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3話 じいちゃんのお宝

「どこだ~ここは~!!」


 鬱蒼と木々が生い茂る森の中に一つの声が響き渡る。


 声の主はバレルだ。彼は今フリントロックの街から西にある森へとやって来ている。目的は祖父の遺したお宝を手に入れるため。


 しかし、バレルは未だ目的の場所へと辿り着いていない。それどころか、先ほどから同じ場所をグルグルと回っているようにも見える。


 それもそのはずだ。バレルがいる森は通称ファントムフォレストと呼ばれている場所だ。どのような力が働いているのか分からないが、この森に入った者は思い通りに進むことができない。バレルのように同じところを堂々巡りさせられる者もいれば、強制的に森の外へと連れていかれる者もいる。帰らぬ人となった者もいる。要は迷いの森というやつだ。


 だからこそ、この森は人気がある。全貌が明らかになっていない不思議な力が働く森。こんな場所には必ずお宝がある――そういう理論を持っているトレジャーハンターたちが大勢足を運ぶのだ。


「こんな地図じゃ、どこに行けばいいか分からないじゃないか!!」


 バレルは祖父の地図を力いっぱい握りしめて激怒している。


 なぜなら、「じいちゃんのお宝」と書かれた地図にはフリントロックの街周辺の大まかな配置が描かれており、ファントムフォレストの場所に赤いペンでグルグルと丸が付けられ、矢印で「お宝ここにあるよ!」とハントの文字で示されている。


 どう考えてもこの地図では森の中の特定の場所に辿り着くのは不可能である。縮尺が大きすぎるのだ。


「おじいちゃ~ん!! どこにあるの~!!」


 完全に森の中で迷子になっているバレルは空に向かって吼える。お星さまになった祖父は、今のバレルの様子を見て何を思うのだろうか?


「困っておるかの? バレルや」


 不意に一つの声が聞こえてくる。この声はバレルのものとは別のものだ。この場所にバレル以外の人物が存在しているのだろうか?


「おじいちゃん!?」


 バレルは声の主をキョロキョロと顔を動かして探し始めた。どうやらバレルには聞き覚えのある声だったらしい。


「流石はわしの孫じゃ。あんな地図でここまでやって来るとはな。その冒険心、忘れるでないぞ?」


 またしても声が聞こえてくる。やはりこの声はバレルの祖父ハントのもので間違いなさそうだ。


「地図から聞こえてるの!?」


 バレルが握りしめている地図へと目を落とす。すると、先ほどまでは普通の羊皮紙でできた何の変哲もない地図だったはずが、今はキラキラと光輝いている。これは魔道具というやつだろう。


 魔道具とはその名の通り魔法技術を用いて作られた道具のことだ。魔法は素養のあるものしか使えないが、魔道具になれば誰でも使うことができる。魔道具とは技術の結晶――文明の利器なのである。


「わしの声が聞こえてビックリしとるんじゃろう、バレル。じいちゃんからのサプライズじゃよ」

「すっげー! おじいちゃんの声が聞こえる!!」


 先ほどまでの不機嫌はどこへやら。バレルはすっかり笑顔になり、キラキラとした目で地図を見ている。


「森で迷っとるんじゃろう? 怖くはなかったか? 泣いてはおらんかの? 遊び心でこの地図を作ったんじゃが、じいちゃん嫌われとらんか心配です」

「大丈夫だよ、おじいちゃん!」

「遊び心とは言ってもお宝のことは本当じゃからね? じいちゃん嘘はつかんからね?」

「わ、わかってるよ」

「それにしても、この地図を見ているバレルは何歳になったんじゃろうな~。もしかしたらお嫁さんとかおるんかの? ひ孫の顔も見たかったの~」

「まだ十三歳だよ……」

「それよりも元気にやっとるか? 病気には気を付けるんじゃよ。それから……」

「前置きが長いよおじいちゃん!! なんでこんなに録音してるの!! おじいちゃんの声が聞こえたのは嬉しいけど、前置きの部分は別のやつに録音しといてよ!!」


 魔法の羊皮紙から延々と語られる祖父の言葉。あまりにも本題から外れすぎているのでバレルも我慢しきれなかったようだ。


 ハントとしてもここまで録音するつもりはなかったのかもしれないが、孫に向けて伝えたいことがたくさんあったのだろう。


「こほん。それではお宝の隠し場所について説明しようかの」

「や、やっと本題だ……」


 バレルはすでに疲れ切った表情をしている。


「わしのお宝はこの森の中にあるダンジョンに隠してあるんじゃ。万が一のことも考えて、ダンジョンもかなり複雑な構造になっておるが、この地図があればお宝のところまで迷うことは無いぞ!」

