あなたが運命ですか?
小さい男女、秋、夕暮れ、紅葉吹雪。
赤い世界。
達也「おい、もう泣くなってば」
林檎「たっちゃんが悪いんだもん!私のリス逃がすからだもん!えっぐえっぐ」
達也「元々野生だったんだから逃がさなきゃ駄目なんだってば」
林檎「私になついてたもん!」
達也「最後はお別れみたいにこっち見ながら行ったんだから、きっと感謝してるよ」
林檎「嫌嫌、もっとずっと一緒に居なきゃ駄目だった!」
達也「あほ、いつまでも飼えないだろ?あいつだって結婚したいんだよ?お前の側に居たら結婚出来ないだろ?」
林檎「け、けけけ結婚!?」
達也「ああ、いつまでも一緒になんて無理だろ?可哀想だろ?」
林檎「・・」 赤い森を見る。
達也「・・」 赤い森を見る。
林檎「・・結婚かあ・・そうだね、ごめん、すうぅー、ごーめーんーねー、良いひ、リス見つけるんだよー!?ごーめーんーねー」
達也「・・・・」 優しい瞳で林檎を見つめる。
林檎「ごーめーんーねー」
紅葉吹雪が舞い、舞い、舞い落ちる。
帰り道。
達也「ああ?お嫁さんに貰ってだあ?」
林檎「うん!駄目~?」
達也「うーん・・」
林檎「う・・う~・・」
達也「あちゃ~・・」
80年後。
達也の葬式。
林檎が線香をあげる。
お経が始まる。
林檎はオーストリア在住だった為死に際には立ち会えなかった。
達也のひ孫が親達に釣られ泣きしている。
達也の家族達と挨拶。
いつもあなたのお話ばかりでしたと聞かされる。
流石に達也のお嫁さんの前では話さなかったらしい。
使用人に紅葉山へ車を走らせて貰う。
林檎の孫娘 (27歳)がついてきた。
時期は冬。
綺麗な赤の世界はどんより曇り空、白黒の世界。
孫娘「ここがお婆ちゃんか好きな場所~?初恋の場所なんだ~?ふ~ん?」 車から降り、見回す。
林檎も降りた。
暫く立ち尽くし、そして歩き出す。
林檎「・・」 木に触れる。
雪が積もっては溶けていく。
林檎「・・」 優しい瞳、口は笑みを浮かべ、歩く。
孫娘「お婆ちゃんってさあ、何で達也さんと結婚しなかったの?」
林檎「んー?色々あってねえ、高校、大学まで一緒になったんだけど、結局私が告白出来ず仕舞い、大学二年の年に彼女が出来たと噂で聞いてね、そこで諦めたさ」
孫娘「奪えば良かったのに」
林檎「馬鹿だね、出来る訳ないだろう?告白すら出来ないのに」
孫娘「そりゃそっか」
林檎「・・」
孫娘「後悔してる?」
林檎「ああしてる」
孫娘「告白しなかった事?」
林檎「・・」 首を振る。
孫娘「え!?違うの!?じゃ何?」
林檎「もっと、早く諦めるべきだった、たっちゃんはハキハキした男だったんだ、私が好きなら真っ先に告白してきたさ、ふふ、ああ、たっちゃんはそういう男だった、それがなかったという事は、私をそういう目では見れなかったという事さね」
孫娘「んなの分からないじゃない?」
林檎「解るよ、ふふ、そりゃあ当時は分からないさ、けれど、今なら分かるよ、たっちゃんは私が告白しようとすると困った顔をしていたんだよ、・・・・っ・・・・優しい・・目でっ・・困った顔が・・見たくて・・照れて、はあ、・・るんだと・・思ってた・・はは、馬鹿だねえ、あれは本当に困ってたんだねえ・・」
孫娘「・・」 抱き締める。
林檎「後悔なんかするもんかい、私はあんた達に会えて、本当に、楽しい・・楽しかったよう・・楽しかったんだよう」
孫娘「運命の人じゃなかったんだね」
林檎「・・そうだね、運命の人だって、思い込んでねえ、勉強も頑張ったねえ、渡せなかったチョコレートもいつの間にかたっちゃんが勝手に食べててねえ、ふふ、あれは嬉しかったねえ、ふふふ、けど・・」
孫娘「けど?」
林檎「結ばれなかったよ、あんな事、こんな事、素晴らしい偶然、やっぱり運命だって思っても仕方ないねえ、ふふふ、けど、・・・・結ばれなかった・・私は追いかけて、たっちゃんは私に悟らせた、諦めてくれってね」
孫娘「・・泣いた?」
林檎「・・ああ・・泣いたよ、泣いたさ、一晩中ね」
孫娘「・・泣いたら吹っ切れた?」
林檎「いんや、全然?、そこから私は恋を全くしなかった、全然ね、そして日本で今の夫と結婚して、海外へ渡り、今さ」
孫娘「・・恋して良かったのに、沢山、沢山さ?」
林檎「冗談じゃないよ、馬鹿だね、あんな思い二度とごめんだよ、命がいくつあっても足りゃしないよははは」
