プロローグ&1話 異能力によってもたらされた最悪
初めて書きました。
プロローグという名の文句
『こんなの俺の思っていた理想と違い過ぎだ!』
そう思ったことが誰にとってもあることだろう。しかし、それは一時の感情であって一生それを思い続ける人はそういないだろう。もし、自分の思い描いていたものとの違いが一生続くものだとしたら、我々はどうなるのか。すべてを受け止めて納得してしまうのか、それともすべてに反抗しその思い描いているものに近づけていくのか、ましてこの疑問を思うことすら無駄なのかもしれない――。
そんなことを授業中に考えている俺――月城陽翔は、異能力者である。そして、俺は異能力者のみの高校に通っている高校二年生である。では、なぜそんなことを考えたのか、それは俺の異能力がいけないのだ。『異能力』と聞くとアニメやドラマとかに出てくる『カッコいい』能力のことを思い浮かべるだろう。もちろんこの学校にもそんな能力を持った人はたくさんいる。しかし、俺の使える能力は・・・
とある、健康診断にて――
「では、体温を測っていきます。月城君お願いね」
そう言って俺を保健室のパイプいすに座らせようとしてるのは、この学校の保健室の先生である。
「わかりました。それでは、一人ずつお願いします」
保健の先生――安藤先生に言われて椅子に座り一人ずつ見ていく。もちろん体温計など使わない。何を使うのか――俺の異能力である。
「一人目、三十六度。二人目、三十六度九分。一見高く感じますが、この人の中での正常ですのでそのまま記入してください」
俺は、先生に指示を送りながら仕事をこなしていく――
お分かりいただけただろうか。これが俺の能力 『人、物の温度を測る能力』である。
正直に言おう。
別に俺いなくてもよくないですか?体温計何個か用意すればそれで済む話じゃないですか。まったくもって無意味。時間の効率化?何言ってんだまったく。こんなことするとな俺のメンタルがやられんだよ。俺は、こいつらの時間を効率化させるためだけに恥辱を味わっているのだ。
これをやることで報酬を貰えるのか?もらえないだろ。だって俺保健委員だし、去年から。
ほんとこんな能力なくなってしまえばいいのに・・・。
こんなことは、もうとっくの昔に知っていた。昔にわかっていてもうそれは納得しきったことだと思っていたのにまた考えてしまった。そんなことを考えさせられた原因はある。
「お前のせいだ」
俺は、隣の席座っている女子生徒に話しかけた。
「突然すぎて何を言いたいのかわからないけれど、私のせいではないわ」
この女子生徒――天沢瑞希に絶対的な原因はある。というか、こいつのせいで俺は、『あきらめた』ことをまた『あきらめず』にやることになった。
俺、こいつとまだ会って三か月ぐらいなんですけど・・・。
すべてこいつのせいだ。すべてこいつが悪い。あっこれはさすがに言い過ぎだ、訂正しよう。正しくは、こいつの『異能力』が俺より使えない残念なものだったからだ。
結論、全て異能力が悪い。こいつがすべて決めてしまうのだ。人間性も将来もすべて。だからほんと――
こんな能力がほしくて異能力者になったわけではない
第1章 異能力によってもたらされた最悪
時は戻って三か月前――
高校二年の始業式。俺たち二年C組はとある話題で引っ張りだこである。
それは・・・
「おい!この一年の時A組だった学校一の美少女がこのクラスに来るってホントか!」
「そうらしいぜ!なんか異能力がわかったからそのせいだってよ!」
そんなどこぞのラブコメの前振りみたいな会話をしているのはこのクラスのムードメーカーを担っている。確か名前は・・・田中と馬渕、だったかな。
と、まあこんな感じでクラスは盛り上がっている。俺も別に興味がないわけではない。本当は俺だって人並みの恋愛をしたいと思っている。しかし、俺にはそれが出来ないでいる。なぜなら俺は、こいつらと違って中学の時からこの能力を使っているのだ。人を人ではなく温度でしか見れなくなっていても無理はないだろう。あと、もう人とは関わりたくないって気持ちも持っている。そしてーー
