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2話 祖父の残したもの

 去り行く馬車を見送る一人の少年はその心の中に大きな闘志を抱いていた。強くなって仲間の下に行くという熱い思いだ。


 心の中に炎が灯っている者の行動は早い。一分一秒を無駄にしないようにという強い意志が行動に現れるのだろう。


 魔導士の素養を持つバレル・オキュラスは馬車の姿が視認できなくなると、すぐさま行動を開始した。踵を返して走り始めたのだ。向かう先は自分の生家である。


 彼の住む街はフリントロックという名の街だ。規模で言えばそこまで大きくないものの、栄えていないというわけではない。いわゆる地方都市というやつだ。この街は僻地にあるため、出稼ぎに来る者も多い。そのため、酒場や宿屋、夜のお店などなど一通りの商業施設は設置されている。


 そんな街の大通りから一本外れた道沿いに建てられている二階建ての木造一軒家――それが彼の家だ。


 猛スピードで走りこんできたバレルは勢いよく玄関の扉を開けた。


「ただいま!」


 帰宅の挨拶をしながら一目散に自室へと駆けていく。だが、帰宅した彼に声を返すものはいない。その理由は今が日中だからというわけではない。彼の家族はすでにここに存在していないからだ。


 バレルの両親は彼が幼いころに行方不明になっている。いつものように仕事に行ったきり帰ってこなかったのである。


バレルの父と母は冒険者だった。


 冒険者とはその名の通り各地で冒険することを生業とするものだ。魔物や秘境から素材を回収してきたり、魔物から街を護ったり、ダンジョンと呼ばれる魔境からお宝を見つけてきたり、冒険者の仕事は多岐にわたる。自分の好きな仕事を選べる、そして好きなタイミングで働けるということもあり人気がある。


 バレルの父は剣士だった。逞しい体つきで並み居る魔物をバッタバッタと切り捨てる。それなりに名の通った冒険者だ。


 バレルの母は魔導士だった。華奢な体型だが、放たれる魔法の威力は凄まじい。彼女もまた名の通った冒険者だった。


 そんな二人が子を授かり定住したのがこの地、フリントロックだった。僻地にあるため、冒険者としては仕事に困ることは無い。そしてなにより、この地にはバレルの祖父がいたのだ。父方の祖父、名前をハント・オキュラスという。


 ハントはダンジョンに眠る財宝探索を専門とする冒険者だ。数多のお宝を収集したと言われている。彼のコレクションは値段が付けられないほどの価値があると言われ、博物館が開けるほどらしい。


 両親を失ったバレルはハントと二人で暮らしていた。年を取ったハントは隠居生活をしていたのだ。


 ハントはそれはそれは優しい祖父だった。孫のことが可愛くて仕方なかったのだろう。バレルのことをいつも温かく見守ってくれたのだ。


 そしてバレルもそんな祖父が好きだった。いつも冒険の話しをせがんだ。ハントの口から語られる冒険譚はそこらへんの書籍に書かれているものなんかよりもハラハラドキドキするもので、バレルはその話を聞く度に冒険者への憧れを強めていった。


 そんな祖父も年齢による衰弱には勝てなかった。バレルの両親が行方不明になって数年後、静かにこの世を旅立った。死に際の彼の表情は幸せそうなものだったという。


 数多くの辛い思い出も幸せな思い出も詰まっているこの家で、最後の住人も旅立とうとしていた。


「どこに仕舞ったんだっけな~」


 バレルは自室の引き出しやタンスの中身をひっくり返しながら何かを探している。


 彼の部屋には様々な物が置かれている。冒険譚が書かれた書籍は積み上げられているし、魔導書なんかもある。机の上にはよく分からない形をした置物があるが、おそらく祖父が収集してきたお宝だろう。


「どこだ~」


 新たに机の上の物が床に散らかる。足の踏み場がないとはまさにこのことだろう。


 しばらく捜索が続いたが、終わりの時は訪れた。


「あった!! おじいちゃんがくれた宝の地図!!」


 バレルの手には一枚の羊皮紙が握られていた。その羊皮紙には「じいちゃんのお宝」というタイトルがつけられている。そして、一つの場所を指し示す地図になっているようだ。


 バレルはその地図をまじまじと見ながら、顔を高揚させている。


「今こそ使う時だよね、おじいちゃん!」


 その場にはいない祖父へと意見を述べるバレル。


 この地図は、ハントが亡くなる直前にバレルへと手渡したものだ。「じいちゃんのお宝」というタイトル通り、この地図が指し示す場所にはハントが生前収集していた値段もつけられないほどのお宝が隠されている。もし、この場所にトレジャーハンターがいれば喉から手が出るほど欲しがるものだろう。


 ハントはこの地図を手渡すときに、


「バレル。困難に直面したときにこの場所に行きなさい。きっと助けになるはずだから」


 そう言い残していた。


 そして、バレルがこの地図を開いたということは今がその時だということだ。イクシード学院に入学するためには自分の力だけでは厳しいということを悟ったのだろう。だからこそ、祖父の力を借りようとしているのだ。


「地図の場所は……ここから西にある森の中か」


 地図が指し示す場所を読み取ったバレルは、地図をたたみ、リュックサックへと詰め込んだ。リュックサックには地図以外にも旅に必要になるであろう物を次々に詰めていく。旅には関係なさそうな思い出の品なども入れる。どうやらバレルは、しばらくこの家に帰らない覚悟で旅立つようだ。


「よし。これだけ詰めれば大丈夫だろ!」


 バレルはふぅと額の汗を袖で拭いながら達成感に満ち溢れたような表情をしている。まだ旅も始まっていないのに達成感を感じているらしい。こんな様子では先が思いやられる。


「行くぞ~! 冒険の始まりだ!」


 バレルは破裂しそうなリュックサックを背負い家を後にした。家の施錠は忘れることなく。


 イクシード学院入学への一歩を踏み出したバレル。祖父の残した宝とは一体何なのか。そしてバレルがそれを活かすことはできるのだろうか?


 冒険は始まりを告げた。

バレルが魔導銃を手に入れるまでもう少しかかりますが良ければ次話以降もお楽しみいただけると嬉しいです!

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