一個飛行隊を樺太に、一個飛行隊を緊急展開部隊として配備するためであり、陸軍においてもシムリアルへ一個師団を、樺太に一個師団を配備するためであった。


 秋津島統合防衛軍陸軍では、オーロラリア帝国の治安維持部隊として第50師団に増援部隊として第52師団を新たに派遣、避難民が密入国する可能性もあるため、サウロギニアに第48師団隷下の第482連隊、ナミル共和国に同じく第483連隊を派遣していた。航空部隊も二個中隊六四機(『瑞鳳』『日進』『千歳』『千代田』売却のため、航空部隊は一時的に六個中隊一九二機にまで増えていた)をオーロラリアへ派遣していた。


 この時期、西中海方面では、ロリアル共和国の西にあるアロリア共和国、その西にあるユラリア共和国との国交が樹立され、シムリアル海峡の重要度はさらに増していた。なぜなら、西中海中庸の侵略国家プロイデンといつ戦端が開かれるか判らなかったからである。かの国は既にエンリア帝国と接触し、軍事衝突が起こっている状態であり、東方に目が向く確立は低いと思われていたが、有事に備えなければならなかったのである。「改そうりゅう」型原子力潜水艦が常に二隻、同国沖および黒海で情報収集の任務についていた。


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