また、目の前で人が死ぬはゴメンだ。
そんなことを思いながら、俺は教室の窓の外を見た。俺の席は窓際の後方で寝るのにも一人でいるのも快適な場所である。ほんと一人には快適・・・。
一人ではぁとため息をついていると教室の前方の扉がガラガラと開いた。
「お前ら席に座れ、ホームルームだ」
そんなことを言いながら教室に入ってきた男の教員が、うちのクラスの担任の加藤先生である。
この先生は学校にはひとりはいる熱血系の先生で生徒の話をよく聞き、しっかりとした答えや助言を与えてくれる人として生徒から信頼されている。ちょっと顔怖いけど・・・。
先生が教卓に着くと号令がかかり俺たちは席を立ち、礼をしてもう一度席に着くと先生が話し始めた。
「えっと、今回みんなはもう知っているようだが、A組から新たに入ってくる生徒がいる。入ってこい」
「はい」
そう言って入ってきた女子生徒は身長は俺と同じくらいの百六十六センチ前後で顔立ちはもちろん整っている。どこかのアイドルやモデルよりもよっぽどアイドルやモデルっぽく見える。
「「「「「うおーーーー!」」」」」
クラス中の男子(四人)が叫び、女子(四人)もキャーと叫んでいた。
「おー静かにしろ」
先生がクラスを静かにすると先生の「じゃあ自己紹介よろしく」という言葉と共に女子生徒が教卓の横に立ち、話し出した。
「元A組の天沢瑞希です。あの先生、当然なんですが一つ質問があります。おかしくないですか、これ」
まあ、当り前の反応だろう。このクラスはなんと――
「別におかしくないぞ。このクラスは天沢も入れて十人のクラスだ」
「それはどういうことでしょうか?」
先生の言っていることに間違いはなく、このクラスはもともと九人のクラスであった。それは――
「それはな、このクラスが簡単に言うと、その・・・学校から見放された奴の来る場所だからだ」
そういうことだ。残念だったな天沢さん、このクラスはそういうクラスだ。
俺たちの通っているこの学校は国が支援している『異能力者教育専門』の学校である。ここのシステムはすべて異能力によって決まる。使える異能力かどうかは『国に役に立つ』かどうかで決められクラスもA組が情報伝達や作戦の立案などの頭脳的な異能力を持っている人が集まるクラスで、B組は対異能力者との戦闘に役に立つ異能力――つまり、戦闘にたけている異能力者が集められている。そして、このC組はわかっている通りA組やB組にも入れられえなかったものが集められている。まあ、要するに国の役には立たないと判断された奴が来るところだ。
クラスが一気に落ち込んでいた。よく言われていることだけど改めて聞くと相当重くのしかかるのだろう。俺もその一人である――ただ、あの事件が公にならない限りだけど・・・。
だからほんと、残念だな。いくら容姿や成績がよかったとしてもここでは何の役にも立たないことが分かっただろ?俺たちはこのクラスで腐っていくしかないのだ。それがわかったなら突っ立ってないで早く空いている席に座った方がいいぞ、天沢さん。俺たちは、見捨てられたのだ。もうどうすることも――
「そんなはずはないです」
そんな彼女の一言で空気が変わったのがわかったとともに俺は一つの疑問を感じた。それは、このクラスの全員が思ったことだろう。
「はずってどういうことだ?天沢」
そう聞く先生も別にこのクラスに配属されて苦に思
ったことは無いと言ってくれていて、逆にこいつらでも活躍できる、国の役に立てるところを見せてやるんだと言っているぐらいだ。なので、なんでもいいから情報を手に入れたいのだろう。
「いえ、私の父から聞いた話なんですが、このクラスは、異能力者の中でも特殊な人たちの集まりだと言っていたのですが・・・」
そう言った瞬間、クラス中にため息と乾いた笑いが起きた。
「天沢さん、それは何にも役に立たないって意味での特殊だと思うよ。だから、君の思っている特殊とはわけが違う。優秀の方の特殊ではなく落ちぶれた方の特殊だ」
