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第二章 秩序を求めて−5−

移転暦一八年八月


 この時期、本国軍(元陸海空自衛隊)は国内で安寧としていたかといえば、そうではなかった。ロリアル共和国よりかねてからの依頼であったシムリアル海峡ロリアル側の東北ほどの面積の租借地、ロリアムンディ地方に本国軍の基地があり、海軍は一個護衛隊群(前秋津島護衛隊群)、一個飛行集団(対潜哨戒機機部隊)を、空軍は一個飛行隊を、陸軍は一個連隊、一個特科連隊を派遣(いわゆるPKO部隊)していたのである。


 もちろん、日本はあくまでもこのロリアル共和国からの依頼を断るつもりでいたのである。だが、そうも行かない事件が起きたのだった。それは一年前に遡る。ちょうど一年前、突如として出現した国(そう、一夜にして出現したのである。前日には無かった国が次の日に出現しているのが偵察衛星により、確認されていた)による侵略である。


 発端は偵察衛星での確認から一ヵ月後のことであった。黄海シムリアル海峡沖を日本に向かっていた日本船籍の貨物船「ふじさん丸」の沈没事故であった。調査に向かった海上保安庁の巡視船が潜水艦の攻撃を受けて沈没したのである。直ちに海軍の対潜哨戒機P3Dが現場において潜水艦を補足、しかし距離があったため、十分な追跡は不可能であった。さらに、翌日には同じく黄海ロリアル沿岸部を航行中のロリアル船籍の貨物船が、その翌日には黄海シムル沿岸部を航行中のシムル船籍の貨物船が沈没したのである。いずれも何者かの攻撃を受けた、とSOSを打電していた。


 この沈んだ三隻とも、日本向けの貨物を積載していたため騒ぎは大きくなり、政府としても至急に対応しなければならなかった。最初に考えられたのが、当時国内に残っていた聯合艦隊所属艦の派遣であった。しかし、彼等とは同国人であったが、今の軍のように行動してくれるかどうか不安な面があった。つまり、独断専行で戦争を始めてしまう可能性もあったのだ。


 そこで、先遣隊として海軍二個地方護衛隊、陸軍施設大隊をまず派遣し、基地設営に当たらせた。しかし、ロリアル側ではすでに基地設営は完了しており、部隊の派遣を待つだけであった。ここにいたって設営された基地の詳細な調査および必要な資材搬入により、恒久的な基地が建設されることになる。ロリアル共和国と日本の間で九九年間の租借契約がなされ、本格的な海外派兵が始まることとなった。その海軍が派遣されてまず行ったのはシムリアル海峡海底へのSOSUS網の設置であった。シムリアル海峡は幅四四〜九○km、水深三二八〜三八五m、潮の流れが早く、複雑であった。


 その後も幾度かの被害事故があったが、海軍によって撃沈されることとなり、被害は急速に減少、黄海は安全海域となった。日本側としてはその正体をなんとしても確かめたかったのであるが、一度浮上航行中の潜水艦を発見、降伏勧告に応じず、逃亡を図ったため、やむなく撃沈に至った。その際、多数の浮遊物を回収し、国名その他の情報を得ることに成功していた。


 その正体が判明したのは二週間後のことである。「改そうりゅう」型原子力潜水艦一番艦、『そうりゅう』による追跡調査において一夜にして出現した国プロイデンの潜水艦であると判明したのである。プロイデンという国は軍事国家であり、西中海西部にあるギロリア民国と言う国の西部に出現した国であり、陸上においては周辺国への侵略をしていた。偵察衛星の情報によれば、現在北方のユラリア帝国、東方のギロリア民国との戦闘中であった。その工業レベルは1970年代後半の日本のレベルと酷似しており、兵器関係も同年代のものを使用していると思われた。


 ちなみに「改そうりゅう」型原子力潜水艦とは、移転後の燃料供給不安な時期に開発(計画自体は移転前からあり、秘密裏に開発されていたといわれる)され、その後の秋津島油田発見により、一時中止されていたが、工期進捗率九○パーセントに達していたことから完成、試験運用されていた潜水艦であった。船体は二○m延長され、加圧水型原子炉一基搭載、出力二万五○○○馬力、ギアードタービン駆動、移転前のアメリカ・ロスアンゼルス級原子力潜水艦並みの性能を持っているとされた。


 試験運用の結果が良好なこと、さらに今後は燃料供給不可能な海域の調査の必要性のため、順次改装中であり、現在、三番艦の『うんりゅう』まで完成している。新造潜水艦はすべてこのクラス(「改そうりゅう」型と命名されている)になることが決まっている。基準排水量四五○○トンの大型攻撃潜水艦になる。通常動力型の「おやしお」型や「そうりゅう」型では追跡不可能であったが、「改そうりゅう」型では可能だったということである。『そうりゅう』はその後も同国港湾沖を遊弋、情報収集に努めている。


 日本はかの国に艦船撃沈に対する謝罪および損害賠償を求めるために連絡を取ろうとしているのだが、一向にはかどらないでいた。ただでさえ、秋津島周辺がきな臭いのである。ここでプロイデンとの戦争は避けなければならない。いくら日本経済が良好でも一四万人にも及ぶ将兵と一五○隻にも及ぶ艦艇の維持費は負担なのである。生産性を持たない軍事力は国力に負担を掛けるということであった。


 この地に現れた昭和の軍人たちがよくいうのは、軍備刷新(艦艇の更新や航空機の更新など)について移転後行われなかったのか、ということがある。移転前から移転後一五年ほどは装備が変わっていないことを彼らは教育によって知りえていたからである。誰もがそう思うのは当然であった。


 軍備刷新が行われなかったというのは事実であった。というよりも、装備に対しては一部を除いて見送られていた、というのが正しい。まず優先されたのが早期警戒システムであり、新たな領土を守ることになる陸軍装備であり、防空のための装備であったからである。海軍装備では「改そうりゅう」型に大半の予算が流れたことも原因の一つとされる。海軍側も燃料供給不安から賛成せざるを得なかったのであった。


 樺太島の油田が生産を開始したのは移転後一年を経てからであり、その多くは民需に流れたのである。また、秋津島油田が本格稼動したのは移転暦六年末であった。それでも「改そうりゅう」型が調達されたのは潜水艦という兵器の運用がその後の防衛戦略の要となる、と考えられたのが一番の理由であったといわれている。それがこの時証明されたことになる。


細かく見れば、その他にも将軍はいたと思われます。しかし、これまでに上げた将軍のみの本編登場としたいと思います。あくまでもこの小説はフィクションです。実在の人物、団体とは一切関係ない事を改めで申し上げておきます。

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