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第三章 何がための戦い−3−

移転暦一八年一一月


 秋津島統合防衛軍司令部はオーロラリア帝国に降伏を勧告する。条件は次のようになっていた。

1.オーロラリア帝国はエリプト連合共和国から撤退する。

2.オーロラリア帝国はエリプト連合共和国に侵攻しない。

3.オーロラリア帝国はエリプト連合共和国に賠償金を支払う。

4.オーロラリア帝国は日本国に先の貨客船撃沈に対して謝罪する。

5.オーロラリア帝国は日本国に先の貨客船撃沈に対して賠償金を支払う。

6.オーロラリア帝国は日本国との対話に応じること。

7.オーロラリア帝国は帝国内の情報を公開すること。

8.オーロラリア帝国は日本国軍人の五年間の駐留を認めること。

9.オーロラリア帝国は日本国民間人の在留を認めること。

10.上記九項の受け入れ後は日本国はオーロラリア帝国国体に関与しない。

というものであった。回答期限は特に定めなかった。


 勧告後五日間は何の連絡も無く、東エリプトでの戦闘は続いていた。といっても、実際に交戦をしていたのはエリプト軍であった。日本軍は戦闘を一時中断し、負傷者の後送や軍の再編をしていた。今村はナリサダム次官と連絡を取り、エリプト軍の交戦をやめさせた。戦闘が続いていてはオーロラリア帝国も降伏には応じないだろうと考えたからだった。


 七日目に話し合いたい、との連絡が入る。場所はこれから入港し、錨を下ろす秋津島統合防衛軍旗艦『大和』にし、時間を五時間後とする。大井も急いで大和に向かう。南秋津市から九七艦攻で「赤城」まで飛び、『赤城』からは内下艇で『大和』に向かう。『大和』に乗艦したときは約束の時間まで十分ほどしかなかった。慌てて着替えて会議室に向かう。


 会議室にはすでに全員揃っていたようであった。大井が入ると、高須四郎中将、塚原二四三中将が立ち上がって迎えてくれた。会議室にいたのは金髪碧眼の中年の男と同じく金髪碧眼の若い男、そして老齢の坊主頭の碧眼の男だった。こちらは聯合艦隊司令長官高須四郎中将、機動艦隊群司令官塚原二四三中将であった。

「時間ですのではじめさせていただきます。私は日本国秋津島統合防衛軍司令部主席参謀大井保少佐です。こちら側の人は」と言いかけたときに高須から声がかかる。

「こちらの自己紹介は済ませているよ」

そうでしたかと答えながら顔を相手に向ける。

「こちら側の自己紹介は終わっているようですから、そちら側の自己紹介をお願いします」

「私はオーロラリア帝国宰相ハリー・ギルバートです」

「私はオーロラリア帝国帝室次官ギリアム・ギブソンです」

「私はオーロラリア帝国貴族院議長ライアン・フォードだ」

「ありがとうございます。条件は読んでいただけましたか」

三人は頷く。

「ではお聞きします。どうしますか?」

「ひとつだけどうしてもできないことがある」

「なんでしょう」

「八項目だ」

「そうですか?外交チャンネルである大使館は駐在しますし、そのほか報道陣など一部民間人が入ります。その人たちの身の安全確保のためですから了承していただかないと困ります」

「大使館ってなんです?」と、ギリアム。

これには日本側出席者三人が顔を見合わせる。

「簡単に言えば日本国の代表を貴国に常駐させるということです。つまり何人も犯せない領域になります」

「つまり、その領域を侵略することは日本国と再び戦争を始めることになるということですか」と、ギリアム。

「その通りです」

「もうひとつ、報道陣っていうのはなんですか」と、ギリアム。

「国内の出来事や国外の出来事など国民に知らせるための機関の人たちで、新聞社とか雑誌社の記者の事を言います。今回の戦いでは我国は毎日一回の記者会見を開いて報道陣に対応しておりました」

「なんですって! 我々との戦いをすべて新聞社に話していたというのですか?」これには三人とも驚いたようである。

「はい」

「一〇項目はすべての条件を受け入れたときは我国は現状のままでいていいということですか?」と、ハリー・ギルバート。

「その通りです。日本国としては大使館員の安全保障、民間人の安全保障、友好国の安全保障が確約される限りにおいて内政には干渉しません」

「賠償額についてお聞きしたい」と、ハリー。

「すぐには出せません。エリプト連合共和国との協議も必要ですから。まず停戦。エリプトからの軍の引き上げ、その後の実務レベルでの協議。そして調印。調印までは時間を要するでしょう。停戦決定後調印まではこちらの高須中将の部隊および陸軍一個師団が駐留します。後の駐留部隊については実務レベルでの協議の中で決定されるでしょう」

「判りました。明日返事しますが、それでよろしいですか」と、ハリー。

「良いお返事をいただける事を期待します。それと停戦が決定したらすぐにでも貴国の代表を秋津島に受け入れる用意があります。身の安全は保障されます」


 会談は終了し、三人が出て行くと大井は将軍たちに向き直りながら言った。

「おそらく戦いは終わると思います。これまでお疲れ様でした。停戦発効までいま少し苦労をかけますが、よろしくお願いします。山本司令官よりのお言葉でもあります」

「判りました」二人はうなずく。

「しかし、大使館の事を質問されたときはあっけに取られてしまいました」と、塚原中将。それに高須中将も同意する。

「おそらくそういった考え方が無かったのでしょう。それに私としては敵の対艦ミサイルに興味があります」

「そうですね。電波誘導されていた、と聞いています」と、高須。

「それよりも航空機がないほうが不思議ですよ。私にとっては」と、塚原中将。

「たしかに。我々が知る限りではこの地に移転してから航空機に出会ったことはありません。ただ、西方、いわゆる移転前のアラビア周辺、かのプロイデンなる国では飛んでいるようです」

「彼らがこちらに進出してくるようなことがあれば航空戦の可能性も?」と、塚原中将。

「ええ、だからこそ、我々は航空部隊も装備しなければならないのです。できれば接触は避けたいのですが、ひとつの星の上にいる以上いずれ起こりえるでしょう」

「さて、明日までここは動けません。お二方には部隊の再編、被害報告、戦闘報告をお願いいたします。山本司令官へのです。本国にも必要ですが、それは私と山本司令官の役目になります。あと負傷者の後送もです。私は今村中将に逢ってきます」


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