人を小ばかにするような声音で言う田中をはじめこのクラス全員が天沢の言うことに「それはない」という結論を導き出した。クラス中から聞こえるひそひそ声と微かな笑い声、人数が少ない分よく聞こえる――これで終わったな。
少し面白そうなことになると思ったが、所詮はこのC組、もともと「役立たず」や「無駄な異能力者」と言われているだけに少しの希望が見えてもそれを信じようとしない。だからこそ、俺たちは『特殊』なのだ。
もうこれ以上見るのも面白くないと判断した俺は、机に突っ伏し寝る体制になろうとした時、
「そこの窓側の後ろの席の人、ちょっといいかしら」
「はあ、なんでしょうか?」
これが俺と天沢との最初の会話である。まったくうれしさやラブコメ感のないと言ったらほんとにもうひどかった。
「あなた、さっきから私の言ったことを笑うこともなく、かといって別に異論反論もなくただ見ている。いったい何がしたいの?」
「何がしたいのと聞かれても何もしたくないし、何も思ってないからこうなっているわけで・・・」
我ながら酷く言い訳っぽく聞こえてしまうように言ってしまった。だが、本当のことを言ったつもりだ。
「あなた、変よ」
「はぁ?」
久しぶりの人との会話で突拍子もなく、お前は変だと言われれば誰でもはぁと言いたくなるだろう。
「どういうことだよ」
俺は、彼女の言葉の続きを聞くことにした。俺が初めてあった人に変と言われたのはこれで2人目だ。だからこそ、その理由が気になった。
「そのままの意味よ。変だから変と言って何が悪いの?」
悪びれもなくそういう彼女は至って堂々としていた。
俺は、もっと精神攻撃を受けているものだと思っていたのだ。こいつはきっと誰に馬鹿にされてもコケにされても誰も味方がいなくなったとしてもいつでも堂々と立っているのではないかと思わせた。
「おっそうか・・・。ってそうじゃねーよ」
少し天沢の勢いに少しやられたが、まともな突っ込みできたと思う。ほんとたぶん、だって最近突っ込みとかしたことなかったもん。友達いないから・・・。
「というと?」
ほんとこいつ悪いとか一ミリも思ってないな。
「いや、だからそんな初対面の相手にそんな口を利くもんじゃないって言ってるんだよ」
少し怒り口調になってしまったが、ちゃんと返答はできていると思った。しかし、少し変に感じたこともある。というと、俺は恥ずかしながら人見知りなのだ。友達ができないのもそれが理由、そうほんとそれのせいだと信じたい・・・。そんな俺が人見知りせずに初対面の女子と話しているのだ。これは(少し切れているってこともあるが)異例のことである。
「あなたやっぱり変――というより『異常』だわ」
『異常』と言う言葉を聞いて俺は、気付いたら立ち上がっていた。
「どういうことだ?」
今度は、さっきよりも声音を低くして少しイラついている感じを出した。
天沢の顔が少し怖くなった。
「異常だから異常と――」
「そういうことを聞いているんじゃない。その答えに至った経緯を聞いてるんだ。そんな適当な説明で済まそうなんて言うなよ。人を悪く言うことはそれなりの理由がある。だろ?」
俺が言い終わると、その場にはよくわからない空気が流れクラスには静寂が訪れた。天沢もずっと下を向いたまま黙り込んでいる。
あれ、言い過ぎたか?
「はい、ここまでだ」
この空気を換えたのは、加藤先生だった。
「まず、月城、席に座れ」
言われた通りに俺は席に着き、
「次に天沢は月城の隣に座りなさい」
今何て言った? 何あいつ俺の隣の席に来るの? 確かに俺の隣の席は空いているけれども。
「なんで、彼の隣なんですか?」
まあ、そう質問したくはなるよな。ただ、それだけ聞くと、俺かなり嫌われている人間みたいになってないか・・・。
「これ以上、ここで喧嘩されても困るしな。隣の席ならいつでも相手を論破することができるだろ?」
「それもそうですが・・・」
