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第五章 戦いは終わりても−2−

移転暦二○年六月


 ロンデンはインペル国の首都であり、人口八○○万を数える都市で、政治と商業の中心であった。インデル海に面し、イエツ王国国境からわずか五○kmのところにあった。そのロンデン市では挙国一致内閣が発足、対エンリア帝国戦争を乗り切るための政策が次々と打ち立てられ、実行に移されていた。この時期、国土の北側一/五がエンリア帝国の占領下にあった。


 ロンデン市から南に四五km離れた都市バンデンは同国でも有数の工業都市であり、専用の港には旭日旗を掲げた輸送船が多く入港し、石油など資源を陸揚げしていた。当地は軍需産業が多く、対エンリア帝国戦のための武器弾薬を製造していた。一時石油不足でほとんど動いていなかったが、現在は一○分とはいえないまでも状況は改善されつつあった。今は陸上戦用の戦車が多く生産されていた。形式はJ90−IP、日本がイエツ戦線で使用し絶大な戦果を挙げた有力な戦車であった。


 そのロンデンの半島の反対側インペル海(便宜上こう名付けられていた)に面したスクバフローは同国最大の海軍基地であり、艦艇多数が停泊していた。その陣容は戦艦一○隻、巡洋戦艦四隻、重巡洋艦八隻、軽巡洋艦一六隻、駆逐艦三六隻、補助艦艇多数というものであった。その他の基地数箇所にもここにある艦艇の一/三の艦艇が配備中という。


 そのスクバフローの最も奥まった一角、そこに同国海軍では類を見ない艦形の艦艇が四隻、そして重巡洋艦二隻、駆逐艦一二隻が停泊していた。第三航空戦隊空母『瑞鳳』『日進』、第四航空戦隊空母『千歳』『千代田』、第八戦隊重巡『利根』『筑摩』、第三水雷戦隊軽巡『川内』(151あさぎり)駆逐艦『舞風』『浦風』『初風』『浜風』『谷風』『萩風』第二四駆逐隊駆逐艦『敷波』『綾波』『朝霧』『夕霧』『白雲』『天霧』である。


 その艦隊は先月からインペル北部のエンリア帝国占領地への空爆を行っていたのだった。ではあるが、エンリア帝国の新型機により、艦載機損耗が激しく、このスクバフローに戻ってきていたのである。そのスクバフロー臨時秋津島統合防衛軍司令部では、第三航空戦隊司令官藤田類太郎少将と第四航空戦隊司令官木村進少将が、同基地を訪れていた海軍次官近藤信竹中将、海軍作戦本部長宇垣纏中将、主席参謀大井保中佐(昇進)、参謀土田巌陸軍少佐と話していた。近藤中将と宇垣中将はインペル国海軍との共同作戦について協議するために同基地に来ていたのである。大井保中佐も同席するために来ていた。

「敵の新型機、写真でお見せしたようにジェット機のため、思うような戦果は挙げられず、被害のみ増えていきました」と藤田。その写真の戦闘機はかって日本空軍が配備していたF86に似ていた。異なるのは後退角の小さい尾翼であった。

「速度が速いので一九式では格闘戦に持ち込まないと勝てないようです。最近は敵も一撃離脱戦法を取るようになりました」と木村。

「そうか、ついにジェット機が出てきたか。ミサイルは持っていたかね」と宇垣。

「ロケット弾であることは間違いありません。一機あたり一二発発射できるようで、その後は機銃による戦闘になります」

「我方の一八式対地ロケット弾のようなものかな」と近藤。

「そうです」

「一航戦と二航戦は工事も終了し、習熟訓練も終え、いつでもこちらに向かわせることができます。武器である対空ミサイルを輸送艦に積み込む作業、ならびに輸送艦が一緒であれば速度が遅く、到着は少し遅れるかも知れませんが」と大井。

「『瑞鳳』『日進』『千歳』『千代田』はジェット機相手では苦戦を強いられるし、どうしたものかな」

「とにかくすぐに秋津島へ戻し、対策を練らねばなりませんね。このままでは被害ばかり増えますし、インペル海軍に対する示しにもかかわります。私の方から司令官に話しましょう。次官や作戦本部長にあっては敵新型機への対応のためということで、インペル側と話していただければ」


 この時点で三航戦および四航戦は一/四の損失機を出していたのである。幸いにしてパイロットはその半分が救助されていた。

「判った。そうしよう」

「それしかあるまい。それと敵の艦隊は出てきたかね」

「いいえ、次官。潜水艦は三隻確認しています。すべて撃沈しましたが、水上艦艇は確認していません」

「そうか、我々は明日一○時より、インペル側との協議がある。その席上で派遣艦隊交代の件は話すから貴官らは出港準備だけはしておきたまえ。連絡はさせるから」

「はっ」


 藤田や木村と別れた後、三人はインペル側の指定したホテルに向かうこととした。明日一○時にインペル海軍司令部との共同作戦協議が行われる。インペル国は陸海空三軍に分かれており、今回は陸軍主導の防衛戦になるということだが、海軍側が独自の作戦を考えているようで、そのための協議である。万国共通なのか、軍というのは中が悪いようである。

「主席参謀」と近藤。

「はっ、次官、なんでしょう?」

「レシプロ機ではジェット機に勝てんか?」

「空戦では厳しいでしょう。今のところ格闘戦に持ち込めれば勝つことも可能ですが、速度差を生かした一撃離脱戦を挑まれれば勝ち目はないです。しかし、レシプロ機でしかできない戦闘というのはジェットの時代にも存在しました。ひとつは対潜戦闘です。そして地上戦の援護です。あと指揮管制にも」

「なるほど。時代が変わると戦い方も変わるか」

「はい」

「現代戦はオーロラリア帝国海軍との戦いの様になるということか。あれは私にとっては、いや、この地に現れた我々にとっては衝撃的な戦争であった。一人の犠牲も出さず、敵艦艇だけを沈めたのだから」

「先のイエツ沖海戦、あれは我らにとっては完勝といえる戦いだった。しかし、被害は出た。オーロラリア戦とは格段の差だ。戦艦の主砲はたかだか三○km、しかし、対艦ミサイルは五○km以上でしかも命中率は一〇〇パーセントに近い。今回はどうなるか」

「作戦本部長、私は今回の戦いは犠牲なくして勝利はない、そう考えます。原因は共同戦線であり、味方がどう動くか不確実なこと、情報の錯綜などです。我々は味方についてはそれほど知っているわけではありません」

「なるほど。明日はそれを元に話を進めようじゃないか」


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