プロローグ
初めての投降になります。以前に投降しようとして完成しかけていたものを改訂しながらの投降です。架空戦記というよりも架空歴史になるかも知れません。
秋津島南秋津市
正確には秋津島重工南秋津島造船所であるが、秋津島統合防衛軍海軍将兵からは秋津島工廠といわれることが多い。そのドックの中でも十万トン級の船を建造できるといわれる、第九号および第十号ドックでは二隻の軍艦の改装工事が終わり、再進水を待っていた。再進水であって竣工ではない。その艦名を『長門』と『陸奥』といった。いわずと知れた大日本帝国海軍聯合艦隊旗艦を勤めたこともある「長門」型戦艦である。
進水を控えたその艦形には戦艦として当然あるべき艦橋は存在していなかった。最上甲板は平坦であり、艦幅に比べるとかなり広い甲板に申し訳程度、といっても実はかなり大きい艦橋が存在していた。しかし、当然あるべき煙突は見当たらない。敢えていうなれば、アメリカ合衆国海軍原子力攻撃空母が有していた艦橋に近いといえるだろう。それはそうであった。その艦橋はまさしく「ニミッツ」級空母の艦橋を参考に設計されたのである。
そう、『長門』と『陸奥』は攻撃空母に生まれ変わろうとしていたのだった。その心臓部にはJ4と名付けられた原子力機関を搭載し、その出力は十五万馬力を誇る。ではあるが、進水後に行われる艤装が終わらない限り、空母とは呼べない、否、軍艦とも呼べない無防備な姿であった。だが、そんな状態であっても二隻からは軍艦の匂いが十分感じられたであろう。完成すれば秋津島統合防衛軍最大の空母であり、二番目に大きい軍艦となる。
この空母改装は予定されたものではなかった。本来であれば、他の二隻が空母として改装される予定であったのであるが、その事件によって『長門』と『陸奥』が急遽改装されることとなったのだった。『長門』はともかく、『陸奥』は戦艦という艦には向いていないのかもしれない。その事件により、爆沈の一歩手前であったのだだから。ではあるが、『陸奥』は沈没を免れることができ、空母という新たな艦種に生まれ変わろうとしていたのだ。
この二隻、実は原子力攻撃空母としては第二弾ともいえる。現在、秋津島統合防衛軍には二隻の原子力攻撃空母が存在する。その艦名を『扶桑』と『山城』という。この二隻は秋津島統合防衛軍が、否、日本海軍が初めて所有した原子力攻撃空母である。既に任務についているが、幸か不幸か未だ戦闘には参加していない。
その九号ドック、『長門』を見ながら話す二人の男がいた。
「総司令官、喜ばしい知らせです。かの国の内戦が終結しました。これでここも落ち着くでしょう。やはり『長門』が気にかかりますか」総司令官と呼ばれた男は日本海軍(旧海上自衛隊)第二種軍装の襟に大将の襟章をつけていた。その男が声の主に答える。
「主席参謀か、ごくろう。『長門』はかって聯合艦隊旗艦を勤めていたからな。どう生まれ変わったのか見ておきたくてな」
「申し訳ございません。本来であれば、戦艦として活躍してくれたと思うのですが」主席参謀といわれた男がすまなそうに声を返す。
「かまわんよ。まだ手元に残るだけでも良しとせねばな。大井中佐、君たちにとっては歴史上の艦かもしれん。だが、我々にとっては思い入れのある艦なんだよ。ましてやそれに乗り込んでいたわしとしてはな」
「はあ・・・」
「もっとも、戦艦であるよりも空母としてのほうが活躍する機会が多いだろうがね。いずれにしても沈まなくてよかった、そう思っている」
「総司令官閣下、私は戦艦はまだ有用であると考えています。現在確認されている敵性国家は空母を持ってはおりません。もし、海上で接触することがあった場合、艦隊決戦となる確率は高いと思われます。その場合、私は何の役にも立てません」
「大井中佐、そうはいうがな、現代戦においては砲雷撃戦は起こり得んよ。起こるとしてもミサイル戦だろう。我々には想像も付かなかった戦い方であるが、それがために『長門』と『陸奥』は改装せざるを得なかった。理解はしているつもりだよ」総司令官閣下と呼ばれた男、現秋津島統合防衛軍総司令官山本五十六海軍大将は『長門』から視線を外し、部下を見ながら言った。
「そうかもしれません。しかし、電子戦など自然の前では無力なことも事実です。そのときに役立つのは確実に相手を攻撃できる兵器、つまり、艦砲を持つのは我々の時代の主力護衛艦を見てもお分かりかと思います」大井中佐といわれた男、秋津島統合防衛軍主席参謀大井保海軍中佐はそう言葉を返した。
「なるほどな、肝に命じておこう。ところで、駆逐艦部隊の配備状況はどうかね?もっとも駆逐艦とは言えんがね」
「はっ、二十六駆と二十八駆は本国において習熟訓練中、それ以外はすべて揃っております」
「うむ、「たかなみ」型は駆逐艦というよりも軽巡洋艦と呼んだ方がいいのだろうが、護衛艦がなければ主力は動けん。インペルに派遣することになるやも知れんからな。できるだけ急がせたいのだ。なんとなく胸騒ぎがするんだ、それがなにかは判らんが」
「はっ、できるだけ早くこちらに向かわせます。「陽炎」型は整備も終わり、いつでも動かせます。重巡戦隊もすべて動かせますのでいざというときには護衛部隊としてつけられます」
「イージスシステム、と言ったか、あの「くまの」型の搭載システムは。あれはすばらしいな。実は聞きたいことがある。艦隊司令部を重巡に置くことが可能か、その場合の長所と欠点を知りたいのだ」
「はっ、通信システムは充実しておりますので司令部を置くことは可能かと思いますが、艦隊防空の矢面に立つので被弾する危険があります。また防空戦闘中においての通信管制は難しいでしょう。空母は個艦防衛能力は高くありませんから、艦隊防空や対潜護衛はすべて護衛艦艇である重巡や駆逐艦に頼ることとなりますが、通信管制においては余裕があると思われます。ですので、「くまの」型イージス護衛艦である重巡に司令部を置く場合は限られた状況になると小官は考えます」
「やはりそうか。長所より欠点のほうが多いか。仕方あるまい。空母に司令部を置くようにしよう」
「さてと、あまりここにいても仕方があるまい。司令部に戻ろうか」
「はっ」
数奇な運命に巻き込まれた人間たちの物語がこうして始まった。彼らのそして日本はこの地においてどんな道を進むのであろうか。
読んでいただきありがとうございます。換装お待ちしております。