かなり無理ありだが、言っていることは間違いではない。そろそろ一限の授業が始まる時間だ。
「わかりました」
数秒考えた後、天沢は俺の隣の席に着いた。
「これからよろしく」
天沢の声音は落ち着きを持っているようだが、表情は見るからに不機嫌そうだった。
「ああ、よろしくな。どうせもう話すこともないと思うけど」
俺もまた、不機嫌そうな(実際不機嫌だが)感じを出して、窓の外を見た。
隣の席に学校一の美少女が隣の席に来ようとほかに何かが起こったとしても俺の生活は揺るがない――揺るがないはずなんだ。
だって、俺の過去や異能力について深く追求してくる奴なんていないのだから。そして、それは俺が一番望んだことでもあるから。
***
――一か月半過ぎ――
それは唐突に訪れた。
「ちょっといいかしら?」
始業式以来、話すことのなかった俺たちの久しぶりの会話であった。
クラス中がざわざわとした。原因としては、俺たちが始業式の時に口げんかみたいなことをしたこと、そして天沢が今まで誰とも話していなかったからだ。
「ああ」
最初は断ろうかと思ったが、周りの視線が痛すぎるせいもあって俺は、自然と返事をしていた。断る理由も無いし、別にいいけど。
「そう、ならついてきて」
周りの視線にやっと気が付いたように見えた天沢が先導して俺を連れて教室を出た。
案内されたのは、校長室だった。
「失礼します」
三回扉をノックした後、静かに入っていく天沢に続いて俺も入った。中は、いかにも偉い人がいそうな感じがする部屋だ。
「おっ、来たか」
校長室の奥にあるソファでくつろいでいる四十後半ぐらいの男性が低い声と共に俺たちにあいさつ代わりに手を挙げた。
俺たちは、会釈して
「まあ、座りなさい」
その言葉を合図にちょうど対称に設置されているソファに座った。隣に座ってきた天沢に少しドキドキしながらも俺は、校長――平田幸一に視線を向けた。
「突然、呼び出して済まない。月城君」
俺は、「いえ」と返事をするとそれを合図に平田が話し始めた。
「今回、呼び出したのは少し理由があってだな・・・」
そりゃ、理由がなきゃ俺みたいなC組の奴と天沢みたいな成績だけ良い奴が呼ばれるはずがない。
「君たちは知っているか? 最近起こっている『事件』についてーー」
この『事件』とは、簡単に言えばこんなものだった。
今の時代、どんなことにも異能力が使われている。新しい機械の製造や医療、人命救助などである。しかし、その中で一番多いのが、『軍事利用』である。確かに異能力が(戦闘に特化した異能力)があれば、犠牲を少なくして敵を一網打尽にできる一発逆転のカードだ。
だが、俺たちの国は『戦争をしない国』だ。それでも、この国の異能力者はなぜか『軍事利用に使える能力者』が多いのだ。それのせいで今起きている事件が、簡単に言えば『異能力者の誘拐』である。これは噂程度だが、誘拐した異能力者を他国に売っている――要は、人身売買みたいなものだ。
今、警察が必死にこの事件を追っているが、手掛かりはあまり見つけてられて無いようで俺たちにも捜査の命令が出ているそうだ。現在、全学年のA組とB組が協力してことにあたっているらしい。
「で、どうだろう。協力してもらえるかな?」
急な質問に少し戸惑ったが、確かにこの学校は『国に役に立つ人材を育成する』ということを目標にしている。それでも、俺たちみたいな落ちこぼれが出るわけだが・・・。
そんなことはどうでもいい。問題は――
「どうして俺たちに?」
俺たちは、C組だ。それを盾にしているつもりはないが、でも今、優秀なクラスが操作しているのなら俺たちに頼む必要ないのだろうか・・・。
これじゃあまるであのクラスと同じだな。やる前からあきらめて、結果が出てもないのに勝手に予想して区切りをつけて進むことをやめてしまう。俺も知らない内に周りの空気に当てられてたんだな。
「やっぱり覚えてないか・・・」
「・・・?」
俺も天沢も首をかしげた。まあ、そうだよな。この人唐突に何言ってんだ?
