第二話
親父を帰らせた後、俺は病室で一人考え事をしていた。と言っても今回の事件についてなのだが、
「問題点が多すぎる・・・」
目の前で使われた異能力は合わせて三つ。
まず一つ目――人を操る能力。これは、被害にあった女子生徒に使われていたもので、声や性格までもコピーできるのかもしれない。その理由としては、彼女が目覚めた時の声は(普段の声は聴いたことがないのだが)彼女本人のものだったと思うからだ。性格のほうはどうかわかっていない。まあ、そのうち検証でもするとしよう。
次に、二つ目――脳を操作できる能力。これは、俺たち学校にいた全員にかけられたものである。今回操作されたのは、物の位置情報だけなのだが、ほかにもいろいろなことができるかもしれない。
最後に三つ目――物体を止める能力。これは、暴走していた車にかけられたものでたぶん大半の人間が気づいていないと思う。それは、俺が轢かれそうになった直前に一瞬だけ使われたものであるからだ。ただ、この能力には少し疑問が残る。
――もしかしてこの能力者は・・・。
そして、この事件の最大の問題点は・・・。
「失礼します」
病室のドアが開き、一人の少女が入ってきた。
「ノックぐらいしろよ」
「ノックはしたわよ。でも返事がなかったから――」
「入ってきたと。そうですか。」
「そうよ」
その少女――天沢は、困ったようにため息をついた。
「いや、なに勝手に入ってきてんだよ」
ノックしても反応がなかったら入ってきてもいいって誰に教わったんだ? このツッコミは、かなり正当なものだと思う。
「細かいわね・・・。モテないわよ」
「もともとモテてないわ」
「・・・そんなことより」
「おい」
こいつ話をそらしに来やがった。俺の制止の言葉も聞かずに天沢は話を続けた。
「何を 考えていたの?」
俺そんなに考えていた顔に出てたのかな・・・。
「別に顔には出てないわよ」
俺が、顔を触っている姿を見てツッコミを入れてきた。もしかしてこいつはエスパーか何かなのか・・・?
すると、天沢は俺の姿が面白かったのかにこっと笑った後、あとと言ってまた話始めた。
「考えていたことは、たぶん今回の事件のことね」
俺は、また顔をペタペタと触った。
「だから、顔には出てないわよ・・・」
天沢に、俺がさっきまで考えていたことを話した。
「確かに今回使用された異能力はそんなところね」
「だろ」
「でも・・・別にそんなに引っかかることはないんじゃないの? むしろ、死傷者が出なくてよかったって思うほうが自然じゃないかしら」
天沢の言っていることも一理ある。この学校は異能力者を育てるために事件が起こった時に警察とともに出動している。そして、犯人も捕まえている。ということは、誰かに恨みを買ってもなんの問題もないこと、復讐をされても仕方がないということになる。だから、負傷者や死者が出なかっただけでよかったそう考えることもできる。でも――
「そうじゃないんだ」
「え?」
今回の最大の問題点それは――
「今回の事件で『死傷者が出なかったこと』が最大の問題なんだ」
「それって、つまり――あなたが死ななかったことがこの事件のカギを握るとでも言いたいの?」
「まあ、そうなるな。逆に俺が死んでおけば特に問題なかった――」
「ふざけないで!」
なんで怒られているのか、何が怒らせた原因になったのかまるで分らなかった。
「別にふざけて言ったつもりはない」
本当にふざけて言ったわけではない。むしろかなり真面目なことを言っていたつもりだ。
「ふざけているわよ。なんであなたは、命をそんなに軽く見ることができるのよ」
「それは・・・これれが俺の命だからだ。だから誰も――」
バチンと音がした後、俺は自分の頬に痛みを感じた。
「あなたは、そのことを大切な人に言えるの? あなたは、一度大切な人を失ったんじゃないの?」
「・・・」
何を言っているのかわからなかった。叩かれたせいで頬は痛いし、突然天沢は泣きそうな面してるし何が何だかわからなかった。そして、混乱している俺に、
「もうこれ以上あなたと組むことをやめるわ」
そう言って、天沢は病室から出て行った。
ほんの少しの間のことで俺は、状況の整理ができていなかった。
「何が組むことをやめるだ・・・」
こちら側としたって、よくわからないうちに頬をはたかれた身である。落ち着いてくるとともに怒りが多少湧いた。
もともと、俺を連れ出したのは天沢で、俺を事件にかかわらせようとしたのも天沢ですべてあいつの勝手気ままに俺が付き合わされていただけである。それなのに、上から目線でよくあなたと組むのやめますなんて言えたもんだ。
「そんなのこっちから願い下げだ」
俺はそのまま布団にもぐり目をつぶった。イライラした時や、怒ったときは寝るのが一番いい。
「寝れねえ・・・くそが」
寝ようと思うのに寝ようとしてるのに目をつぶって少しすると、あいつのさっきの涙目の顔が、その声が俺の頭をよぎってくる。
ほんと、こいつはどこまで俺の邪魔をすればいいんだ。
俺は、スマホにイヤフォンをつけて音楽をかけて寝ることにした。それでも、俺は寝ることができなかった。
明日は、また学校か・・・。
「行きたくないな・・・」
そして、俺はまた眠りについた。
***