第四章 誰がために戦うのか−5−
移転暦二○年三月
三月一二日、作戦は実施された。戦艦による艦砲射撃が開始される。今回は前回と違い、完全制圧まで行われることになっていた。夜間のため、敵の航空攻撃はないものと考えられ、その通りであった。揚陸艦『鳳翔』から陸軍先遣隊二個中隊が九○式戦車と共に上陸してゆく。
夜が明け始めたころ第三および第四航空戦隊空母から四○機の一九式戦闘機、同じく六四機の一九式攻撃機が敵基地に向かって飛び立って行った。先に上がっていた一九式偵察機(一九式攻撃機改造)から夜間艦砲射撃の戦果報告が入る。滑走路の被害は軽微なるも格納庫が多数崩壊、対空機銃多数存在することが報告される。その報告後、再び戦艦による艦砲射撃が始まる。
実は作戦開始直前、偵察衛星の情報により、現在砲撃中の基地の北方一〇〇km、インペルとの国境線まで二kmの地点に有力な基地があることが判明、艦砲の射程外のため、航空攻撃による方法しかなかったのである。そちらの基地は航空基地というよりも陸軍部隊基地であることが判っていた。また攻撃隊は、インペル国上空を飛行する航路を指示されていた。
敵基地上空、激しくはないが、対空銃座は存在した。ではあったが、被弾した機はあるものの損失機を出すことなく第一次攻撃は終了した。海岸から一〇〇km、午前中二度の空爆が行われ、多大な損害を与えることに成功する。結果、着艦事故による二機の損失機は出したものの、パイロットは無事であった。一二時を回ってすぐ、一○機の大型爆撃機の編隊と思われるレーダー反応が確認されたが、接触した一九式偵察機からのエンリア帝国軍機であることが確認されるやすべて撃墜された。第51師団高射大隊の装備する地対空ミサイル、パトリオットによる迎撃であった。
午後からも空爆が開始されたのはいうまでもない。が、四度目の空爆に向かう最中、攻撃隊はインペル上空に入ってすぐに青地に白い丸と赤い星をつけたジェット戦闘機二機と接触した。攻撃隊隊長、淵田美津夫中佐は無線機のダイヤルを操作、交信に成功する。
「貴部隊はインペル領空を侵犯している。直ちに領空外に退避せよ。命令に従わなければ攻撃する」それが相手の最初の言葉であった。これはあらかじめ作戦に盛り込まれ、そしてもっとも重要な作戦の一部分であった。
「我、日本国秋津島統合防衛軍海軍空母千歳所属エンリア帝国攻撃隊隊長淵田美津夫中佐です。すぐに退避するので攻撃されないよう願います。今後のため、領空外に出たら知らせられたし」そして攻撃隊には東に向かうよう指示する。そしてインペル国機を今一度見る。FG−4戦闘機より二回りほど大きい機体に双発エンジン、後退角の大きい主翼を持つ機体だった。淵田は知らなかったが、スーパーマリン シミターに似た機体だった。
「フチダ中佐、領空外に出た。今後このようなことはないようにしてほしい。我々は今大変な困難に直面している」
「見送り感謝いたします。我々は貴国とは争うつもりはない。我々の敵はエンリア帝国です。友邦国に被害を及ばさんとしたがために戦っている。我らが司令官に伝えたいが、あなたは?」
「私はインペル空軍第一飛行群第三飛行隊首都防衛隊所属ロベルト・サイヤー少佐です」
「サイヤー少佐、我らの司令官より、謝罪の通信が送られると思うのだが、貴国で聞いてもらえるとありがたい」
「上に報告は上げておきます、としか言えません」
「判りました。我らはこれからエンリア帝国なる侵略国の基地攻撃に向かいます。いずれお会いできればいいですな、サイヤー少佐」
「御武運を」
その日の夕刻、山本海軍大将名により、インペル国に対する領空侵犯の謝罪文が送られたのはいうまでもない。第51師団の上陸が完了したのは夜になってからであり、第512および513連隊は敵航空基地奪取に向かう準備を始め、第511連隊は夜を徹して敵航空基地の北方に進出、敵地上部隊の進出に備えた。第51師団は本国陸軍と同じく、完全機械化師団であるため、上陸してからの行動は迅速であった。
三月一三日、夜明けと共に開始された敵航空基地奪取は一三時には終了、施設大隊による基地整備が行われ、艦載機部隊は地上に下ろされた。空母部隊は航空機運搬のため、輸送部隊は必要資材の輸送のため、一時秋津島に向かう。この日もエンリア帝国基地に対する空爆は行われたが、飛行航路は変更され、インペル国上空を飛ぶことは無かった。
三月一四日、エンリア帝国基地空爆のため、準備をしていた基地に空襲警報が発令された。北北西より一〇〇機からなる編隊が探知されたのである。第51師団の持ち込んだ移動レーダー車両が探知したものであった。艦載機部隊に空爆は中止、迎撃戦が下命される。全戦闘機を上げても六四機にしかならず、苦戦が予想された。中には一九式攻撃機での迎撃戦を望むものもいた。
迎撃戦は航空基地(便宜上、イエツ基地と命名されていた)から約一〇〇km北で行われた。この少し前に山本大将名でインペル国に対して迎撃戦闘の発生とやむを得ず領空侵犯の可能性がある事を通達していた。迎撃戦は四発の大型爆撃機以外は旧式機であったため、迎撃側に有利に進んでいたが、それでも被弾する機が続出した。特に大型爆撃機の防御は強く、最終的には地対空ミサイルで全機撃墜することができたが、一○機の損失機を出した。また何機か帰還が危ぶまれた機があったため、指揮官機として戦闘空域にいた淵田は帰還途上に発見したインペル国内の滑走路に強制着陸することとした。もちろん、前もって報告はしておいた。撃墜されたと思われる一○機の捜索にはイエツ基地に残った攻撃機から捜索機が出されていた。
この時淵田に従ったのは一二機であった。いずれも損害が激しく、飛行に耐えられない機体であった。淵田は知らなかったが、この滑走路のある場所はインペル第三の都市の近郊であり、民間の空港であった。着陸して滑走路の端で部下のパイロットを地上に降ろしたが、三人が重傷を負っており、速やかな治療が必要と思われた。幸いにして空港ビルから救急車とパトカーと思われる車両がやってくるのが見えた。