「私は、君たちと昔に会っている。大きく立派になったもんだ。さすが、月城警部の息子さんと天沢警視長の娘さんだ」
「父のことを――」
「親父のことを――」
「「知っているんですか?」」
お互いに息が合って平田は「息があってるな~。あの二人とそっくりだな~」とか昔を懐かしむ感じで言っていて俺も天沢も「えっ、どゆこと?」みたいな顔になっていた。
こんなよくわからないリズムに流されたが、
「あなたは、何者なんですか?」
「そうだな~。どこから話そうかな~」
やっとまともに俺の質問に答えてくれるようだ。まあ、なんか聞きたいことは聞けなさそうだけど・・・。ほんと、この人になれるのは少し時間がかかりそうだ。
結論から言うとこの人の正体は、元警察官だった。警察官になりたての頃、俺の親父――月城正樹が教育係だったそうだ。二人はその後、バディを組んでよく捜査をしていたそうだ。ノンキャリアながらも二人は、いろいろな事件を解決していったらしい。
そんなときキャリアなのに現場に出るのが好きな警察官がいた。それが――天沢忠臣。
そんな三人が出会うのは必然だった。
初めて会ったのは、十年以上も前に起こった連続殺人事件の時だった。連続殺人の被害者の殺された現場で会ったそうだ。そのあとは、お分かりの通り三人は仲良くなって今も時々あっているそうだ。うちの親父が時々出かけているのはそれが理由なのだと初めて知った。
「なるほど、そんなことがあったんですね」
天沢も自分の父親のことはあまり知らなかったようで驚いた様子だった。天沢の驚いた顔とか見たことないからわからないけど・・・。
なぜ、俺たちのことを知っているかは分かった。あと、もう一つ聞いておきたいことがある。
「なんで、俺たちなんですか? AとB組が捜査に出ているのなら、何の問題もないんじゃないんですか?」
最近、親としか会話をしていなかったせいで微妙な感じの敬語になってしまった。
そんなことは、別に気にしている様子のない平田は、今日あった中で一番難しそうな顔をしていた。
「・・・それは、この学校からも被害者が出たからなんだ」
そうだったのか、なるほど、では協力します。なんてことにはならない。明らかに何かを隠している。そんな理由だったら、俺たちではなく警察にもっと煽りをかけて捜査を進ませればいいではないか。なんせこの人は、元警察官だ。それなりのコネもあるだろうに。なら、なんで俺たちなんだ? 俺たちに現校長――元警察官が求めるものはなんだ?
・・・わかった。そういうことか。つまり――
「俺たちに話して親父たちに協力してもらいたいと、そういうことですか?」
平田は、少し言葉を詰まらせ黙り込んだ後、
「ああ、そうだ。二人には――いや、月城さんには申し訳ないがそういうことだ」
「無理ですよ。親父は、もう動けません。事件の捜査中にけがをした警察犬のように」
これだけ言えば、引いてくれるだろう。ほんとのことを言えば、たぶん親父にこの話をしたら協力すると言ってくれるだろう。でも、その理由は、事件の解決ではなく『息子を――家族を守ること』になってしまうからである。そんなものは、事件の早期解決に全く役に立たない。だからこそ、俺は、無理だといったのだ。
「それでも頼めないか。何なら、国と掛け合って報酬を渡そうそれなら――」
「無理だと思いますよ。親父の今の目的は変わってますから」
この人は仮にも校長だ。そんな人の言葉をさえぎって話すのもどうかと思ったが、気が付いたら喋っていたので仕方がない。
「そうか・・・。なら天沢さんのほうはどうかな?」
俺から、話がそれた。まあ、無理だと悟ったのだろう。では、俺はお役御免なので帰りますか。そう思って校長室のドアノブに手をかけたとき、
「父に協力を仰げるかはわかりませんが、私は月城君が協力するなら協力しようと思っています」
俺は、ドアノブに手をかけた状態で固まり、平田は、驚いたような顔をしていた。それはともかく何言ってんだこいつ?
