その7
「私の名はキョウコ。貴方の名前は何ですか? たとえオークといえども名乗るのが武士道というものです」
キョウコは薄く目を閉じたままよーこに問いかける。
茶色の長い髪の毛を束ねて、侍のような出で立ちだ。
帯刀された刀もどうやら飾りではないようである。
よーこはちょっとため息をついた。
「この街に入る前からずーっとメタオーク呼ばわりされてるけど、あたしはじゃんがりあん・よーこって名前でマシュラタウンのオークド博士の娘。5時間も延々と看板と草むらと地面しかない所を歩いてここまで来た」
「えっ!? あのオークド博士に娘さんがいたんですか!?」
びっくりするキョウコ。ちょっと目が開きそうだった。
「居たらどうだっていうの」
「いえ……。以前多少親交がありまして、LINEで『自分は独身だから』ってずっとナンパされていたので……結局ブロックしちゃいましたが……」
「……」
気まずくなる二人。
キョウコが気を取り直して、人差し指を立てながら言う。
「で、でも確認は一応必要ですね。確かにオークっぽさもあまりありませんし、普通の女の子の気配ですが、メタオークにやられたっていう報告を守衛さんたちから聞いてますから……」
「一応言っとくけど、通せって言ったらオーク扱いされて石オークに殺されかけたから正当防衛だかんね」
「貴方が本当にオークド博士の娘だったらあとで守衛さんにはおしおきします。確認を取らせて下さい」
キョウコが神妙な顔で言う。
「オークド博士が昔毎日はいていたらしい、お気に入りのパンツのメーカーと色は何ですか?」
「……………………グンゼの紺」
「うーん。メタオークじゃなくて本当にオークド博士の娘さんみたいですね」
キョウコは頭を下げた。
「待って。ちょっと待って。今ので納得される流れなのが逆に納得出来ない。うちのアレは一体何をやりとりしてたの?」
うろたえるキョウコ。
「私の口からはちょっと……研究熱心で立派な博士だと思いますよ。女に関してだらしない事を除けば」
「この冒険始まって以来最悪な気分になったわ」
キョウコはオークセンターの激しく損壊した扉周りと穴の空いた天井を見渡した。
「でもこのドアと天井はちょっと酷いですね」
「ああ、それあたしじゃないから。カチョウがやったのよ」
「カチョウ?」
「あたしについてきた緑オーク。オークボールの中に入る前に歩き回ってドアから入ろうとしてついでに天井にも穴開けたみたい」
「オークをボールに仕舞わないまま外に歩かせないで下さい! 何を考えているんですか!? そもそも緑オークはこのセンターに入り切らないサイズでしょう!」
オークボールから声が聞こえる。
『ここの建物をちょっと壊してしまった緑オークのものです……然し、この建物はいささか小さすぎませんか? これでは入る気遣いというものあまりに足りなすぎる……』
キョウコがセンター奥に配置されている大きなたこ焼き器みたいな装置に収まったオークボールの一つを白い目で見る。
「貴方ですか。そもそも緑オークが街を闊歩するようには設計されていません。ヌヒィシティのオーク法にもとづいて貴方は殺処分します」
『ええっ!』
『ははっ短い付き合いでしたがどんまいデース』
『デイビッドさん! あなた私より強いんですから何とかして下さいよ! この人かなり強そうですよ!』
『いやデース』
改めてよーこの方に向く。
「それとよーこさん、守衛さんの石オークは返してあげて下さい」
「はあ? 殺そうとしてきた人間のもんを何で返さなきゃならないの?」
「トレーナー同士のオークバトルは勝敗を付けるだけで、相手のオークを取ってはいけません」
キョウコがにっこり笑って諭す。
「いやいやいや。あたしがオークに直接襲われたんだけど……」
「……うーん。それは大変申し訳ないのですが、こちらとしても防衛に石オークを使っていたので、返してあげて下さい」
「頭湧いてんの? むしろこの街全員に土下座させてから何匹かオーク貰いたいレベルなんですけど」
「……話が通じない娘ですねえ。あのクズあってこの娘ありと言った所ですか」
二人で睨みつけ合う。
ナースたちが戸惑う。
「あのう……キョウコさま。私たちは帰って宜しいでしょうか……」
「あっ、じゃあオークボールだけは回復させておいてあげて下さい。これからボコボコにするので
せめて全力を出させてあげないと可哀想ですし」
「えっああ、はい!」
慌てたナースたちはオークボールを回復させた後にそそくさと逃げていった。
電子音がして回復したオーク達がお互いに話し合っている。
『おっ、私のこん棒が元通りになりましたぞ』
『肩のこりが取れたデース』
『グガアアア(全身の骨が元通りになった!)』
最後に鳴き声を上げたのは石オークである。
「――貴方のボールを取りなさい。ちょっと躾がなっていないようなので、ここで私が躾けてあげましょう」
キョウコはいつの間にかボールを持っている。
「この街の法律気に入らないからあたしがとりあえずアンタに勝って法律作り直す事にするわ」
つづく!