「いや、迷ってるんだけど……」

「それでは、案内するぞー」


 バレルの手から、ふわっと魔法の羊皮紙が宙に舞い上がった。


「こっちじゃ、バレルー」

「待ってよ、おじいちゃん!」


 ふわふわと宙を漂う羊皮紙はどこかへ向かって飛び始めた。飛行速度はそこまで早くないためバレルは歩いて羊皮紙に着いて行く。そして、飛んでいる間もずっとハントの話し声が続いた。バレルはハントの言葉に頷いたり、反応したり、突っ込んだり、まるでその場で二人が話しているようだ。祖父と孫――その二人の関係は、かなり仲良しだったらしい。


 羊皮紙に着いて歩いていくと、森の様相が今までバレルが迷っていた場所とは変わってきた。どうやら、堂々巡りを抜けたようだ。


「なんか怖いな~」


 バレルがポツリと呟いた。


 それもそのはずだ。先ほどまでバレルがいた場所は陽の光が入り込み、比較的明るい場所だった。鳥のさえずりも聞こえ、迷いの森でなければリラックスできそうなところだったのだ。


 それが今歩いている場所は、シーンと静まり返り、陽の光もほとんど入らない暗い森。ジットリとした風がバレルの体を撫でているのだ。


「おじいちゃんの地図が無かったら確実に遭難してるな……。しっかり着いて行かないと」


 数歩先は闇が広がる森の中。バレルにとって魔法の羊皮紙の輝きだけが頼りだ。


 そんなおどろおどろしい森も羊皮紙に着いて歩けば何のことは無い。しばらく歩き続けると森の先から明かりが見え始めた。温かな陽の光だ。


「森を抜けるぞ、バレル! よく頑張ったの!」


 藪を潜り抜けバレルは陽の下へと戻ってきた。バレルはあまりの眩しさに顔をしかめながらもどこかやり切ったような清々しい表情をしている。


「じゃあ、次はこの崖じゃ」

「えっ……!?」


 羊皮紙から伝えられる次のルート。それを聞いたバレルの表情は青ざめて凍り付いた。


 大地を裂くように、地面に顔を覗かせる大峡谷。地上からは底が見えないほどの深さだ。切り立った崖は到底普通の人間が降りられるものではない。奈落の底まで真っ逆さまになること間違いなしだ。


「これは無理だよ、おじいちゃん……」


 バレルは諦めの言葉を口にする。浮遊の魔法でも使えればこの程度の崖はなんてこと無いのかもしれないが、残念ながらバレルにはそのような高等な魔法は使えない。万事休すだ。


「わしのお宝貯蔵庫は崖を下ったところにあるのじゃが、流石にこれを下るのは難しいじゃろう。ということで救済措置をつくっておいたぞ」


 再びふわふわと飛んで行く地図。向かった先は崖の淵だ。足を踏み外せば真っ逆さまである。


「ここに立たせてどうするつもりなんだろう」


 不安そうな表情をするバレル。すぐ真横に死の口が開いていれば誰しもこうなるだろう。


 そんな不安をかき消すように地図から声が掛かる。


「それじゃあワープさせるぞ! ワープ!!」


 崖の上からバレルと地図の姿がなくなった。転移したのだ。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 初めての転移に戸惑うバレル。悲鳴をあげながら着いた先は、


「ここがわしのお宝貯蔵庫じゃ」

「すごい……!」


 部屋中に整然と並べられたお宝の数々がバルトの目に飛び込んでくる。お宝は金銀財宝に、見たことのない形の物体まで多岐にわたる。


「バレル、これを好きに使いなさい。売ってお金にしてもいい、自由に使ってもいい。元気に暮らすんじゃぞ」

「おじいちゃん、ありがとう!」

「では、案内もここで終わりじゃ。わしはバレルのおじいちゃんで良かったぞ」


 フッと力を失ったように地図が地面へと落ちる。魔法の効果が終わったようだ。


 バレルは地面に落ちた地図を拾い上げると大事そうに抱きしめた。


「ボクもおじいちゃんの孫で良かったよ。ありがとね」


 祖父の激励を受けて、バレルはしばらく泣き続けたのだった。

次話ヒロイン登場です!

そして、魔導兵器入手までもう少し!


次話以降もぜひお楽しみください!

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