「まっ、待て。どうしてそうなった?」
俺は、ドアノブから手を放し、後ろを向いた。
「理由は、三つ。まず、一つ目、捜査するなら私、一人がいいの。でも、それだと危ないじゃない? だから、私の命令を文句も言わずに従える人がほしかった」
「俺ってそんな風に見えるの?」
「ええ」
「ははは・・・そう」
今は、愛想笑いで済ましてやるが後で見てろよ。そのうち泣かす。絶対に。
「次に、二つ目、あなたが変だから」
「おい、またそれか! 俺のどこが変なんだよ」
「・・・」
「無視か!」
だめだ、我慢ならねぇ。土下座させて謝らせるも追加も方向で。
「最後に三つ目、あなたは――」
どうせまた、馬鹿にされると思った俺は、突っ込む準備をした。しかし、
「あなたは、私と似ているから」
天沢はさっきまでこっちを見もしなかったのに、突然こちらを向いて俺の目をしっかりと見てきた。
十秒ほどだろうか、お互いに見つめ合った後、俺はさすがに耐えきれなくなってそっぽを向いた。
「で、やるのやらないの?」
さっきの人を馬鹿にするような厳しい声音ではなく。今度は、優しい緩やかな声音だった。でも俺は、もう最初から決めている。
「俺は、やらな――」
やらない、そう言いかけたとき天沢の俺を見る目があの人に似ていた。だからこそ俺は、
「やらないのやめます」
こんなことを言ってしまったのだ。
***
そんな感じで、今に至る。
ほんとに大丈夫なのだろうか。
俺がやるといった後の一か月半の間、俺たちは俺たちなりに調べたのだが、有益な情報は全く無し。誘拐犯の目的、動機、などの部分もまったくもってわからない。その状況でいったい何をどう捜査していいのかもわからない。今やっている聞き込み調査ではまったくだめなのもわかっている。
もちろん、被害者の親戚や友人とも接触をしようとしたのだが、警察からの許可が下りなかったため話は聞けなかった。まあ、確かにこの学校唯一の被害者だ。その周りの人間にも迷惑がかかるであろう。その辺も考えるとあまり強く要求はできなかった。それにしても――
「・・・手詰りだ」
誰が見てもどう考えてもこれは無理だろう・・・。
「大丈夫よ」
俺が、隣の席で頭を抱えていると心配した――
「別に心配はしていないわ」
心配は・・・していなかった天沢が話しかけてきた。
「怒ってるのか?」
さっきからなんか声音が厳しいというか怖いというかそんな感じがしたのだ。原因はたぶん――
「さっきは、悪かった。突然『お前のせいだ』とか言って」
これしかない。さっきとは言っても、今は三限目の途中で言ったのは朝のHR中だけどな。
「べ・・・別にそんなことでは・・・怒ってないわよ」
そういえば、有益な情報ありましたわ。それは――
天沢の取り扱い方です。
今、はあなんだそれって思ったやついるだろ!(あくまで頭の中での話です。脳内一人突込みってやつですね)
これが意外と重要なんだぜ、理由を教えてやるよ。(しばしお付き合いください)
まず、一つ、こいつは性格が悪い。初めて会った時にも思ったけどもうとにかく悪い。自分の思い通りにいかないとすぐ怒るし、だるくなったらすぐ人に押しつけるし、二人で出かけるときは荷物をすべて持たされるし、ほんと最悪。
そしてこの次がもっとわからなくて、とにかく怒るポイントがわからないのだ。今回みたいに知らない間に怒っていたりとかしていて今回はたまたま合ってただけでほんとわからない。酷い時は知らない内に泣きそうになってし、一番厄介なのは助けようとしたら怒るところだな。あの時は確か天沢が突然段差で足をひねった時に一人で歩くのは大変そうだったから「おぶってやるよ」って言った時だったかな、なんか顔を真っ赤にして「あっ、あなたなんかの助けなんか・・・いらない!」って言って怒ってたし・・・ほんとよくわかんないな~。
というわけで作ったのが『天沢取扱い説明書』とは言ってもスマホのメモ帳に書いてるだけなんだけど。さっきみたいな状況をしっかり書き留めておくのだ。そうすれば、怒られない。いい考えだろ~。ふふふふふふふふ(お付き合いいただきありがとうございました)
「何変な声で笑ってるのよ。変できもい」
笑い声が漏れていた・・・だと・・・。何で笑って聞かれたまずい。
「何で笑っていたのかは、あえて聞かないわ。きもいから」
おおー。回避できた。でもなぜだろう。回避できたのになぜか心が痛むぞ~。
そんなことはどうでもいいのだ。(さんざん言ってきて何言ってんだこいつ)
気になるのは――
「大丈夫ってどういうことだ」
「大丈夫だから大丈夫と答えたまでよ」
「だから、そういうことじゃねーよ」
ここは聞かないとはぐらかされる気がしたので少しきつめに言ってしまった。あとで怒られないだろうか心配だ・・・。
「おい、うるさいぞ。月城」
俺だけ怒られた。そういえば授業中だったのを忘れていた。俺は、先生に「すいません」と一言言って天沢を睨んだ。すると彼女は笑って、
「放課後になればわかるわよ」
不覚にも彼女の笑顔にときめいてしまった俺だった。この後、めんどくさいことが起こるのはわかりきっている。なら俺のすることは一つ・・・今は寝よう。
俺は、授業など無視して寝た。なぜならーーこれはあえて言わないようにしよう・・・。というか、言いたくないし考えたくないです。