その4
よーこは草むらには近づかないようにしてさくさく歩いていた。
草むらにさえ近づかなければ緑オークは出現しないのだ。
背中のオークボールから多少うらめしい声が聞こえる。
『酷イ……イママデコンナヒドイニンゲンニハアッタコトガナイ……』
背中から先程捕まえた緑オークが入っているオークボール。
それを取り出して、よーこがたしなめる。
「いい勉強になったわね緑オーク。あと、負けたくせにオークボールの中でゴチャゴチャ呟くのやめなさいよね。戦いの場で油断する方が悪いんでしょうが。アンタは負けたの。生まれ変わった気持ちでやっていきなさい」
『ソモソモ戦ウツモリ、ナカッタノニ……』
「そんなもん通用しないわよ。アンタ、片方が戦う気だったらそんなもん戦争でしょうが。反抗しなさいよ。今後他のオークが出てきたら戦ってもらうわよ。ウチでやっていく以上、やる気のないやつに食わせるご飯はないからね」
『そうデース。課長代理』
『カチョウダイリ……?』
『お前の名前デース。一応お前の兄貴分に当たるデイビッド・ゴハンシュトラウス3世デース。役職で偉さが決まる感じにしたデース』
『グリーントカ、マトモナナマエニシテホシカッタ』
「あのね、オークボール同士で話すのやめてくれる? うるさいんだけど。あと、何でアンタが名付けてるのよ、デイビッド。あとカチョウ」
ゴロゴロと転がるデイビッドが入った通称デイビッドボールがピョンピョン跳ねる。
『ヨーコ。アンタはそういうの面倒くさそうだからボクがやってやるデース。オーク達の管理はボクに任せるデース』
「面倒だし分かったわ。で、ヌヒィシティにはどうやって行けばいいの?」
『アンタ何でスマホはおろか、コンパスも地図も持ってないんですかデース? 草むらを避けつつこのまま真っ直ぐ5時間くらい歩けば、直ぐ着きますよ』
「うっわ5時間とか徒歩の距離じゃないし……。私もオークボールに入って転がって進みたいわ……。まあいいわ。デイビッドボールはそのまま案内して。アンタ何か色々詳しいし」
『全くオーク使いが荒い娘っ子デース』
そうして最前列にゴロゴロとデイビッドボールが転がり、それの後を追いながら、時たまボールを蹴飛ばしながら先に進むよーこ。
ふと先の事が気になり、目の前のボールを蹴飛ばしながら何となく問いかける。
「ねえ、デイビッド、ヌヒィシティにはゲーセンある? どんなとこなの?」
『ゲーセン? の事は正直全く分からねーですが、ここ数年、ヌヒィシティには強力なオークジムトレーナーがいるとオークド博士からは聞いた事がありマース。街自体は花崗岩がよく採掘されるという事で、かつては採石場として使われていましたデース。気候は温暖で湿気は少なめ。石オークや岩オークがよく居る街デース』
「アンタめっちゃ詳しいわね。便利だわ」
よーこが少し驚く。
『まあオークド博士と一緒に昔は冒険してたしデース』
「ジムトレーナーって何? 筋トレとか別にしたくないんだけど」
『アンタ何でそんな事まで知らないのデース。ジムトレーナーっていうのは、この世界に8つ存在する街の最強のオークトレーナー達の事デース』
「ゲームばっかりやってたからね。そもそもゲーセン探しに来たんだけど。そのジムリーダーとか言うやつはゲーム強いのかしら」
『そんな事は知らねえデース』
+
3時間ほど歩くと、よーこは大分いやになってきた。
「草むらとか地面と看板しかないじゃない。何なのここは」
『道デース。【希望とは地上の道のようなものである。もともと地上には道はない。歩く人が多くなればそれが道になるのだ】……』
『オッ、ロジンノ【コキョウ】デスカ。ワタシモアレハイイブンショウダトオモイマシタ』
「デイビッド、カチョウ、アンタちょっと学があるからって調子に乗るんじゃあないわよ。私がリーダー」
『ワ、ワタシハソンナツモリデハ……』
「ふん。このボールのまま投げ捨ててもいいのよ。アンタ自力じゃ出られないんでしょう」
『ヤメテクダサイ! アナタホントウニニンゲンデスカ!?』
+
そんな事をやっているうちに、徐々に足元で砂利が増えていく。
よーこが。看板を見る。
「『ここよりヌヒィシティ』だって。どうやら私達、次の街までやってきたようよ」
『ヨーコ。そう簡単には行かないようデース』
デイビッドボールが神妙に呟く。
よーこが顔を上げると、街の灯りが見える。
しかし、その入り口には『よそ者立入禁止!』と言わんばかりに二人の屈強な男たちが立ちふさがっていたのだ。
よーこはてくてくと歩いていくと、
「何だお前は?」
「じゃんがりあん・よーこよ。オークド博士の娘の。ここに入りたいんだけど」
門番たちは顔を見合わせて、ひそひそと話し合う。
「マシュラタウンから? 馬鹿な、ここからだと通り道には緑オークが沢山いるし、娘一人で歩いてこれる距離じゃない」
「そうだな。怪しい」
「お前は怪しい。通せない。人間になりすますオーク、メタオークという種族が居ると聞いた事がある。お前はひょっとしてオークじゃないのか?」
よーこは激怒した。
「誰がオークよ! 行けっ、カチョウ! ぶちのめしなさい!」
『エエッ』
緑の巨躯――カチョウが現れる。
当然だが乗り気ではなかった。
『ニンゲンナグッタラゼッタイシンジャイマスヨ……モットヘイオンニ……』
「許すわ! 殴りなさい! 『こんぼう』よ! 誰がメタオークですって!」
『イヤサスガニソレハ……オチツキマショウヨ』
門番がうろたえる。
「こ、こいつオークトレーナー! 相棒! 対抗するぞ!」
「応! いけっ、石オーク!」
カチョウと石オークの戦いが始まった!
つづく!