孫娘「今の時代は沢山の恋は当たり前だよ?」
林檎「そりゃ嘘だね」
孫娘「・・嘘?」
林檎「ああ、そうさ、嘘だよ、そりゃ恋じゃない、ただの欲望だよ、恋じゃない」
孫娘「・・恋、じゃ・・ない?」
林檎「本気の恋を沢山してる人間が居るならその人は人間じゃないね」
孫娘「・・そうかな?」
林檎「そりゃそうだよ、私はごめんだよ、・・・・それか・・」
孫娘「?」
林檎「怖すぎて、壊れてしまったかね、そういう人は、二度と本気になんてならないと、わざと数をこなして、感覚を鈍らせているんだよ、あんたもその口じゃないのかい?」
孫娘「や、やだなあ、あたしはいつでも本気の本気ですよ?」
林檎「何人目だい?」
孫娘「・・お、覚えてない・・」
林檎「嘘だね」
孫娘「ほ、本当だもん、何人相手したかなんていちいち覚えてないって!皆そうだって!」
林檎「嘘だね」
孫娘「本当だもーん私モテるんだから!」
林檎「嘘だね」
孫娘「だからほん」
林檎「本気は何人だい?」
孫娘「え・・」
林檎「何人だい?」
孫娘「・・言いたくない・・」
林檎「ほれみい、覚えてるじゃないかふふふ」
孫娘「・・」
林檎「そこには何もないよ」
孫娘「え?」
林檎「モテて、モテて、モテた先には・・何も無いよ」
孫娘「・・」
林檎「後一人、本気になりな、お婆からの助言だよ」
孫娘「・・」
〈ヒュオオオオ〉 雪風。
林檎「おお寒い、さあ車に戻ろう、おいで」
孫娘「・・」
〈バタムバタム〉 ドアを閉めた。
ダンディー使用人「もう、宜しいので?」マイクから声。
林檎「ああ、出してくださる?」
使用人「かしこまりました」
発進する車。
孫娘「・・」
林檎「・・」
孫娘「怖すぎて眠れないの・・どうすれば良いの?お婆ちゃん、教えて・・私はどうすれば良いの?」 寄り添う。
林檎「・・だから着いて来たんだろ?ちゃんと解るよ」撫でる。
孫娘「・・う・・っ・・う・・っ・・ずぴ」
林檎「何も」
孫娘「え?」
林檎「私が学んだのはね、無理に生きても、結局そこには行けないんだよ、行けたとしも、長くは無理なんだよ、本当に・・無理なんだよ」
孫娘「・・」
林檎「・・だから、私が言えるのはね、無理はおよし、とっかえひっかえなんてあんたらしくないよ、本気じゃなきゃ残らないんだ、何もね」
孫娘「・・何も?そんなの悲しいよ・・」
林檎「残るのはマイナスだけ、プラスは何も・・何もない」
孫娘「・・」
林檎「だから何もしなくて良いんだ、痩せたいなら痩せれば良い、綺麗になりたきゃ綺麗になれば良い、自分だけの世界なら自由だよ?そりゃ自由さ、けれどね、自分以外の人間が関わるなら話は違うよ?無理は通らないし、曲がるし、歪になる、だから、どうでも良い人とは、どうでも良いままだよ、そうなんだよ、本当にそうなんだよ、だから、およし、無理はおよし、ね?」
孫娘「・・う・・う・・不安なの・・私はお婆ちゃんみたいなロマンチックな話なんかない、このまま・・一人なんじゃないかって・・うあああ」
林檎「ああ・・皆そうだ、でもね、耐えなきゃ駄目だろ?そうだろう?私は耐えたよ~?どうでも良い人は全て振ったよ、お金は全く参考にしなかった、全部直接会って、目を見て、話して、初恋に似た人を探したさ」
孫娘「初恋の・・人に?」
林檎「ああ、姿じゃないよ?会話のテンポや、歩く速さや、食べ方や、雰囲気さ」
孫娘「・・」
林檎「初恋は実らないというけれど、きっと、参考書なんだねえ、今後の・・本物に出逢う為のね」
孫娘「ふふ」
林檎「?ふふ、何だい?」
孫娘「だあーって、絶対嘘だもん」
林檎「何が?」
孫娘「絶対お婆ちゃんは、告白するべきでした!間違いありません!」
林檎「だからそれは向こうにその気がー」
孫娘「お婆ちゃん、否定されて、そして始まるんだよ」
林檎「・・」
孫娘「お婆ちゃんは早く告白して、もっと早くお父さんと出逢ってれば、思い出に浸って泣く事もなかったんだよ?」
林檎「・・馬鹿だね」
孫娘「?」
林檎「泣いたのはね・・」
孫娘「・・」
林檎「・・ふふ」
孫娘「え?え?何よ?」
林檎「・・うふふふ」
孫娘「はあ?何よ?何で泣いたの?んねえ?・・んねえってばあ?」
赤い紅葉。
赤い夕暮れ。
赤い世界の中での婚約指切りげんまん。
紅葉吹雪。
世界から祝福をされたような瞬間。
林檎「(あまりに綺麗な思い出だからだよ、ただ・・・・それだけさね)」
《END》