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第五章 戦いは終わりても−3−

移転暦二○年六月


 作戦協議はすでに食事を挟んで二度目に入っていた。当初、インペル海軍だけの作戦と聞いていたのであるが、三軍共同の作戦となっていた。作戦の趣旨は同国最北端に位置するバーレントという地域に逆上陸、北と南からエンリア軍を挟撃殲滅する、というものであった。事実、先月終わりに実施直前まで進んでいたが、敵海軍との遭遇により、中止されたという。作戦が漏れていたと考えられるともいう。


 そんな中、部隊の交代のため派遣艦隊を一時帰還させるという提案にインペル側は難色を示した。派遣艦隊には連絡士官として各空母に一人ずつインペル海軍の大尉クラスが乗り組んでおり、その有効性を上層部に伝えていたからである。特に敵潜水艦撃沈の戦果が大きい。ちなみに、インペル海軍には航空母艦という艦種はなく、計画さえされていなかったという。既にインペル側は現在派遣されている四隻あるいは二隻の有償提供すら伝えてきていた。潜水艦については他の基地に二○隻配備しているとのことであった。


 大井はこう述べた。

「逆上陸作戦については参加することになんら問題はない。ただし、一○分な護衛艦艇が必要であり、それら問題が解決されればという条件がつきます。さらに本作戦単独での実施の場合は参加を見送らざるを得ないでしょう。陸海空三軍の個別作戦ではなく、連動させた作戦計画案を提出していただき、先に述べた条件が満たされるならば参加は可能です」

「例えば、北西部のダージリアからの部隊北上作戦、中部インセルからの部隊北上作戦、東部サーラインからの北上作戦、それに先立つ空軍機による進路上への空爆作戦、バーレントへの逆上陸作戦、そして水上艦部隊による敵補給路の遮断などです。特に重要なのは敵補給路の断定と遮断でしょう」

「そういった作戦の連動ともっとも重要な情報の共有が確約されるならば、日本軍としても相応の部隊を派遣できるでしょう。残念ながら陸軍部隊においては期待されても対応できませんが、海軍艦艇および航空戦力は派遣できるかと思います。さらに情報共有に関しての機器なども数は少ないですが提供できるでしょう」

「なお、航空母艦については四隻すべては無理としても、二隻なら可能かと考えておりますが、これに対しては上級司令部に指示を仰がねばならず、早急なお返事は不可能であるとご理解ください。また、先ほども説明がありましたが、現状では損失が大きく、なんら戦果は挙げられないと考えます。よって部隊再編のため根拠地である秋津島への帰還は必要であり、これについてもご了承いただきたいと考えます」


 翌日も作戦についての協議は続けられ、大筋で作戦に合意し、作戦は七月三日に実施されることが決まる。この時点で、三航戦および四航戦を主体とする派遣艦隊は根拠地である秋津島に帰還することが決定、出港することとなる。秋津島に到着次第、一航戦および二航戦を主体とする独立機動部隊が編成され、インペルに派遣されることとなる。インペル側が強く要望した空母の売却は『千歳』『千代田』が売却、他にインペル海軍所有の巡洋戦艦二隻(二万五○○○トン級)の空母改装で妥協することとなった。この売却および改装費用の総額は、秋津島で「ひゅうが」型DDHを二○隻新造する分に相当する額であった。


 空母改装予定の巡洋戦艦回航要員および売却予定の『千歳』『千代田』の乗組員、海軍次官および首相補佐官など政府要人の秋津島行きが決定される。


 なぜ『瑞鳳』『日進』ではなく、『千歳』『千代田』が選ばれたかと言えば、両艦は姉妹艦であり、艦艇の規格がほぼ同じであったからである。『瑞鳳』『日進』では規格が異なるため、運用面において問題が発生することがあると考えられたからである。それが大きな理由であった。ちなみに、昭和の日本海軍では通常同型艦二隻建造が行われていた。この地に現れた戦艦においても『大和』を除けば姉妹艦ばかりである。


 なお売却時に一部改修工事が行われている。それは居住性の改善である。昭和の軍艦では、末端の兵はハンモック使用を余儀なくされていたが、この地に現れてからの改装ですべての艦において改善されている。そのスペースは巡洋艦以下では砲塔撤去による空きスペースが利用されていた。空母においては改装の際に改善されており、戦艦クラスでも副砲が撤去され、その空きスペースを利用していたのである。改装後の艦艇では大部屋であるが全員がそれぞれベッドを割り当てられていた。


 この二空母売却による空母戦力の補完として『赤城』型(四万トン)の新造が考えられたが、機関がガスタービンでは空母としての船体に適さないことから(機関が軽すぎてヘビートップになることが予想された)、『きい』型原子力空母(六万トン)二隻の新造が決まる。それに伴い、扶桑型原子力空母『扶桑』『山城』は秋津島統合防衛軍に配置転換されることとなった。


 なぜ原子力機関にこだわるのかと言えば、この地では未だ未開の地が多く、燃料補給の受けられない遠方に進出するには不安があったためである。日本本国海軍では未だ未開の地ともいえる南北アメリカ大陸(形は違うし、命名されてもいないが)でインペル国のような新しい国が出現したときに対応できないと考えていたふしがある。また、いつ強大な軍事力を持つ国(例えば移転前のアメリカ合衆国のような軍事力を持つ)侵略国家が出現しないとも限らないからである。


 この地では金の産出量は多少多いようで、各国とも金は多く所有していた。日本は友好国との交易には金を基準とした制度を導入、金の価格も上昇気味であった。オーロラリア帝国軍との戦争後の賠償金、エリプト連合共和国からの支払いなどで日本には多量の金が流入していた。しかし、資源輸入などで放出される。日本の望む市場はまだ少ない。市場自体がまだ成熟していないため、輸出はそう多くないのだった。例えば車や家電製品など供給過多であった。今回のインペル国出現で、本国内では輸出増が見込めるとみているようで、空母売却や改装などはそのあたりの思惑もあったといえる。


 つまり、経済面からの考えも考慮され、戦後の輸出を見込んで経済界からの後押しもあったというのが実情で、海軍部内でもこれまでの他艦種からの空母改装ではなく、新造空母の建造による建造技術力を試してみたいという思惑もあったといえる。


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